単なる懐古趣味にあらず
最新“ネオクラシック”バイクに注目せよ!
2019.03.01
デイリーコラム
日本で始まり欧州で成長
ネオクラシックと呼ばれるバイクは、スペック競争に対するアンチテーゼ、もしくはマジョリティーに対するマイノリティーとして時折マーケットに投げ込まれた、一種の変化球だった。
かつて、「カワサキ・ゼファー」(1989年)を筆頭にいくつかヒットモデルが生まれ、1990年代に入ると小中排気量モデルにそれが波及。「カワサキ・エストレヤ」「スズキ・ボルティ」「ヤマハ・ブロンコ」「ホンダ・ドリーム50」・・・・・・といったフォロワーを生み出したものの、定着するほどの勢いはなかった。日本人の多くは、ポッと出の雰囲気クラシックよりも70年代後半から存在し続ける真正クラシック「ヤマハSR400」の愚直さを選んだのである。
そんなわけで日本では一時のブームにすぎなかったネオクラシックだが、そこに可能性を見いだしたのが欧州勢だ。2000年代に入り、トライアンフから「ボンネビル」「スクランブラー」が、ドゥカティからは「MH900e」を皮切りに「GT1000」「ポールスマート1000LE」「スポーツ1000」といったモデルが登場して新しいユーザーを開拓。過去の名車を現代風にアレンジしたファッションアイテムとして注目されるようになったのである。
このあたりの流れは、日産が「Be-1」を筆頭とするパイクカーシリーズを送り出し、後の「フォルクスワーゲン・ニュービートル」やBMWの「MINI」へつながった四輪の動向と似ているのだが、この頃のボンネビルやMH900eもまた、まだ変化球の域を出ていなかった。
ところが程なく、ネオクラシックはスーパースポーツやアドベンチャーと並ぶひとつのカテゴリーとして急成長を遂げた。それに大きく貢献したのが、2013年に発表されたBMWの「R nineT(アールナインティ)」である。
このモデルがやや特異だったのは、ネオクラシックでありながらも歴代のどのモデルもモチーフにしていなかったことだ。既存のパーツをうまく流用しながらシンプルに仕立て、それをレトロな外装で包むという奇をてらわない手法で開発。「なにか足りなければカスタムパーツを用意しておいたので、あとはお好みでどうぞ」という適度な“ほったらかし感”が新鮮だった。
これがもし、「歴史を変えたあの名車を現代風に解釈し……」などと肩ひじの張ったコンセプトだったなら、一定の層から必ず「似ても似つかない」だの「しょせん、今どきのバイクは」と批判され、まるでまがいモノのように扱われていたに違いない。R nineTにはそういう窮屈さがなく、古きよき時代の面影を現代の技術で味わい、かつ自由にカスタマイズする楽しみをサラリと差し出してくれたのだ。気軽に乗れて、ファッション性が高く、イジる余地も残すというそのスタイルに多くのメーカーが追従。続々とこのカテゴリーに進出し、大きなマーケットを築いたのである。
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ライダーの裾野を広げる存在
国産勢で大きな成功をおさめたのは、やはりカワサキだ。2017年12月に「Z900RS」をリリースするや、想定外のバックオーダーを抱える大ヒットを記録。R nineTとは対照的に、あの「Z1」(正式名称は「900スーパー4」)のリバイバルモデルなのは明らかながら、そのスタイルを深追いしなかったところがよかった。
事実、ティアドロップ型の燃料タンクとテールカウルの形状、丸型のヘッドライトにZ1の雰囲気が見て取れる程度で、あとはコンパクトな水冷エンジン、メガホン型の集合マフラー、剛性の高い倒立フォーク、リンク式のモノショック、軽量トレリス(格子状)フレーム、ハイグリップラジアルタイヤといったハイパフォーマンスパーツで構成。存在感のある巨大な空冷エンジンとそこから伸びる4本マフラー、そしてナローなフロント19インチホイールがZ1の象徴だったとするなら、まったくの別モノである。
それゆえ、当初ネット上では「Zの名を騙(かた)るな」、「水冷エンジンなんて要らない」、「なぜツインショックじゃないんだ」・・・・・・というネガティブな意見が殺到した。もしもそれを開発過程で聞かされたなら、カワサキの営業担当者は心穏やかではいられなかったに違いない。
しかしながら、エンジニアはノスタルジックにこだわらず、機械として正常進化させることを選んだ。結果的にネットやマーケットリサーチでは声を上げることのないサイレントマジョリティーに支持され、圧倒的なセールスを記録したのである。
こうしたネオクラシックのよさは、気負わずに乗れるところだ。本物のクラシックならエンジンを掛けるだけでも儀式めいた手順を要し、いざ走りだしてからも一定のスキルが求められるものだが、それがない。エンジンは洗練されたインジェクションによって制御され、足まわりにはABSやグリップ力の高いタイヤが備えられるなど、スポーツ性と安全性がバランス。さらにはトラクションコントロールやエンジンモードといった電子デバイスを備えるモデルも珍しくない。懐古的な見た目とは裏腹に、中身には最新の技術が詰め込まれているのだ。
街になじみ、人を威圧せず、ちょっとした移動を爽快なひと時に変えてくれる乗り物。それが今のネオクラシックである。堅苦しい薀蓄(うんちく)やマニアックな歴史的史実にとらわれる必要はない。これからバイクの世界に飛び込む人も、久しぶりに戻ってくる人も受け入れてくれる存在なのである。
(文=伊丹孝裕/写真=本田技研工業、スズキ、川崎重工業、ドゥカティ、BMWモトラッド、トライアンフ、向後一宏、三浦孝明、webCG/編集=関 顕也)
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伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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