トヨタGRスープラRZ(FR/6MT)
その“ひと手間”が面白い 2023.01.30 試乗記 3リッター直6ターボを搭載した「トヨタGRスープラRZ」に、ファン待望の6段マニュアルトランスミッション車が登場! 気になるその出来栄えは? ライバルとの操作感の違いは? そもそもなぜ、ボクらのココロはMTを求めるのか!? 試乗を通して考えた。ファンの声が実現させたMTの設定
「今度の試乗車、スープラのマニュアルどうですか?」
編集部H君にそう尋ねられたとき、筆者はちょっとウキウキした。
「へぇ、いいね。実はまだ乗っていなかったんだよ」
落ち着いた様子でそう言いながらも、内心ワクワクだ。乗ってみたかったのである、GRスープラのマニュアルに。しかしなぜ私たちクルマ好きは、“マニュアル車”に心ときめくのだろうか。
今からおよそ4年前に、トヨタとBMWの協業によってアクロバティックな復活を果たしたトヨタGRスープラは、2022年4月に2度目の改良を受けた。1度目の改良は3リッター直列6気筒ターボのパワーアップで、そのあまりのテンポの速さに、初期型をオーダーしたオーナーたちからはちょっとしたブーイングが上がったようだ。
今回はエンジンには変更がなく、そのシャシーワークに磨きがかけられた。具体的には足まわりにおいて、電子制御式可変ダンパー「AVS」の減衰特性とスタビライザーブッシュの硬度特性が見直された。また、これに応じて電動パワーステアリングおよびVSC(車両安定装置)の制御がテイストをそろえた。
これらに加え、直列6気筒エンジンを搭載するRZグレードのみに、新意匠の鍛造19インチホイールと6段マニュアルトランスミッションが用意されたというわけである。
今回トヨタがGRスープラRZにこの6段MTを用意したのは、いわく「お客さまからの強いご要望・ご期待」に応えるためだったという。確かに同社のスポーツカーラインナップを見渡せば、「GRヤリス」にしろ「GRカローラ」にしろ「GR86」にしろ、すべてのGRのスポーツモデルがマニュアルトランスミッションをラインナップしている。となれば長兄たるGRスープラに、そうした声が寄せられるのも不思議ではない。
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なぜマニアはMTを欲しがるのか?
ただご存じのとおり、いまやマニュアルトランスミッションは、新車販売台数の1%にも満たないスーパーマイノリティーだ。
確かに、最近だと6段MT“しか”選べない「ホンダ・シビック タイプR」が、当初の販売計画の5倍近い受注を集めてメーカーがうれしい悲鳴を上げた。新設の9段ATに加えて6段MTを継続した「日産フェアレディZ」も、いまだにバックオーダーをさばけず受注を停止している状態だ。しかしこれらも、半導体やサプライチェーンの問題も一枚かんだ、異様なスポーツカーバブルが側面にあることは否めない。
こうしたスポーツカーを含めても、マニュアルトランスミッションはやはり消えゆくジャンルのように感じられる。
だから筆者は、トヨタが直列6気筒のRZだけにこれを設定したのは手堅い判断だと思った。クルマのキャラクターを思えば、軽快なハンドリングを持つ直列4気筒ターボの「SZ」にこそMTだが、いまどきスープラのような高級スポーツカーでマニュアルシフトを選ぶのは、真のマニアと懐に余裕のあるユーザーである。下のグレードにMTを設けても、彼らには訴求しないだろう。
しかし、買う買わないは別にして、なぜマニアはMTを欲しがるのか? いまやトルコンATですら、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)に肉薄する変速スピードとレスポンス、そしてダイレクトな加速感を得た。速く走るならクラッチペダルを断続してシフトノブを操作するMTの操作はもはや完全なロスであり、サーキットを走る“手だれ”にとっては左足ブレーキを常用できないのも非効率だ。そんな、わざわざ遅くなる装置を珍重する理由はなんだ?
それはやはり、ひと手間かける面白さなのだろう。
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手応え強めで操りがいがある
GRスープラに限らず、世のスポーツカーは速くなりすぎた。そして1億2000万総監視社会のいま、オープンロードではスピードに向けられる世間の目が、より一層厳しさを増している。さらにはプロダクトの洗練、そして環境性能の向上が、未完成で野蛮なクルマを走らせる楽しみを奪ってしまった。
踏めないし飛ばせないしツマラナイしと、ないない尽くしの世の中にあって、マニュアルトランスミッションは、ゆっくり走らせてもクルマと対話できるデチューニングパーツとして機能しているのではないか。
……ということで肝心のGRスープラの6段MTだが、そんな夢見心地のオジサンたちを、ちょっと現実に引き戻すくらいには、硬派な出来栄えだった。
500N・mの強烈なターボトルクを受け止めるべく、クラッチペダルはそこそこ重い。メタルクラッチのようなミートの難しさはないが、渋滞にはまればきっと「MTは久々」なオジサンは音を上げることだろう。シビック タイプRやフェアレディZのほうが少し、踏力は軽く感じる。
そのシフトフィールも、メリハリ感があって手応えがちょっと重めだ。加えて試乗車は下ろしたての新車だったから、ことさら渋さも目立ったが、同時に「こなれてきたらかなり良くなるだろうな」と思える素性のよさがあった。シフトノブがトランスミッションに直結するぶん、シフトフィールに定評のあるシビック タイプRと比べても、ダイレクト感は一枚上手。またシフトポジションも自然で、フェアレディZより断然操作しやすい。
興味深いのは、改良を受けたシャシーもこの6段MTとトーンをそろえていることだった。足まわりは乗り心地をほどよく保ちながらもシッカリ感が高く、操舵初期の応答性もスポーティーだが過敏ではない。そして追い込むほどに、正確性が増していく。
GRスープラは、プロトタイプでその操縦性を、多くのジャーナリストからトリッキーだと指摘された(参照)。「ランチア・ストラトス」なら褒められたであろう極度にヨー旋回性の高い走りは、市販前に一度見直され、今回さらにそこに磨きがかかったわけだが、残念ながらオープンロードでは、その進化はわからなかった。ただただリアが、しっかりトラクションをかけてくれるな、という印象だ。
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ちょっと手間がかかるくらいがいい
なにより気持ちいいのは、アクセルを緩やかに踏み込んでいったとき。シフトノブに軽く手をかけながらフワーッと加速すると、エンジンのトルクがうっすら手のひらに伝わってきて、直列6気筒ターボの心地よい吹け上がりと澄んだサウンドが車内を満たす。今回の改良ではMT車専用に室内サウンドもチューニングされているらしいが、違和感のない心地いい仕上がりだ。
エンジンの回転が高まったらクラッチをスパッと切って、次のギアへシフトする。反力に任せてクラッチをつないでも問題ないが、ここで一瞬呼吸を置くと、街なかではショックが起きない。
シフトダウンはブレーキを踏みながら、かかとでアクセルを……と言いたいところだが、「iMT」がオートブリップしてくれる。だから、よほど速度とギアの選択にズレがない限り、ドライバーはシフト操作をするだけでいい。エンジン回転が上がったらギアが吸い込まれ、クラッチをつなげばすぐさま加速態勢に入れる。
GRスープラは、例えば「BMW M4」などと比べて、普段はすごくおとなしい。エンジンそのものの違いもあるが、街なかからエモさをまき散らすM4に比べて、やっぱりそこには“トヨタらしさ”を感じる。しかしそれが、このクルマの個性だ。そしてだからこそ、この6段MTはいいなと思えた。乗り手がひと手間かけて、エモさを引き出してやれるからだ。わかりやすいクルマは確かに面白い。しかし、スポーツカーは適度に手がかかるほうがかわいいのである。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
トヨタ・スープラRZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4380×1865×1295mm
ホイールベース:2470mm
車重:1520kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:387PS(285kW)/5800rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1800-5000rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19 96Y XL/(後)275/35ZR19 100Y XL(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:11.0km/リッター(WLTCモード)
価格:731万3000円/テスト車=744万2832円
オプション装備:本革シート<タン>(8万2500円) ※以下、販売店オプション カメラ一体型ドライブレコーダー<DRT-H68A>(2万1516円)/ETC2.0ユニット ボイスタイプ(2万5366円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:634km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:308.1km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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