ここがヘンだよCEV補助金! ―電気自動車のヘビーユーザーが不透明な補助金制度に物申す―
2026.06.12 デイリーコラムなにかと話題の「ホンダ・スーパーONE」
先日、筑波サーキットのパドックでホンダの電気自動車(EV)「スーパーONE」が止まっているのを見かけた。すると顔見知りのレース関係者から、こんな声をかけられた。
「スーパーONEって、補助金を使うとすごく安く買えるんでしょう?」
最近はテレビやウェブメディアでも取り上げられる機会が多く、「補助金を使えば驚くほど安く乗れるEV」というイメージが広く浸透しているようだ。
では、実際にはどのくらい安くなるのだろうか?
公式サイトのセルフ見積もりを利用し、「残価設定クレジットを利用。補助金の“縛り”が切れる4年後に車両を返却する」という前提で計算すると、スーパーONEの支払総額は241万9008円となった。ここから、国の「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)」130万円を差し引くと、実質負担額は111万9008円。月額換算では約2万3300円だ。
さらに東京都在住であれば、都の補助金を60万円(通常の補助金50万円+給電機能付車両補助金10万円。今後、さらに増額される見込み)は利用できる。すると実質負担額は51万9008円となり、月額換算では約1万0800円で乗れる計算になる。
いっぽう、同じホンダの軽EVである「N-ONE e:」はどうか? 4年後返却前提の支払総額は212万0310円。国の補助金58万円を差し引くと157万0310円となり、月額換算で約3万2700円。東京都の補助金を加えても97万0310円の、月額約2万円である。
本年度のCEV補助金では、小型自動車や普通自動車の補助額は満額で130万円。いっぽう軽自動車の上限は58万円となっている。小型自動車に“出世”したおかげで、車両価格が高いはずのスーパーONEのほうが、ベースとなったN-ONE e:より安く乗れてしまうのである。
もちろん、補助金は購入の後押しをするための制度だ。しかし、多くの人にとっては「なぜ高価なクルマのほうが安く乗れるのか?」という、素朴な疑問が生まれるのではないか。
“補助金格差”はさらに広がっている
こうした違和感は、普通車と軽自動車の間だけにあるのではない。ブランドの“国籍”に目を向けると、まずは日本メーカーの多くが、国から130万円、あるいは120万円台後半という満額近い補助を獲得している。輸入車勢でも、「ジープ・アベンジャー」は129万円、テスラの「モデル3」と「モデルY」は127万円と高めだ。
そのいっぽうで、たとえばジープ・アベンジャーと基本設計を共有する「アルファ・ロメオ・ジュニア エレットリカ」や「シトロエンë-C4」「フィアット600e」は、いずれも89万円だ。アベンジャーを含め、同じヨーロッパ生産のEVなのに、アメリカのブランドというだけでCEV補助金が一気に上がっているのである。
反対に、BYDの各車は15万円、「ボルボEX30」は36万円にとどまる。とくにBYDは世界最大級のEVメーカーであり、日本国内でも販売を拡大している。それにもかかわらず、補助金額は最低ランクだ。
この差を見ても、やはり多くのユーザーは首をかしげるのではないだろうか。
なぜBYDが最低ランク?
もちろん、CEV補助金は単純に車両の性能やジャンルだけで決まる制度ではない。
評価項目としては、
- 車両性能(車種ごと):20点
- 充電インフラ整備への貢献(企業ごと):40点
- 供給の安定性/サイバーセキュリティーへの対応(車種ごと・企業ごと):100点
- 整備の体制/整備人材の育成(車種ごと・企業ごと):25点
- ライフサイクル全体での持続可能性の確保(車種ごと・企業ごと):10点
- 自動車の活用を通じた他分野への貢献(企業ごと):5点
……の合計200点満点で採点される。補助金額はこの得点によって決まり、
- 130点以上:125万円
- 115~129点:95万円
- 100~114点:65万円
- 85~99点:45万円
- 70~84点:35万円
- 55~69点:25万円
- 54点以下:15万円
という区分になっている。
スーパーONEはさらに「環境負荷の低減およびGX推進に向けた鋼材の導入(企業ごと)」で5万円の加算があるため、130万円の満額を獲得しているのだ。いっぽう、BYDが15万円ということは、制度上は54点以下という評価だったことになる。
しかし、ここで疑問が生まれる。確かに評価項目や配点は公表されているものの、実際に各メーカーや各車種がどの項目で何点を獲得したのか? その内訳は一切公表されていない。車両性能で何点だったのか、サイバーセキュリティーで何点だったのか、充電インフラへの貢献はどのように評価されたのか、ユーザーにはまったく知らされないのだ。
公には結果だけが示され、「130万円」「127万円」「89万円」「36万円」「15万円」という数字だけが並んでいるのである。
拡大 |
本当にユーザーが納得できる制度なのか?
結果だけを見れば、日本メーカーやアメリカブランドのEVは高得点を獲得し、中国メーカーや一部の欧州ブランドは、大幅に低い評価となっている。そこに疑問を抱くユーザーがいても不思議ではない。
とくに、輸入車のなかでもアメリカ勢が高く評価されるいっぽう、欧州勢や中国勢との差が大きい現状を見ると、現在進行中の日米間の通商・関税交渉への“配慮”が働いているのではないか……と勘ぐってしまうのは、私だけではないだろう。
もちろん、そのような事実があると断定するつもりはない。しかし、補助金制度がユーザーにそうした疑念を抱かせるのであれば、制度の透明性という点で改善の余地があると言わざるを得ない。
そもそも補助金はメーカーのための制度ではない。ユーザーのための制度である。EVの普及を目的とするならば、本来はユーザーが好きなクルマを自由に選べる環境を整えるべきだ。ところが現状では、補助金額の差によって購入判断が大きく左右されるケースも少なくない。同じゼロエミッションビークルのEVでありながら、130万円の補助を受けられる車種と15万円しか受けられない車種が存在する。その差は実に115万円にもなる。
私が求めるのはユーザーが納得できる説明である。なぜその車種が130万円なのか。なぜその車種が15万円なのか。その評価結果と根拠を公開すれば、多くのユーザーは納得するだろう。
仮にBYDが本当に54点以下だったとしても、その理由が明確に示されれば受け入れられるはずだ。しかし現状では、評価項目は見えても評価結果は見えない。そのため、制度そのものへの不信感や不公平感が生まれてしまう。
EV市場がさらに成長していくために必要なのは、補助金だけではない。ユーザーが好きなクルマを、気持ちよく選べる環境の整備も重要だろう。そのためには、誰もが納得できる透明な制度設計が欠かせないのではないだろうか。
(文=生方 聡/写真=BYDオートジャパン、ステランティス ジャパン、テスラ、本田技研工業/編集=堀田剛資)
拡大 |

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
ホンダが次世代ハイブリッドの名称を「Honda Hybrid」に決定 命名の理由とその背景を探るNEW 2026.10.26 本田技研工業が2027年からグローバルで用いる次世代ハイブリッドシステムの名称を発表した。その名は「Honda Hybrid」である。「i-MMD」から「e:HEV」へと変更されて6年。慣れ親しんできた名称が変更される理由と、その背景を探る。
-
「マツダRX-7」の復刻部品を生産!? ミクニの挑戦は旧車オーナーの福音となるか? 2026.10.23 ミクニが「マツダRX-7」向け復刻部品の開発検討を開始した。古い自動車部品の供給は、なぜここまで困難を極めるのか? ミクニの挑戦は世のロータリーオーナーにとって福音となるか? 日本の自動車文化に潜む課題と、その解決に挑む企業と人をリポートする。
-
2028年までに復活! 名車「シトロエン2CV」の現代版はその名に値する一台か? 2026.10.22 パリモーターショー2026の会場で大注目を集めた「シトロエン2CVコンセプト」。あの「2CV」の復活とあって多くのファンが目を輝かせるが、それは名車の名を継ぐに足る一台なのか? オリジナルの2CVに乗る今尾直樹が魅力に迫る。
-
電動化時代も軸足は“スポーツ”に CEOに聞いた「アルピーヌブランドのこれから」 2026.10.21 富士6時間レースに合わせて来日したアルピーヌのフィリップ・クリーフCEOにインタビュー。レースカーから市販車にフィードバックされたポイントや、「A110」を含めた今後の商品展開などを聞いてみた。
-
フェラーリが「日本上陸60周年」 記念祭から“ブランドの今とこれから”を読む 2026.10.19 「日本上陸60周年」を祝うファン感謝イベントを開催したフェラーリ。自動車界に燦然と輝くハイブランドは、いま何を目指しどこに行こうとしているのか? 経営トップの談話を交えながら推察してみよう。
-
NEW
日産キックスX e-4ORCE(後編)
2026.10.25思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。箱根のワインディングロードでのドライブで、日産自慢の最新電動パワートレインと4輪制御技術はどんな印象を残したのだろうか。 -
レクサスES350h(FF/CVT)【試乗記】
2026.10.24試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。8代目となる新型ではボディーがググッと大きくなったほか、デザインも一気に現代的に。さらにトヨタグループでは最新鋭のパワーユニットを積むなど、中身も外身も刷新されている。2.5リッターハイブリッドモデルを試す。 -
第61回:「あえてのフツウ戦略」に脱帽! 「スズキeスカイ」の若きチーフエンジニアを直撃!
2026.10.23小沢コージの勢いまかせ!! リターンズスズキの軽乗用EV「eスカイ」が注目を集めている。小さなバッテリーにして一充電走行距離310kmを誇る電費のよさはもちろんのこと、スズキらしさ全開ともいえる価格設定もまたスゴい。若きチーフエンジニアの杉山達樹さんにその秘密を聞いた。 -
第878回:スタッドレスタイヤなのにドライとウエット性能を強化? 「ミシュランX-ICE SNOW+」の走りを試す
2026.10.23エディターから一言2026年8月に発売された「ミシュランX-ICE SNOW+」は、氷雪路でのパフォーマンスはそのままに、ドライ/ウエット路面での性能向上を目指したという最新スタッドレスタイヤだ。冬道のさまざまな路面状況において安心感を提供するという、その走りを報告する。 -
マツダCX-30 25エアエディション(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.23試乗記マツダのコンパクトクロスオーバー「CX-30」に、一部改良で2.5リッターガソリンモデルが登場。新たなパワートレインを得た最新型は、過去のモデルからどのような進化を遂げているのか? 装備全部盛りの最上級グレードで確かめた。 -
「マツダRX-7」の復刻部品を生産!? ミクニの挑戦は旧車オーナーの福音となるか?
2026.10.23デイリーコラムミクニが「マツダRX-7」向け復刻部品の開発検討を開始した。古い自動車部品の供給は、なぜここまで困難を極めるのか? ミクニの挑戦は世のロータリーオーナーにとって福音となるか? 日本の自動車文化に潜む課題と、その解決に挑む企業と人をリポートする。







