キャデラックXT6ナイトクルーズエディション(4WD/9AT)
ベンツ ビーエム 何するものぞ 2020.04.21 試乗記 アメリカが誇るプレミアムブランド、キャデラックに、3列シートの大型SUV「XT6」が登場。最新の高級モデルにふさわしいハイテク装備と、往年のアメリカ車を思わせるやさしい乗り味を併せ持つニューモデルは、欧州のライバルに勝るとも劣らない実力を備えていた。2本の柱で構成される新時代のラインナップ
XT6は昨2019年初頭のデトロイトショーで世界初公開されて、米本国でも2020年モデルとして登場したばかりの新作SUVである。そういえば、2019年はキャデラックの当たり年でもあり、XT6のほかにも「CTS」にかわる「CT5」、同じく「ATS」の後継となる「CT4」と、セダンも矢継ぎ早に切り替わった。
そんなこんなで、キャデラックがかねて進めていたラインナップ刷新作業は、今回でひとつのカタチになったといってもいい。それは一部の車種しか導入されていない日本にいると分かりにくいのだが、米本国の2020年モデルを見ると一目瞭然である。
米本国におけるキャデラックの最新ラインナップはシンプルで、柱は4ドアセダンとSUVという2本のみ。それ以外のクーペやステーションワゴン、変わり種クロスオーバー的な商品も、今のところは用意されない。そして(一台の例外をのぞいて)セダンとSUVそれぞれに大中小の3車種があり、ともに小さいほうから車名に「4」「5」「6」という数字がふられる。
セダンはすべてエンジンを縦置きするFRレイアウト(とそれベースの4WD)で、新しいCT4とCT5の上に、日本でもおなじみの「CT6」が加わった顔ぶれとなる。もうひとつの柱であるSUVは、これとは対照的に(一台の例外をのぞいて)すべて横置きエンジンのFFレイアウトと、それベースの4WDで統一される。こっちの車名も小さいほうから「XT4」に「XT5」、そして今回のXT6という順番になる。
つまり、新しいキャデラックは(一台の例外をのぞいて)、セダンが縦置きFRレイアウトで3車種、SUVが横置きFFレイアウトで3車種……という整然としたラインナップとなった。ちなみに、先ほどから何度も書いている“一台の例外”とは、ご想像のとおり「エスカレード」である。キャデラックの新布陣は、セダンと乗用SUVが3台ずつならんだ2本の柱の頂点に、エスカレードが君臨するタワー構造(?)になっているのだ。
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良心価格で、高級感があり、しかも使える
こうしてそろったキャデラックの新SUV群を、彼らが競合として強く意識するBMWに照らし合わせてみると、XT4が「X1」、XT5が「X3」に相当する商品となる。というわけで、XT6は「X5」を仮想敵とするが、これら直接的な競合車とならべたときに「サイズは大きめで立派、でも価格は割安」と思わせるツボに落とし込まれているのは、(北米土着商品のエスカレードという例外をのぞけば)すべてのキャデラックに共通する商品企画の基本路線だ。
実際、XT6の全長はX5より明確に長い。さらに、6気筒エンジン、4WD、3列シート、先進安全運転支援システム(ADAS)、フルレザー内装、サラウンドオーディオ……などをすべて標準装備したXT6の国内価格は、カタログモデルの「プラチナム」で870万円。今回試乗した初回限定車だと、高度なナイトビジョンを追加して910万円となっている。
たとえば、X5の「xDrive35d」は本体価格938万円だが、オプションを積んでXT6と同等の内容に仕立てようとすると、あっという間に1000万円を超えて、1100万円という声すら聞こえてくる。客観事実としてキャデラックは割安なのだ。実際、セミアニリン本革のシート表皮はもとより、ダッシュボードやセンターコンソールまで、ていねいにレザーが縫い込まれたXT6の内装はさすがの高級感である。
いかに大型のSUVでも、その3列目シートは成人男性にとって罰ゲームというほかない劣悪な環境のものが大半である。XT6のそれも広々とはいわないが、2列目シートをスライドさせて空間を融通すれば、身長178cmの筆者がヒザを当てずにフル乗車することは可能だ。3列目の着座姿勢は軽めの体育座りにはなってしまうが、あくまで“軽め”であり、長距離走行には向かなくとも短時間なら苦ではない……程度の居住性は確保される。さすがはFFベースだけに、同クラスのFR系より空間効率は高い。
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2t超のボディーを不満なく走らせるパワー
2860mmというホイールベースからも想像されるとおり、XT6はひとつ下のXT5と基本骨格を共用する。そのプラットフォーム(あるいはアーキテクチャー)は、ゼネラルモーターズで「C1XX」と呼ばれるものだ。ちなみに、末っ子のXT4も基本レイアウトこそXT6やXT5に酷似するものの、プラットフォームにはもうひとつ小さなクラスをカバーする「E2XX」が使われている。
XT6は、既存のXT5からスリーサイズすべてが拡大されている。とくにリアオーバーハングと全高を大きくして、前記のサードシート空間を稼ぎ出しているのが最大の特徴だ。XT5と比較すると、横長ヘッドランプを擁するフェイス周辺がより垂直になったのに合わせて、リア周辺のキャビンのボリューム感が明らかに増していることにも気づく。
XT5と同じパワートレインでXT5より100kg以上重い車体を走らせるXT6は、なるほど湧き出るような動力性能ではないが、不足もまるでない。走行モードを駆動方式がFFとなる「ツーリング」にして山坂道でちょっと頑張ると、即座にフロントタイヤが空転しかけるくらいのパンチ力はもちあわせている。
最新エンジンらしく気筒休止も備えており、低負荷時に作動するとメーター内に「V4」というアイコンが点灯するが、その切り替え感はもちろんまるでない。以前試乗したXT5(当時の車名は「XT5クロスオーバー」)比で気筒休止の頻度が目に見えて低いのは、車重などの抵抗が、より大きいからだろう。
いまどきは希少ともいえる大排気量自然吸気の吹け上がりは軽い。高回転になるほど活発さを増すエンジン特性は、今となっては逆に新鮮ですらある。さらに回すと、意外なほどエンスーなサウンドが響いてくるのも一興だ。
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往年のキャデラックを思い出す
いっぽうで、100km/h巡航で9速トップギアに入ると、エンジン回転は1500rpmを切る。こうしてエンジンが静まると、聞こえてくるのはロードノイズだけだ。しかも、そのロードノイズも最小レベルで、静粛性はさすがキャデラックの上級モデル……といいたくなる。
一般道や高速をリラックスして流すときの乗り心地は、その静粛性以上に素晴らしい。この点はXT5よりかさばる車重が効いている面もあろうが、それ以上に標準装備の連続可変ダンパーの完成度がすこぶる高いのだ。
XT6ではパワートレインやシャシーの制御を統合的に切り替える「パフォーマンスドライバーセレクトモード」が用意されており、前記のツーリングモードのほか、パワートレインが4WD化される「AWD」、エンジン特性やパワーステアリング、ダンパーがスポーツ志向になる「スポーツ」、そして悪路用の「オフロード」がある。ちなみに、ツーリングモード以外を選ぶとパワートレインはすべて4WDとなる。
アシが引き締まるスポーツモードでも業界平均としては快適志向で、個人的には「これがノーマルでいいんじゃね?」と思う。それより柔らかいツーリングやAWDモードは、路面凹凸や目地段差をあえて上屋を上下させてフワリといなす味つけとなり、ある瞬間(あくまで瞬間的だが)には昔のアメ車を思わせるやさしさを感じさせる。それは「キャデラックモード」と呼んでさしあげたいくらいに快適なのだ。
しかし、そうした路面不整をフワリと軽やかに吸収しつつも、その上下動を一発収束させるのが、最新鋭の連続可変ダンパーである。XT6は車速や加速度(G)が高まるにつれて、ダンピングも絶妙に引き締まって、高速になるほどピタリとフラットに落ち着いて、コーナリングでも決してアゴを出さない。その調律のワザは見事というほかない。
まあ、本格的な山坂道をそれなりに駆けぬけたいときには、初期反応が高まるスポーツモードが運転しやすいが、個人的にはキャデラックモード(本当はツーリングかAWDモード)固定で、なんら不満はない。
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こういうクルマが評価されるようになれば……
最近の高級車では欠かせない先進運転支援システム(ADAS)についても、XT6は現時点でフル機能を備える。とくに今回の「ナイトクルーズエディション」専用装備となるナイトビジョンも、夜間にメーター画面をスクロールするだけで使える。
ご承知の向きも多いとは思うが、ナイトビジョンとは車両前方の赤外線暗視カメラ映像をメーターパネル内に投影し、さらにXT6の場合は肉眼で見えにくい歩行者や動物を検知して警告(映像内で四角い枠で囲み、さらに“いますよ”的なアイコンが表示される)してくれるものだ。こう書くだけだと、ただの過剰なギミックに思われがちだが、一度使ってしまうと、その便利さと安心感で依存症になる確率はかなり高い装備である。これはぜひカタログモデルにも用意してほしい。なにせ、一台のカリスマを別格の例外とすれば、XT6はキャデラックにおけるクロスオーバーSUVの、事実上のフラッグシップともいえるからだ。
電動パーキングブレーキも備えるXT6のアダプティブクルーズコントロールは全車速対応かつ渋滞追従機能も備わる。その所作は、前方が開けると想像以上に豪快に加速して、所定の車間距離までスパッと達したかと思うと、積極的にブレーキングするタイプだ。つまり、加速・減速の両方で、いわゆる“急××”っぽい制御が目立つところもあり、日本における高速渋滞の典型的なパターンでは、少しばかりギクシャクしてしまう可能性はある。このあたりは欧州車と比較すると、日本での開発があまりされていないと想像される。
ただ、XT6における明確なツッコミどころはそれくらい。繰り返しになるが、その乗り心地は素晴らしい。こういうクルマがBMWのみならず、ドイツやスウェーデン、英国あたりの競合車と正面から比較されて、まっとうに評価されるようになると、日本の輸入車市場ももっと楽しくなると思う。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
キャデラックXT6ナイトクルーズエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5060×1960×1775mm
ホイールベース:2860mm
車重:2110kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:9段AT
最高出力:314PS(231kW)/6700rpm
最大トルク:368N・m(37.5kgf・m)/5000rpm
タイヤ:(前)235/55R20 102W/(後)235/55R20 102W(コンチネンタル・クロスコンタクトUHP)
燃費:シティー=17mpg(約7.2km/リッター)、ハイウェイ=24mpg(約10.2km/リッター)(米国EPA値)
価格:910万円/テスト車=918万6900円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアカーペット(8万6900円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2955km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:529.8km
使用燃料:75.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.0km/リッター(満タン法)/7.2km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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