ポルシェ911カレラGTS(RR/8AT)
俺も悪いけどお前も悪い 2025.03.22 試乗記 992.2世代へと進化した「ポルシェ911」だが、ファンにとっての最大関心事はついにハイブリッド化された「カレラGTS」に違いない。電気の力を手にした3.6リッター水平対向6気筒ターボユニットは、ワインディングロードでどのような振る舞いを見せるのだろうか。普段はやらないマニュアル変速
確か、ホッケンハイムのサーキットを会場に開催された991型のワークショップのときだったと思う。「911カレラ」に搭載される水平対向6気筒にターボが標準装着された、新しいパワートレインに関する勉強会のあと、テストドライバーが運転する991に同乗するプログラムが用意されていた。その華麗なドライビングスキルにほれぼれしたのだけれど、気がつくと彼はPDKをずっと「D」に入れたままで、パドルを使ったマニュアル操作をしていなかった。
サーキットを走るのにMTモードを使わないことを意外に思って、彼にその理由を尋ねてみると「サーキットはPDKのほうが速く完璧に走れるんだよ。自分なんかよりPDKのほうがずっとうまい(笑)」とサムアップした。そういうことをすぐにうのみにする自分は以来、PDKの911をドライブするときは基本的にいつも「D」に入れたままだったし、実際PDKの変速タイミングや選択されるギア段はいつも完璧で、そこからわざわざ自分でマニュアル変速してみようという気にはならなかったのである。
ところが“992.2”と呼ばれる最新型の911のカレラGTSを伊豆スカイラインで運転していたら、無性にパドルをイジりたくなった。例によってPDKの所作は完璧だったので、そこに不満があったからではない。走れば走るほどに、ついに電動化された水平対向6気筒のポテンシャルをもっともっと味わってみたいという感情がジワジワと込み上げてきた。マイルドハイブリッド化されたそれは、自分の想像とは大きくかけ離れた表情を見せてくれたからだった。
|  拡大 | 
|  拡大 | 
|  拡大 | 
|  拡大 | 
ハイブリッド化による重量増は約50kg
992.2になっても、素の911カレラは引き続き3リッターの水平対向6気筒ツインターボエンジンを搭載しているが、GTSは新たに開発された3.6リッターの水平対向6気筒エンジンを搭載する。ストイキ(理論空燃比)で回る領域を広げることが主な開発理由だったという。最高出力56PS/最大トルク150N・mを発生するモーターはトランスミッションとエンジンとの間に配置され、前後にクラッチは存在しないからEV走行は不可となる。マイルドハイブリッド化に伴い、ベルトやプーリーは廃止され、エアコンのコンプレッサーを含む補機類はすべて電動化された。メルセデス・ベンツのISGに似た機構と考えていいだろう。補機類がなくなったことでエンジン高が110mm低くなり、そのスペースにインバーターやコンバーターといった電動化に必要な補機類をレイアウトしている。
そして素の911のツインターボに対してカレラGTSはシングルターボとなったが、コンプレッサーとタービンをつなぐシャフト上にモーターを配置した電動ターボに置き換えられている。この電動ターボは、レスポンスの向上のみならず、最大で15PSの回生ブレーキとしての役目も担っているそうで、同時に圧力コントロールが可能となり、ウェイストゲートは存在しない。
容量1.9kWの駆動用バッテリーはリチウムイオンで、もともとフロントにあった12Vバッテリーと置き換えられている。行き場を失った12Vはリアへ移植された。ベルトやプーリーがなくなったとはいえ、約27kgの駆動用バッテリーやモーターなどにより重量増は避けられない。それでもポルシェはあれこれ工夫を凝らし、ハイブリッド化したことによる重量増は約50kgにとどめている。
ドライブモードに「エコ」がない
911カレラGTSのドアを開けようとすると、下に「t-hybrid」と書かれたロゴがあることに気がついた。「t」はターボを意味するそうで、単体で回生もする電動ターボもハイブリッド機構の一部であることを示しているのだろう。ドアを開け、運転席に収まると、目の前に広がる光景は紛れもない911でありながら、992.2になってそれまでの911とは異なる部分もあったりする。ひとつは、メーター中央部のエンジン回転計が機械式からついにグラフィックへ変更された点。もうひとつは、キーレスになってもかたくなに“ひねる”ことにこだわっていたエンジンスタートスイッチがボタン式に改められた点。いずれもファンにとってはきっとがっかりポイントなのだろうけれど、さすがにそろそろやむを得ないとも思う。
スイッチ類や各種装備は992.1から大きくは変わらない。ここで注目すべきは、モード切り替えスイッチである。「ノーマル」「ウエット」「スポーツ」「スポーツ+」の4種類しかないのはこれまでと同様なのだけれど、たいていのマイルドハイブリッド搭載車には用意されている「エコ」とか「チャージ」といった電動化関連のモードが見当たらないのである。この事実から推測できるのは、911カレラGTSのマイルドハイブリッドは燃費の向上よりもパフォーマンス寄りの機構だということである。そして、実際にそうなっていた。
ちょうど数週間前に素の911カレラに試乗したところだったので、記憶がまだ鮮明なそれと比べると、911カレラGTSのほうが発進時から力強い印象を受ける。しかし、このパワートレインの魅力を目の当たりにするのは、高速道路を降りて入山してからだった。
|  拡大 | 
|  拡大 | 
|  拡大 | 
|  拡大 | 
自然吸気のようなターボエンジン
394PSと450N・mを発生し、1595kgの車重を持つ911カレラでもパワー不足はまったく感じなかったが、同じ道を911カレラGTSで走ってみると、541PS/610N・m(いずれもシステム値)で1670kgの911カレラGTSのほうが、圧倒的にパワフルというよりは全般的に線の太いパワーデリバリーを有しているように感じた。75kgの重量差はエンジン単体の486PS/570N・mだけでほぼ相殺されているだろうけれど、さらに上乗せされているであろうモーターや電動ターボの存在はほとんど感じられない。むしろ、まるで自然吸気(NA)の水平対向6気筒のように、出力とトルクが誠にきれいな線形を描きながら、一切のフリクションなく上昇していく。そのエンジンフィールがとにかくすこぶる気持ちいいのである。
普段ならやらないのに無性にパドルをイジりたくなった理由は、このエンジンフィールをさまざまな回転域で味わってみたいという欲望からだった。エンジン音も、911カレラより明瞭でスポーツカーらしいサウンドにイコライジングされているから、なおさらそれを聴きたくなって右足や両手先を頻繁に動かしてしまうのである。個人的には、標準エンジンにターボが付くようになってからの911のなかで、最も感性に訴えかけてくるユニットではないかと思った。
ちなみに、ハンドリングについてほとんど記さなかったのは、例によって理想的なレスポンスで理想的なクルマの動きをしてくれて、そっちを気にすることなくパワートレインの動向に注視してしまったからである。
編集部で計算してくれた燃費は満タン法で6.4km/リッター、オンボードで6.7km/リッターだった。マイルドハイブリッドが燃費重視ではないことが、ここでも証明されたことになる。ただ、燃費が思ったほど伸びなかったのは、おそらく運転が楽しすぎて必要以上にスロットルペダルを踏んでしまったせいだろう。だから911カレラGTSのせいではない。でもやっぱり、ドライバーをそういう気持ちにさせた911カレラGTSのせいかも。
(文=渡辺慎太郎/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=ポルシェジャパン)
|  拡大 | 
|  拡大 | 
|  拡大 | 
|  拡大 | 
テスト車のデータ
ポルシェ911カレラGTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4553×1852×1297mm
ホイールベース:2450mm
車重:1630kg
駆動方式:RR
エンジン:3.6リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:永久磁石同期モーター
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:485PS(357kW)/7500rpm
エンジン最大トルク:570N・m(58.1kgf・m)/2300-5000rpm
モーター最高出力:56PS(41kW)
モーター最大トルク:150N・m(15.3kgf・m)
システム最高出力:541PS(398kW)
システム最大トルク:610N・m(62.2kgf・m)
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)315/30ZR21 105Y(グッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツR)
燃費:11.0-10.5リッター/100km(約9.1-9.5km/リッター、WLTPモード)
価格:2254万円/テスト車=2958万7000円
オプション装備:ボディーカラー<スレートグレーネオ>(56万2000円)/GTSインテリアパッケージ<スレートグレーネオ>(59万9000円)/ポルシェアクティブサスペンションマネジメント<PASM>(0円)/ポルシェセラミックコンポジットブレーキ<ハイグロスブラック塗装キャリパー>(170万円)/パワーステアリングプラス(4万5000円)/フロントアクスルリフトシステム(33万円)/イオナイザー(4万3000円)/エクスクルーシブデザインフューエルキャップ(2万円)/ベルトアウトレットトリム<Race-Tex>(5万8000円)/チルト&スライド式電動ガラスサンルーフ(33万7000円)/上部グレーティントフロントガラス(1万7000円)/ダッシュボード&ドアトリムパッケージ<レザー>(35万5000円)/Race-Texサンバイザー(6万2000円)/スラットインレイリアリッド<エクステリアカラー塗装>(8万8000円)/アルミセレクターレバー(9万1000円)/HDマトリックスLEDヘッドライト<ティンテッド>(44万5000円)/デジタルレブカウンター<スレートグレーネオ>(0円)/エクスクルーシブデザインテールライト(2万7000円)/ナイトビューアシスト(38万4000円)/BOSEサラウンドサウンドシステム(21万3000円)/スラット付きレザーエアベント<カラーステッチ付き>(21万4000円)/Race-Texインテリアミラーパネル<カラーステッチ付き>(5万2000円)/Race-Texヒューズボックスカバー<カラーステッチ付き>(4万5000円)/リモートパークアシスト(7万2000円)/アルミペダルおよびアルミフットレスト(7万5000円)/フルバケットシート(80万2000円)/「PORSCHE」ロゴLEDドアカーテシーライト(2万2000円)/左ハンドル仕様(0円)/イルミネーテッドドアシルガード<ブラッシュドアルミ&ブラック>(10万7000円)/軽量遮音プライバシーガラス(28万2000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1250km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:295.6km
使用燃料:45.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.4km/リッター(満タン法)/6.7km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 慎太郎
- 
  
  メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【海外試乗記】 2025.10.29 メルセデス・ベンツが擁するラグジュアリーブランド、メルセデス・マイバッハのラインナップに、オープン2シーターの「SLモノグラムシリーズ」が登場。ラグジュアリーブランドのドライバーズカーならではの走りと特別感を、イタリアよりリポートする。
- 
  
  ルノー・ルーテシア エスプリ アルピーヌ フルハイブリッドE-TECH(FF/4AT+2AT)【試乗記】 2025.10.28 マイナーチェンジでフロントフェイスが大きく変わった「ルーテシア」が上陸。ルノーを代表する欧州Bセグメントの本格フルハイブリッド車は、いかなる進化を遂げたのか。新グレードにして唯一のラインナップとなる「エスプリ アルピーヌ」の仕上がりを報告する。
- 
  
  メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス(4WD/9AT)【試乗記】 2025.10.27 この妖しいグリーンに包まれた「メルセデスAMG S63 Eパフォーマンス」をご覧いただきたい。実は最新のSクラスではカラーラインナップが一気に拡大。内装でも外装でも赤や青、黄色などが選べるようになっているのだ。浮世離れした世界の居心地を味わってみた。
- 
  
  アウディA6スポーツバックe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.10.25 アウディの新しい電気自動車(BEV)「A6 e-tron」に試乗。新世代のBEV用プラットフォーム「PPE」を用いたサルーンは、いかなる走りを備えているのか? ハッチバックのRWDモデル「A6スポーツバックe-tronパフォーマンス」で確かめた。
- 
  
  レクサスLM500h“エグゼクティブ”(4WD/6AT)【試乗記】 2025.10.22 レクサスの高級ミニバン「LM」が2代目への代替わりから2年を待たずしてマイナーチェンジを敢行。メニューの数自体は控えめながら、その乗り味には着実な進化の跡が感じられる。4人乗り仕様“エグゼクティブ”の仕上がりを報告する。
- 
              
                ![これがおすすめ! 東4ホールの展示:ここが日本の最前線だ【ジャパンモビリティショー2025】]() NEW NEWこれがおすすめ! 東4ホールの展示:ここが日本の最前線だ【ジャパンモビリティショー2025】2025.11.1これがおすすめ!「ジャパンモビリティショー2025」でwebCGほったの心を奪ったのは、東4ホールの展示である。ずいぶんおおざっぱな“おすすめ”だが、そこにはホンダとスズキとカワサキという、身近なモビリティーメーカーが切り開く日本の未来が広がっているのだ。
- 
              
                ![第850回:10年後の未来を見に行こう! 「Tokyo Future Tour 2035」体験記]() NEW NEW第850回:10年後の未来を見に行こう! 「Tokyo Future Tour 2035」体験記2025.11.1エディターから一言「ジャパンモビリティショー2025」の会場のなかでも、ひときわ異彩を放っているエリアといえば「Tokyo Future Tour 2035」だ。「2035年の未来を体験できる」という企画展示のなかでもおすすめのコーナーを、技術ジャーナリストの林 愛子氏がリポートする。
- 
              
                ![2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】]() NEW NEW2025ワークスチューニンググループ合同試乗会(前編:STI/NISMO編)【試乗記】2025.11.1試乗記メーカー系チューナーのNISMO、STI、TRD、無限が、合同で試乗会を開催! まずはSTIの用意した「スバルWRX S4」「S210」、次いでNISMOの「ノート オーラNISMO」と2013年型「日産GT-R」に試乗。ベクトルの大きく異なる、両ブランドの最新の取り組みに触れた。
- 
              
                ![小粒でも元気! 排気量の小さな名車特集]() NEW NEW小粒でも元気! 排気量の小さな名車特集2025.11.1日刊!名車列伝自動車の環境性能を高めるべく、パワーユニットの電動化やダウンサイジングが進められています。では、過去にはどんな小排気量モデルがあったでしょうか? 往年の名車をチェックしてみましょう。
- 
              
                ![これがおすすめ! マツダ・ビジョンXコンパクト:未来の「マツダ2」に期待が高まる【ジャパンモビリティショー2025】]() NEW NEWこれがおすすめ! マツダ・ビジョンXコンパクト:未来の「マツダ2」に期待が高まる【ジャパンモビリティショー2025】2025.10.31これがおすすめ!ジャパンモビリティショー2025でwebCG編集部の櫻井が注目したのは「マツダ・ビジョンXコンパクト」である。単なるコンセプトカーとしてみるのではなく、次期「マツダ2」のプレビューかも? と考えると、大いに期待したくなるのだ。
- 
              
                ![これがおすすめ! ツナグルマ:未来の山車はモーターアシスト付き【ジャパンモビリティショー2025】]() NEW NEWこれがおすすめ! ツナグルマ:未来の山車はモーターアシスト付き【ジャパンモビリティショー2025】2025.10.31これがおすすめ!フリーランサー河村康彦がジャパンモビリティショー2025で注目したのは、6輪車でもはたまたパーソナルモビリティーでもない未来の山車(だし)。なんと、少人数でも引けるモーターアシスト付きの「TSUNAGURUMA(ツナグルマ)」だ。
 
      



































 
     
     
     
     
     
                           
                           
                         
                         
                           
                           
                     
                   
                   
                   
                   
                        
                     
                        
                     
                        
                    