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クルマの電動化は待ったなし! これから10年で技術はどこまで進化する?

2020.05.04 デイリーコラム 林 愛子

迫り来るエンジン禁止時代

「10年ひと昔」と言うが、2010年を振り返ってみると確かに隔世の感がある。日本航空は会社更生法の適用を申請し、カナダのバンクーバーでは冬季オリンピックが開催され、小惑星探査機はやぶさは地球に帰還し、テレビはアナログからデジタルへの本格移行が進んだ。

自動車業界では電気自動車(EV)が注目された。前年から法人向けに発売されていた三菱自動車の「i-MiEV」が一般向けの販売を開始し、年末には日産自動車の「リーフ」が満を持して登場。リーフのバッテリー満充電時の航続可能距離はこの10年間で倍以上に伸び、技術の進化には感動を覚える。

2020年3月、ポルシェは年次記者会見でSUV「マカン」の次期モデルにEVをラインナップすると述べた。マカンEVは以前から情報が出ており、充電に800V技術を採用する以外の詳細は不明だが、あらためて会見で伝えられると期待感が増してくる。生産開始は2020年代の初めになるという。

世界の自動車産業は今後ますます電動化を加速させる。日本はリーフのようなバッテリーEVだけでなく、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)を持っていることも強みだったが、長期的に見るとこれら車両の先行きは厳しくなりそうだ。欧州の国々は2030年から2040年をターゲットに、HEVとPHEVを含むエンジン搭載車両の販売禁止を打ち出している。ポルシェの母国ドイツは10年後の2030年に販売を禁止する予定だ。主力SUVのEV化は当然の流れといえるだろう。

2009年から一般向けの販売が始まった「三菱i-MiEV」。当初は軽乗用車だったが、2018年4月の仕様変更でバンパーの形状が変わったため(全長が伸びた)、現在は登録車として販売されている。
2009年から一般向けの販売が始まった「三菱i-MiEV」。当初は軽乗用車だったが、2018年4月の仕様変更でバンパーの形状が変わったため(全長が伸びた)、現在は登録車として販売されている。拡大
2019年3月にはグローバルでの累計販売台数40万台を達成したという「日産リーフ」。写真の現行モデルは2代目。
2019年3月にはグローバルでの累計販売台数40万台を達成したという「日産リーフ」。写真の現行モデルは2代目。拡大

環境問題とクルマの電動化

車両の電動化には大きく2つの意味がある。

ひとつには二酸化炭素(CO2)の削減。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のリポートによれば、もはや世界の気温上昇は避けられない。楽観的な予測でも21世紀末には0.3~1.7度上昇。無策ならば最大4.8度上昇するという。数字は小さくとも、異常気象や農業・漁業への影響、伝染病の流行など、多大な問題を引き起こす可能性が高い。

そこで、世界の国々は気候変動枠組条約締約国会議(COP)を開催し、CO2等の温室効果ガスの排出削減を議論してきた。1997年のCOP3では京都議定書が採択され、2015年のCOP21ではパリ協定が採択された。ちなみに2020年はイギリスでCOP26が開催予定だったが、コロナ禍で2021年に延期された。

一方、自動車に対しては独自の規制がなされてきた。1970年代に問題視されたのはNOxなどの大気汚染物質だ。日本でもディーゼル規制などは記憶に新しい方も多いのではないだろうか。やがて規制は大気汚染対策から温暖化対策へと変化し、規制対象はCO2になった。アメリカ・カリフォルニア州のZEV規制やEUのEURO(最新はEURO7)、中国のNEVと、さまざまな規制があり、それぞれの地域で車両を販売するには規制の範囲内にCO2排出量を収めなければならない。

言い換えれば、グローバルにビジネスを展開するにはCO2排出量が少ない車両が必要になる。そのため最初は規制対策としてEVが投入された。エンジン車を売るための戦略のひとつだった。また、HEVやPHEVも開発し、エンジン車に近いユーザビリティーを備えつつ、電動化技術でCO2排出量を抑える車両もラインナップし、全体のCO2排出量低減に取り組んできた。

ところが、CO2規制は厳しさを増すばかり。理由は前述の通り、温暖化がもはや避けられないからだ。イギリスBBCはコロナ禍で中国の経済活動が一時止まったとき、CO2排出量が劇的に低下したというアメリカNASAの調査結果を報じている。経済活動を止めれば、温暖化の抑止にはなる。しかし、経済を止めるわけにはいかない。だとすれば、やはり排出量を下げる努力を続けなければならない。エンジン車を売るためにEVをつくるのではなく、これからはEVを売るためのEVをつくることになる。

世界平均地上気温の変化をグラフ化したもの。何も手を打たなければ21世紀末には最大で4.8度上昇する見込みとされている。
世界平均地上気温の変化をグラフ化したもの。何も手を打たなければ21世紀末には最大で4.8度上昇する見込みとされている。拡大

イノベーションにつながる技術としての電動化

環境の側面から見ると、車両の電動化は義務で、つまらないことのように思えるが、そうではない。電動化はCASE(Connected:コネクテッド、Autonomous/Automated:自動化、Shared:シェアリング、Electric:電動化)のキーテクノロジーのひとつだからだ。現在のカーシェアのように必ずしも車両が電動化していなくとも成立するサービスもあるが、ITの導入でシェアサイクルの普及に弾みがついたように、コネクトや自動化と相まって電動化が進むことで、より高度なシェアサービスが可能になる。

これが電動化のもうひとつの意味だ。

10年後の2030年に一気にEVだらけになるとは思えないが、車両の電動化や自動化は進むだろうし、いままでにないサービスも登場する。PHEV市販化もUber設立も通信規格LTEのサービス開始も、すべて2010年前後の出来事だ。一方で、リモートワークや労働時間短縮化など働く環境も変化し、通勤スタイルも変わるに違いない。

そのとき、あなたはクルマに乗ってどこへ行くだろうか。誰かに会うため? 何かを見るため? とにかく走りたいから?

どんな理由でもいい。愛車との未来をゆっくり想像してみてはいかがだろうか。

(文=林 愛子/写真=三菱自動車、日産自動車、環境省、ポルシェ/編集=藤沢 勝)

次期型には電気自動車もラインナップされるという「ポルシェ・マカン」。
次期型には電気自動車もラインナップされるという「ポルシェ・マカン」。拡大
林 愛子

林 愛子

技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。

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