トヨタ・スープラRZ(FR/8AT)/スープラSZ-R(FR/8AT)/スープラSZ(FR/8AT)
道がクルマをつくる 2019.05.31 試乗記 トヨタが建設を進めている新たな研究開発施設「トヨタテクニカルセンター下山」を舞台に、新型「スープラ」の3グレードを比較試乗。各モデルの特徴を探るとともに、「ニュルを模した」といわれるテストコースがこれからのクルマづくりにおいて担う役割に、思いをはせた。ユーザーに最も近いテストコース
敷地面積が約650ヘクタール(=650万平方メートル)……と聞いてもピンとこなければ、東京ドーム140個相当と言えばそのスケールが想像いただけるだろうか……と、書いている自分からしてまったくその図が思い描けない。何かいいたとえはないものかと探してみたら、新千歳空港の敷地面積が約720ヘクタールとそれに近かった。
トヨタが2023年の全面稼働を目指す下山テクニカルセンターは、愛知県の豊田市と岡崎市とをまたぐ山林部に建設が進んでいる。くだんの650ヘクタールはその総面積で、うち270ヘクタールは山間部を開墾。これはアセスメントで希少生物なども発見された現場の環境変化を最小限にとどめるべく当初計画よりも大幅に開発面積を縮小したうえ、凸面の掘削土砂を凹面に用いるなど、土砂の移動を最小限にとどめながらの平滑化が進められている。
平滑化の理由はこの敷地の多くがテストコースとして用いられるからだ。とはいえその面積は650ヘクタールのうちの17%。付随施設が11%となり、7割以上が緑地として残される。コース数は当初計画の14から11へと減らされた。それでもトヨタにとって本社から30分以内でアクセスできるこの場所に開発拠点が設けられることは、効率的にはもちろん、心持ち的にも悲願だったという。なにせ初代「レクサスLS」(=初代「セルシオ」)の開発拠点となった北海道・士別試験場の建設決定と同時期には既にこの地も検討されていたというから思い入れは30年以上。その完成が近いとあらば、喜びもひとしおだろう。
全面稼働の暁には3300人の就労が予定される下山テクニカルセンターは明日の市販車に直結する技術開発や味づくりの拠点として機能し、冬季や超高速領域のテスト機能を持つ士別試験場や、未来の自動車技術開発を担う東富士研究所との役割分担を明確化させるという。
すなわちユーザーに最も近いテストコースを擁するこの場所で、いち早く完成したのが中工区と呼ばれる中心部分。そこにはニュルのノルドシュライフェを模したともうわさされる全長5.3kmのカントリー路がある。
「走る・曲がる・止まる」を鍛える
「まぁニュルと言われれば局所的にはそういうところもありますが、全体的にはむしろニュルの周辺を走る郊外路をイメージしているんです。われわれのニュルでの開発においても重視しているのはそこで、ノルドシュライフェは限界性能のつくり込みや確認などに用います」と、おっしゃるのはトヨタの実験ドライバーである矢吹 久さん。「凄腕運転技能部」なるエキスパートディビジョンに属する氏は、このカントリー路の建設中から幾度となく走り込み、細かな施工指示を重ねてきたという。
なるほど、ニュル周辺の郊外路は確かにクルマを実践的に鍛えるにはうってつけの場所かもしれない。路面の整備状況はエリアによってガラリと異なるだけでなく、さらには日照や水はけなどの要因も重なる。秋冬は枯れ葉や凍結などのイレギュラーな要因も現れるが、そこを制限速度100km/hにプラスαで走る地元のおばちゃんドライバーをみれば、スキルもともあれ、クルマがちゃんとしていなければ成立しない交通社会だと実感する。
今回、われわれのような自動車専業のメディアがこの下山テクニカルセンターのカントリー路を走る機会に恵まれたのは、やれ巷間(こうかん)「CASE」だ「MaaS」だとかしましく、豊田社長いわくの「100年に一度の大変革期」が経済界の流行語大賞となりそうな今この時でさえ、トヨタは「走る・曲がる・止まる」の動的基本性能の向上がクルマづくりの最重要案件であると考えていることを理解してほしかったからだと僕は思っている。
ちなみにこのテクニカルセンターに費やされる総費用は約3000億円。電気自動車は家電屋でも造れると思っている経済記者からすれば天文学的浪費にしかみえないだろう。ここはわれわれが支持せずして誰が支持する……と言いたいところだが、僕とて、そんなに使っちゃって大丈夫なのかなぁと思ったりしたのは正直なところだ。
今までに走ったどのコースよりも強烈
いち早く完成したカントリー路の走行用に用意されたのは、完成の暁には部門ごと引っ越してくることも検討されているという社内カンパニー「GAZOO Racing Company」が担う市販車たち。中でも、やっぱり注目してしまうのは「GRスープラ」だ。与えられた試乗機会は2リッターの「SZ」「SZ-R」そして3リッターの「RZ」と、全グレードを3周ずつ。時系列的に考えれば当然ながら、この場所をスープラが走ること自体、初めてに近いことだという。
まずは名古屋から現地へと向かう道中で一般道での試乗もかなったSZ-Rでコースイン。もちろんタイヤ痕ひとつない、これからのトヨタ車の動的質感向上を担う場所での走行はさすがに緊張するが、「飛ばさず車線に沿ってきっちり流す感じのほうが、特性が出やすいですから」という矢吹さんのアドバイスを思い出しつつ、落ち着いて舵を車線に沿わせる。
カントリー路は基本的に2車線で、車線に応じてアンジュレーションにも多彩な変化が持たされている。一部路面の曲率や凹凸は東富士のテストコースとも同調しており、定速での入力周波数などの情報を容易に共有、そして再現検証できるようにしてあるという。
カントリー路の入力感は国の内外を問わず、今までに走ったどのテストコースよりも強烈なものだった。こんなことを言うと矢吹さんにしかめっ面をされそうだが、フルークプラッツあればプランツガルテンあり、イン側がコンクリート溝にかぶるミニミニカルッセルまでありと、それこそノルドシュライフェの中でも一番いやらしいところを延々と回らされているようでさえある。しかも順路であれば難所の大半が下り坂、つまり後輪駆動には荷重的に不利なレイアウトとなっている。
リアの挙動変化に少々クセあり
そういったカントリー路での状況を鑑みるに、そしてSZ-Rに乗っての印象としてスープラは、以前の試乗機会で感じたお尻の動きやすさから懸念していたスタビリティー不足はどうやら心配なさそうだ。コースの中には容赦のないジャンピングスポットや、その前後にハードブレーキングを強いられるなど車体姿勢が極端に崩れるような“いじめスポット”もあるが、そういう場所での安定性はきちんと確保されている。
それでも試乗中には幾度かリアの不穏な挙動を体感することがあったのは、車体側の基本的な過渡特性に対して後軸側の駆動状況変化がうまく折り合っていないからだろう。カントリー路には一定入力から定常的に切り増しを求められる複合コーナーがあるが、そこでの動きをつぶさにみていると、今日日のスポーツカーにふさわしいニュートラルな粘り腰をみせるも、そこから期待する穏やかなブレーク感とは裏腹にスパッと一気に滑り出す傾向がある。そもそもアクティブデフのセットアップが曖昧な入力でもオーバーステア傾向なうえ、そこでの姿勢制御デバイスとの連携にも期待値との差があるように思えなくもない。なんにせよクローズドコースでの話となるが、このクセをつかむには割と無神経に運転してテールスライドを意図的に引き出すのもひとつの手だろう。
ちなみにこのアクティブデフはRZとSZ-Rに標準装備となり、ベースグレードのSZはオープンタイプのデフとなる。SZはホイールサイズも17インチと穏やかで2リッター4気筒直噴ターボはそのパワーも197psと小さい。流せば乗り心地は優しく、飛ばしてもシャシーの素性の良さが最もリニアに感じられるのはこのグレードだ。その応答のナチュラルさには多くの人が好感を抱くことだろう。が、さすがに2座のスポーツカーに期待する刺激や肉厚タイヤを履く見た目などを物足りなく感じる人がいてもおかしくはない。多くは4気筒のハイパワー版たるSZ-Rか6気筒のRZかで選択を悩むことになると思う。
バランスのSZ-R、エンジンが際立つRZ
公道でも乗ることができたSZ-Rは、ハンドリングと乗り心地との折り合いをうまくつけたシャシーや、スロットル&ブレーキの“着色感の薄い”チューニングなどに好印象を抱いた。高速移動が主とはいえ、14km/リッターをオーバーする燃費の良さも魅力的だ。SZと同じB48系4気筒ユニットは258psを発生するが、そのパワーは車格に対して必要十分以上。回せばきちんとスポーツカーらしく振る舞えるし、前述のようにコントロールに気遣うもリア側で積極的に曲げていくことも難しい話ではない。もとよりノーズの軽さはやはり歴然で、限界を見極めながらオン・ザ・レールできれいに曲げていくという乗り方にも適している。各項目を点数化していけば、スープラで最も動的資質の高いグレードはこのSZ-Rではないかというのが正直な感想だ。
ただし、エンジンのフィーリングにおいては圧倒的に6気筒のRZに軍配が上がるだろう。100万円というSZ-Rとの価格差も、個人的には十分納得できるほどその差は大きい。B58系ユニットを基に部位強化したS58系ユニットがBMWの「M」モデルにおいて450psオーバーも見据えることを考えればRZの340psはいたってベーシックにも思えるが、それでもこの気持ちよさをもたらしているのだから大したものである。SZ-Rに比べると、さすがに回頭性はズシッとした手応えがあるが、リアステアを積極的に使いこなすドライバーにはこの重量感はかえっておあつらえ向きだろう。当然パワーオーバーにも持ち込みやすく、エンターテインメント性が高い。そのぶん御すにも腕前が求められる……と、クルマとドライバーとの相互関係が最もはっきりしているのがRZだ。
それにしてもえげつない入力が確変のごとく連荘するこのカントリー路において、グレードを問わずハコの“よれ”や“きしみ”などをみじんもみせなかったスープラのボディーは相当なものだと思う。そして今後、「コースター」や「ハイエース」も含むすべてのトヨタ車がカントリー路での実験を通過していくと聞けば、嫌が応にも心配……いや、期待は高まろうというものだ。ここで培われた余力がクルマをどう変えるのか。結果が表れ始めるのはしばらく先になるだろうが、その時を楽しみにしていようと思う。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車/編集=近藤 俊)
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テスト車のデータ
トヨタ・スープラRZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4380×1865×1290mm
ホイールベース:2470mm
車重:1520kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:340ps(250kW)/5000rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1600-4500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19 96Y/(後)275/35ZR19 100Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:12.2km/リッター(WLTCモード)
価格:690万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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トヨタ・スープラSZ-R
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4380×1865×1295mm
ホイールベース:2470mm
車重:1450kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:258ps(190kW)/5000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1550-4400rpm
タイヤ:(前)255/40ZR18 95Y/(後)275/40ZR18 99Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:12.7km/リッター(WLTCモード)
価格:590万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロード&トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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トヨタ・スープラSZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4380×1865×1295mm
ホイールベース:2470mm
車重:1520kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:197ps(145kW)/4500rpm
最大トルク:320Nm(32.7kgm)/1450-4200rpm
タイヤ:(前)225/50R17 94W/(後)255/45R17 98W(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5 SSR)※ランフラットタイヤ
燃費:13.1km/リッター(WLTCモード)
価格:490万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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