スマートEQフォーツー(RWD)/フォーツーカブリオ(RWD)/フォーフォー(RWD)
足るを知る 2020.02.07 試乗記 シティーコミューターとして親しまれてきたスマートが、電動モビリティーの新ブランド、EQの下で電気自動車(BEV)に生まれ変わった。日本上陸を前に、2シーターの「フォーツー」と同「カブリオ」、4人乗り4ドアモデル「フォーフォー」の3台をスペインで試した。すべてのスマートがBEVに
メルセデス・ベンツの電動化推進を象徴するサブブランド、EQ。2代目からBEVを用意していたスマートに、その冠を頂くスマートEQがデビューしたのは2018年のジュネーブモーターショーでのことだった。
そして、同時にその場で発表されたのが「2020年モデル以降のスマートはすべてのモデルをBEV化する」という施策だ。翌2019年の春には日本市場でも内燃機関(ICE)モデルとしては最後となる限定車が発売された。そして同年のフランクフルトモーターショーで発表されたのが3代目のマイナーチェンジ版となるスマートEQだ。つまりこの新しいデザインのスマートは全車全量がBEVということになる。
日本にも2020年秋ごろの導入が予定されている最新のスマートEQは、フロントグリルの形状や位置、前後灯火類の意匠でこれまでと差異化が図られるほか、グレードに応じてLEDヘッドライトの装着が可能となっている。
ちなみにグリル形状はフォーツーが下すぼみ、フォーフォーが裾広がりと差別化が図られている。そして内装面ではセンターコンソール部の意匠が変更され、8インチのタッチパネルインフォテインメントシステムを採用。その下部にはスマートフォンがゆったり置けるトレー型の小物入れも追加された。
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コネクティビティーを重視
新しいスマートEQが強化したのはコネクティビティーの領域だ。件(くだん)のインフォテインメントシステムはApple CarPlayやAndroid Autoとの連携はもちろん、新たに開発された「スマートEQコントロールアプリ」を用いれば、充電状態や走行可能距離などの車両情報を手持ちのスマートフォンやApple Watchでも確認できるほか、充電状態であれば車内空調の遠隔操作なども可能となっている。
また、スマートEQは「スマートラブ」というダイムラーの都市モバイルサービスにも対応しており、「Ready to」アプリを介して充電ステーションへの誘導や予約、盗難時の探知や位置情報の通報、さらには愛車のシェアリングをオペレートすることも欧州主要国では可能となっているほか、ドイツではシェアリングに料金を設定し、オーナーの収入とする機能も既に運用が開始されている。
ちなみに日本仕様ではReady toアプリは非対応、スマートEQコントロールアプリの対応も不明とのこと。一方、スマートフォン連携のインフォテインメントシステムは採用される予定で、ローカライズされた車載のナビソフトによる、充電器設置ポイントの検索や誘導などの機能も加えられるもようだ。
スマートEQが搭載するバッテリーは「メルセデス・ベンツEQC」と同じく、ダイムラー傘下となるドイツのアキュモーティブ社製で、容量はフォーツー、フォーフォーともに17.6kWh。リアマウントされるモーターも共通で最大トルクは160N・m、最高出力は81.5PS、定常走行などで要求される連続出力は55.7PSとなる。
動力性能の一端を示す0-100km/h加速タイムはフォーツーで11.6秒、フォーフォーで12.7秒と凡庸だが、注目すべきは0-60km/h加速だ。フォーツーは4.8秒、フォーフォーで5.2秒と、「日産リーフ」や「フォルクスワーゲン・ゴルフGTE」辺りと比べても遜色のない、いかにもBEVらしい瞬発力を示すものといえるだろう。ちなみに最高速は130km/hとアウトバーンの推奨速度には達している。
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MaaS領域での利用も視野に
一方で気になるのは航続距離だが、こちらはNEDCモード値で一充電あたりフォーツーが147~159km、フォーフォーが140~153kmとなっている。満充電までの時間は日本の家庭用200V・15Aの普通充電器を使用した場合で約8時間。昨2019年辺りからは200V・30Aに対応した6kWの普通充電器も発売され始めたが、一般家庭ではエアコンや電子レンジなど他の家電との兼ね合いも含めて電力契約の変更を迫られる事例もあるだろうから、多くの場合は夜間電力を用いて寝ている間に充電というのが主な使い方になると思う。
スマートEQで興味深いのは、Comboなどの普及型急速充電に対応していないことだ。つまり日本のCHAdeMOにも非対応ということになる。オプションでは産業用の三相電源に対応した22kWの充電器が用意されるが、基本は普通充電での使用を想定しているというわけだ。
この点を担当者に尋ねると、まず17.6kWhの電池はスマートのボディーサイズ的にパツパツの体積であるとともに、大半の人々が日常的な移動距離をカバーできる容量で、仮にこれ以上搭載したとしても重量や価格などもろもろの均衡が一気に崩れることになり、そのギリギリの線でもあるということだった。
それを前提に、このパッケージならグリッドに多大な負荷を掛けることもなく家庭用電源でも扱いやすく、さらには太陽光などの再生可能エネルギーの受け皿としても適切と、電気の多様性を大切にできるというメリットがあるという。
同門にEQCがある以上、それはダブルスタンダードではないかという意見もあるだろうが、ダイムラーとしてはファーストカーとしてのBEVの可能性をEQCに託し、スマートEQは既に実現しているシェアリングなどMaaS領域での利用も視野に入れつつ、シティーコミューターとしての適性をより引き上げるためにBEVシフトしたと見るのが自然だろう。
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ミニマイズされた暮らしのシンボル
ICE時代からBEVへと変わって進化したのは音・振動まわり……というのは当たり前すぎる話だが、ドライバビリティーそのものに著しい差はない。逆に言えばBEVだからと張り切ってその特性を誇示するようなセットアップはむしろ抑え、万人がいたってスムーズに扱えるものになっているということだ。走り始めのスロットルのしつけ具合や、回生~油圧のブレーキタッチなどが、きれいに整えられているところには感心させられた。
動力性能的には都市部で多用する30~90km/h辺りの中間加速域で160N・mの力強さを十分に感じさせる一方、100km/h向こうから130km/hの最高速付近までは加速力が鈍るという印象で、この辺りの味付けもシティーコミューターとしてブレがない。
フォーフォーはその重量分もあってパフォーマンスは平穏なぶん乗り心地は向上している一方、フォーツーはこの中間加速をうまくキャラクターに転化して実に小気味よく走るが乗り心地は気持ち跳ね気味と、乗り味的には両車の差異がやや明確化している。
BEVを取り巻く現状と今後の展望を鑑みるに、社会貢献の意志をもってそれを生活に採り入れる上で抱いておくべきマインドは「足るを知る」だと常々思う。普段、どこまでの仕事をクルマに期待し担わせているか。それを考えればスマートEQという選択肢がクレバーなものに見えてくるという家庭もあるだろう。借家風情で邪心に満ちた自分ではこのクルマを囲うことは難しく、それゆえにスマートEQは心豊かに暮らしをミニマイズできる方々のシンボルとしてまぶしく映ってしまう。
(文=渡辺敏史/写真=ダイムラー/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
スマートEQフォーツー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2695×1663×1555mm
ホイールベース:1873mm
車重:1095kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:81.5PS(60kW)
最大トルク:160N・m(16.3kgf・m)
タイヤ:(前)185/50R16/(後)205/45R16(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
一充電最大走行可能距離:147~160km(NEDCモード)
交流電力量消費率:16.5-15.2kWh/100km(6.0-6.5km/kWh、NEDC複合モード)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
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スマートEQフォーツーカブリオ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2695×1663×1555mm
ホイールベース:1873mm
車重:1125kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:81.5PS(60kW)
最大トルク:160N・m(16.3kgf・m)
タイヤ:(前)185/50R16/(後)205/45R16(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
一充電最大走行可能距離:145~157km(NEDCモード)
交流電力量消費率:16.8-15.4kWh/100km(5.9-6.4km/kWh、NEDC複合モード)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
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スマートEQフォーフォー エディション1
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3495×1665×1554mm
ホイールベース:2494mm
車重:1200kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:81.5PS(60kW)
最大トルク:160N・m(16.3kgf・m)
タイヤ:(前)185/50R16/(後)205/45R16(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
一充電最大走行可能距離:140~153km(NEDCモード)
交流電力量消費率:17.3-15.9kWh/100km(5.7-6.2km/kWh、NEDC複合モード)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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