V6よりもやっぱり直6!? シリンダーの並べ方で何が変わる?
2019.10.09 デイリーコラム直6にこだわっていたとは知らなかった
今年もすでに後半戦。そんな2019年の日本自動車界におけるトップニュースは? と問われれば、現時点では「スープラの復活」という話題を筆頭に挙げる人は少なくないだろう。
2000年代初頭でピリオドが打たれたと一度は覚悟をしたブランドが、“スポーツカー不毛の時代”と言われる今に復活を遂げたのは、それだけでも感慨深いこと。さらに、それがひと昔前は到底想像もできなかった、BMWとトヨタによるコラボレーションというカタチで実現されたとなれば、大きなニュースにならない方が不思議というものだ。
一方で、個人的にちょっと驚いたのは、コラボレーションの理由のひとつに、トヨタから「BMWに直6エンジンがあったから」というフレーズが挙がったこと。
振り返れば、確かに歴代スープラの心臓には常に直列6気筒のエンジンが設定されていた。とはいえ、それは単にその時々におけるトヨタの“手持ちのエンジンラインナップ”が生み出した偶然(?)ではなかったのか。
開発陣が直6というエンジンのデザインにそこまで強い思い入れを抱き、それがスープラのヘリテージであるというこだわりまで持っていたとは、かつてA80型を所有していた自分にとっても、ちょっと意外な事柄だった。
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BMWの6気筒に外れなし
なるほど、これまで体験したBMWの直列6気筒エンジンでは、ひとつとして“外れ”の感覚を味わったことがない。どのユニットもよどみのないパワーの伸び感や澄んだサウンドが共通しており、さらには燃費までもが大いに優秀であったという記憶がよみがえる。そんなBMWの作品に、トヨタがスポーツカーの心臓として食指を動かしたくなる気持ちは、十分理解できる。
一方で「だから直6デザインは優れている」と単純に言い切る気になれないのは、他社の直6ユニットに“そうではなかった”というものが思い当たるからだ。理屈では、特に振動特性面で極めて有利なデザインであることは承知の上で、これまでの経験から「直6=優れたエンジン」とは必ずしも言えないように思う。
確かに、新型スープラの動力性能にはほれぼれさせられる。単なる出力面のみならず、フィーリングの素晴らしさという点でも、「さすがはBMWの直6ユニットだ」と、思わずそんな声が口をつきそうになる仕上がりだ。
が、もしもBMWが6気筒エンジンを直列ではなくV型でデザインしていたら……? きっとそれでもこのコラボレーションは破談となることなく、“V6スープラ”が誕生して、今日同様の賛辞を浴びることになっていたのではないだろうか。
そんなことを夢想するのは、BMWであれば、きっと「V型デザインであっても秀逸なエンジンを完成させたはず」という確信が持てるから。そして、そう考える根拠は、最近乗った「日産スカイライン」の6気筒エンジンに、いたく感心したせいでもあるのだ。
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レイアウトではなくつくり手による味の違い
世界でもいち早く“手放し運転”を実現させた「プロパイロット2.0」こそが最大の売り物だという改良型スカイライン。しかし、個人的に「本当はこちらこそが見どころなのではないか!」と感じたのが、日本向けモデルには初登場の新世代6気筒エンジン「VR30DDTT」が生み出す、何とも魅力的な動力性能だった。
全領域でレスポンスに優れ、パワフルであるだけにとどまらず、パワーの伸び感やサウンドなども秀逸。そんなゴキゲンなテイストを味わわせてくれた日産発の6気筒ユニットは、ツインターボ付きの3リッターにしてV型デザインの持ち主だ。
端的に言って、この仕上がりを知ってしまうと「直6の方が優れている」とは簡単に口にできなくなる。同時に、そもそもが“エンジン屋”であるBMWの手にかかれば、仮にV型デザインであっても、やはりこの日産製ユニットに勝るとも劣らない、素晴らしいテイストの6気筒エンジンを生み出すに違いない、とも想像できるのだ。
こうして、シリンダーレイアウトのみでエンジンの評価は行えないというのはもちろん6気筒ユニットに限った話ではない。例えば4気筒ユニットでも、オーソドックスな直列エンジンの中に、VTECのカムが切り替わった瞬間にパチンとはじけるようにパワーを絞り出したホンダの「B16A」や、「6気筒エンジン何するものゾ」とばかりに際限なくスムーズに回り続けた「三菱ギャランAMG」(!)専用となる自然吸気の「4G63」など、心に染み入るようなエンジンが存在した。
4気筒エンジンとしては、スバルとポルシェが手がける水平対向ユニットの評価が特に高いのは事実。が、そうした名声はいずれも、低重心・低振動といった理想を追う一方で、高コストで融通が利かないといった“特殊なデザイン”を生かすことを前提に開発された、優れたシャシーとの組み合わせによって初めて実現されているものでもあるはずだ。
一列に並べられたりV型を描いたり、はたまた向かい合わせで水平に置かれたり……。
そんなさまざまなシリンダーレイアウトが存在する背景には、理想と現実のはざまに置かれたエンジニアの苦悩が垣間見えるようでもある。
しかし、この先パワーソースが「電動モーター一択」となってしまえば、こうした話題も「技術の黎明期における一過性のもの」として忘れ去られる時代がやってくるのだろうか……。
(文=河村康彦/写真=トヨタ自動車、BMW、日産自動車、本田技研工業/編集=藤沢 勝)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。