スバル・トレイルシーカーET-HS(4WD)
当代随一のマルチプレイヤー 2026.06.09 試乗記 スバルから電気自動車(BEV)の第2弾モデルである「トレイルシーカー」が登場。ルーフの長いステーションワゴンスタイルのクロスオーバーという、いかにもスバルらしいBEVは、機能的で快適で、走らせても楽しい万能なマシンに仕上がっていた。いうなればBEV版「レガシィ アウトバック」
2026年4月9日に発表されたスバル・トレイルシーカーは、それから2カ月弱の間に1962台の受注を集めた。月ごとにみるとおよそ1000台。月販目標は250台なので、まずはその4倍をマークする好調な滑り出しとなったようだ。
僕としても、それには素直に納得。なぜなら、この冬に雪と氷のワインディングロードでプロトタイプに乗ったときも、今回、ごくごく普通の一般道で走らせたときも、とても好印象だったからだ。個人的な好みからすればハッキリとエンジン派の僕だけど、ここ2年ほど、勉強のために各メーカー/インポーターから1週間単位でBEVを借り受けては、自分の日常にあてはめて試乗するというのをちょいちょい繰り返してきた。それもあって、こっちはこっちでだいぶ好きになったし、それなりに理解も深まった気もする。
トレイルシーカーの2回の試乗は、それぞれせいぜい半日ずつといった感じで、「自分の日常にあてはめる」というのは今のところかなっていないのだけれど、実際にそれを試したとしても高い満足度を得られるんじゃないか。そう思えるくらいにすでに印象がいいのだ。ファーストカーとしてもセカンドカーとしても、選ぶ価値は十分にあるモデルに違いない。
その理由はいくつか挙げられる。まずはそのパッケージとサイズだ。トレイルシーカーは「ソルテラ」をベースに開発されたモデルで、パッと見からしてわかるとおリ、ワゴン風味とアウトドア風味を濃厚に漂わせている。その昔、「レガシィ」から「レガシィ ツーリングワゴン」そして「レガシィ アウトバック」が生まれたのと同じで、いうなればソルテラ アウトバックみたいな存在だ。実際のところ、ヨーロッパやイギリスでは「e-OUTBACK」として販売されている。
キャパシティーもソルテラとははっきり異なっていて、155mm長いリアオーバーハングにより、181リッターも大きな633リッターの荷室容量を得ている。実際にリアゲートを開けてみると、そのスペースの広さが実感できる。スーツケース4つ、ゴルフバッグ4つを収められるというのも納得。後席も使って4人でキャンプに向かうにしても、そのための道具などやすやすと飲み込んでしまうだろう。また、荷室の横にはポケットが、床下にはサブトランクがあって、カーゴフックやアクセサリーコンセントも備わっている。アウトドアで楽しく遊ぶことをマジメに考えているのがうかがえる。
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大きいけれど、ちょうどいい
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4845×1860×1675mm。見た目の印象よりは控えめな数値だが、それでも「トヨタ・ハリアー」などよりは明確に大きい。止められない機械式駐車場も少なくないだろうし、そもそも大きなクルマが苦手という人には、ちょっとつらいかもしれない。
ただその反面、たとえば家族や友人と遊びのギアを満載してどこかへ出かける、なんてときには、これくらいのサイズとキャパシティーがとても重宝する。恐らくはこのあたりが、一般的な日本の使用環境における扱いやすさと、レジャーシーンでの機能性がバランスするギリギリのあたりなのだろう。ちなみに、今回は東京を出発して富士五湖方面へと向かい、一般道と高速道路、それにちょっとしたワインディングロードも走ったのだが、平場の駐車場などで「枠いっぱいに近いな」と感じたことはあったものの、そこで難儀したりはしなかった。
また、扱いに難儀しないことに関しては、全方位にわたって素晴らしく視界がいいことも大きいと思う。スバルは“0字安全”の一環として、死角が少なくて周囲を確認しやすく、車体の四隅をつかみやすい設計やデザインに、とっても強いこだわりを持っている。トレイルシーカーがそれなりのサイズであることは前述のとおりだが、走行車線が狭くて他車と接近するような場面でも、距離感がわかりやすいから神経をすり減らすことはほとんどない。コーナーが続く山道でも、車外が一面真っ白で、走路を把握しにくい雪道でも実感したのだけど、Aピラーやサイドミラーの位置・角度が絶妙でコーナーの出口をちゃんと見定められるから、安心感を持って走れるのだ。
こうした要素も含めて、扱いやすくて快適。これがトレイルシーカーの持つ大きな価値のひとつだと思う。
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快適でジェントルで非常に心地いい
トレイルシーカーは快適だ。“快適”といえば、いわゆる乗り心地ばかりが取り沙汰されがちだけど、このクルマはそれだけじゃない。前述した扱いやすさに加えて、動的な面でも“まっすぐ走る能力”に長(た)けていて、全域にわたって微振動が皆無で、なによりアクセルペダルを踏み込んだ直後の駆動の立ち上がりが極めて滑らかで、それが実にいい。ちょっと前のBEVではありがちだった、トルクが急激にふくらんで予想以上に強く加速してしまう、というようなことがないのだ。
ドライバーの感覚とズレがなく、期待どおりに極めてスムーズに加速し、回生ブレーキも同様に自然に減速する。クルマをよどみなく穏やかに、円滑に動かせるこの特性は、ドライバーはもちろん同乗する人たちの疲労の抑制にもつながり、快適性の向上に大きく貢献する。洗練されたシャシーが生み出す滑らかさや柔軟性も極めて重要だけど、パワートレインの優しさや穏やかさも、それに負けないぐらい重要なのである。
もちろん、トレイルシーカーは乗り心地も間違いなく素晴らしい。車体がものすごくしっかりしていて、サスペンションは滑らかに伸び縮みして動きがよく、段差を乗り越えても路面からの突き上げに角がない。ほどほどに柔らかくフラットな乗り味は、ただそれだけで心地のよいもので、きれいな舗装路は当然ながら、荒れた路面でも凸凹に踏み固められた氷雪路でも、あらゆるシチュエーションでしなやかな乗り味を提供してくれる。ここに関しての不平不満は、まず出てくることはないだろう。
また、BEVといえば加速の鋭さが特徴といったところがあるが、トレイルシーカーの場合、その加速は少しも暴力的であったりはしない。一気に速度が乗る感覚はあるが、同時に滑らかで自然で、違和感も怖さもないのだ。変にドライバーを急(せ)かしたりたきつけたりしないから、「やればできるけどやらない」というか、本当に必要なときしか深くペダルを踏み込もうとは思わない。基本的にジェントルな性格のクルマなので、その領域がまた心地よいのだ。いろいろな意味でクルマ全体にゆとりがあるような、そんな大人の感覚でドライブさせてくれるのである。
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胸がすく「走りのよさ」も持ち合わせる
もちろん動力性能に不足があるわけではなく、必要とあらばスポーツカー顔負けの加速をお見舞いしてくれる。今回の試乗車である4WDモデルは、フロントモーター/リアモーターがそれぞれ227PSの最高出力と268N・mの最大トルクを発生し、システム出力は380PSに達する。車重2t超のクルマだというのに、0-100km/h加速は4.5秒という実力だ。記憶を引っかき回してみると、ちょっと古いけど「アルファ・ロメオ4C」が同じく4.5秒で、最近ではMT搭載の「ポルシェ911カレラT(991)」もそうだった。加えてトレイルシーカーの場合、ドライ路面だけじゃなく雪道でも力強く、極めて制御の行き届いたシステムが見事にトラクションを探りながら、素早く気持ちのいい加速を味わわせてくれる。
駆動の優秀さとハンドリングのよさも特筆に値する。スバルのBEVといえば、初期モデルのソルテラからして気持ちよく曲がらせてくれるクルマだったが、トレイルシーカーは、軽い衝撃を受けるぐらいよく曲がってくれるのだ。恐らく4WDの調律を徹底的に煮詰めているからだろう。当時のソルテラと比べると、2モーター4WDの制御はアクセル操作、ステアリング操作、各タイヤの荷重、推定横Gまでをモニタリングして、最適な駆動力配分を実現するものに進化している。だから、より狙ったラインをきれいにトレースしやすく、またリアモーターの出力が向上しているおかげで、後輪がグイッと押し出して曲がっていくような回頭性を示してくれる。
こうした点は、今回よりも雪のワインディングロード試乗のときに強く感じたことなのだけど、スタビリティーコントロール(VDC)も合わせて、とにかく駆動や制動の制御が緻密で、常に適切に作動し続けてくれるのだ。当たり前の速度域で当たり前の操作をしている限りでは、こちらにわずかな不安も覚えさせることなく雪道をトレースしてくれたし、ドライブモードを「スポーツ」にして元気な走りを試みても、気持ちよくノーズをイン側に向けてくれた。4輪で個別に細かくブレーキをつまみ、トラクションを稼ぎ出してくれているのが伝わってきた。
車体がスライドした際のVDCの介入も自然で、挙動を瞬間的に収束させて、行きたい方向へとクルマを進めてくれる。スバルの4WDは駆動のための4WDではあるのだけど、曲がるための4WDでもある。その持ち味はBEVにも継承されているわけだが、トレイルシーカーではモーターの制御が進化したことによって、さらにそれが際立った感すらあった。自分の技量よりクルマの性能が勝っていることもはっきりと実感できてしまったわけだけど、それがちっとも嫌じゃなく、ただただ気持ちよく走ることができた。ニンマリしながら感服するしかない。
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多方面で進化するBEVの機能性と実用性
最後に、BEVとしての実用性の高さについても触れておきたい。トレイルシーカーにはFWDモデルと4WDモデルがあって、WLTCモードでの一充電走行距離は、前者が734km、後者がタイヤサイズに応じて627kmないし690kmとされている。いずれにせよ、実質的にはその7~8割程度と考えても楽々400km超を走れる計算だ。今回、高速道路、一般道と走らせた感じでは、450kmぐらいは余裕でいけそうな印象だった。これなら取材・撮影のために東京と河口湖周辺を往復するなんて、楽勝もいいところ。
というわけで、残念ながら今回は急速充電をする機会がないままに取材が終わってしまったのだけれど、このクルマは充電性能もだいぶ強化されている。150kW出力の急速充電器を使った場合の0→80%の充電時間は、初期型ソルテラの53分に対して28分とほぼ半減。またバッテリーを適切な温度へと調整するバッテリープレコンディショニング機能が備わっているため、充電時に本来の受電能力が発揮できないということも少ないという。過去のBEVの取材では、一部の車種で急速充電時に何度か「あれ? 意外と電気が入ってないな……」と軽いストレスを覚えることがあったのだけれど、そうした経験はバッテリーの温度管理がしっかりできるクルマでは皆無だった。恐らくはトレイルシーカーも、充電時のストレスとは縁がなさそうだ。
加えて、充電インフラも年々着実に拡充していて、今や充電スポットを探してウロウロすることもほぼなくなった。実際のところ、実用面からBEVを能動的に遠ざける理由は、だいぶ減っていると思う。
僕が冒頭で「ファーストカーとしてもセカンドカーとしても選ぶ価値は十分にある」と記したのは、トレイルシーカーそのものの資質――すなわち1台持ちのファミリーカーとしてもしっかり通用する総合性能や、趣味の内燃エンジン車と並行して所有するのに心強い機能性――に加え、ここ2年ほどで、そうしたBEVの実情を実体験として知ったことも大きい。出先で充電場所が見つけられなくても、困ったときには日産のディーラーに行けばいいじゃん、である。
趣味を兼ねて手元に置いている古いチンクエチェント(2代目「フィアット500」)の相棒を考えるとき、いの一番に思い浮かぶのが、実はこの万能感たっぷりのトレイルシーカーだったりする。594万円という価格設定で690km走れる4WDモデルって、補助金とか加味したらいくらになるのかなぁ、なんて考えちゃうぐらいに……。
(文=嶋田智之/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=スバル)
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テスト車のデータ
スバル・トレイルシーカーET-HS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4845×1860×1675mm
ホイールベース:2850mm
車重:2050kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:227PS(167kW)
フロントモーター最大トルク:268N・m(27.3kgf・m)
リアモーター最高出力:227PS(167kW)
リアモーター最大トルク:268N・m(27.3kgf・m)
システム最高出力:380PS(280kW)
タイヤ:(前)235/50R20 104V XL/(後)235/50R20 104V XL(ダンロップSPスポーツマックス060)
一充電走行距離:627km(WLTCモード)
交流電力量消費率:134Wh/km(WLTCモード)
価格:638万円/テスト車=665万5000円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルホワイト・パール>(3万3000円)/パノラマムーンルーフ<電動ロールサンシェード、挟み込み防止機能付き>+235/50R20タイヤ&20インチアルミホイール<ブラック塗装>+樹脂加飾<ダークグレー塗装>(24万2000円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:505km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:241.7km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:6.0km/kWh(約166.7km/kWh、車載電費計計測値)
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嶋田 智之
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