アルファ・ロメオ・ステルヴィオ2.2ターボ ディーゼルQ4(4WD/8AT)
いくひさしく むつまじく 2019.03.05 試乗記 アルファ・ロメオが初めて手がけたSUV「ステルヴィオ」。そのラインナップに加わることになった、ディーゼルモデルの走りやいかに? ガソリンモデルにも試乗経験のある筆者が、乗り味を報告する。ディーゼルなのにスポーティー!?
2019年2月19日、FCAジャパンはアルファ・ロメオの最新ディーゼルの国内初導入を発表した。セダンの「ジュリア」とSUVの「ステルヴィオ」用に開発されたこれは、車名は「2.2」と付くけれど、実際はボア×ストローク=83×99mmの排気量2142ccで、アルファのディーゼルとしては初のアルミブロックを採用する。
低回転からターボラグのないレスポンスと高トルクを実現するため、e-VGT(電子制御式バリアブルジオメトリーターボ)や、より正確な排圧コントロール(ブースト圧制御)を可能とする「ターボスピードセンサー」などを盛り込んだ革新的な「ターボRPM(レスポンシブパフォーマンスマネジメント)システム」が導入されている。ここらへんはプレスリリースのコピペですけれど、ようするに「低回転からターボラグのないレスポンスと高トルクを実現する」ことに主眼が置かれている。FCAジャパンは、「スポーツディーゼルエンジン」と位置付けている。
世界的に厳しいといわれている日本の排出ガス規制「ポスト新長期規制」並みの厳しさで知られるヨーロッパの排出ガス規制「ユーロ6d」をクリアするため、酸化触媒や微粒子フィルターのほか、必要に応じて排ガスにアドブルー(尿素水溶液)を噴射することでNOx(窒素酸化物)を低減している。
スペックに興味津々
ちなみに、このボア×ストロークはメルセデス・ベンツの「220d」用ディーゼルエンジンとくしくも同一で、排気量2.1リッターなのに2.2リッターのような名乗りを上げているところも同じだ。
アルファが追随したと申し上げたいのではない。もちろんメルセデスのエンジンも研究しただろうけれど、そもそも現代の乗用車用ディーゼルで常識となっているコモンレール式を開発したのは1990年代のフィアット・グループである。手がけたのは、1968年から88年までアルファに在籍したエンジニア、アレッサンドロ・ピッコーネさんという「エンジンの神様」、と筆者は内田盾男さんからうかがった。世界初のコモンレール・ディーゼルを搭載した量産型乗用車は1997年に発表された「アルファ156 JTD」だった。
今回のアルファの最新ディーゼルももちろんコモンレール式で、一行程に2000バールの高圧燃料噴射を最大8回行う高精細な燃料噴射装置「マルチジェットII」を搭載している。ちなみにマツダの「スカイアクティブD 2.2」は5回で、回数が多ければよいというものではないにせよ、回数は多いほうがうれしい、ということは言えるのではあるまいか。
もうひとつちなみに、「マルチジェットII」でググると、「2.2マルチジェットII」というのが出てくる。2015年に「ジープ・チェロキー」に搭載されたこれは、ボア×ストローク=83.8×99mmの2184ccで、鋳鉄ブロックだった。つまり、このアルミのツインカムヘッドを持つ2.2マルチジェットIIをユーロ6に対応させるべく、アルミブロックに替えるなど、改良・発展させたユニットが、ここに紹介しているジュリア&ステルヴィオの最新ディーゼルなのだ。以上、出典は『ウィキペディア』です。
第一印象は「硬くてクイック」
以下、日本初導入のこの最新スポーツディーゼルを搭載した「ステルヴィオ2.2ターボ ディーゼルQ4」について述べる。本国ではジュリア用、ステルヴィオ用、それぞれ2種類のチューンがあり、車重が重たいステルヴィオ用のほうがやや高出力で、つまり全部で4種類あるわけだけれど、日本向けにはそれぞれ1種類、高出力版のみが選ばれている。ステルヴィオ用のそれは、最高出力210ps/3500rpm、最大トルク470Nm/1750rpmを発生する。ジュリア用は20psと20Nm控えめになる。
ステルヴィオ2.2ターボディーゼルQ4の外観にディーゼルを示すバッジ類は付いていない。見分けるポイントはフロントバンパー下部のフォグランプで、フォグがあるのがディーゼルである。試乗車はアルファレッドの外装色にブラックの内装色で、いかにもアルファ・ロメオらしい組み合わせであるように筆者には思われる。
エンジンをスタートさせると、ディーゼル音がデカイ。走りだすと、乗り心地ははっきり硬めだ。先般、試乗した「ステルヴィオ クアドリフォリオ」よりも硬く感じる。あちらは20インチながら可変ダンパーを備えていることがその差となって表れたということだろう。タイヤは235/60R18サイズのブリヂストンのランフラットを履いている。とはいえ、最近のランフラットはかつてのようにゴツゴツはしていない。ステアリングは低速で驚くほどクイックで、俊敏さをおのずと印象付けられる。
ほかとは違う味もある
都内限定の試乗コースだったこともあって、う~む、特に不満はないけれど、特に感動もなかった。圧縮比は最近のトレンドにのっとって15.5と低めで、振動をおさえるべくバランサーシャフトを採用している。なのに、アイドリング音とフル加速中のエンジン音ははっきりディーゼルのそれだ。
さりとて、それが決定的な欠点かというと、そうでもない。なんせトルクが470Nmもある。しかも、それが1750rpmという低回転で、源泉掛け流し温泉のごとくにこんこんと湧き出す。フツーに都内を走っていると、回す必要がない。多くの場合、車内はロードノイズと風切り音しかしない。首都高速に上がれば、硬いと感じた乗り心地も、フラットになって気にならなくなる。
ディーゼルエンジンというと、鼻先ががぜん重たく感じたものだけれど、そういうネガはない。アルミブロックのほか、中空カムシャフトを使って軽量化につとめ、エンジン単体の重量は155kgにおさまっているという。155kgがいかに軽量なのか、じつのところ筆者にはよくわからないのですけれど、カタログの車重を比較するとおぼろげながら見えてくるものはある。
ステルヴィオのディーゼルは1820kgで、2.0ガソリンモデル比で10kg重いだけ。「BMW X3」の「20d」と「20i」は30kg差、「メルセデス・ベンツGLC」の「220d」と「250」は60kg差がある。各車、装備の違いは未確認ながら、アルファの最新ディーゼルが軽量であることは間違いなさそうだ。車検証上の前後重量配分は930kg : 890kgと、アルファが理想値とする50 : 50をほぼ実現しているのも、その証拠のひとつだろう。
暮らしの友になるクルマ
アルファ史上初のSUVであるステルヴィオの汎用(はんよう)性、多芸多才がディーゼルでよりいっそうくっきりした。エンジンを始動して筆者がいきなり驚いたのは、車載コンピューターが示した1027kmという航続距離だった。ま、ディーゼルなれば当然ではあるけれど、こういうアルファ・ロメオは日本市場では手に入らなかった。
走行中、背が高いことのマイナスは皆無で、電動パワーアシスト付きのステアリングはやや人工的かとも思ったけれど、やがて気にならなくなった。フツーにいいクルマなのである、ステルヴィオのディーゼルは。おそらく、生活の友として長く使って初めて真価がしみじみわかる、というような類いのプロダクトであるに違いない。
車両価格は617万円。ステルヴィオの日本仕様のうち最も廉価で、受注生産の「2.0ターボQ4」の655万円よりも安い。ライバルの「X3 xDrive 20d」は682万円、「GLC220d 4MATIC」は653万円である。もちろんドイツのプレミアムの方が安全で安心かもしれない。ステルヴィオにはカーナビもない。そんなもの、いらない、という日常生活の冒険者のためのクルマがアルファ・ロメオなのである。21世紀のアルフィスタも、スマホは使ってもいいと思いますけど。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ステルヴィオ2.2ターボ ディーゼルQ4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1905×1680mm
ホイールベース:2820mm
車重:1820kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:210ps(154kW)/3500rpm
最大トルク:470Nm(47.9kgm)/1750rpm
タイヤ:(前)235/60R18 103V/(後)235/60R18 103V(ブリヂストン・デューラーH/P SPORT AS)
燃費:16.0km/リッター(WLTCモード)
価格:617万円/テスト車=623万1344円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(4万3200円)/ETC車載器(1万8144円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:21km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。