メルセデスAMG C63 S Eパフォーマンス(4WD/9AT)
突き詰めた薄味 2024.01.22 試乗記 「メルセデスAMG C63 S Eパフォーマンス」は歴代モデルと比べてエンジンはコンパクトだが、その名のとおり電気の力によって680PSものシステム出力を手にしている。シャシーも長足の進化を遂げており、大パワーでもさらりと乗れるスポーツセダンだ。排気量もシリンダーも半分に
AMGのCクラスといえば(初代をのぞいて)3世代、約20年にわたってV8エンジンを積んできた。仮想敵の「M3」がBMWらしい直列6気筒にこだわる(こちらも、4気筒の初代、V8の先々代といった例外はあれど)のに対して、素直にパワフルな大排気量エンジンがAMGの売りでもあった。しかし、新型CクラスベースのメルセデスAMGはこれまでと同じ「63」を名乗りつつも、エンジンは2リッター直列4気筒シングルターボだそうである。先代の4リッターV8ツインターボと比較すると、ちょうど半分という大胆なエンジンダウンサイジングだ。
もっとも、排気量や気筒数、ターボチャージャーの数は半分でも、実際の性能はそうではない。エンジン単体の最高出力はじつに476PS、同じく最大トルクは575N・m。これまでの世界最強4気筒といえた「A45 S/CLA45 S」の421PS、500N・mを明確にしのぐだけでなく、4リッターV8ツインターボ(510PS、700N・m)と比較しても、大きな遜色がない。
しかも、「Eパフォーマンス」と銘打つ新型C63 Sは、基本レイアウトこそ伝統的なFRをベースにした4WD(4WDもC63としては初)だが、リアアクスル部に204PS、320N・mというピーク性能(最大10秒間)を持つモーターと2段変速機、電子制御LSDを内蔵。そこに駆動や回生を担当する容量6.1kWhの400Vリチウムイオン電池を組み合わせて、システム最高出力で680PS、同最大トルクは大台突破の1020N・mをうたう。
3.4秒という0-100km/hタイムは、先代C63 Sセダンより0.6秒、宿敵の「M3/M4コンペティションM xDrive」より0.1秒速い。その数字自体は「普通に考えると、そこだよね」だが、車重が先代C63 Sセダンや最新のM3コンペティションM xDriveと比較しても350kg以上重いことも考えると、このパワートレインがいかにすごいかが分かる。
電池容量よりも充放電性能を重視
新しいC63 Sのもうひとつの特徴は、プラグインハイブリッド車(PHEV)であることだ。しかし、駆動電池の総電力量からも想像できるように、電気だけで走れる距離は短い。カタログ上の一充電走行距離はWLTCモードで15kmで、一般的なPHEVのように「普段は電気自動車みたいに使えます」とはいいがたい。
F1のノウハウを駆使してメルセデスAMGが自社開発したという高性能電池は、急速な充放電性能や小型軽量化、冷却性能にその特徴があるという。メルセデスの公式資料にも「このバッテリーは、航続距離を最大化することより、速やかな放電と充電を行えることを重点に設計されたもの」と明記される。
実際、メーター上で電池がほぼ空になっていても、「AMGダイナミックセレクト」で、パワートレインモードをエンジンが優先的に稼働する「スポーツ」以上にセットしてアップダウンの多い山坂道を走っていると、気がつけば満充電近くになっているケースはめずらしくない。逆に、そうした場所でガンガン踏めば、あっという間に電池が底をつく。この程度の電力量なら外部充電機能を追加するメリットはあまりないように思えるが、PHEVとすることでエンジン車に厳しい市場で売りやすくなる……という側面もあるのだろう。
電池残量がじゅうぶんにある状態で、ダイナミックセレクトを「コンフォート」や「バッテリーホールド」にすると、エンジンを停止したEV走行をする。モーターはリアにあるが、EV状態でもメカニカルな4WDシステムを通じてフロントタイヤに駆動配分することもあるという。まあ、アクセルを深めに踏み込むと、電池残量にかかわらず即座にエンジンが始動するから、その“電気4WD”の走りっぷりをはっきり味わうのはなかなかむずかしい。
加減速レスポンスはピュアEV並み
1020N・mという途方もない最大トルクを発生するパワートレインだが、金切り声を上げて吠えまくるわけではない。そこは振動=騒音すらエネルギーとして使い切る超高効率っぷりから「静かすぎて面白くない」と揶揄される最新F1パワーユニットとも重なって、逆にすごみを感じる。4気筒ターボはとんでもなくハイチューンのはずなのに、食らいつくような排気音を発するわけではない。7000rpmのリミットまで、じつに緻密な回りかたをするのでちょっと事務的にすら感じてしまう。
このEパフォーマンスは「コンフォート」や「スリップリー」モードでは必要に応じてエンジン停止するものの、基本的にはエンジンが主役のシステムだ。スポーツモード以上ではエンジンは回りっぱなしになり、乗り味的にはエンジン車に近い。
ただ、メルセデスAMG独自の電動アシスト付きターボチャージャーのおかげもあって、この2リッターは低回転から間髪入れずにパンチを繰り出して、そこにリアのモーターアシストも加わる。なので、エンジンをリミットぎりぎりの高回転まで引っ張るような古典的なドライビングスタイルではなく、電動パワートレインの柔軟さを存分に生かして、高めのギアを使うほうが結果的には速そうな気がする。
それにしても、このペダルが右足に吸いつくがごときパワーフィールはなんだ? 純内燃機関かハイブリッドかを問わず、エンジンが駆動参加するタイプのシステムで、ピュアEVに本気で遜色ない以心伝心の加減速レスポンスは、少なくとも筆者は初めてだ。
4気筒ターボの図太くて身が詰まったサウンドは、それなりに快音とは思う。ただ、この種の超高性能車を好むようなエンスージアストには、先代のV8や宿敵の直6のカン高いエキゾーストノートのほうが好まれるのは否定できない。すでに欧州でも、事務的にすぎるパワーフィールやサウンドに賛否があるようだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
コーナリングもきれいに決まる
絶対的にはすさまじいばかりのパワーとトルクなのに、なんとなく迫力に欠けると錯覚してしまうのは、新型C63 Sのダイナミクス性能が飛躍的に向上しているからでもある。C63 Sは掛け値なしに、Eパフォーマンスユニットの1020N・mを完全に支配下に置いている。
車体各部はミシリともいわず、乗り心地も素晴らしい。極端にいえば、C63 Sで可変ダンピングをもっともハードな「スポーツ+」モードにしても、そのピタリとフラットに安定した吸収力はM3コンペティションのコンフォートモードと大差ない……か、むしろ快適なくらいかもしれない。その乗り心地には2.2t近いウェイトも奏功しているのだろうが、そもそもコイルスプリングのバネレートも高くないと思われる。かといって、(下りのブレーキング以外)重さをもてあますようなそぶりを見せることはない。
これほどしなやかなフットワークなのに、超高性能パワートレインを御しきれているのは、優秀な可変ダンパーと4WD、リアの電子制御LSDに加えて、低速で前輪と逆位相、高速で同位相となる後輪操舵の効能が大きいと思われる。それなりにロールはするが、動きそのものは徹底的にタイトである。クイックステアリングと四輪操舵、電子制御LSD、そしてリア寄りの前後重量配分(車検証重量で49:51)の相乗効果か、手首のわずかなスナップ操作で鋭くターンインしたかと思ったら、アクセルを踏むほどにきれいに旋回していく。
パワートレインやダイナミクスにまつわるあらゆるハイテクを駆使した新型C63 Sの運転感覚は、どことなく緊張感があった先代(は後輪駆動)とは正反対である。これほど快適かつ安心に、肉体的負担も少なく、自在に振り回せるスポーツセダンはちょっとない。あまりに洗練されすぎて逆に薄味っぽい……というのはある意味でジレンマだが、技術的にはとてつもないクルマというほかない。
(文=佐野弘宗/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝/車両協力:メルセデス・ベンツ日本)
テスト車のデータ
メルセデスAMG C63 S Eパフォーマンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4835×1900×1455mm
ホイールベース:2875mm
車重:2160kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:永久励起同期式モーター
トランスミッション:9段AT<エンジン>+2段AT<モーター>
エンジン最高出力:476PS(350kW)/6750rpm
エンジン最大トルク:545N・m(5506kgf・m)/5250-5500rpm
モーター最高出力:204PS(150kW)/4500-8500rpm
モーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/500-4500rpm
システム最高出力:680PS(500kW)
システム最大トルク:1020N・m(104.0kgf・m)
タイヤ:(前)HL265/35ZR20 102Y XL/(後)275/35ZR20 XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
ハイブリッド燃料消費率:10.2km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:15km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:14km(WLTCモード)
交流電力量消費率:325Wh/km(WLTCモード)
価格:1660万円/テスト車=1727万3000円
オプション装備:メタリックカラー<オパリスホワイト>(11万円)/AMGパフォーマンスパッケージ(31万円)/パノラミックスライディングルーフ(25万3000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト車の走行距離:2069km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:481.3km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.3km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】 2025.12.15 フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。
-
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.13 「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
NEW
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】
2025.12.17試乗記「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。 -
NEW
人気なのになぜ? アルピーヌA110」が生産終了になる不思議
2025.12.17デイリーコラム現行型「アルピーヌA110」のモデルライフが間もなく終わる。(比較的)手ごろな価格やあつかいやすいサイズ&パワーなどで愛され、このカテゴリーとして人気の部類に入るはずだが、生産が終わってしまうのはなぜだろうか。 -
NEW
第96回:レクサスとセンチュリー(後編) ―レクサスよどこへ行く!? 6輪ミニバンと走る通天閣が示した未来―
2025.12.17カーデザイン曼荼羅業界をあっと言わせた、トヨタの新たな5ブランド戦略。しかし、センチュリーがブランドに“格上げ”されたとなると、気になるのが既存のプレミアムブランドであるレクサスの今後だ。新時代のレクサスに課せられた使命を、カーデザインの識者と考えた。 -
車両開発者は日本カー・オブ・ザ・イヤーをどう意識している?
2025.12.16あの多田哲哉のクルマQ&Aその年の最優秀車を決める日本カー・オブ・ザ・イヤー。同賞を、メーカーの車両開発者はどのように意識しているのだろうか? トヨタでさまざまなクルマの開発をとりまとめてきた多田哲哉さんに、話を聞いた。 -
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】
2025.12.16試乗記これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。 -
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか?
2025.12.15デイリーコラム2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。


















































