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クルマもスマホで乗る時代
ボッシュの新たな“キーレス”技術とは?

2019.07.05 デイリーコラム 関 顕也
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手ぶら感覚で極めて安全

いまや、誰もが持っているスマートフォン。“○○ペイ”のスマホ決済も急速に広まり、ますます手放せない存在になっているのではないだろうか。クルマだって、カーシェアリングやタクシーの予約はスマホがキホン。離れたところにあるマイカーの状態を手元のスマホでチェックできる、なんて車種もある。

いっそのこと、かさばるキーを持たずに、スマホだけでクルマを扱えないものか? と思っていたら、世の中、そういう方向で動いているらしい。

2019年6月、自動車部品メーカーのボッシュは、スマートフォンをキー代わりにクルマの施錠・解錠およびエンジン始動ができるシステム「パーフェクトリー キーレス」を発表した。まだコンセプトの段階かと思いきや、とっくに海外の自動車メーカーに納入していて、2021年には同システムを搭載した量産車が発売される見通しという。

もっとも、従来型のキーを使うことなくクルマに乗れるシステムは、これが初めてではない。Suica(スイカ)やFeliCa(フェリカ)でおなじみの「NFC」(近距離無線通信)を使った“かざすタイプ”のキーは、アウディやBMW、ゼネラルモーターズなどで使われている。一方、今回のパーフェクトリー キーレスは、車両とユーザーとの通信・認証に非接触型のBluetooth(低消費電力タイプのBluetooth Low Energy)を採用している。アメリカのテスラもBluetoothを使ったシステムを自社開発していて、それもまた安全性には重々配慮されたものに違いないが、今回のシステムはセキュリティーのレベルが格段に高くなっている、というのがボッシュの主張だ。

そう。“手ぶら感”も大事だが、パーフェクトリー キーレス最大のセリングポイントは安全性なのである。

最も警戒すべきは、ここ数年国内でも多発している「リレーアタック」という車両盗難の手口だ。これは、窃盗団が(長波と極超短波周波数を使う)スマートキーの電波をキャッチ、車両を解錠して乗り逃げするというもの。無線キーの特徴を逆手に取った犯罪といえる。

この点、ボッシュが開発したシステムは、個々のスマホのBluetooth用チップに見られる「人間の指紋のような特有の“クセ”」を利用したもので、これを唯一無二の認証手段として安全なペアリングを実現。電波泥棒によるリレーアタックも排除できるという。発表会で製品説明にあたったボッシュの石塚秀樹さんも、「企業秘密の部分があるので、すべてを詳しく説明することはできませんが……」と断りつつ、「まず破られないと思いますね」と安全性に自信を見せる。

「パーフェクトリー キーレス」使用時の、スマートフォンのイメージ。画面内に見られる「フォード・マスタング」はあくまでサンプルで、マスタングの市販車両に同システムが採用されているわけではない。念のため。
「パーフェクトリー キーレス」使用時の、スマートフォンのイメージ。画面内に見られる「フォード・マスタング」はあくまでサンプルで、マスタングの市販車両に同システムが採用されているわけではない。念のため。拡大
「パーフェクトリー キーレス」のメニューは現在、ドアの解錠・施錠、エンジンの始動、荷室ドアの解錠に分かれている。これにより「エンジン始動は許可しないがトランクルームの解錠だけは認める」などの個別設定が可能で、例えば、「宅配業者からの荷物を荷室に置いておいてもらう」といった使い方ができる。
「パーフェクトリー キーレス」のメニューは現在、ドアの解錠・施錠、エンジンの始動、荷室ドアの解錠に分かれている。これにより「エンジン始動は許可しないがトランクルームの解錠だけは認める」などの個別設定が可能で、例えば、「宅配業者からの荷物を荷室に置いておいてもらう」といった使い方ができる。拡大
今回お話をうかがった、ボッシュ オートモーティブエレクトロニクス事業部の事業部長、石塚秀樹さん。「リレーアタック」などに対する「パーフェクトリー キーレス」の防犯性の高さについては、絶対の自信を見せる。
今回お話をうかがった、ボッシュ オートモーティブエレクトロニクス事業部の事業部長、石塚秀樹さん。「リレーアタック」などに対する「パーフェクトリー キーレス」の防犯性の高さについては、絶対の自信を見せる。拡大

事前の登録はネックになりうる

実にすばらしい仕組みのようだが、世の中、便利と不便は紙一重。欠点はないのだろうか?

パーフェクトリー キーレスは、車両側に組み込まれた「ユーザー(正確にはスマホ)を認識する機器」と「認識されるスマホ」とで成り立つ。前提条件として、そのスマホでドアの解錠やエンジンの始動が可能になるよう、車載器にスマホを登録しておく必要がある。

その手続きを経なければ? たとえ本当のオーナーであっても門前払いになる。もし機種変更したら、新たな端末を再度登録しなければならない。

家族など複数のユーザーがクルマを共有する場合や、友人とクルマの貸し借りをするときも、個々のスマホの登録はマスト。ボッシュは「インターネットを使ってキーの“権利”を授受することで、広くカーシェアサービスにも活用できる」とアピールするが、これも同様に、クルマを使う前に一度は実車に接してスマホそのものの登録作業をしなければならない。いや、それは、あまりにも面倒なような……。

この点、石塚さんも「パブリックなカーシェアでは、やや大きなハードルになりえますね……」と苦笑いせざるをえない。認証のプロセスを簡略化(=セキュリティーレベルを低下)させればカーシェアも容易になるだろうが、それはパーフェクトリー キーレスの存在意義に関わる。本末転倒というものだろう。

それにパーフェクトリー キーレスには、「スマホ頼みになる」というリスクがつきまとう。もし、スマホの電池がなくなったら? その点ボッシュでは、バックアップとして前述のNFCもセットにすることを考えているそうだが、不安は不安だ。それこそスマホをなくす/落とすという事態になれば、マイカー盗難のリスクも高まる。その際は、コールセンターに連絡すれば即座にキーを無効にしてもらえるなど、もちろんサポート体制は万全だが。

とはいえ、スマホはみんなが持っているのだし、スマホのキー化は確実に進むはず。今後、どれくらいのスピードで普及し、いつごろ“常識”になるのだろうか?

「ボッシュとしても、わかりません。でも多くのユーザーにとってメリットがあるでしょうから、ひとたび世の中で『あ、それいいね!』と思われるようになったら爆発的に普及する可能性があります」というのが、石塚さんの予想するところである。

エンブレム付きのキーに憧れる“昔ながらのクルマ好き”にとっても、無視できない新技術には違いない。

(文と写真と編集=関 顕也)

クルマの使用権は、インターネットを経由して他人に付与することができる(写真はその“シェア”のイメージ)。ただし、実際に車両の解錠やエンジン始動を行うためには、個々のスマートフォンそのものを車両の受信機に認識(登録)させる必要がある。
クルマの使用権は、インターネットを経由して他人に付与することができる(写真はその“シェア”のイメージ)。ただし、実際に車両の解錠やエンジン始動を行うためには、個々のスマートフォンそのものを車両の受信機に認識(登録)させる必要がある。拡大
ユーザーの識別には、スマートフォン内のチップが使われる。「違う人」と判断されれば、「キーが見つかりません」のメッセージとともに拒絶されることとなる。
ユーザーの識別には、スマートフォン内のチップが使われる。「違う人」と判断されれば、「キーが見つかりません」のメッセージとともに拒絶されることとなる。拡大
「パーフェクトリー キーレス」は技術的に“後付け”できないわけではないが、いまのところは新車装着アイテムとして開発されている。市場のニーズが高まれば将来的なアフターパーツ化もありうるものの、車両側のシステム組み込みにコストがかかるため、実現の可能性は低いと見られている。
「パーフェクトリー キーレス」は技術的に“後付け”できないわけではないが、いまのところは新車装着アイテムとして開発されている。市場のニーズが高まれば将来的なアフターパーツ化もありうるものの、車両側のシステム組み込みにコストがかかるため、実現の可能性は低いと見られている。拡大
関 顕也

関 顕也

webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。

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