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平成の自動車界を振り返る(第2回)
完全なる“自動”車を求めて

2019.04.26 デイリーコラム 渡辺 敏史
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はじまりは27年前

1992年といえば平成4年。新時代の幕開けから間もないその年の出来事を追ってみると、「松井秀喜が星稜高校時代に甲子園で5打席連続敬遠」とか、「岩崎恭子が14歳でバルセロナ五輪金メダル」とか、ヤングの皆さんは覚えがないだろう、でもオッサン的には昨日のことのような事柄がほいほい現れた。

その1992年の10月、フルモデルチェンジを受けて3代目となったのが「三菱デボネア」だ。なんでいまさらそんな懐かしいクルマの話を引っ張り出したかといえば、クルーズコントロールにレーザーセンサーを組み合わせ、車間警告やシフトダウンによる減速促進などを行う「ディスタンスウォーニング」なる機能が用意されていたからだ。調べる限り、これが世界で初めて乗用車向けに搭載されたアダプティブな巡航装置ということになる。ちなみに三菱は平成のモーターショーを彩ったコンセプトカー「HSR」シリーズで自動運転に関するさまざまなアイデアを提案してきた。

その後、このディスタンスウォーニングはカメラとの組み合わせからなる前車追従機能を加えた「プレビューディスタンスコントロール」に進化。こちらは1995年に発売された2代目「ディアマンテ」に搭載された。そしてトヨタの「レーダークルーズコントロール」をはじめとした同様のシステムも登場、追従型クルーズコントロールは普及に向けての道筋をたどっていくことになる。

そして走行車線維持のためのアクティブな操舵支援システムが初めて市販車に搭載されたのは、21世紀に入った2001年、4代目の「日産シーマ」となる。すなわち速度管理と方向管理という自動運転のために必要な2つの基本的技術は、日本で実装され世に示されたと言っても過言ではないだろう。まだADAS(先進運転システム)という言葉もなかったこの当時、同等の先進安全技術を搭載していた海外勢はメルセデス・ベンツくらいなものだった。

1992年にデビューした3代目「三菱デボネア」には、レーザーセンサーを使った車間距離の維持システム「ディスタンスウォーニング」が搭載された。
1992年にデビューした3代目「三菱デボネア」には、レーザーセンサーを使った車間距離の維持システム「ディスタンスウォーニング」が搭載された。拡大
2代目「三菱ディアマンテ」のインテリア。クルーズコントロール作動中に先行車との車間距離を計測し、エンジン、ブレーキ、そして変速を統合制御する「プレビューディスタンスコントロール」が用意された。
2代目「三菱ディアマンテ」のインテリア。クルーズコントロール作動中に先行車との車間距離を計測し、エンジン、ブレーキ、そして変速を統合制御する「プレビューディスタンスコントロール」が用意された。拡大
2001年1月に登場した4代目「日産シーマ」(写真)は、世界初の車線維持機構「レーンキープサポートシステム」で話題となった。
2001年1月に登場した4代目「日産シーマ」(写真)は、世界初の車線維持機構「レーンキープサポートシステム」で話題となった。拡大

新たな連携が未来を開く

日本は平成の大改革の一環となる中央省庁再編により国交省に統合された旧運輸省の自動車交通局が主導して1991年からASV(先進安全自動車)の研究開発を推進。メーカーはそれに同調するかたちでさまざまなテストカーを製作し、培った技術を慎重に市販車へと展開していた。この官の後ろ盾に加えて、護送船団とも称された自動車産業の垂直統合型ビジネスモデルが速さと秘匿性を両立した新技術の反映に結びついていたともいえるだろう。

が、ITの進化やグローバリズムの台頭といった平成時代の変革は、むしろ産業の水平分業化を推し進める波として日本の自動車産業を覆うものとなった。一方で体質改善とともに合従連衡で強靱(きょうじん)化を図った欧州の自動車産業は、不振の1990年代から一転、攻勢をかける。ここで大きな後ろ支えとなったのがステークホルダー型経営への変化によって強化された資本調達力や、同じく合従連衡を重ねて巨大化したサプライヤーの開発力・提案力だ。特にドイツやフランスにおけるサプライヤーの存在は、自動車メーカーと同格化するほどに大きなものとなった。日本とは対照的な、文字通りの水平分業化である。
 
現在実装されているレベル2の技術は、動作品質的な差異はあっても、「走る」「曲がる」「止まる」の本質的な差異は無きに等しい。日本がいま、この領域でリードしている項目があるとすれば「高級車から軽自動車まで」というオールラインナップ化だろう。一方で自動運転を取り巻く環境はIT企業や半導体企業、通信会社や地図会社といった従来の自動車産業とは異なる業種も巻き込み、ますます水平感覚が求められる様相を呈している。
 
技術的にはEVと、商業的にはMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)との親和性も高いとなれば、自動運転の領域に小売りをはじめとした第3次産業が参画するのは時間の問題だろう。ひと昔前には想像もできなかった、他社とのアライアンスに積極的に動く今日のトヨタの姿をみていると、平成の時代がいかに強く変わることを求めてきたかを思い知る。もはや“垂直脳”に未来はない、ということだろう。

(文=渡辺敏史/写真=三菱自動車、日産自動車、トヨタ自動車、アウディ、webCG/編集=関 顕也)

自動車部品サプライヤーとして存在感を示すドイツのコンチネンタルは、日本車を含め、多くの自動車メーカーに運転支援システム用のセンサー(写真)を供給している。
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2019年4月15日、上海モーターショーの会場で公開されたアウディのコンセプトカー「AI:ME」。都市部での使用を前提としたコンパクトなEVで、通常の運転に加え、完全自動運転も可能となることが想定されている。
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トヨタが2018年1月に発表した、MaaS専用の次世代EV「e-Palette Concept(e-パレット コンセプト)」。事業者のニーズに合わせて内装が変更可能で、さまざまな移動サービスを可能にするという。同社はこのモビリティーサービスを実現するためのプラットフォームを構築すべく、Amazon.comやDidi Chuxing、Pizza Hutといった異業種の組織とパートナー契約を結び、実証実験を進める。
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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