第199回:1000円高速終了記念? 見よ! イタリア版最新サービスエリア
2011.06.24 マッキナ あらモーダ!第199回:1000円高速終了記念? 見よ! イタリア版最新サービスエリア
古いサービスエリアは「ヤバさ」満点
日本では高速道路のいわゆる「休日1000円」が2011年6月19日をもって終了した。
高速道路といえば、サービスエリアである。 日本では近年でこそ民営化の恩恵もあって、「ハイウェイオアシス」や一般道の「道の駅」といった、しゃれたサービスエリア(以下、SA)が少しずつ増えてきた。しかしSAに対する長年のイメージは、「殺風景」「食事がそれほどおいしくない」というものだろう。したがって、「CA(キャビンアテンダント)は好きだけど、SA(サービスエリア)は、それほどでも」という人は多いに違いない。
ボク自身もそうした改善が行われる前に日本を飛び出してしまったので、残念ながら日本のSAにたいして、あまり良い印象がないのが正直なところだ。
かといって、現在住んでいるイタリアのSAが完璧というわけではない。イタリアのアウトストラーダ(高速道路)の中でも特に、アウトストラーダ・デル・ソーレ(太陽の道)のSAは老朽化したものが多い。大半が高速道路の開通と同時期の1950年代末から1960年代に整備されたものだからだ。
施設が老朽化していると、どうしてもムードが荒れる。駐車場にいると、不法入国と思われる外国人が小銭を求めて寄ってきたり、そうかと思うと「お金を貸してくれないか」と言い寄ってきたり。はたまた、いかさまトランプ賭博を始める奴がいたりする。したがってボクなどは、太陽の道のSAはできるだけ避け、分岐する他のアウトストラーダに入ってから休憩するようにしている。
拡大
|
久しぶりに寄ってみると
モデナ近郊の「セッキア・エスト」と名づけられたSAもそうしたひとつで、ボクはなるべくなら通り過ごしたいところであった。古くさい建物は薄暗く、建物の内部には土産物の食品や不気味なぬいぐるみ、そしてカー用品やCDといったものが雑然と並んでいた。トイレは、イタリアの古いSAによくあるように、はるか奥の、それも階段を下りた地下にあった。
とはいっても、その日はどうしても生理的に抵抗しきれず、やむを得ずそのセッキア・エストにクルマを滑り込ませたところ、わが目を疑った。まったく新しい建物ができているではないか。
建物が新しくなったおかげで、それを囲む駐車場のムードも明るい。もはや「ヤバい」ムードはほとんどない。建物のドアを開けて中に入ると、天井が高く、明るい。店員に聞けば、2011年1月末にリニューアルオープンしたのだという。後日調べたところ、セッキア・エストの駐車場などを含めた全敷地面積は3000平方メートル。日本のSAの大きさとそれほど変わりないが、太陽の道のSA改築では最大規模であろう。
SAの内部を運営しているのはモデナでハムやサラミなどを製造・販売する1912年創業の食品メーカー「フィーニ」の関連会社だ。これは従来と同じなのだが、新しい建物では同社の製品コーナーがより独立していた。
いっぽう、以前はフィーニ社が一緒に担当していたレストランは、「アウトグリル」が新たに担当するようになっていた。アウトグリルは、SAの食堂が発祥のイタリア最大のレストランチェーンで、現在はベネトンのエディツィオーネ・ホールディングが筆頭株主である。
ささいなことだが、たとえ建物が新しくなっても、エクストラヴァージンオリーブオイルやバルサミコ酢を自由に料理にかけられるコーナーはまだあった。かくもイタリア版SA食堂の伝統は継承されている。
「一方通行」はそのまんま
加えて、アウトグリルによるピッツァチェーン「スピッチコ」のほか、イタリアではアウトグリルが全国展開している「バーガーキング」も選べるようになっている。これなら「ノンノとノンナ(おじいちゃんとおばあちゃん)はパスタと肉の伝統的2皿料理、運転してきたパパやママはピッツァ、ボクとワタシはハンバーガー」という、世代による選択も可能だろう。
驚いたことにカジュアルな時計・宝飾店もテナントとして入っている。これはイタリアのサービスエリアでも新しい試みだ。
そしてトイレもついに1階の隅になった。バリアフリーが叫ばれる今日の流れにしたがったものだろう。
……と、ここまで頑張っていながら、古い建物の時と変わっていなかったのは、店内が「一方通行」であることだ。レストランで食べても食べなくても、いやトイレに行っただけでも、「マーケット」と名づけられた雑貨販売店の順路を通らないと、外に出られない仕組みになっている。要は「ひととおり見て帰ってね」ということと、万引きや強盗予防なのだ。だが、「今さらナンだよねー」と、思わず独りつぶやいてしまったのも事実である。
「アル・ディ・ラ」が聴こえてくる
そんな新しさと古さが入り交じった最新式サービスエリアで休んだあと、ふと駐車場の向こうを見ると、昔のレストラン棟と、それに併設されていたホテル「ホリデイ・イン」が残っていた。もはやコンクリート製バリケードが囲むように置かれ、入れないようになっている。
クルマに戻り、手持ちのスマートフォンで「フィーニ」のサイトを開いてみた。セッキア・エストSAの開業は遠く1961年という。日本では昭和36年である。東名高速道路が開通する7年も前で、クルマでいえば「トヨタ・パブリカ」がようやく発売された年だ。
その頃に早くも立派なホテルを備えたSA施設を実現していたとは、「魔法の時代」とイタリア人が振り返るのがわかる。
参考までに、1961年のサンレモ音楽祭優勝曲は、カンツォーネのなかでも名作といわれる「アル・ディ・ラ(Al di la=その向こうに)」だ。SAにやってくるフィアットのラジオからは、きっと「アル・ディ・ラ」が流れていたに違いない。
そのように思いをはせると、この間まであれほど避けていた昔のSA棟が、妙にいとおしく感じた。ボクは、バリケードの“アル・ディ・ラ”にたたずむ古い建物に「おつかれさま」と声をかけて、SAを後にした。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)
拡大
|

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第938回:さよなら「フォード・フォーカス」 27年の光と影 2025.11.27 「フォード・フォーカス」がついに生産終了! ベーシックカーのお手本ともいえる存在で、欧米のみならず世界中で親しまれたグローバルカーは、なぜ歴史の幕を下ろすこととなったのか。欧州在住の大矢アキオが、自動車を取り巻く潮流の変化を語る。
-
第937回:フィレンツェでいきなり中国ショー? 堂々6ブランドの販売店出現 2025.11.20 イタリア・フィレンツェに中国系自動車ブランドの巨大総合ショールームが出現! かの地で勢いを増す中国車の実情と、今日の地位を築くのに至った経緯、そして日本メーカーの生き残りのヒントを、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが語る。
-
第936回:イタリアらしさの復興なるか アルファ・ロメオとマセラティの挑戦 2025.11.13 アルファ・ロメオとマセラティが、オーダーメイドサービスやヘリテージ事業などで協業すると発表! 説明会で語られた新プロジェクトの狙いとは? 歴史ある2ブランドが意図する“イタリアらしさの復興”を、イタリア在住の大矢アキオが解説する。
-
第935回:晴れ舞台の片隅で……古典車ショー「アウトモト・デポカ」で見た絶版車愛 2025.11.6 イタリア屈指のヒストリックカーショー「アウトモト・デポカ」を、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが取材! イタリアの自動車史、モータースポーツ史を飾る出展車両の数々と、カークラブの運営を支えるメンバーの熱い情熱に触れた。
-
第934回:憲兵パトカー・コレクターの熱き思い 2025.10.30 他の警察組織とともにイタリアの治安を守るカラビニエリ(憲兵)。彼らの活動を支えているのがパトロールカーだ。イタリア在住の大矢アキオが、式典を彩る歴代のパトカーを通し、かの地における警察車両の歴史と、それを保管するコレクターの思いに触れた。
-
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。
