BMW 118iプレイ(FF/7AT)/M135i xDrive(4WD/8AT)
新しさと“歓び”はある 2019.11.29 試乗記 フルモデルチェンジにあたり、プラットフォームを刷新。FRからFFへと基本駆動方式が変更された「BMW 1シリーズ」の走りとは? ベーシックな「118iプレイ」とハイパフォーマンスモデル「M135i xDrive」を公道に連れ出し、その仕上がりを確かめた。FRからFFへと転身
1シリーズの何より素晴らしいところは、2004年の初代のデビュー以来ずっとFRを貫いてきたところにあった。駆動との二役を強いられることなく操舵のみを担う前輪のすっきりした自然なフィーリング。自分の足で駆けているときのそれにも似た、駆動に集中する後輪の頼もしい感覚。このバランスがとっても好ましかったのだ。
ご存じのとおり、同じクラスのライバルたちはおしなべてFF。“比較的コンパクトなハッチバック+スポーティーなパフォーマンス+FRレイアウト”は、いわば絶滅危惧種だった。にもかかわらずFRを貫き通しているあたりに、勝手に“らしさ”を感じていたのだが、ついに来るべきときが来てしまった。1シリーズがとうとうFFへと転身を図ったのだ。
前輪駆動がダメだとは思ってないし嫌いなわけでもない。同じグループのMINIとともにFFにまつわる技術開発を進めてきて「2シリーズ」のツアラー系などでそれなりに“駆けぬける歓び”をカタチにしてきたことも分かってはいるのだけれど、最初に報を耳にしたときにはちょっとばかりポカーンとした気分にさせられた。
FFへの転身の理由は、説明してもらうまでもなく察しがついた。このご時世、1シリーズでFRレイアウトをキープしようとすると、いろいろ効率がよろしくないのだ。特に大きいのは車内の居住性や積載性の確保だろう。
事実、ボディーサイズが目に見えて先代より大きくなったわけでもないというのに、後席の足元のスペースが40mmほど拡大されるなど全体的に広々とし、楽に乗り込めるようになっているばかりか、ラゲッジスペースも+20リッターの380リッターへと容量を増している。1シリーズはBMWというプレミアムブランドのエントリーモデルということもあって、FRの楽しさや気持ちよさをよく知らない世代だとか駆動方式そのものにはこだわりを持たない女性ユーザーなどの比率も高いわけだから、そのあたりは歓迎されるべき進化といえるだろう。それに実用性や快適性が向上して不平を述べる人はいない。
気がかりだったのは、このクルマがBMWらしいといえるドライビングエンターテインメントをちゃんと提供してくれるかどうか、だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ワインディングロードも楽しめる
メイン機種となる118iは、従来のものに改良を加えた1.5リッター3気筒ターボを搭載している。最高出力は140PS/4600rpm、最大トルクは220N・m/1480-4200rpmという実力。7段DCTとの組み合わせで、静止状態から100km/hまでを8.5秒で走り、最高速度は213km/hに達するという。今回の試乗車である118iプレイは、そのパワートレインと非“Mスポーツ”シャシーの組み合わせだ。
実際に走らせ最初に好感が持てたのは、乗り心地だった。ほどほどの固さは感じるけど、それはしなやかといえる部類で、少しぐらい路面が荒れていても突き上げが気になるようなこともない。その穏やかな乗り味は心地よかった。ここは先代から進歩を遂げている部分だろう。
エンジンも走り始めからスルッとトルクがついてきてくれる感じで走らせやすいし、高速巡航でもさほど力不足を感じることはなく、スムーズに、ほどほどに速く移動することができる。トルクのデリバリーのうまさとおいしいところを使わせてくれるトランスミッションのおかげといえるだろう。
ステアリングのしっかりした手応えに、もしかしたら腕力の弱い女性にはやや重めに感じられるかもと思ったりもしたが、ドイツ製の前輪駆動車であることを考えれば自然に納得のできる部類だろう。とはいえ気になったのはそこだけで、基本、街中から高速道路にかけては予想していたより快適、わりと気持ちよく走ることができた。
ワインディングロードに滑り込んでどうだったかといえば、実は結構楽しんでしまったというのが正直なところだ。ありあまるパワーやトルクがあるわけじゃないということは数字を見れば明らかだけれど、レスポンスも悪くないし回転フィールには望外の伸び感もあって、なかなか爽快なのだ。
ギアのセレクターをマニュアルモードに切り替えておいしいところを多用していくと、スピードも口元が緩むぐらいにはついてくる。スポーツドライビングを好む人たちの中には食わず嫌いで3気筒エンジンをやゆする向きもまだまだあるようだけれど、近ごろの3気筒ターボはなかなか出来栄え優秀なのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
BMWが持つ走りの哲学は健在
それにも増して喜ばしかったのは、よく曲がること。Mスポーツではない、いうなれば“素”の足腰だというのに、とても気持ちよく曲がってくれる。しかも、後ろから意地悪くついてくるクルマ(排気量が3倍近い英国製スポーツカーだった)のドライバーに軽く恥をかいてもらうことができるくらい、コーナリングスピードも速い。
クルマの動きに鈍さや重さはひとつもなく、鼻先は気持ちよくインに向き、姿勢の変化は分かりやすく、イメージしたとおりのラインの上にのせていきやすい。その一連にFFのネガティブさはほとんど感じられないのだ。
もちろんそれにはちゃんと仕掛けもある。エンジン・コントロール・ユニットで素早く細かく駆動トルクの制御を行う「ARB」と呼ばれるタイヤ・スリップ・コントロール・システムが、DSCと連携してアンダーステアを抑えること、内側のタイヤのブレーキをつまんで旋回性を高める電子式の疑似デフロックを採用することなど、ダイナミクス性能を稼ぎ出すための手段を、実はたっぷりと講じている。
FFでありながら気持ちのいいハンドリングとスポーティーなコーナリングをきっちりと手に入れているのは、BMWの哲学が生かされている証しといえるだろう。そこには素直に感服する。
そして忘れてはならないのが、M135i xDriveの存在だ。このシリーズ最強のスポーツモデルは、現在のBMWグループの4気筒で最もハイパフォーマンスな2リッター直列4気筒ターボを搭載している。「X2 M35i」用ユニットに改良を加えたパワーユニットが放つ最高出力は306PS/5000rpm、最大トルクは450N・m/1750-4500rpmだ。
そのアウトプットを、8段ATとリア側に最大50%の駆動トルクを配分するオンデマンド式4WDシステムを介して路面に伝達する。静止状態から100km/hまでは4.8秒で、そのままアクセルを踏み続ければ250km/hでリミッターが利くという俊足ぶりだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ファンを裏切らない
このM135i xDriveも、チョイ乗りレベルだったが走らせることができた。20分程度の試乗だったのでワインディングロードへは持ち込めなかったが、その素性は確かに確認できた。いや、これはもうステアリングを握る席こそがファーストクラスのシートだと考えるドライバーにとっては、最高のモデルである。加速は素晴らしく鋭い。トルクデリバリーに優れていて、あらゆる回転域から速さを引き出しやすい。
サウンドはちょっとばかり演出過多な気もしないでもないけれど、気持ちいい。ノーズの反応は機敏だし、いくつかだけ試せたコーナーでは素直に正確に、そしてもちろん素早く曲がってくれた。X2 M35iで感じたのと同じように、文句なしに速いし楽しいし気持ちいい。さらに乗り心地はX2 M35iよりも一段階以上も洗練されている。
シートの出来栄えも秀逸で、疲れも少なそうだ。1シリーズの中で最もスポーティーで最もロングドライブにも向いているのは、間違いなくこのM135i xDriveだろう。でも、最もベーシックな118iよりも、300万円近く高価だ。1シリーズから派生した別のモデル、と考えた方がいいかもしれない。
通常の118iも、繰り返すようだけど出来栄えは見事だと思う。強力なライバルたちが居並ぶ激戦区といえるクラスに、これまで持っていた武器を捨て、姿かたちだけではなく乗り味にまで新しくも“らしい”キャラクターを持たせて上梓した。Cセグメントの5ドアハッチバックとしての実用性や快適性、使い勝手などをグッと引き上げていながらも、“駆けぬける歓び”を期待しているファンを裏切らない。そこは認めざるを得ないし、素直に称賛したい。
なのに、どことなく寂しいような気分なのは、きっと僕自身が絶滅危惧種に後ろ髪を引かれる絶滅危惧種、とことん古臭いタイプのクルマ好きだからなのだろう。そういう向きには2シリーズのクーペがあるわけなのだけど……。
(文=嶋田智之/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
BMW 118iプレイ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4335×1800×1465mm
ホイールベース:2670mm
車重:1390kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:140PS(103kW)/4600rpm
最大トルク:220N・m(22.4kgf・m)/1480-4200rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91V/(後)205/55R16 91V(ブリヂストン・トランザT005 RFT)
燃費:16.8km/リッター(JC08モード)/14.0km/リッター(WLTCモード)
価格:375万円/テスト車=463万7000円
オプション装備:メタリックペイント<メルボルンレッド>(7万9000円)/パーフォレーテッドダコタレザー<ブラック/ブラック>(0円)/iDriveナビゲーションパッケージ<BMWライブコックピット、BMWインテリジェントパーソナルアシスタント、ITSスポット対応DSRC車載器、BMWコネクテッドドライブプロフェッショナル>(24万9000円)/ハイラインパッケージ<電動フロントシート、フロントシートヒーティング、パーフォレーテッドダコタレザーシート>(25万円)/HiFiスピーカーシステム<205W、10スピーカー>(5万円)/オートマチックテールゲートオペレーションズ<オープン/クローズ>(6万8000円)/クルーズコントロール<ブレーキ機能付き>(4万1000円)/電動パノラマガラスサンルーフ(15万円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1187km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
BMW M135i xDrive
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4335×1800×1465mm
ホイールベース:2670mm
車重:1580kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:306PS(225kW)/5000rpm
最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/1750-4500rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92V/(後)225/40R18 92V(ブリヂストン・トランザT005 RFT)
燃費:13.6km/リッター(JC08モード)/12.0km/リッター(WLTCモード)
価格:630万円/テスト車=680万9000円
オプション装備:メタリックペイント<ミサノブルー>(7万9000円)/クロストリゴン/アルカンターラコンビ<ブラック>(0円)/ビジョンパッケージ<アダプティブLEDヘッドライト、ハイビームアシスタント、BMWヘディングアップディスプレイ>(27万円)/デビューパッケージ<Mスポーツシート、Mシートベルト、アダプティブサスペンション>(11万円)/HiFiスピーカーシステム<205W、10スピーカー>(5万円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1850km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

嶋田 智之
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。




















































