クルマの次は“住宅”に進出!?
メルセデスが「EQハウス」で目指す未来
2019.03.18
デイリーコラム
きっかけは東京モーターショー
メルセデス・ベンツ日本と竹中工務店が協業し、モビリティーとリビングの未来の形を具現した体験施設「EQ House(イーキューハウス)」を東京・六本木に約2年間の期間限定でオープンした。
施設の概要についてはこちらの記事を参照いただくとして、なぜメルセデスが家を手がけるのか。そのきっかけをメルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長は「前回(2017年)の東京モーターショーの際に竹中工務店と話す機会があり、近い未来に私たちのライフスタイル、モビリティーというものはどうなっているのだろうか、実際につくってみてはどうかと、ともにプロジェクトを実施することになった」とその経緯を話していた。
この言葉からもわかるように、実はEQハウスは、本国発信ではなく日本発の試みだ。メルセデス・ベンツ日本には、自動車メーカーがクルマではなくコーヒーを販売する「メルセデス・ベンツ コネクション」を世界に先駆けて成功させた実績がある。これは現在、「メルセデス ミー」と名前を変え、ブランド発信拠点として世界中で展開されている。要は巧みなマーケティング戦略の1つとして、「EQ」ブランド普及のための急先鋒(せんぽう)を担うものだ。
一方、設計と施工を担当した竹中工務店にとっては、実証実験棟としての意味合いがある。「デジタル デザイン ビルド」と呼ばれるデジタル情報を活用した設計・生産技術を活用しており、例えば外観を覆う1200枚にもおよぶ白いパネルにランダムに空いたひし形の穴は、1年365日の日照パターンすべてをシミュレーションし、最適な形状と配置を決定したものだ。パネル内部の調光ガラスの透過度を調整することで好みの日照を得ることができる。施工段階においては、各パネルをIDによって管理し、スマートグラスなどのウエアラブルデバイスを通じて配置場所を正確に把握できるなど、作業員の負担軽減や効率化が図られている。また新たな作業ロボットなども実験的に投入したという。
EQハウスは学んで成長する
こうしたクルマと家をつなぐ取り組みは、これまでにも例がある。一般的には“スマートハウス”と呼ばれ、ITを使って家庭内のエネルギー消費を最適化する住宅のことだ。大きく“省エネ”と太陽光などによる“創エネ”、バッテリーによる“蓄エネ”の3要素からなり、「HEMS(Home Energy Management System)」によって統合制御されるものだ。
2010年には積水ハウスが横浜みなとみらいでスマートハウス「観環居(かんかんきょ)」の実証実験を実施。「日産リーフ」と組み合わせ、太陽光発電システムによる余剰電力でリーフを充電し、日照のない夜間帯や災害時などにはリーフを蓄電池として活用していた。また三菱グループもHEMSを活用したさまざまな取り組みを行っている。
一方で今回のEQハウスでは、こうしたエネルギーマネジメントに関しての言及はほとんどなかった。プレゼンテーションの資料では、太陽光パネルや蓄電池、DC(直流)のEV用充電器などが設置されているのは確認できた。しかし、資料の中で前面に押し出されていたのは、「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザー エクスペリエンス)」と同様に「ハイ! メルセデス」のキーワードでシステムが起動し、AIを活用することで建築が人とコミュニケーションを図り、室温や明るさ、匂いなど、住人のさまざまな好みを学習。あたかも“建築に命が宿っているかのように学び、成長する”ということだった。
スマートハウスが、単なるエネルギーマネジメントを行うものから次の段階へと進化したということだろう。そして、メルセデス ミーと同様に、電動化の波に乗ってEQハウスの世界展開もあるのかもしれない。2年あれば、もはや体験施設ではなく、リアルな住宅として販売される時代がきてもおかしくはないと思うのだ。
(文=藤野太一/写真=webCG/編集=藤沢 勝)
