メルセデスAMG C63 S(FR/9AT)/AMG E63 S 4MATIC+(4WD/9AT)
いと おもしろし! 2019.05.17 試乗記 急速にラインナップを充実させつつある、メルセデスのハイパフォーマンスブランドAMG。その中核を占める2台のスーパーセダン「C63 S」「E63 S 4MATIC+」にサーキットでむちをあて、日常走行ではわからない実力に触れた。ラインナップに隔世の感
「このクルマの性能を十分に引き出すには、サーキットに持ち込むしかない」 そんな自動車メディアの決まり文句が最も似合うブランドのひとつが、AMGだ。
例えば「Cクラス」のAMG版たる「メルセデスAMG C43 4MATIC」だと、ノーマルの「C180」が1.6リッター直4ターボで156psのところ、3リッターV6ツインターボを押し込んで最高出力390ps(!)をたたき出す。これでもAMGラインナップの中では、ベーシックの部類である。
AMGのラインナップがそろったメルセデスのウェブサイトを確認すると、いまや55ものモデル/グレードがズラリと並んでいて、圧倒される。なぜか「アーマーゲー」と呼ばれて、どこかうさんくさいイメージを抱かれていた(!?)時代は昭和とともに過ぎ去って、平成を経た令和の今は、すっかりオーソライズされた(ほぼ)フルラインナップブランドとなっている。
FFベースのメルセデスAMGとしては、一種のスペシャルティーたる「CLA」に「45 4MATIC」が用意され、381psという強心臓の2リッターターボを搭載する。前輪駆動でこのアウトプットを吸収するのは無理と見て、駆動方式には名前の通り4WDが採用された。
Cクラス以上のAMG車には、まだ後輪駆動モデルも残されるが、今後、順次4WD化されるはずだ。「FRの方がコントロールのしがいあって……」と腕をさすっていた時代は、ことAMGに関しては、終わりつつある。
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「買うなら今!」のC63
たとえサーキットに持ち込んでも、並のドライバーでは性能を引き出すのは「無理なんじゃね?」と思わせる代表例が「AMG GT」。2019年4月に富士スピードウェイでプレス試乗会が開かれた「AMG GT 4ドアクーペ」の場合、「GT63 S 4MATIC+」の4リッターV8ツインターボは639ps、「GT53 4MATIC+」の3リッターV6ターボは435ps+電気モーターという、冗談のようなスペックを持つ。4ドアのトップグレードがFRの「AMG GTクーペ」より高出力なのは、やはり駆動方式に4WDを採用しているからだろう。
この日、短時間ながらC63 SとE63 S 4MATIC+に試乗する機会も与えられた。
C63 Sは、先に挙げたC43 4MATICの上級モデルで、フロントのエンジンベイにはなんと4リッターV8ツインターボが収まっている。E63 S 4MATICにも使われるM177ユニットだが、当然アウトプットは抑えられて……といっても最高出力510ps/5500-6250rpm、最大トルク700Nm/2000-4500rpmというモンスター級。しかも恐ろしいことに、駆動方式はFRである。雨のち濃霧のサーキットでは遠慮申し上げたいスペックだが、注意しながらコースに出てみると、この日用意された試乗車の中で、「最もファンなAMGだ!」と感じた。
C63 Sは、いわば「手だれの好き者」に向けたAMGの挑戦的なモデルである。自分はそのどちらにも当てはまらないが、C63 Sのファン・トゥ・ドライブぶりには、やはり1800kgを切るウェイト(欧州参考値。ベースモデルは1730kg)が効いている。AMG GT 4ドアクーペ(2000kg前後)やメルセデスAMGの「Eクラス」(2500kg前後)と比較することに意味はないが、相対的に身のこなしが軽いボディーは、抑えながらのスポーツ走行でも、ステアリングホイールを握っているのが楽しい。
C63 Sは、乱れた挙動を正すESP機能の効力を3段階(ノーマル/スポーツハンドリング/オフ)に設定できる。そのうえ、ESPをオフにすると、今度はAMGトラクションコントロールの制御を9段階に変えられる。腕に自信があるドライバーなら、電子制御を限りなくオフに近づけ、派手なスライドコントロール(ドリフト)を披露できるわけだ。一方、凡庸な運転者(←ワタシです)でも、ESPのスポーツハンドリングモードをセレクトすれば、技量にあったスポーツを、おなかいっぱいに享受できる。
C63 Sは、近い将来、カタログ落ちが予想される貴重なFR AMGである。腕自慢もそうでないドライバーも、買うなら「今!」かも。C63 Sが1407万円から。19万円アップで、ワゴンボディーも選べます。
スポーツを支える安全デバイス
今回のサーキット試乗会は、AMG車のハイパフォーマンスを堪能するには厳しいコンディションだったけれど、アクティブセーフティーにつながる車両の電子制御系を体験するには、絶好の機会となった。
メルセデスは、ESPことスタビリティーコントロールプログラムを、世界中で最も早く実用化したブランドである。1995年に初めて「Sクラス」に搭載されてから、ほぼ四半世紀。その進歩には目を見張るものがある。アンチスピン機能はもとより、それこそ(ドライの)サーキットで限界走行に挑むのでもなければ、いまやデフォルトのままで十分、スポーツ走行を楽しめるレベルに達している。
冷たいウエット路面のレースコースをE63 S 4MATIC+で走行したところ、上記のいわゆる官能面での洗練に加え、本来の目的である車両の動作を落ち着かせる機能が、一段とパワーアップしていることを実感した。E63 Sの4リッターV8ツインターボは、612ps、850NmというAMG GTクーペを上回るアウトプットを誇る。9段ATを介して、4輪を駆動する。
霧の中、コースイン。ごく慎重にタイトコーナーにアプローチしたのだが、路面は思った以上に滑りやすくなっていて、アララ……。「こりゃ“回る”な」と覚悟した瞬間、ESPによって各輪のABSが激しく作動した。と同時に、「生死を決する最後の数秒をあきらめない」とうたわれるPRE-SAFE機能によって、シートベルトが巻き取られて体がシートに固定される。クルマにとってはサーキットも公道も関係ないから、「事故直前!」と判断されたわけだ。
驚いたことに、スピン寸前でみごとにクルマの回転は止められ、事なきを得た。誰もが本能的にするように、ドライバーはステアリングを曲がる方向とは逆に切っていたから、はたからは「キレイにスライドを決めている」ように見えたかもしれない。何のジマンにもなりませんが。
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メルセデスの執念を感じる
不思議だったのは、ESPの作動と合わせて「ブシュー!」と、激しく空気が抜けるような音が車内に響いたこと。好むと好まざるとにかかわらず、その後、もう一度ESPの介入を受けたのだが、同じサウンドが室内に充満した。
メルセデスのスタッフにこの音について質問すると、「PRE-SAFEサウンドではないでしょうか」と教えてくれた。クラッシュ寸前に前もってスピーカーからノイズを発生させ、鼓膜の振動を内耳に伝えにくくすることで、実際の衝突音からできるだけ聴覚を守ろうとする機能だ。以前、資料で読んだときには、「おもしろいことを考えるもんだなァ」と感心したのだが、実際に体験できるとは! なるほど、ヘルメットを通しても、大きな音が伝わってきたわけである。幸い、アクティブセーフティーに続くパッシブセーフティーに頼る機会はなかったが、事故回避、被害軽減に対するスリーポインテッドスターの執念と具体的な方策をあらためて確認することができた。脱帽。
今後メルセデスAMGは、ラインナップのフル4WD化を目指すとうわさされる。よく知られているが、しかしなかなか理解できないのが、「4WDが有効なのは加速時のみ」ということである。4輪が駆動するといえども、タイヤの接地面積の合計は2輪駆動と同じなので、「曲がる」「止まる」場面での本質的なアドバンテージはない。
AMGがハイパフォーマンスモデルの4WD化を進めるということは、“うっかりドライバー”の勘違いをカバーするため、これまで以上に車両制御の技術を充実・発展させる必要があるということである。メルセデス流に言うなら、「電子制御によってよりシャシーを速く」しなければならない。雨と霧のサーキットでAMGモデルに乗って、その一端に触れることができた気がする。
(文=青木禎之/写真=メルセデス・ベンツ日本、webCG/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
メルセデスAMG C63 S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4757×1839×1426mm
ホイールベース:2840mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:510ps(375kW)/5500-6250rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 93Y/(後)265/35ZR19 98Y(ダンロップSPORT MAXX RT)
燃費:--km/リッター
価格:1407万円/テスト車=1452万8000円
オプション装備:コンフォートパッケージ(23万3000円)/パノラミックスライディングルーフ<挟み込み防止機能付き>(22万円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1298km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
メルセデスAMG E63 S 4MATIC+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1905×1460mm
ホイールベース:2940mm
車重:2070kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:612ps(450kW)/5750-6500rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)265/35R20 99Y/(後)295/30R20 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:9.1km/リッター(JC08モード)
価格:1895万円/テスト車=1895万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:4083km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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