「トヨタGRスープラ」の生産を手がける
マグナ・シュタイヤーってどんな会社?
2019.04.17
デイリーコラム
本格オフローダーからEVまで
「メルセデス・ベンツGクラス」をはじめ、「BMW 5シリーズ」「BMW Z4」「ジャガーEペース」に電気自動車の「Iペース」、そして「トヨタGRスープラ」……。これらに共通するものが何かおわかりだろうか。
実はこれらはすべて、マグナ・シュタイヤーのオーストリア・グラーツ拠点で生産されているクルマだ。なぜ現在、自国に自動車メーカーを持たないオーストリアで自動車製造を手がけているのか。それは、1900年代初頭からグラーツで自動車製造を手がけていたシュタイヤーヴェルケ(Steyr-werke)とプフヴェルケ (Puch-werke)の2社に端を発する。そして1935年、軍用車両である「ゲレンデヴァーゲン」(現在のGクラスのルーツ)をダイムラーと共同開発するために設立されたのが合弁会社のシュタイヤー・ダイムラー・プフ(Steyr-Daimler-Puch)だった。
以来、現在に至るまでGクラスはメルセデスの工場ではなくこのグラーツで生産されている。その後、ここでさまざまなブランドのクルマが生産されてきた。1998年にはシュタイヤー・ダイムラー・プフがカナダに本社を構える世界有数のメガサプライヤー、マグナ・インターナショナルの傘下となったことで、2001年に社名が現在のマグナ・シュタイヤーへと変更された。同社はマグナ・インターナショナルが世界中に持つ拠点の中で最も大きく、また唯一完成車を生産している。
100年以上も自動車製造を手がけている同社の特徴は、車両製造のみならず、システムやエンジニアリングなど、自動車メーカーさながらの開発ノウハウを持っていること。マグナ・インターナショナルは、ボディー&シャシーやパワートレイン、エクステリアやシート、エレクトロニクスなど7グループを有しており、その気になれば自社ブランドで自動車を造ることが可能だ(実際にコンセプト車両の開発は手がけているようだが)。しかし、独自のブランドを持たず複数のメーカーの車両を同時並行で製造している。内燃機関を持つ既存の自動車からハイブリッド車、ジャガーのような電気自動車までを受託生産する。これまでに29車種、350万台以上を生産してきたという。
ニッチなモデルの生産はお任せあれ
過去に手がけたモデルをいくつか挙げてみると、Gクラスはもとより、1950年代にはフィアットの「500」や「650」、1980~90年代には、フォルクスワーゲンの「トランスポーター4×4」や「ゴルフカントリー」、さらには「アウディV8 L」「ジープ・グランドチェロキー」などがあった。この顔ぶれをみればわかるように、特に4WDモデルの生産に強みを持っている。
メルセデスの基幹車種である「Eクラス」のW210型およびW211型の「4MATIC」モデル、さらに初代「BMW X3」やMINIの「ペースマン」と「カントリーマン」もここで生産されていた。
また4WDモデルだけでなく、メルセデスの「SLS AMG」の塗装済みアルミボディーを生産したほか、2010~12年には「アストンマーティン・ラピード」の、2010~15年には「プジョーRCZ」の完成車の生産も手がけた。この頃にはポルシェから「ボクスター/ケイマン」の生産を受託する話もあったようだが、それは破談になったという。いずれにせよ、スポーツカーのような少量生産車種にも対応できるのが、マグナ・シュタイヤーの強みといえる。
BMW Z4/トヨタGRスープラという姉妹車がこのグラーツで生産されている理由について正式なアナウンスがあるわけではない。あくまで想像だが、複雑なボディーパネルなどの生産にはそれなりのノウハウが必要で、BMWとトヨタの既存ラインのマイナーチェンジでは対応できず、かといって少量しか売れないスポーツカーのためにいずれか、もしくは両社がそれぞれに専用ラインを敷くのは非効率だろう。であればBMWとはすでに数車種での取引経験があり、生産工程を含めて多くのノウハウを持つグラーツで……、という話になったとしても不思議ではない。
BMWやトヨタのような大メーカーであっても、2シータースポーツカーを単独で造り続けることが難しい時代になってきた。トヨタとスバルや、マツダとフィアットの協業もしかり、メーカー間の垣根を越えての共同開発、さらにそれをも超えるマグナ・シュタイヤーのような企業の存在が、クルマ好きにはたまらないニッチなモデルを支える重要な鍵を握ることになるのだろう。
(文=藤野太一/写真=トヨタ自動車、メルセデス・ベンツ日本、ジャガー・ランドローバー・ジャパン/編集=藤沢 勝)

藤野 太一
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