ジャガーIペースHSE(4WD)
ようこそ新しい世界へ 2019.10.21 試乗記 欧州プレミアムブランドの電気自動車(BEV)として、いち早く“公道デビュー”を果たした「ジャガーIペース」。航続距離438km(WLTCモード)という実用性と、スポーツカーもかくやの動力性能を併せ持つ次世代ラグジュアリーカーが見せる新世界とは?ラグジュアリーBEVの先駆け
先日、ジャガー・ランドローバー各モデルに設定される高性能バージョン「SVR」を熊本県のサーキットで走らせる試乗会に参加し、ガソリンをふんだんに使って大排気量高性能エンジンを味わい尽くす体験が、まるで20世紀的高性能車の断髪式のようだったと報告した。ただし、その日は断髪式だけではなく(断髪式でもないのだが)、同時に新弟子検査も行われた。同社初の電気自動車、Iペースの試乗会も開かれたのだ。
概要をおさらいすると、ここ1~2年でラグジュアリーブランド数社から相次いで発表された1000万円級BEV(バッテリーEV)シリーズのうち、ダントツで早かったテスラを除けば(なぜ除くかよくわからないが)、先陣を切って発売されたのがIペースだ。他には「アウディe-tron」「メルセデス・ベンツEQC」「ポルシェ・タイカン」などがある。日本で発売されているのはIペースとEQCのみ。
エンジンの代わりに最高出力200PSの電気モーターを前後に1基ずつ搭載し(つまり最高出力400PS)、4輪を駆動する。最大トルクは696N・mに達する。ガソリンタンクの代わりに総電力量90kWhのリチウムイオンバッテリーが床下に敷き詰められている。
思った通りに加速する
熊本空港でクルマを受け取って走行開始。九州の田舎道でIペースを走らせると、このクルマが結構デカいことに気づく。全長4695mmはともかく、全幅1895mmは幅広い。全高1565mmはよほど古い立体駐車場でなければ受け入れてもらえるのではないか。ホイールベース2990mmも全長に対し長い。タイヤが四隅にあるということだ。ホイールベースが長く全幅が幅広いのは、大容量バッテリーを床下にできるだけ薄く敷き詰める必要があるBEVの宿命。その代わり自動的に低重心のクルマが出来上がる。エンジンがないし、Iペースは同じモーターを前後車軸に置くこともあって前後重量配分は理想的な50:50。
BEVらしくアクセル操作に対する反応はすこぶるよい。加速についてはドライバーがこうしたいと思って操作した瞬間にその通りになる印象だ。望めば乱暴なほどの急加速もできるが、BEVの場合、なぜかジェントルな運転を心がけようという気にさせられる。まだ親しみのない、得体(えたい)の知れないものを動かしているからだろうか。常に静粛性が高く、あえて踏み込んでもエンジン音や排気音が高まるわけではないので、その甲斐(かい)がないというのもあるのかもしれない。
アクセルペダルを戻すと、戻したなりに回生ブレーキが作動し、ブレーキペダルを踏まなくてもそこそこ減速できる。回生ブレーキの強弱は2段階から選ぶことができる。またクリープの有無も選ぶこともできる。インスタントコーヒーではないが、僕はクリープなし、回生ブレーキ強が運転しやすいと思った。個人的な好みを言うならアクセルペダルオフ時の回生ブレーキをもっと強く作動させてほしい。
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よく曲がり、よく止まる
Iペースはエアサス(24万円のオプション)とコイルサスを選ぶことができるが、オススメはエアサス。理由はふたつあって、まずエアサスのほうが普段の乗り心地がややソフトで快適なこと。その差は大きくはないが、乗り比べれば結構だれでもわかるはず。もうひとつの理由は車高調整ができるから。通常走行時に対し、停止時には40mm下がって乗降性を高め、悪路走行時には逆に50mm上がってロードクリアランスを稼ぐ。オンロード走行時にも通常時よりも10mm下げて空気抵抗を減らす。渡河水深は500mm。この日乗ったのもエアサス仕様。ダンパーのチューニングも適切で、20インチの大径タイヤを装着するにもかかわらず不整路面でバタつくことはなく、常に快適な乗り心地を得られた。
昨年の海外試乗会でもそうだったし、今回もそう。ジャガーはIペースの運動性能に自信をもっているのだろう。EVにもかかわらず、またSUVにもかかわらず、試乗会にサーキットを盛り込みたがる。実際、Iペースはやたらと速いし、よく曲がり、よく止まる。曲がりに関しては、必要に応じて内輪にブレーキをかけるトルクベクタリングバイブレーキが威力を発揮し、タイヤのグリップ力の範囲内であれば、ステアリングを切れば切っただけ曲がってくれる。止まることに関しても、何度ハードブレーキングを繰り返しても2.2t超の車体の速度をギュッと減じてくれた。サーキット走行とは関係ないが、街中での減速程度なら回生ブレーキのみで事足りることが多いので、BEVはブレーキパッドのもちがよいという。
サーキット走行のような高負荷走行を続けると、バッテリー保護のために動力性能を大幅にダウンさせるBEVもあるが、Iペースは高負荷走行を重ねてもその兆候は感じられなかった。もちろん、続ければどこかでバッテリー保護が介入するはずだが、その前にドライバーが疲れる程度には走行可能だった。
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BEVの基本は自宅充電
BEVは加速がよいといわれるが、Iペースはサーキットでどれくらい速いのか。この日参加した元レーシングドライバーのベテランジャーナリストが「FペースSVR」(最高出力550PS/最大トルク680N・m/車両重量2090kg)とIペースで同じコースを走らせた結果、IペースはFペースSVRの1秒落ちだった。走行後にだれもが口をそろえて言うのは、加速力はIペースのほうが優れているものの、Iペースはストレートで130~140km/hに達したあたりからスピードの伸びが鈍るのに対し、FペースSVRはそこから先もぐんぐん速度が増していくということ。このため、最高速が190km/h前後に達するこのサーキットのラップタイムでは、辛うじて高性能バージョンとしての面目を保つことができたのだった。つまり速さ=発進加速性能および中間加速性能である一般道においては、Iペースのほうが速いクルマということになる。
充電環境について。CHAdeMO規格の急速充電器を使えば85分程度でほぼゼロの状態から80%まで充電ができる。家庭で普通充電する場合にはほぼゼロの状態から100%まで12~13時間かかる。ただし一度満充電すると438km走行可能(WLTCモード)なので、毎晩5~6時間充電できれば一日200km前後は走行可能。たいていの場合、十分だろう。登録から8年もしくは走行距離16万km以内でバッテリー性能が70%を下回った場合を対象とした保証(交換)が付帯する。
月額基本料3300円のジャガーカードを契約すれば街中の契約充電スポットが使え、今ならそれも最初の1年間は無料(月額基本料以外に、急速充電で16.5円/分、普通充電で2.75円/分が別途必要となる)。充電スポットの多い都市部なら、自宅に充電環境がなくてもやっていけるかもしれない。ただしそれでも快適なカーライフだと感じるかどうかは人それぞれ。やはり自宅充電、遠出の際に外部充電というのが基本だろう。その点で現段階ではBEVはユーザーを選ぶが、該当する人にとっては十分な総合性能だと思う。ざっくり1000万円をクルマに使うことができる場合、V8以上のマルチシリンダーエンジンを未経験なら今のうちに一度経験しておくべきで、経験済みならIペースはじめラグジュアリーBEVの世界に飛び込むのがよいのではないだろうか。両方あるのがジャガー・ランドローバーの価値だと思う。
(文=塩見 智/写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン/編集=近藤 俊)
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テスト車のデータ
ジャガーIペースHSE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1895×1565mm
ホイールベース:2990mm
車重:2250kg
駆動方式:4WD
モーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:200PS(147kW)/4250-5000rpm
フロントモーター最大トルク:348N・m(35.5kgf・m)/1000-4000rpm
リアモーター最高出力:200PS(147kW)/4250-5000rpm
リアモーター最大トルク:348N・m(35.5kgf・m)/1000-4000rpm
システム最高出力:400PS(294kW)/4250-5000rpm
システム最大トルク:696N・m(71.0kgf・m)/1000-4000rpm
タイヤ:(前)245/50R20 105V/(後)245/50R20 105V(グッドイヤー・イーグルF1)
一充電最大走行可能距離:438km(WLTCモード)
交流電力量消費率:224Wh/km(WLTCモード)
価格:1184万円/テスト車=1384万円
4ゾーンクライメートコントロール(13万6000円)/空気イオン化テクノロジー(1万9000円)/電子制御エアサスペンション(24万円)/アダプティブダイナミクス(16万8000円)/グローブボックス<クーラー&ロック付き>(2万6000円)/20インチ5スポーク"スタイル5068"<グロスブラックフィニッシュ>(6万8000円)/ステアリングホイール<ヒーター付き>(3万7000円)/ブラックエクステリアパック(6万4000円)/ヘッドアップディスプレイ(10万3000円)/固定式パノラミックルーフ(22万8000円)/プライバシーガラス(7万3000円)/トレッドプレート<メタル、イルミネーション機能&JAGUARスクリプト付き>(6万7000円)/コンフィギュラブルアンビエントインテリアライティング(4万3000円)/アクティビティーキー(6万1000円)/カーペットマット(1万8000円)/アダプティブサーフェイスレスポンス<AdSR>(14万5000円)/トリムフィニッシャー<アルミニウムウィーブカーボンファイバー>(19万9000円)/クリック&ゴー<ベースユニット>(0円)/マーズレッドウィンザーレザースポーツシート<エボニー/エボニーインテリア>(0円)/ヘッドライニング<エボニー、スエードクロス>(21万円)/ボディーカラー<ユーロンホワイト>(9万5000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロード&トラックインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--kWh/100km
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塩見 智
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