ランボルギーニ・ウルス(4WD/8AT)
まさに新種だ 2018.12.18 試乗記 ランボルギーニが開発した、スーパーカーならぬ“スーパーSUV”「ウルス」。いざ日本の道でステアリングを握ってみると、他社のSUVとも従来のランボルギーニとも違う走りに、驚かされることとなった。怪物だけれど常識的
「自動車界の主人公」といっても差し支えないほど、SUVが世界のマーケットで幅を利かせる存在となって久しい。そんな記号などまだカケラもなかった21世紀をはるか手前とした時代に、いずれドイツ自動車メーカーの管理下に置かれるとは誰ひとり予想していなかったに違いないイタリアのランボルギーニ社から送り出された“とんでもない一台”が、「LM002」なるスーパー4WDオフローダーだった。
この種の異形の持ち主の多くがそうであるように、さかのぼればやはりミリタリービークルの影がちらつくこのモデルが、いかにとんでもない存在であったか。それを知るためには、姿に加えて、鋼管スペースフレームを用いた骨格構造や、「カウンタック」から譲り受けたV型12気筒エンジンを搭載するといった特徴的なスペックの一部を耳にするだけで十分だった。
そんな往年のモデルの怪物ぶりからすれば、今回の主役であるウルスは随分と平和的に思えてしまう。ボディー骨格はカーボンでもスペースフレームでもなく、ごく常識的な金属製のモノコック構造。それも、「ポルシェ・カイエン」や「アウディQ7」などとの深い血縁関係にある、「MLBエボ」と呼ばれるフォルクスワーゲン グループ内のいわば“汎用(はんよう)品”だ。
エアスプリングを用いるサスペンションや、リアのアクスルステアリングも、同様のフレーズで紹介することができる。バンク内側にターボチャージャーを含む排気系をレイアウトした8気筒のV型エンジンも、現在のグループ内での役割分担に基づき、ポルシェが主導権を持って開発を行ってきたと目されるユニットである。
それゆえ、同じスーパー4WDカーとはいっても、その“とんでもない度”はLM002よりは随分と低い印象を受けることになる。今という時代の状況を鑑み、他のプレミアムブランド同様に「新たな顧客層の開拓に走った」のが、まずはウルスの狙いどころと考えられるわけだ。
“らしさ”があふれるデザイン
そうはいっても、そこはランボルギーニの作品。ツインターボ付きの4リッターV8エンジンとしては、グループ内でトップの数字である650psという最高出力が与えられ、その強靭(きょうじん)さを証明するかのように、0-100km/h加速3.6秒、最高速305km/hと、まさしくスーパーカーを地で行く怒涛(どとう)の動力性能をアピールする。
一方で、そうした走りのデータは脇に置いたとしても、ランボルギーニらしさを最も顕著に、そして分かりやすくアピールするのが、決して他のSUVに似ることのない、たとえ一切のエンブレム類が与えられないとしてもひと目でこのブランドの作とわかる、そのスタイリングである。
例えば、「なによりポルシェの一員に見えること」を意識したカイエンのスタイリング。あるいは、「Q2」から始まる数多くのQファミリーの中にあって、「最も立派で高級そうに思われること」を意識したと想像できるアウディQ7のたたずまいなどに比べると、ウルスのスタイリングは伸び伸びと、ランボルギーニの他モデルに遠慮することなく、自由に筆が振るわれたように思える。
それでいながら、「アヴェンタドール」や「ウラカン」という、地をはうような低全高ファミリーと明らかに共通するデザイン言語を用いつつ、紛(まご)うことなきランボルギーニの世界を体現させているのには、見事なデザイン手腕であると心底感心させられる。
かくして、とにもかくにも人を引きつけることになるのがウルスのスタイリング。そこにまず、ランボルギーニらしさが余すことなく表現されている。
みんなで使えるスーパーカー
かくして、フロントにターボ付きのエンジンを搭載し、高い地上高、そして4ドアボディーの組み合わせ……と、このブランドとしては異例ずくめのスペックが与えられつつも、誰の目にも“120%純正のランボルギーニ”と映るであろうウルス。そのなんともインプレッシブなエクステリアデザインに驚きと感動を覚えつつ、ドアを開いてインテリアへと身を委ねてもなお、期待を裏切らない。
新たな顧客層を狙う新世代のモデルなのだから、当然より便利で快適に使える右ハンドル仕様をここできちんとアピールすべきとも思うものの、残念ながら導入されるのは左ハンドル仕様のみ。左フロントドアからドライバーズシートへとアプローチしてドライビングポジションをとると、脚は前方へと投げ出し気味になってSUVとしてはアップライトな感覚は薄い。やはりランボルギーニの作品ならではだ。
テスト車は、42万3270円という価格で用意されるオプションの、リアセパレートシート仕様。「人を乗せるための空間」としては標準のベンチシート仕様に対して当然実用性が劣ることにはなるものの、ランボルギーニの一員であることのアピール度で断然上を行くのは間違いない。“乗る人全員が楽しめるスポーツカー”なる趣旨からいっても、開発陣が目指した本来のパッケージングは、こちらと解釈すべきなのだろう。
そんなセパレートシート仕様でも、長尺物の積み込みを可能とするスキーホールは標準装備。このブランドの作品としては例外的な高いユーティリティー性能の持ち主といえる。
ちなみに、アヴェンタドールやウラカンとの血縁関係もアピールをするべく極端な後ろ下がりのルーフラインが採用されているが、にもかかわらずリアシートの住人に対しては十分なヘッドスペースが提供されている。“友人・家族と共に楽しめるランボルギーニ”は、SUVであるからこそ実現されたというわけだ。
洗練され過ぎている
一方、ランボルギーニなんだからという先入観に対して「あれっ?」と思ったのは、例の真っ赤なカバーを開き、その下にミサイル発射スイッチのごとく隠されたボタンを押してエンジンに火を入れた瞬間だった。
端的に言って、この猛牛は思いのほかおとなしい。このブランドの作品であれば当然そうであろうと予想される、道行く人が振り返るほどの“雄たけび”が鳴り響かないのだ。
2基のターボチャージャーが与えられた4リッターのV8エンジンが、8段ステップATとトルセン式センターデフを用いた4WDシステムを介して生み出す加速のパフォーマンスは、もちろん文句ナシ。前述の加速や最高速のデータは、実際にアクセルペダルを踏み込んでみれば即座に「さもありなん」と納得ができる。
ただし、そんなフル加速のシーンでも荒々しさは伴わず、受け取り方によっては「洗練され過ぎている」とさえ感じられたのが、その心臓部に対する印象でもあった。ごく低いエンジン回転数から遅滞なくターボブーストが効き始め、あえて高い回転まで引っ張る意味には乏しいという特性が、そうした印象を加速させている。
何もかもが例外的な新世代のこのモデルは、こうしてなんともしつけの行き届いた猛牛でもあるのだ。
まったくスーパーなSUV
そんなしつけの印象は、フットワークに関しても同様だ。フロントが285、リアに至っては325といういかにもこのブランドの作品らしくファットな、22インチという極大径のシューズを履きつつも、スタートの瞬間から望外とも思える快適性が実現されているのは、ボディーの剛性感の高さと共に、サスペンションがしなやかにストロークをしながら高いフラット感を演じるという、ボディーコントロール性の高さに起因している。さすがに、路面から極端な大入力を受けると、ばね下の重さや突き上げ感の強さが露呈されるが、基本的にはマナーの良さが印象に残る。
加えれば、4WSシステムの逆位相制御を積極的に用いることによる、3m超というホイールベースを忘れさせる敏しょう性の演出も印象的。ステアリング操作に対して極端なまでに舵の利きが速く、予想をはるかに超えた小回り性が実現されているのもまた、ウルスならではの他のSUVとは一線を画した運動性能の特徴といえるのだ。
高速道を交えた一般道のみという条件下での今回のテストドライブの範疇(はんちゅう)では、このスーパーSUVの持てるパフォーマンスの、ごく一部を軽く垣間見たにすぎない。オプションで用意される“オフロード”と“砂漠”という2つを含めて、計6つものポジションが選択可能なドライブモードをフルに試せるシチュエーションにも恵まれなかったし、650psという怒涛(どとう)のパワーも、その実力の片りんを一瞬垣間見た程度にすぎなかった。
が、考えてみれば現実には、オーナーへと渡ったウルスの大半もまた、おおよそそうした使われ方をするはずだ。このブランドの作品ならではの妥協なきスピード性能に加えて、他のランボルギーニ車では成し得なかった高いオールラウンド性やユーティリティー性などが、ウルスならではの新たなる付加価値。このモデルはきっとそんな新しい夢を乗せてやってきた、“新世代の猛牛”に違いない。
(文=河村康彦/写真=向後一宏/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウルス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5112×2016×1638mm
ホイールベース:3003mm
車重:2360kg(車検証記載値)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:650ps(478kW)/6000rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/2250-4500rpm
タイヤ:(前)285/40ZR22 110Y/(後)325/35ZR22 114Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.6リッター/100km(約7.9km/リッター 欧州複合サイクル)
価格:2779万9200円/テスト車=3342万6667円
オプション装備:エクステリアカラー<ジアーロオージェ>(36万2595円)/Nathリム22インチホイール<チタニウムマット>(49万3771円)/カーボンセラミックブレーキ<ブラックブレーキキャリパー>(12万6929円)/21インチスペアホイール(7万7671円)/電動パノラマルーフ(31万0416円)/スタイルパッケージ<ハイグロスブラック>(21万3096円)/オフロードモード(7万1032円)/マットブラックエキゾーストパイプ(9万1464円)/Q-cituraウィズレザー(35万2637円)/オプショナルステッチ(7万0501円)/フロアマット<レザーパイピング&ダブルステッチ>(7万0501円)/ヒーター付きマルチファンクションステアリングホイール<パーフォレーテッドレザー>(14万1134円)/コントラストステッチ<ステアリングホイール>(4万2353円)/電動フロントシート<ベンチレーション&マッサージ機能付き>(35万2637円)/4人乗り仕様(42万3270円)/ブランディングパック(9万8781円)/Bang & Olufsenアドバンスト3Dオーディオシステム(70万5407円)/ヘッドアップディスプレイ(21万1635円)/アンビエントライトパッケージ(33万9095円)/ハイウェイアシスタントパッケージ(31万0416円)/アーバンロードアシスタントパッケージ(20万7811円)/ナイトビジョン(29万6475円)/ウエットアームワイパー&ヘッドライトウオッシャー&RVCクリーナー(9万4931円)/ハンドレステールゲートオープナー(9万2408円)/カーゴマネジメントシステム(7万0501円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:3229km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:298.6km
使用燃料:37.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.9km/リッター(満タン法)/8.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。