第595回:売買対象は“コレクターズアイテム”のみ!
大矢アキオがオークションサイト『カタウィキ』にウキウキ
2019.03.08
マッキナ あらモーダ!
『カタウィキ』とは?
日本では目下フリマアプリが全盛である。だが、その前段階として『ヤフオク!』に代表されるインターネットオークションの存在があった。
ヨーロッパでその役割を果たしてきたものは、アメリカ資本の『eBay』である。サービス開始当初、欧州周辺各国にある古書店の在庫情報が手に取るようにわかったときは、個人的にはベルリンの壁崩壊に相当するほどの衝撃を受けたものだった。このeBayは、ヤフオク!と同様に、自動車も扱ってきた。
いっぽう近年、『Catawiki(カタウィキ)』というウェブサイトが、ちょっと違ったサービスをネットユーザーに提供している。
同サイトは、2008年にオランダで設立されたネットオークションのプラットフォームである。その特色は、取扱商品を「コレクターズアイテム」に限定していることだ。
ジャンルを見ると、時計や宝飾、服飾、本、切手などから、ワイン、玩具、オリエンタルじゅうたん、漫画やウイスキー、武具などにまで及ぶ。
商品の選定は、各分野の専門家194人が担当。一週あたり80カテゴリー、300のネットオークションが開催されている。日本語は含まれていないものの、17カ国語に対応している。
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バラエティー番組より面白い
カタウィキの自動車部門も、他のカテゴリーと同様に「コレクターズアイテムとしてふさわしいクルマ」のみを扱っている。
早速のぞいてみる。ページには必要な情報が見やすく配置してあり、見え透いたゴージャス感や、反対に日本の通販サイトにあるような安っぽさのいずれも感じられないのが好ましい。
知人のイタリア人医師はクルマではなく古美術のコレクターだが、カタウィキについて聞いてみると、やはり「使いやすいサイトだよ」と評価する。実際に落札歴もあるという。
本稿執筆時点で自動車は、350台が出品されていた。ブランド別で最も多いのはメルセデス・ベンツ(37台)で、次がフィアットとシトロエン(24台)だ。
画面の左側には、ユーザーの参考になるよう、自動車部門の専門家による査定価格も示されている。それよりも入札価格が妙に加熱気味の車両と、逆に過小評価されている車両と、双方あるのが面白い。
フランスから出品された1978年「シトロエンCX 2000パラス」は、4800ユーロの値段がついている。あと4時間で入札終了だが、いまだ応札がない。
いっぽうスペインから出品の1988年「マセラティ・ビトゥルボ スパイダー」は入札締め切り2日前。すでに1万5500ユーロ(約195万円)まで上がっている。
ページの脇では、入札締め切りまでの時間が、秒数までカウントダウンされている。そのリアルタイム感は、稚拙なテレビのバラエティー番組よりも面白いほどだ。
人気の秘密は「新鮮さ」と「多様性」
先日、カタウィキのイタリア事務所で自動車部門を担当するエキスパート、ルカ・ガッツァレッティ氏に話を聞くことができた。
従来の古典車オークションに対するアドバンテージは? その質問にガッツァレッティ氏は、「スピード感です」と真っ先に答えた。
掲載期間は10日間に限定されている。さらに、「掲載は2回まで。3回目は受け付けません」。これらによってサイト内の商品は、常に“生き”のいい状態に保たれるのだ。ちなみに社名の「Catawiki」とは、英語の「catalogue(カタログ)」とハワイ語で「速い」を意味する「wikiwiki(ウィキウィキ)」に由来する造語である。
台数とは別に、活発な取引がみられるのは「フェラーリやポルシェ」だという。原稿をタイプする手を再び休め、カタウィキの画面に目を落とす。1996年「フェラーリF355GTS」は、目下28件の入札があり、現在5万1000ユーロ(約640万円)に至っている。
同時に珍しいクルマや、リザーブ(最低落札)価格設定なしのクルマといった多様なラインナップを設定していることも、サイトの活性化につながっているという。
前者の最新例としてガッツァレッティ氏が挙げたのは、イタリアから2019年1月に出品された1969年「ベントレーT2 2ドアサルーン ミュリナー パークウォード」だ。わずか19台のみが製造された左ハンドル仕様の中の1台ということもあって盛り上がり、4万1000ユーロ(約517万円)で落札された。
後者の例を調べてみると、1999年「アルファ・ロメオ166 2.5 V6 24V」があった。3日前、最初のビッダーによる200ユーロ(約2万5000円)から始まり、執筆時点では1000ユーロ(約13万円)である。
また、近年のカスタムメイド車も時折出品される。2008年にカロッツェリア・カスターニャが「フィアット500」をベースに製作した「4×4ウッディーワゴン」はその最新例だ。
審査は厳密
次にサイト掲載までのプロセスを聞く。「スタッフが出向いてチェックすることはしません。代わりに、指定の書類一式と、指定したアングルの写真を提出していただきます」
それらを通じて、カタウィキで扱うコレクターズアイテムとしてふさわしいかどうかをチェックする。そのため、他の自動車売買サイトよりも掲載までに若干の日数を要する。「書類の不備で追加提出をお願いしたり、出品辞退をお願いしたりする場合も少なくありません」
一見ハードルが高いように感じられるが、オークションのプラットフォームとしてクオリティーと信頼を維持するには必要不可欠な作業といえる。
売買が成立したら、売り手は3日以内に車両を引き渡す。いっぽう、買い手は2週間以内に支払いを済ませる。決済手段はクレジットカード、もしくは銀行振り込みだ。お金の移動もカタウィキを通じて行うことで、安心感を提供している。
販売者の手元に入る金額は、12.5%(+在住国ごとの消費税)のコミッションを差し引いた額である。いっぽう購入者は、9%のコミッション(+在住国ごとの消費税)を支払う。双方ともプロ業者の場合は、別の税率が適用される。
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歴史の縮図?
繰り返しになるが、カタウィキは、ネット上でオークションを仲介するプラットフォームという立ち位置である。しかし、各地のヒストリックカーショーで積極的にブースを設け、買い主/売り主双方の目に触れるようにしている。2019年1月にトリノで開催された「アウトモトレトロ」では、アバルト70周年記念展示をサポートした。
最後にもうひとつ、ガッツァレッティ氏から面白い話を聞いた。「国別では、圧倒的に買い主が多いのはドイツ。いっぽう、売り主が多いのはイタリアです」
筆者が思うに、これは今日におけるヨーロッパ圏内での経済力を如実に反映している。同時に、愛好家の嗜好(しこう)も関係するのではないか、とも考える。
ドイツを含むアルプス以北のカーエンスージアストは、ドイツ車好きに負けず劣らずイタリア車ファンが多い。その傾向は、イタリア北東部パドヴァで毎年10月に開催されるヒストリックカーショー「アウト・モト・デポカ」を取材したジャーナリストの実に40%が、ドイツなどを含む外国からの来場であったことからもうかがえる。
アルプス以北の人々は、クルマに限らずイタリアの事物に関する憧れが強い。2019年1月にフィレンツェで開催されたメンズファッション見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」に訪れたバイヤー数が最も多かったのもドイツからであった。
さらに歴史をひもとけば、ゲーテは『ミニョンの歌』で「君知るや南の国 レモンの木は花咲き」(森 鴎外訳)と記し、ヨハン・シュトラウス2世はワルツ『レモンの花咲くところ』『南国のバラ』を作曲している。リヒャルト・ワーグナーに至っては1883年にヴェネツィアで、偶然とはいえ生涯を閉じている。
いっぽうイタリアでは、景気の停滞に加え、税金を含む維持費の高さから古いクルマを手放す傾向にある。ついでに、こちらも歴史を振り返れば、19世紀以降多くのイタリア人作曲家は、政治的に安定しないイタリア半島を避け、より多くの聴衆の目に触れる、パリなど他の大都市で作品の披露を行ってきた。
今日のオークションにみるアルプスを挟んだ北と南の傾向は、2世紀以上前からの繰り返しなのである。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、FCA、カタウィキ、CGアーカイブス/編集=藤沢 勝)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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