第172回:フェラーリ2台持ちの葛藤
2020.04.21 カーマニア人間国宝への道フェラーリ2台体制がスタート
フェラーリを初めて買ってから27年。27年目にして初めて、フェラーリを2台同時に所有することになりました。
買ったのは、先日試乗させてもらった“まっすぐ走る348”こと、94年式「348GTS」です。
27年前、初めてフェラーリを買った時は、その存在が重荷で重荷で、自宅車庫にフェラーリがあるということが大きなプレッシャーで、しばらくとてもつらかった。
ただ、人間は慣れる動物らしく、いつの間にかそれが快感に変わり、そのうちアタリマエのことになってしまいました。
でも、フェラーリ2台ってのは新たなプレッシャーだ。なにせ、まったく生活の役に立たないクルマが、それもかなり高価なクルマが2台もあるのだから。「人倫にもとる」とはこのことではないか?
だいたい、フェラーリを買うこと自体、本来庶民がやるべきことじゃない。27年前、自分はそれを「クイーンエリザベス2世号を買うとか、東京タワーを買うみたいな感覚」と例えました。
そういえばクイーンエリザベス2世号、いまどうしてるんだろと思ったら、客船としては退役し、ドバイで浮かぶホテルとして使われているとか。光陰矢の如し。
そんなものを2台も持つなんて行為に踏み込めたのは、知人がつい最近、フェラーリ2台持ちになったという事実があった。
もちろん、フェラーリを複数台所有している人はいっぱいいる。2台どころか、10台も20台も持っている人だって世界にはザラだろう。
でも、その人はサラリーマンなのだ。
サラリーマンの勇者
N氏はサラリーマン。大企業に勤めるエリートではあるけれど、サラリーマンであることには違いない。
そんなN氏は、フェラーリの「F355」が大好きで、知り合った頃はシルバーの「F355スパイダー」に乗っていた。聞けばF355は通算3台目で、以前は赤の「F355ベルリネッタ」、続いて赤のF355スパイダーに乗ったという。
彼は、「スーパーカー世代なので、どうしてもリトラクタブルライトとトンネルバックが好きなんです。それにF355はサウンドも最高ですから」と、F355への激しい愛を語っていた。
そんなN氏は昨年、F355スパイダーからワインレッドの「512TR」に乗り換えた。ついにV8から12気筒へステップアップしたのだ。まさにサラリーマンの勇者!
ここまでなら理解できる。なにしろフェラーリは値落ちが極めて小さいので、思い切って買ってしまえば、その後の乗り換えの金銭的負担は非常に小さい。N氏も「F355からの乗り換えは、いつも買った値段くらいで売れたので、全然ラクでした」と語る。
私もこれまで買ってきた12台のフェラーリ、すべてそんな感じで乗り換えを行ってきた。フェラーリは、一度買ってしまえばこっちのもの。あとは極楽なのだ。
そんなN氏、512TRを手に入れたものの、F355への思いは断ち切れず、つい先日、F355を増車したのである! それも真っ赤な「F355チャレンジ」を! リアウイングの付いたすごいヤツを! 通算4台目のF355を! マジかよ!? サラリーマンなのにいぃぃぃぃぃぃぃ!
N氏によれば、「ベルリネッタとスパイダーに乗ったので、残るはチャレンジだなと思って、狙ってました」だと! サラリーマンなのにいぃぃぃぃぃぃ!
2台持ちでしあわせになる!
フツー、あまり行動を踏み外せないサラリーマンのN氏がフェラーリを2台持っているなら、失うもののないフリーライターの自分が、フェラーリを2台持ってもいいだろう。
いや、サラリーマンに負けてらんねぇ! なにせ自分は大乗フェラーリ教開祖を自称しているんだから! フェラーリ2台くらい持っててもバチは当たるめぇ! 逆にそれくらい持ってないと申し訳ねぇべ! そんな気持ちになれたのです。
ただ、気になることがある。それは、私の2台は、どっちもボディーカラーが黒(ブラックメタ)で、どっちもV8で年代も隣り合わせで、はた目にはかなり似たような2台だということだ。
N氏はワインレッドの12気筒と赤のV8。しっかり変化がある。それに比べて自分の2台は、実に代わり映えがしない。
でも、自宅車庫に2台並べてみたら、「これはこれでいいかも!」と思い直した。
黒いボディーカラーには、どんなクルマもカッコよく見せる効果がある。特に乗ってるのがオッサンの場合、オッサンの七難を隠してくれる。真っ赤なフェラーリに乗ってるオッサンって、周囲から見たらちょっとイタイかもしれないでしょ。黄色とか白でも。
でも黒ならすべてオッケー! 地味でありながら押しは強く、質実剛健でありながら威風堂々。黒には欠点がない。
それに、黒い、似たようなフェラーリが2台前後に並んでると、連結された電車みたいでなんだかカワイイのだ。
おかげで自宅車庫からは「シトロエンDS3」が追い出され、「BMW 320d」ともども、近所の月極青空駐車場に止めることになりました。一方フェラーリはめったに乗らず、ボディーカバーをかけて保管します。つまり黒であるかどうかもめったに見えない。なら色の取り合わせに悩む必要もなかったか! いいじゃないかしあわせならば!
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第345回:10秒ごとの快感 2026.9.28 清水草一の話題の連載。実に16年ぶりのフルモデルチェンジとなった日産の新型「エルグランド」が狙うのは、圧倒的な強さを誇るトヨタのミニバン「アルファード」と「ヴェルファイア」の牙城だ。早速、首都高でエルグランドの走りを確かめた。
-
第344回:アンパンマンよりばいきんまん 2026.9.14 清水草一の話題の連載。メルセデス・ベンツの新型「CLAシューティングブレーク」が気になってしかたがない。理由はその特徴的なフロントフェイス。左右の目玉(ヘッドランプ)がつながったデザインがたまらない。果たして実車の印象は?
-
第343回:おやじ、涅槃で待つ 2026.8.31 清水草一の話題の連載。ちまたでの評判がよく、売れ行き好調の新型「日産キックス」に試乗した。その出来はカーマニアをも満足させる評判どおりのもので、新車購入のきっかけにもなった。え? 購入したのはキックスではない?
-
第342回:どうしてこんなに高いんですか 2026.8.17 清水草一の話題の連載。BYDが日本の軽自動車市場に向けて独自開発した電気自動車「ラッコ」が上陸した。早速、愛車「ダイハツ・タント」の後継として検討すべく、近所のディーラーで試乗することに。果たしてその印象は?
-
第341回:「スカイアクティブZ」は大丈夫か 2026.8.3 清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「マツダCX-5」で出撃した。マイルドハイブリッドのパワートレインと進化したシャシーが織りなす走りを確かめつつ、ディーゼルエンジンがラインナップから消えた3代目CX-5について考えた。
-
NEW
パナソニックが市販カーナビを終売! 巨人の撤退からカーエレクトロニクスの変化を読み解く
2026.10.9デイリーコラムパナソニックが、市販市場向けカーナビゲーション、ドライブレコーダー、リアビューカメラの終売を発表! カーエレクトロニクス界の巨人は、なぜ市場からの撤退を選んだのか? 変化し続けるマーケットの在りようを振り返り、車載機器の未来を考察した。 -
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.10.8試乗記フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。 -
「アプライドD」で何が変わった? スバルの「インプレッサ」と「クロストレック」の進化を探る
2026.10.8デイリーコラムスバルが「インプレッサ」と「クロストレック」の改良モデル「アプライドD」を発表した。モデルライフの折り返し地点となる今回の改良では、ラインナップの刷新がトピック。その内容とスバルの狙いを、スバリスト玉川ニコ氏が解説する。 -
“クルマづくりのプロ”の話をライブで配信! 「あの多田哲哉のクルマQ&A」公開収録のお知らせ
2026.10.7From Our Staff元トヨタの多田哲哉さんが、自動車に関するさまざまな疑問・質問に答える「あの多田哲哉のクルマQ&A」。その話がライブで聞けて質問もできる公開収録を、10月15日(木)の夜、19時半から実施します。 -
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか?
2026.10.7デイリーコラムいよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。 -
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.7試乗記新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。









































