ポルシェ911カレラS(RR/8AT)/911カレラ4S(4WD/8AT)
孤高のトップランナー 2019.02.26 試乗記 より未来的なデザインや最新のユーザーインターフェイスを手に、華々しくデビューした新型「ポルシェ911」に、スペイン・バレンシアで試乗。最新の911は最良の911か? 長年繰り返されてきたこの問いを、新型にも投げかけてみた。プラットフォームの70%をアルミ化
ポルシェ911はしばしば、プラットフォームの基本設計を継承しながらの刷新をフルモデルチェンジとして世に示してきた。なにせ空冷時代は約30年もホイールベースを動かさなかったメーカーだ。そして996型から、一切合切を刷新した991型へとスイッチするまでには、ほぼ15年が経過していた。そういう時系列からいえば、991型から992型への移行は順当なタイミングにもみえる。
それにしてもフルモデルチェンジとは大げさな……と思いきや、992型はエンジン以上にボディーの側に大きな変更が加えられていた。材料置換をさらに推し進め、全体の70%をアルミ化した新しいプラットフォームは、前型の「カレラ4」系に与えられたワイドボディーをデフォルトとし、前側のトレッドが一気に拡大。前後異径のタイヤを履くなど、確かに完全刷新級の手が加えられている。グループ内の「アウディR8」や「ランボルギーニ・ウラカン」あたりとの共有性をもたせるといううわさは以前からささやかれているが、ホワイトボディーのカットモデルを見るに、992型では前後のコンパートメントおよびキャビンという3セクション化がさらに明確にされたようにもうかがえ、しかもポルシェ自らが「MMB」、つまりミドエンジン用モジュラーと名乗るようになってきたということは、いよいよそれが現実化しつつあるのかもしれない。
エンジンは991型後期で展開されたライトサイジングコンセプトの3リッターフラット6ツインターボを踏襲。ピエゾインジェクターの採用やタービンの大径化、クーリングチャンネルの高効率化などで前型の「S」系グレードよりも30ps向上の最高出力450ps、トルクも30Nm増しの530Nmとなっている。PDKの8段化で効率向上をもくろむ一方、MTの有無は定かではなく、ベーシックな「カレラ」の登場も未定と、不明瞭なところも多い。WLTPモードの認証作業に多くの手数が費やされている欧州の自動車メーカーは、全般に新型車のローンチスケジュールが狂っている傾向だが、ポルシェもご多分に漏れずということだろう。
内外装は未来的に
……と、そんなこんなの予備知識やら邪推やらを絡めながら初めて出会った992型は、そのたたずまいがいよいよ肉感的で、ちょっと面食らうほどだった。大径化されたタイヤ/ホイールも必要以上に目を引く。テールランプの薄型化に伴い、分厚さが際立つようになったテールまわりを軽快に見せる目的もあったのだろう、「カイエン」などと同じイメージでブラックアウトされた前後のバンパーデザインはちょっと未来的だ。ともあれ若々しさは前型比でマシマシな印象で、アンダーステートメントを求めて911を選ぶ少なからぬ日本のユーザーには果たしてこれは受け入れられるだろうかとちょっと心配になる。
そのフューチャリスティックな印象は内装もまたしかりだ。全体造形は930時代の911をモチーフにしているのだろう、エアベントの上には象徴的な物理スイッチが置かれるも、車両の各種設定はポルシェ・コミュニケーション・マネジメントシステム(PCM)を介して行われる前提となり、ボタン類は大きく削られた。メーターもタコメーターにアナログを残しつつ、その両翼に並ぶべき4眼のメーターは液晶化され、針だけでなく文字や図形であらゆる情報が表示される。PDKのセレクターもバイワイヤ感があらたかだが、辛うじてレバー的なものが残されたところにMTへの希望を見いだすこともできなくはない。ともあれ、911を古く長く愛してきたオジさんは、乗り込んで再び“置いてけぼり”を食らいそうになるのではないだろうか。
なんだかなぁ……と思いながらも、例えばあるべきところにある鍵穴に心を引き戻されたりというひとり押し問答を繰り広げながら走り始めると、ものの5分でうならされるのが新しい911の常。果たして992型はいかがかと思いきや、5分どころか1~2分でこりゃあ参ったなぁと頭をかく自分がいる。
新旧カスタマーのはざまで
なんかもう、シャシーの剛性はもとより、エンジン/トランスミッションのマウント位置とかサスアームの取り付け部とかそれに支えられるバネ下とか、あらゆる動きモノの精度感が前型とはふた味くらい違う。とっぴな路面状況に応じて当然表れるであろうビビリやバタつきといった濁音系の応答が無に等しく、いわゆる低級振動の類いがほとんど感じられない。大きなうねりで大負荷をかけるような意地悪な乗り方でもサスは始終スキッと伸縮し、タイヤはピタッと路面を捉える。ピカピカの路面で「GT3」にでも乗っているかのようなフィードバックが、公道で、しかも「カレラS」で味わえると表現すれば大げさかといえば、そんなこともない。アルミの多用による音環境の変化とノイズレベルの低減も作用しているかもしれないが、それにしてもすごい転がり感である。
4WS化された上にクイックレシオとなった992型の操舵応答感は、さすがに以前のようにセンターが甘めでじわじわとゲインが高まっていくという情感は薄れている。今やタイヤやアシもよくなったしホイールベースも伸びたしで、リアエンジンとて曲がりのきっかけを強めても「やすやすとスピンには至りませんよ」という考え方なのかもしれない。そして、それを補完するためにポルシェ・スタビリティー・マネジメントシステム(PSM)やトラクションコントロールを最大限にスピン防止側に作用させるウエットモードを用意した……だけでなく、ホイールハウス内にスプラッシュ音を拾うセンサーを置いて雨天走行を判定し、メーター上でモードの活用を促すという念の入れようである。と、恐らく“空冷オジさん”などはここでまたドン引きだろう。
そこまでしないとまともに曲げられないのか最近の若いもんは。911はか細い大径ハンドルを慎重に動かして、クタクタのシフトレバーをなでるように操って、曲げの姿勢を手前からしっかりつくってだなぁ……と、911乗りが伝えるその一連のご作法には確かに憧れる。しかし、それでは今のライバルに立ち向かえないし、今のお客さんに振り向いてもらえない。新旧のはざまでどうやって911らしさをつないでいくか。ポルシェも昨日今日の話ではない苦悩をずっと抱えながら911と向き合っているのだ。
間違いなくベストな911
992型の速さはもうとんでもない領域に達している。ふと考えてみれば、かの「959」とエンジンパフォーマンスは同等以上、そして200kgくらいは軽いのだ。数字上でさえ刺激的にもほどがある。エンジンのフィーリングも素晴らしく、ガソリンパティキュレートフィルター(GPF)搭載の影響はトップエンド付近までほぼ感じられない。
そして曲がりっぷりもまたすさまじい。後軸に荷重がたっぷり乗った911ゆえわずかな後輪舵角も的確にレスポンスするうえ、それに呼応するかのようにフロントのトレッドを広げているから、旋回がシャープなだけでなくリアの踏ん張り感も一段と高いレベルに達している。印象的には「カレラ4S」の側はスタビリティーが強すぎる感さえあり、前輪としっかり対話する感覚を求めるならカレラSの方が面白いのではないかと思う。
最新の911は最良の911か。それはもう、50年以上続くモデルに問うことではないのかもしれない。メーカー的には前述の通り、常にトップランナーで居続けることのプレッシャーを感じながら進化の手を緩めずに走り続けているわけだし、一方でユーザー的には齢(よわい)を重ねての嗜好(しこう)の変化やそういう自分との波長の合う合わないがあるだろう。でもひとついえるのは、今の世界のスポーツカーを取り巻く環境を鳥瞰(ちょうかん)した時、ベストな911は間違いなくこれになるだろうということだ。911とは常にポルシェが世に問う、ど真ん中の模範解答なのかもしれない。
(文=渡辺敏史/写真=ポルシェ/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ポルシェ911カレラS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4519×1852×1300mm
ホイールベース:2450mm
車重:1515kg(DIN)
駆動方式:RR
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:450ps(383kW)/6500rpm
最大トルク:530Nm(54.0kgm)/2300-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR21 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.9リッター/100km(約11.2km/リッター、欧州複合サイクル)
価格:1666万円/テスト車=-- 円
オプション装備:--
※車両本体価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ポルシェ911カレラ4S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4519×1852×1300mm
ホイールベース:2450mm
車重:1565kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:450ps(383kW)/6500rpm
最大トルク:530Nm(54.0kgm)/2300-5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 91Y/(後)305/30ZR21 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:9.0リッター/100km(約11.1km/リッター、欧州複合サイクル)
価格:1772万円/テスト車=-- 円
オプション装備:--
※車両本体価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。