第30回:或るバイパー乗りの日常
2019.05.12 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
洗車して、走って、壊れて、また修理。5カ月にわたり連載をサボっていた間、排気量8リッターの怪物「ダッジ・バイパー」の身に何が起こっていたのか? webCGほったが、アメリカンマッスルカーとの変わらぬ日常をつづる。
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相変わらずの平常運航
どうも。こんにちは。webCGほったです。久しぶりの更新となってしまったが、読者諸兄姉におかれてはいかがお過ごしだっただろうか。こっちはまあ息災で、今はこうして、井の頭公園のベンチで原稿を書いている。
なんで編集部で書いてないのかというと、今がゴールデンウイークの真っただ中だからだ。暦の気まぐれで奇跡の10連休に沸く日本列島だが、当方といえば、心躍る大層な予定もない30代独身男児。せっかくの休暇も4日目には息が詰まり、こうしてノートパソコンを開いている次第である。とほほ。
とほほといえばバイパーである。わが相棒であり、癒やしとストレス発散のツールであり、そしてキングボンビーでもあるニクいあんちくしょうだが、オーナー同様、武蔵野の地でひとまず元気にやっている。5カ月も連載を留守にしてたもんだから、同業諸氏の中には「バイパー売っちゃったの?」なんて聞いてくる御仁もいたが、いやいや。あいかわらずどっか壊れてるから“元気”というのはちょっとちがうが、以前と同じ、平常運航ということだ。
いや。そういえば、ひとつだけ以前から変わったところがある。洗車してキレイになったのだ。まあ、ねぐらは砂っぽこりのヒドい武蔵野の農園地帯だし、ひと月もしないうちに元通りでしょうけど。
さすがに汚れが目についたので……
元通りになると分かっていて、なぜわざわざ洗車したかというと、実家の父にどやされたからだ。なにせわがバイパーのありさまときたら、砂っぽこりで真っ黄っ黄なうえにヘッドランプもくすんでるし、おまけにドアにはゼッケンの糊(のり)まで残ってる始末(AUTO-Xのときのものだ)。久々に実家に帰ったら、さすがに説教された。
カー用品店なんて行ったのは久しぶりだったが、洗車グッズの多さには相変わらず頭がくらくらする。考えるのが面倒くさいんで、結局全部お店の人に任せてしまった。こういうの、最近のネットスラングだと“脳死”と言うのだそうな。え、違う? まぁこの際どっちでもよい。すしや酒と一緒で、困ったら店の人にお任せするのが一番。変なものつかまされることはないし、多少値が張るものをすすめられても、授業料だ。
で、買ったのがこれらの品(写真A参照)。黒いクルマ用のコンパウンドに、コーティング剤入りのヘッドランプのくもり落とし、そしてステッカーはがし。雑巾類は、実家にあるやつを使わせてもらうことにした。雑巾3枚分の恩は、いずれ親孝行して返そうと思う。
それにしても思うのだが、バイパーの洗車は地味にこたえる。フェンダーにドアにフロントカウル、一枚一枚がやたらデカいのだ。「ここまでやったら休憩しよう」の“ここまで”が常に一苦労。表面積はあちらの方がデカいはずなのに、実家の「スバル・フォレスター」の方が、さくさく洗車できる気がする。
気になったらそのときに対処すべし
あと、これは完全に自業自得なのだが、今回の洗車では「気になるところがあったら放置しておくべきではない」という教訓がホント骨身にしみた。ヘッドランプのくすみなど、ひとむき程度では全然取れないのだ。専用のスポンジに研磨剤をつけてひたすらゴシゴシ。納得いく仕上がりになるころには、指も腕もすっかりおかしくなっていた。根性がないもんだから「もういいや、片方だけで」なんて思いもしたが、さすがにそれはみっともない。父に頭を小突かれつつ、もう片方もやりましたとも。ご覧あれ、この出来栄えを!(写真B参照) ……はい。そうですね。写真だとわかりづらいですよね。それはそうなのだが、そこは心の目で見て、察していただきたい。
あと困ったのが、やっぱりゼッケンの糊はがし。なんと、買ってきたステッカーはがしに「一部の輸入車には使わないでください」なんて書いてあんの! なんだよ“一部の”って? ウチのクルマは大丈夫なの? 仕方がないのでボディーの目立たないところでちょっと試して、問題がないのを確認してから使わせてもらった。
ところがである。今度は、いくらスプレーしても一向に糊が落ちないのだ。長年の風雪にきたえられた糊の根性たるや、船底にこびりついたフジツボのごとし。スプレーを吹いては拭ってを何度も繰り返し、どうにか助手席側のドアはきれいになったものの、運転席側はいかんともしがたかった。スプレー缶と雑巾を手に、しばし自省。こんなもの、ゼッケンをはがしたその場で糊を落としておけばそれで済んだハナシである。人も仕事もジドーシャも、「今度でいいや」は一番よくない。つくづく勉強になった。
バイパーはやっぱり走ってナンボ
かようにしょうもない反省から人生哲学の発見まで、バイパーに乗っていると、ホントに日々此勉強である。このあいだは久々にAUTO-Xに参加して、またいろいろと勉強になった。
前にも話したことはあろうが、AUTO-Xとはパイロンでできた特設コースでタイムを競う、走行会のことである。とはいえ、当方のタイムについては今回は不問でお願いしたい。ひとつだけ言わせてもらうと、羽生結弦ばりの大回転を決めてやりましたわ。タイムアタックの最中に。
いや、聞いてください。言い訳させてください。タイヤが全然温まらんかったのですよ、今回は。グリップがない状態ではバイパーがどんなきかん坊か、思い出させられたわ。それと、普段自分がどれだけSタイヤ(トーヨーの「R888R」ね)のグリップの世話になってるのかも。タイヤというものが温度によってこれほど性能が変わるとは。次はぜひ、出走前にタイヤを温めるよう工夫したい。もっとも、あんまり凝りすぎると肩ひじ張らずに遊べなくなるので、サジ加減がムズカシイんだけどね。
それにしても、AUTO-Xに参加すると毎回アメ車乗り、バイパー乗りが増えていてうれしくなる。いつも新しい参加者を見かけるのだ。それも(イベントの趣旨からしたらあたりまえだが)走るのに前向きな、ガチな方々を。
今回トップタイムを記録した御仁など、貴重な正規モノの“クライスラー・バイパー”に自前でGTウイングをくっつけて、フロントカウルはワンオフでワイド化。タイヤは前がナンカンのSタイヤで、後ろがミッキートンプソンのドラッグ用である。見ただけでテンションダダ上がりである。こういうのはいい、実にいい。自分にはそこまでやる思い切りもかい性もないから、なおのこと、ホントにそう思う。
こういう話をすると、「改造なんてけしからん!」っていうピューリタンがいるが、記者はカスタム容認派なのでご容赦くだされ。そもそも、われらが愛機はダッジ・バイパーだぜ? フェラーリやアストンじゃないんですのよ。
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笹目通りでついに立ち往生
あと、勉強といえばやっぱりトラブルの類いだろう。人の不幸は蜜の味ともいうし、読者諸兄姉もそろそろ聞きたかったのではあるまいか? 期待に応えられて、記者はうれしい限りだ。
今までも、ドアが開かなくなったり、燃調がおかしくなったり、ヘッドランプがつかなくなったりいろいろあったが、今回はついに止まった。そう、立ち往生である。「ローバー・ミニ」では年がら年中だったが、バイパーではこれが初のことだ。
練馬ICを出て、谷原の交差点を荻窪の方へ曲がった時である。気づいたらオルタネーターと水温のチェックランプがついていて、で、いきなり“ずしっ”とステアリングが重くなった。パワステが利かなくなったのだ。補機ベルトが逝ったかと思ってエンジンルームを見たのだが、どうもベルトはかかってるっぽい。とにかくエンジンは回るので、邪魔にならないところまで移動することにした。すると、案外しれっと走るのだ。パワステが利かないだけで。
……ここで調子に乗るのが記者の悪いクセで、「とにかくバッテリーが持つ限り自宅のそばまで行ってやろう」と考えた(読者諸兄姉の皆さま、ゼッタイにマネしないでください!)。結局、けなげなバイパーは武蔵野市役所の裏通りまで粘ってくれた。距離にして8km、自宅まであと1kmというところである。いやはや、たいしたもんである。やっぱりアメ車は打たれ強いねえ。
修理している時間の方が、長くない?
……いやいや。「たいしたもんだねえ」とか言ってる場合ではない。
お察しの通り、後日、主治医の本多さん(コレクションズの本多さんのこと。この連載でもちょくちょく出ていたでしょう?)にはコッテリ怒られた。「異常が出たら動かさないでって、いつも言ってるでしょ!」。返す言葉もございません。下手すればオーバーヒートしていたわけだし、実際、振り切れはしなかったものの、水温計もいい温度を指していたのだ。
おかげさまで、ここ最近はお出かけのたびにオイルの乳化をチェックする日々だ。もしオイルがコーヒー牛乳みたいになっていたら……いや、その場合のことは考えたくないな。つくづく、「あわよくば家まで帰って、都合のいいときにお店に電話すりゃいいや」なんて考えるものではない。結局、こうして気苦労が増えるだけなのだから。
ちなみに、今回のトラブルの原因はテンションプーリーの破損だった。破損というか、見事に砕け散っていた。自分がエンジンルームをのぞいたときはたぶん、ベルトはどうにか“引っかかってた”だけだったのだろう。
これが、この1月~5月にバイパーに起きたあれやこれやの顛末である。なんだか脈絡のない話になってしまい申し訳ない。記者のトークは常に脱線する。脱線するのが平常運航である。何の話をしたかったかというと、要するに、記者もバイパーも“いつも通り”ということだ。そしていつも通りに、今もバイパーは入院していたりする。プーリー交換から戻ってきたかと思ったら、また入院と相成ったのだ。
もっとも、今回はウィンドウモールディングがドアに入り込んだだけなのだが。……いや、皆までおっしゃいますな。“今回は”なんて言葉が出てくる段階でもう「どうかと思うヨ」ということでしょう? 仕方ないのよ。そういうクルマなんだから。
この程度のガマン、令和の御世(みよ)にリッター5kmも走れないマッスルカーに乗るための免罪符だと思えば、屁でもないわ。ガマンできないのは唯一、やっぱり、自動車税の税額だけ。そんなわけで記者は、今年もやってくるであろう納税通知書に戦々恐々としながら、武蔵野で日々を送っているのである。
(文と写真=webCGほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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