三菱エクリプス クロス ブラックエディション(4WD/8AT)
分かってる人に 2019.07.16 試乗記 三菱のコンパクトSUV「エクリプス クロス」に、待望のディーゼルエンジン搭載モデルが追加された。輸入車やマツダ車などを中心に人気を集める“SUV×ディーゼル”の組み合わせだが、果たしてその出来栄えは……!?三菱といえばディーゼルだった
今では想像できないだろうが、かつてSUVという名称が世の中に広がる前は、4WDといえばディーゼルという時代があった。重く大きなクロカン4WDには、高速走行は苦手だが低速トルクが強力で燃料代が安いディーゼルエンジン(当時燃費が悪いのは当たり前だった)はうってつけのパワーユニットだった。「パジェロ」や「デリカスターワゴン」(知っているかな?)が全盛の頃の話である。三菱では今でも国内向けパジェロ用に3.2リッター直4ディーゼルターボ(4M41型)が生き残っているが、他には「デリカD:5」に搭載されていた4N14型2.2リッター直4ディーゼルターボがあるのみだった(海外向けの「パジェロスポーツ」や「トライトン」用には2.4リッターの4N15型も用意されている)。デリカD:5は2019年2月のマイナーチェンジでディーゼルモデルのみ大幅に改良されたが、その前からセールスのおよそ9割がディーゼルモデルといわれていた。ありがたいことに、今なお根強いコアなファン層が存在しているのである。
2018年の3月に発売されたコンパクトSUVのエクリプス クロスに追加されたのもこの4N14型ディーゼルターボエンジンである。アウトドア好きの“パジェロおやじ”や“デリカファミリー”だけではなく、三菱社内からもエクリプス クロスなんて軟弱で三菱の4WDとはいえない、という声もあるらしいが、今時洗練されたSUVに背を向けて、タフでいかついクロカン4WDばかりにこだわっていては商売が立ち行かない。海外市場が重要な三菱にとっては(ガソリンエンジンだけだったエクリプス クロスはこれまでに約20万台を販売したという)、なおさら待望の新しいディーゼルモデルということになる。
厳しさを増すエミッション規制
4N14型コモンレール式直噴ディーゼルターボエンジン(三菱は「DI-D=ダイレクト・インジェクション・ディーゼル」と称する)は、従来のユニットをベースに大幅な改良を受けて、先にデリカD:5に搭載されたものと同じユニットである。型式こそ同じながら、クランクシャフトやピストン、コンロッドなどは新設計で、フリクション低減を図ったという。また、これまでのNOx吸蔵還元触媒に代えて尿素水溶液を使用するSCR触媒を採用、酸化触媒+DPF+SCR触媒という排出ガス浄化システムに改めたのも特徴だ。厳しくなるいっぽうのエミッション規制に対応するためには、コストをかけてもSCRを導入せざるを得ないということだろう。さらにEGR領域を拡大しNOxを低減したという。EGRとは排出ガス循環システムのことで、要するにエンジンからの排気をもう一度燃焼室に送り込み、燃焼温度を下げてNOxの生成を抑えるというものだが、一度燃焼した排出ガスを再びシリンダーに送り込むわけだから、やりすぎるとドライバビリティーの悪化につながるし、タービンを回すための圧力が下がるという弱点もあるので、そのバランスをどう取るかがエンジニアの腕の見せどころである。
デリカD:5とまったく同じ最高出力145ps/3500rpmと最大トルク380Nm/2000rpmを発生するエンジンは、これもデリカD:5と同様アイシン・エィ・ダブリュ製の8段ATと組み合わされる。ガソリンエンジン車にはFWDも設定されているが、ディーゼルモデルは4WDのみとなる。
最新ディーゼルターボの相場
最新のクリーンディーゼルならば、2リッター4気筒ターボでだいたい180psと400Nmあたりがパワーとトルクの相場というか標準値である。これが2.2リッターの排気量となるともう少し強力で、例えば「アルファ・ロメオ・ジュリア」や「マツダCX-5」では190psと450Nmを生み出している。それに比べるとエクリプス クロスの2.2リッター(実際の排気量は2267ccだから本来は2.3リッターというべき)ディーゼルの最高出力145psと、最大トルク380Nmというスペックは、やはりちょっと見劣りすると言わざるを得ない。もちろん単純に数字だけでは比べられないが、実際に高回転域までスムーズにストレスなく回るかどうかや低速からのピックアップの素早さ、回転フィーリングとノイズなどについてもマツダの最新世代ディーゼルなどには一歩譲るというのが正直な感想だ。
8段ATのおかげもあって、穏やかにゆっくり加速する場合、あるいは一定のスピードでわずかな加減速とともにオープンロードを走るような場合にはまったく不満がない。というより太いトルクのおかげで非常に扱いやすいのだが、ちょっと元気よく発進しようとする際などは、過給が効き始めるまでにタイムラグを感じ、その後急に力強い加速を見せるので、スムーズに走るにはちょっとしたコツがいる。ほぼ2tもあるデリカD:5のほうがこのパワートレインとの相性がいいと感じられた。富士の裾野で行われた試乗会では市街地を走るチャンスはなかったが、ストップ&ゴーを繰り返すような状況では若干の不安が残る。ディーゼルターボの特性を理解している人なら気にならないかもしれないが、基本的には一定速で長い距離を走るユーザー向きといえるだろう。
実用性重視の方に
おしゃれ優先のクーペSUVのように見せて、その実はきっちり実用性と扱いやすさを考えているのがエクリプス クロスである。ディーゼルモデルの追加を除けば、「ブラックエディション」(今回のテスト車)という特別仕様車が加えられたこと以外、内装と外観は事実上従来型と変わらない。“クーペライク”などという宣伝文句とは裏腹に(?)、実際にはドライバーズシートからの視界は良く、室内も明るい。パネルが立ち上がる方式のカラーヘッドアップディスプレイも備わるが、ナセル内の主メーターも簡潔で見やすい。ウエッジシェイプが強調されている割には後方視界も斜め後方視界も問題なし。スタイル優先のおしゃれSUVなどでは、ルーフ後端部を下げたり、リアウィンドウを寝かせたり、さらにはリアドアのアウターハンドルをCピラーに隠したりといったデザイン処理のために視界が悪化しがちだが、エクリプス クロスはそれに手を染めず、ハッチゲートガラスも上下2段式として後方視界を確保している。リアシートの居住性についても同じく、外観から想像するほど天井は低くないし、ボディーサイドの絞り込みもきつくないので後席は広くルーミーだ。そのうえリアシートは200mmの前後スライドとリクライニング付きである。
そんなまっとうで実用的なコンパクトSUVにディーゼルが追加されたのは朗報ではあるのだが、ディーゼルモデルはガソリン車よりも130kg重くなっているために、エクリプス クロスの美点だった軽快感がいささかそがれているのも事実。本来はモデルのキャラクターや車重などに合わせて、パワーユニットの仕様をさらに細かく変更してほしいところでもある。漫然と乗るとそのおいしさが際立たないという点では、やはり玄人好みというか常連さん重視ということかもしれない。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
三菱エクリプス クロス ブラックエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4405×1805×1685mm
ホイールベース:2670mm
車重:1680kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.3リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:145ps(107kW)/3500rpm
最大トルク:380Nm(38.7kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)225/55R18 98H/(後)225/55R18 98H(トーヨー・プロクセスR44)
燃費:15.2km/リッター(JC08モード)/14.2km/リッター(WLTCモード)
価格:342万4680円/テスト車=375万7125円
オプション装備:ボディーカラー<レッドダイヤモンド>(7万5600円)/本革シート<運転席&助手席シートバックポケット>(22万6800円) ※以下、販売店オプション フロアマット<プレミアム>(3万0045円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2184km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
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