半世紀の時を超えて 新旧「アルピーヌA110」に見るフレンチスポーツの進化
2020.03.06 デイリーコラムあのころは怖かった!
右のタイトコーナー。下り坂でブレーキを残しすぎたか「リアがジャッキングした」と思う間もなくハーフスピン! エンジンを載せたオシリを先頭に道を滑っていって、反対車線のガードレール手前で止まった。幸い人里離れた山道だったので肝を冷やしただけで済んだが、後にも先にも公道で“回った”のはそのときだけだ。
乗っていたクルマは、オリジナルの「アルピーヌA110」。1970年代にルノーがメキシコで生産した個体で、日本に個人輸入して車検を取ったばかりだった。喜び勇んで走りに行って、コワい目に遭ったわけである。
A110のリアサスペンションは、後輪駆動車で最も簡便な独立式というべきスイングアクスル。デフから伸びたハーフシャフトがそのまま上下するので、先端にあるタイヤは激しく角度(キャンバー)を変える。通常は根元の位置(デフ側)が低いので両輪はハの字になっていて、カーブでボディーが傾くとトレッド面がしっかり路面に接して踏ん張る。ところが、何かのきっかけでコーナリング中にボディーが持ち上がって外輪がポジティブ(逆ハの字)になった瞬間、グリップを失う。ちなみに、1960年代、アメリカでラルフ・ネーダー氏が「いかなる速度でも危険」と糾弾した「シボレー・コルベア」のリアサスペンションが、このスイングアクスルである。
自分のA110については、すっかり抜けきっていたリアのダンパー(後輪左右それぞれ2本、計4本を必要とする)をKONI(コニ)のスポーツタイプにしたところ、ジャッキングの悪癖は影を潜めた。ただ、安全な広いスペースで何度もハンドリングの確認をして「もう大丈夫」とわかっていても、ハードコーナリングを敢行するたびに、あのときの「フッ」とリアのグリップが抜ける恐怖の感覚がよみがえってきて、胸の奥が冷たくなったものである。
ワンテン好きの間ではよく知られるように、晩年のA110は、“新しいアルピーヌ”たる「A310」に倣って後脚がダブルウイッシュボーンに変更された。そのため、気兼ねなくガンガン走りたい人はいわゆる後期型である「A110SC」を、ラリーフィールドでの活躍に思いをはせ、ネガティブキャンバーのリアタイヤにロマンを感じる向きは「A110S」を求めたというが、どうなんでしょう? 今ではいずれも、手の届かない高根の花になってしまった感がある。
まさに夢のような話
購入資金はなんとかなっても、そもそも売り物が……と嘆いているあなた。時を隔てて復活したニュージェネレーションのアルピーヌA110があるではありませんか!
本国フランスは別格として、日本はドイツと販売台数を競う重要市場ということで、なんと輸入開始当初から右ハンドル車が用意されている。それも、ドライビングポジションに不自然さを感じさせない仕上がりである。夏場はエアコンが効くし、動力系のダイレクト感をスポイルすることなくオートマ走行も可能。ヒャクトーフリークスにとって、まさに想像を超えた、夢のようなアルピーヌといえましょう。
オリジナルA110と21世紀A110の間で、ハードウエアにおける共通点は「カッコが似てる」こと以外にはないけれど、ソフトウエアの面では引き継がれたものがあると思う。
もちろんスポーツカーだから性能は求めるが、一方で機械がイバっていないし、ドライバーを“運転する機械”と見なしたりもしない。ポルシェ好きやロータス党からは「ぬるい」と捉えられることもありましょうが、温かみを持って運転者と共に楽しむクルマがアルピーヌといえるかもしれない。
先日発売されたA110の高性能版たる「A110S」のチューン具合も素晴らしかった。手を抜かない、けれどもヤリ過ぎない絶妙さ。ノーマル110のしなやかな足まわりと、挙動がわかりやすい大きめなロールもいいけれど、110Sのそれは運転操作に対する反応がさらに正確さを増して、新世代のフレンチスポーツを自由自在にコントロールできる! ……かの幻想をドライバーに抱かせてくれる。軽量ミドシップのハンドリングマシンとして、宿敵(!?)ポルシェの顔色なさしめるデキといえましょう(詳細はまた後日、試乗記のコーナーで)。
ほぼ四半世紀。2世代にわたる110体験で、ようやく筆者は「ハードコーナリング→ジャッキング→スピン!」という恐怖のシークエンスから脱することができた気がする。新型「S」のリアサスペンションは、ダブルウイッシュボーンだ。
(文=青木禎之/写真=ダン・アオキ、三浦孝明/編集=関 顕也)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
トヨタもスバルもマツダも いまなぜ2.5リッターエンジンなのか?NEW 2026.9.24 トヨタもスバル、マツダも最新のパワートレインに2.5リッター直4エンジンを採用している。ユーザー感覚では「2リッターを超えると自動車税が高くなるのに」と、疑問に思えるが、そこにはメーカーもユーザーも納得の理由がある?
-
新型「パジェロ」はこれから生産するのに!? 国産自動車メーカーのタイ離れが進んでいる深刻な理由 2026.9.23 国内にも多くのモデルが導入されている国内ブランドのタイ生産車だが、近い将来は事情が大きく変わっている可能性がある。というのも、各社がタイに注力していたのは少し前の話で、実はその生産規模は少しずつ縮小傾向にあるのだ。その背景を解説する。
-
新型「三菱パジェロ」の走りを支えるテクノロジー 「スーパーセレクト4WD-II」って何だ? 2026.9.21 2026年10月末の国内正式発表が待たれる新型「三菱パジェロ」。その価値の多くを占める「悪路走破性」は、どんな技術に支えられているのか? 「SS4-II」「S-AWC」といったキーテクノロジーについて深堀りしてみよう。
-
「レースの技術を生かしています」は本当か? スバルのモータースポーツ関係者に問う 2026.9.18 スポーツカーの広告などで目にする「レースで鍛えられた~」という文句。あれはいったい、どこまでホントなの? スーパー耐久や全日本ラリーに参戦するスバルの関係者に、市販モデルの開発とモータースポーツの関係について語ってもらった。
-
100万円台で購入できるカーマニア納得の“素うどん的名作ハッチバック”を探す 2026.9.17 豪華な装備や使いきれないパワーはもういらない。多くの経験を積み、もしもクルマの基本である「走る・曲がる・止まる」の純粋な手応えにこだわった「素うどん的なクルマ」が気になるのなら、おススメしたいのはこの3モデルだ。
-
NEW
第293回: スイフトが主役の映画? いや、監督がスイフトなんです! 『藁にもすがる獣たち』
2026.9.24読んでますカー、観てますカー曽根圭介の小説を原作にした2度目の映画化。韓国版では「ヒョンデ・ソナタ」が殺人カーだったが、今回は「トヨタ86」に。もっと活躍するのはチャンピオンイエローがまぶしい“スイスポ”。スズキファン必見のアクションエンターテインメント! -
NEW
マツダCX-5 L(前編)
2026.9.24あの多田哲哉の自動車放談マツダの基幹モデル「CX-5」がフルモデルチェンジ。世の注目を集める新型は、期待に応えられる出来なのか? 元トヨタの車両開発者である多田哲哉さんが、ワインディングロードで試乗して確かめた。 -
NEW
トヨタもスバルもマツダも いまなぜ2.5リッターエンジンなのか?
2026.9.24デイリーコラムトヨタもスバル、マツダも最新のパワートレインに2.5リッター直4エンジンを採用している。ユーザー感覚では「2リッターを超えると自動車税が高くなるのに」と、疑問に思えるが、そこにはメーカーもユーザーも納得の理由がある? -
新型「パジェロ」はこれから生産するのに!? 国産自動車メーカーのタイ離れが進んでいる深刻な理由
2026.9.23デイリーコラム国内にも多くのモデルが導入されている国内ブランドのタイ生産車だが、近い将来は事情が大きく変わっている可能性がある。というのも、各社がタイに注力していたのは少し前の話で、実はその生産規模は少しずつ縮小傾向にあるのだ。その背景を解説する。 -
第129回:日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの(後編) ―プロポーションの進化と「駄作」の消失に見る、日本車の現在地―
2026.9.23カーデザイン曼荼羅今や欧州と立場が逆転? 世界的に見ても高い水準にあるという日本のカーデザインだが、そこには本当に足りないものはないのか? 今後、さらなる発展を望むうえで必要なものとはなにか? カーデザインの識者と、日本の自動車デザインの“今”を考えた。 -
日産ムラーノ プラチナム(4WD/9AT)【試乗記】
2026.9.23試乗記ドナルド・トランプ米大統領の圧力のおかげで(?)新しい「日産ムラーノ」の国内導入が決まった。日本を留守にしていた約11年の間にどう変わったのか、まさに「朋有り、遠方より来たる」の気分だ。本格導入よりもひと足早く北米仕様車の仕上がりを試した。





