目指すはハイブリッドによる世界制覇!?
電動化技術の特許を無償化したトヨタの思惑
2019.05.01
デイリーコラム
捨て身のバーゲンセール!?
去る4月3日にトヨタが「車両電動化技術の特許実施権を無償提供」を発表して以来、クルマ好き界隈(かいわい)はなんかソワソワしている。というのも、ここでの車両電動化技術とは早い話、大半がハイブリッド技術であり、それはいうまでもなく、今のトヨタをトヨタたらしめている源泉だからだ。そんな虎の子(であるはず)の知的財産を無償提供するなんて、太っ腹にもほどがある、きっと裏があるにちがいない、世界制覇をねらうトヨタの陰謀ではないか……という勘ぐりがソワソワの原因だろう。
今回トヨタが無償提供を発表した特許は、モーターやパワーコントロールユニット、システム制御、エンジン、トランスアクスル(≒動力分割装置)、充電機器などにかかわるもので、期限は2030年末まで。また、トヨタは2015年に燃料電池車(と水素インフラ)関連の特許も無償提供しはじめており、今回はこれらの期限も同じ2030年末に延長された。その数、合計2万5740件! つまり、他の自動車メーカーもしかるべき手順を踏みさえすれば、トヨタ式ハイブリッド/プラグインハイブリッド(以下、まとめて「THS(トヨタハイブリッドシステム)」と呼ぶ)や燃料電池車のコピー商品(あくまで中身だけ)をつくっても権利関係コストが不要ということだ。そして、2030年以降は今回対象となっている特許のほとんどはオープンになると思われる。
今回の無償提供を「電気自動車(EV)に出遅れたトヨタの捨て身のバーゲンセール」ととらえるメディアも一部にあるが、たぶんそれは間違い。トヨタの立場はむしろ逆だ。
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“つなぎ”の技術にカネは出せない
トヨタにバッテリー式EV(BEV)の商品化例が皆無に近いのは事実だが、モーターやその制御などのEV技術は世界トップクラスと見て間違いない。唯一、バッテリー技術については市販BEVで先行したメーカーに利がありそうだが、日産などのトップBEVメーカーでも今やリチウムイオン電池を自社生産していない。また“リチウムイオンの次”と期待される全固体電池技術ではトヨタは世界をリードしているともいわれる。
では、トヨタがなぜハイブリッド技術を大盤振る舞いすることにしたかというと、欧州連合(EU)を筆頭とする厳しいCO2排出(=燃費)規制において、ハイブリッドが最も現実的で最もコスパの高い即戦力技術だからだ。CO2排出低減の急先鋒たるEUなどは2020年に2015年比で20%減を全メーカーに義務づけて、2030年には同30~40%減という恐ろしく厳しい規制を課そうとしている。それを受けて欧州には内燃機関を辞めるとか宣伝しているメーカーもあるが、すでに段階的規制が始まっている2017年時点でのEU規制過達率トップはフォルクスワーゲンでもルノーでもボルボでもなく、トヨタなのだという。
EUのみならずCO2排出規制の最終的なゴールはもちろん全車BEV(もしくは燃料電池車)化なのだろうが、これだけ優遇しても普及しないBEVが今後短期間で大増殖すると考えるのは非現実的。となると、世界中のメーカーはハイブリッド化で多種多様な規制をギリギリしのいでいくしかない。しかし、今現在ハイブリッドをもたないメーカーは、BEVが本格普及すれば不要になる(はずの)ハイブリッドを今さら自社開発する気にもならない。
となると、20年以上もリアルな市場でもまれてきたTHSはいい意味で枯れた技術でもあり、信頼性や耐久性の面で他の追随を許さない実績がある。実際、トヨタには「世界中の企業から提携や供給の問い合わせがひっきりなし」といい、関連特許もすでにオープンになっているものとそうでないものが混在して、いちいち個別対応していくのも難しくなってきたのが現実らしい。
目指すは“システムサプライヤー”
まあ、特許を無償化したところで、THSを即座に独自商品化できるところがあるはずもなく、結局はノウハウも含めてシステムを丸ごと供給してもらうのが現実的だろう。それを直接手がけるのはトヨタではなくデンソーやアイシングループを筆頭とする有力サプライヤーであり、今後はTHSの供給サプライヤーをさらに国外にも増やして、それらを背後からバックアップする“システムサプライヤー”になるのが自分たちの真意……とトヨタ関係者は語る。
自動車産業を揺るがしている“CASE”関連では、今回にかぎらず、これまで想像もできなかったライバル同士の提携や異業種アライアンスが毎日のように報じられるようになった。今では「自動車メーカーの提携=片方が片方を食ってしまう弱肉強食」というイメージももはや古い。共存共栄・手を取り合ってCASEの荒波に立ち向かいましょう……というのが昨今のクルマ産業のトレンドともいえる。今回の車両電動化技術の特許無償提供もトヨタにとってそれなりに利益をあげる有力事業になるはずだが、一部のみなさんが想像するような世界制覇の野望や陰謀はとくにない(笑)と思われる。
(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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