日産ノートe-POWER NISMO S(FF)
うま味たっぷりスパイシー 2019.08.02 試乗記 「日産ノートe-POWER NISMO」のハイパフォーマンスバージョンとして登場した「NISMO S」。ベースモデルの109psに対し、136psに出力を向上させた電動パワーユニットと専用開発されたドライビングモードがもたらす走りを確かめるために、富士山麓のワインディングロードを目指した。パワーとトルクを大幅に増量
日産ノートe-Power NISMO Sで走りだしてすぐに、ビシッと引き締まった乗り心地に身が引き締まった。すっかり油断していた。日産ノートといえば、2018年のベストセラー。1年で13万6324台を売り、軽自動車を除く、いわゆる登録車の年間販売台数ナンバーワンに輝いたモデルだ。
2位の「トヨタ・アクア」には約1万台の差をつけており、国民車というのは大げさにしても、いまの日本人がクルマに求める要素の最大公約数的なモデルだと言っても間違いじゃないだろう。
ちなみに日産にとって登録車の年間販売台数1位は初めてで、「マーチ」でも「サニー」でも「パルサー」でも成し得なかった偉業をノートが達成したということになる。その日産ノートが、ここまでスパルタンな味付けになっているとは……。正直、毎日食べる白いご飯に激辛スパイスを振りかけたような、ちょっとした違和感を覚える。
それにしても日産ノートe-Power NISMO Sとは、たくさんの“役”がついたモデル名だ。ノートのe-Power搭載モデルで、NISMO仕様、しかもNISMO仕様の中でもよりスポーティーなSグレードと、声に出して読んでみると、「メン・タン・ピン・ドラ・ドラ」で満貫のようだ。その成り立ちは、以下のようになる。
まず日産ノートの売り上げ躍進の原動力となったのが、エンジンで発電して駆動は100%モーターで行う、e-Powerという仕組みだ。これは、システムとしてはシリーズ式のハイブリッドであるけれど、モーターだけで走る感覚はEVに近いというもの。34.0km/リッター(e-Power Sは37.2km/リッター)という優れたJC08モード燃費と、モーターによる新鮮な走行フィーリングが受けて日産ノートの販売を押し上げたのだ。
そしてボディーと足まわりを強化した日産ノートe-Power NISMOが生まれ、その上にモーターの出力を高め、シャシーにもさらなるチューニングを施した日産ノートe-Power NISMO Sが君臨する形になっている。標準の日産ノートe-Powerとノートe-Power NISMOの最高出力が109ps、最大トルクが254Nm。一方のノートe-Power NISMO Sが136psと320Nmだから、パワーとトルクは約25%の増量ということになる。
特に市街地ではトルクが厚くなったことの恩恵は明らかで、ノートの軽量コンパクトなボディーもあって、ストップ&ゴーの連続でもスーッと前に出るからストレスは感じない。
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内燃機関とは違うファン・トゥ・ドライブ
スパルタンな乗り心地はひとまずおくとして、市街地を流しているとe-Powerが支持されてノートを日本一へ導いた理由がわかる。第一に、静かだ。エンジンは発電に徹しているから、アクセルペダルを踏み込んでも急に回転を上げることはない。充電が不足するとエンジンが始動するけれど、基本的には最も効率のいい回転域で一定の回転数を保つから、「エンジン積んでるんだっけ?」と、その存在感は次第に薄れていく。
それから、楽しい。回転を上げることでパワーを高める内燃機関と違って、電気が流れた瞬間に最大の力を発揮できるモーターは、アクセル操作に対するレスポンスが鋭い。エンジンとモーターは、手紙とEメールのように違う。もちろん、手紙のほうが味はあるというご意見もありましょうが、もしディーラーでエンジンとe-Powerのノートを乗り比べたら、多くの方の心はe-Powerに傾くはずだ。
e-Powerは運転の疲労低減に効果があることもあらためて感じた。アクセルペダルを戻せばブレーキペダルを踏まずともしっかり減速するから、ペダルを踏みかえずにドライブすることができる。いわゆるワンペダル走行だ。ノートe-Power NISMO Sには「NORMAL」「S」「ECO」の3つの走行モードがあり、すべてのモードで減速感を強める「B」レンジを選ぶことができる(ノートe-Power NISIMOでは「NORMAL」でしか「B」レンジを選べない)。
ワンペダル走行は疲れないだけでなく、次第にブレーキを使わずに滑らかかつ確実に減速できるようになるという、運転が上達する喜びもある。回生ブレーキによる発電量が大きいけれど減速がかなり急激になる「S」モードの「B」レンジを選び、スムーズかつ力強く走らせるコツをつかむと、内燃機関車とはまた違うファン・トゥ・ドライブを味わえる。
そして、いざとなればガソリンスタンドでガソリンを入れればいいわけだから、遠くを目指してもピュアEVのように充電スポットや航続距離を気にする必要はない。NISMOうんぬんの前に、ノートにおいては販売台数の約7割を占めるという、e-Powerの魅力を再確認した。
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未体験のスポーツドライビング
といった具合に、e-Powerに感心するほどに、このハードコアなNISMO S仕様はどうなの、というギモンが湧くのだった。シームレスに加速して、静かに走るんだから、もっとしなやかな足を与えて“小さな高級車”を目指したほうがおもしろいのではないか……。
という思いは、ちょっとしたワインディングロードに入った途端に霧散した。これは楽しい!
コーナーに進入すると、強化されたスタビライザーや専用サスペンションのおかげで安定した姿勢をキープ、そしてコーナー出口でアクセルペダルを踏むと、「パチン!」と間髪入れずに前輪にトルクが伝わり、まさに電光石火のレスポンスを味わえる。出口からの加速は、「ズリッ!」と一瞬ホイールスピンをするほど強烈で、しかもトランスミッション不要のモーターならではの段差のないもの。前述したように静かだからこれまでに経験したことのないスポーツドライビングとなる。
ワインディングロードの連続ではNISMOが入念にボディーを強化したことの効果が確認できる。ハードなコーナリングでもボディーがカチッとしていてねじれない、歪(ゆが)まない。だから、サスペンションが正確に機能して、4本のタイヤが正しく地面と接している様子が伝わってくる。
コーナー進入時、「S」モードと「B」レンジの組み合わせはエンジンブレーキならぬモーターブレーキの減速力がかなりのもので、これとフットブレーキを連携させながら最大かつ滑らかなブレーキングにするのはちょっとした知的なゲームだ。そしてコーナーの脱出では再び電光石火のレスポンスと段差のない新幹線のような加速感——。
エンジン車のスポーツドライビングがスーパーファミコンだとしたら、こっちはプレステ4ぐらいか。それくらい、レスポンスが素早いと感じる。白いご飯に激辛スパイス、なかなかいいじゃないか。
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美味なるスパイス
このクルマは新しい時代のホットハッチだ、とほくほくしながら帰路につく。落ち着いて高速道路を走りながら感じるのは、やっぱり丁寧に仕立てられたクルマは、運転のしがいがあるということだ。
ノートe-Power NISMO Sは、出力アップのためにコンピューターに専用チューニングが施されているほか、フロントとリアのクロスバー設置などのボディー補強、専用サスペンションに電動パワステの専用チューニングなど、手がかかっている。ただパワーを上げて足を固めただけでなく、クルマ全体が同じ方向を目指しているから、スパルタンな乗り心地も納得できる。
なんというか、クルマとドライビングを知り尽くした匠(たくみ)の技を、あちこちに感じることができる。このシートも掛け心地とホールド性がいいな、と思ったら運転席・助手席セットで27万円なりのオプションのレカロ製だった。ただの激辛スパイスではなく、一流の職人が腕によりをかけたスパイスだから美味なのだ。
面白いのは、試乗車に付いていたオプションのインテリジェントクルーズコントロールだ。車速をセットして先行する車両の追従を始めると、エンジン車より明らかにキメ細やかに、スムーズについていく。運転する楽しさといい、自動運転のアドバンテージといい、モーターが有利なんだな、とエンジン車育ちとしてはしみじみした。
同時に、モーターで走る時代になっても、人の手によるチューニングは大事だということも痛感した。モーターとバッテリーで走るEVの時代になるとだれでもクルマをつくれるようになるなんて言説もあるけれど、とんでもない。
NISMOにはぜひAMGやBMW M社のように、楽しいクルマをばんばんつくってもらいたい。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
日産ノートe-POWER NISMO S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4165×1695×1535mm
ホイールベース:2600mm
車重:1250kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:83ps(61kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:103Nm(10.5kgm)/3600-5200rpm
モーター最高出力:136ps(100kW)/2985-8000rpm
モーター最大トルク:320Nm(32.6kgm)/0-2985rpm
タイヤ:(前)195/55R16 87V/(後)195/55R16 87V(ヨコハマDNA S.drive)
燃費:--km/リッター
価格:267万1920円/テスト車=349万7304円
オプション装備:ボディーカラー<ブリリアントホワイトパール>(3万7800円)/インテリジェントアラウンドビューモニター<移動物検知機能付き>+インテリジェントルームミラー<インテリジェントアラウンドビューモニター表示機能付き>+ヒーター付きドアミラー(7万5600円)/インテリジェントクルーズコントロール+インテリジェントLI<車線逸脱防止支援システム>+日産オリジナルナビ取り付けパッケージ+ステアリングスイッチ<クルーズコントロール、オーディオ、ハンズフリーフォン>(8万1000円)/NISMO専用チューニングRECARO製スポーツシート<前席>(27万円)/ヒーター付きドアミラー+PTC素子ヒーター+リアヒーターダクト+高濃度不凍液(2万4840円) ※以下、販売店オプション ナビレコパック<MM518D-W>+ETC2.0ナビ取り付けパッケージ付き+カーテンエアバッグ無し(26万9294円)/ウィンドウ撥水(はっすい)12カ月<ウィンドウ1面+フロントドアガラス2面>(1万0098円)/NISMOフロアマット<ブラックNISMOバージョンe-POWER専用>寒冷地仕様(2万9700円)/マルチラゲッジボード(2万7052円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:7006km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:397.0km
使用燃料:22.4リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.7km/リッター(満タン法)/18.2km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。