第127回:デカい 重い 速い
2019.03.12 カーマニア人間国宝への道ウルスの規格外な走り
「ウルス」での視線狩り作戦は中途半端な結果に終わったが、それでも、「いま一番旬なクルマ」に乗ってコーフンを得たという体験は、実に久方ぶりだった。
バブル期は、例えば出たばかりの「スカイラインGT-R」に乗っていると、歩道の学生集団が全員こっちをガン見して、走って追いかけてくるヤツもいた。初代「ロードスター」をパーキングメーターに止めて戻ってみたら、黒山の人だかりになってたりとか。思い出すと涙が出ます。
現代ニッポンでは、どんなクルマに乗ってても、まず注目されることなんかない。でもウルスに乗ったら、結局注目してくれたのはほとんど外国人だったけど、それでもあのいい時代の高揚感が軽くよみがえったのだ。あ、新型「アルファード」が出たばっかの時は、ガテン系男性の視線を相当集めたなぁ。そういう時代ッスよね。
ということで、最後にウルスで首都高をひとっ走り。
こ、これはものすごい!
アクセルを床まで踏み込んだ時のごう音は、踏んだ本人がビビるほど。加速も実にすさまじい。車両重量が2200kgもあるから、そんなに速いはずあんめぇと思っていたが、レインボーブリッジが崩壊する勢いで加速する。
もちろん、絶対加速は軽量超ハイパワーのホンモノ系スーパーカーのほうが上だと思いますが、デカくて重いモノが猛烈な勢いで加速すると、また別種の迫力がある。
ウルスのエンジンは、アウディRS系の4リッターV8ツインターボがベース。アウディRS系のデカいヤツの加速も強烈で、サウンドの気持ちよさもあきれるほどだったが、あれよりさらにウルトラすごく感じる!
背の高いスーパーカー
スペックを比べてみると、実に単純明快な事実が判明した。
アウディRS 7スポーツバック パフォーマンス
エンジン:V型8気筒(3992cc) DOHC インタークーラー付きツインターボ
最高出力:605ps
最大トルク:700Nm(オーバーブースト時は750Nm)
車両重量:2050kg
ランボルギーニ・ウルス
エンジン:V型8気筒(3996cc) DOHC インタークーラー付きツインターボ
最高出力:650ps
最大トルク:850Nm
車両重量:2200kg
んでもって、車両重量も見た目ほどの差はない。たったの150kg差だもん。おかげでパワーウェイトレシオもトルクウェイトレシオも、わずかながらウルスのほうが上だ。よく見たら、アウディのほうはボア×ストロークが84.5mm×89.0mmのロングストロークタイプ。一方ウルスは86.0mm×86.0mmのスクエアで、その分高回転型(?)だったのですね。アウディエンジンのブーストを上げただけじゃなかったんだ。さすがランボルギーニ!
ちなみにトルクウェイトレシオは、私が「もう速すぎてついていけない」と、2年前に降りた「フェラーリ458イタリア」とほぼ同じでした。こりゃ速いわけだ……。
コーナリングもまったく安定している。ビックリするくらい乗り心地がいいのに、しかも重心の高いSUVなのに、なんでこんなにビターッっと路面に張り付いてくれるんでしょう。これはまさしく背の高いスーパーカーそのもの! スゲエッ!
心地よいエンジン
うーん、なんて気持ちイイんだ……。
なにもかもが気持ちイイけど、なによりもステキなのはエンジンフィール。アウディ、いいエンジン作るなぁ。
もちろん、ランボルギーニっぽくワルな味付けがされてる分のプラス評価もあるけど、下からトルクがモリモリで、トップエンドまでまったくよどみなく突き抜けるこの感覚! これはマジな話、「アヴェンタドール」のV12より気持ちイイであります。
私が思うに、アヴェンタのV12は低中回転型で、上まで回してもあんまり気持ちよくない。つーか全般にそんなに気持ちよくない。私が乗ってた「カウンタック」もそうだったけど、ランボルギーニのV12は、あのシザースドアを持ったボディーを動かすための機関車みたいなもんで、あくまで主役はドア。カウンタックの系譜はドアが命。ドアのために存在している!
「ウラカン」のV10はまた別で、フェラーリの自然吸気V8みたいな突き抜け感が素晴らしい。ウラカンはドアがフツーなので、エンジンで頑張るしかないのだ。そのように理解しております。
で、ウルスのエンジンの気持ちよさは、フェラーリエンジンに人生をささげる決意を固めてきた私の信念をも、軽くグラつかせるくらいのものだった。
個人的には生涯「自然吸気命!」ではありますが、ターボも突き詰めれば、こんなに気持ちイイんだねぇ。やっぱアウディって昔からターボやってるから、年季が違うんだな。それに比べたらフェラーリのターボは、快感っていう点ではまだまだ付け焼き刃っスね。
そういえばフェラーリのV8ミドシップ、新しくなるんだよねぇ……(遠い目)。
(文=清水草一/写真=池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。