何が勝敗を分けるのか? 国産コンパクトカーの栄枯盛衰について考える
2020.05.01 デイリーコラムセールスの明暗くっきり
今の新車の売れ行きをカテゴリー別に見ると、最も多いのは軽自動車で、新車として売られるクルマの37%を占める。次に多いのがコンパクトカーで25%だ。かつて売れ筋だったセダンは、9%にまで下がった。
人気のコンパクトカーは、小型車/普通車の車名別販売ランキングでも上位に入っている。2020年1~3月には、「ホンダ・フィット」「トヨタ・ヤリス」「日産ノート」「トヨタ・ルーミー」などが好調に売れた。中堅レベルでは、「トヨタ・タンク」(ルーミーの姉妹車)や「スズキ・ソリオ」「マツダ2」「スズキ・スイフト」「トヨタ・パッソ」が並ぶ。今の日本車には3ナンバー車も増えたが、売れ筋の車種には5ナンバー車が多い。
ただし、すべてのコンパクトカーが好調なわけではない。「三菱ミラージュ」は2020年4月16日に大規模なマイナーチェンジが実施されて、フロントマスクや安全装備を刷新させたが、近年の売れ行きは低調だった。2019年は1カ月平均で265台だから、約1万台のノートに比べると、その3%程度だ。
ノートの日産は「マーチ」も用意するが、この売れ行きも2019年の1カ月平均が779台にとどまる。ノートの8%にすぎない。このようにマーチとミラージュは人気低迷となっているが、過去を振り返ると、両車ともコンパクトカーの主力車種であった。
世代交代を機に一変
マーチは1982年に、日産では最小サイズの小型車として発売された。当時の開発者によると、イタリアのカーデザイナーとして有名なジウジアーロから売り込みがあり、石原 俊社長の強い意向もあって商品化に踏み切った。当時は若年層の間でクルマの人気が高く、マーチは運転しやすいことから女性をターゲットに据えた。発売当初はグレードを4種類そろえたが「初心者には選び方が分からない」という話になった。そこで電動ミラー、チルトステアリング、カセットオーディオなどの実用装備を標準装着する「コレット」を設定し、販売店は「これを買っておけば大丈夫です」と売り込んだ。この戦略が成功してマーチの売れ行きも伸びた。
1992年に発売された2代目は、視界が抜群に優れ運転しやすかった。車庫入れのしやすさでは今でも最高峰だ。しかも外観のバランスもいい。機能と見栄えを高次元で両立させ、工業デザインの本質を突くクルマであった。販売も好調で、1993年から1997年までの登録台数は、1カ月平均で1万1000台前後を記録している。今のノートを上回る売れ行きだった。
2002年に登場した3代目マーチも好調に売れたが、2004年に「ティーダ」、2005年には先代(初代)ノートも加わる。これらの影響で販売台数を下げたが、1カ月平均で2500台は維持していた。
それが2010年に発売された4代目では大幅に下がる。2015年には1カ月平均で1290台、2017年は1190台、2019年は前述の779台だ。4代目で人気が急落した理由は、商品力が低いからだ。内装の質、特に後席を倒した時の荷室など、通常は目に触れない部分の粗さが目立った。後席と荷室は狭い。乗り心地やノイズにも不満を覚えた。発売後の改良を怠ったことも低迷の原因だ。ほかの車種が衝突被害軽減ブレーキを次々と採用するのに、マーチは非装着だったから、購入の対象から外されていった。
決め手は作り手の“愛”
一方、初代ミラージュは1978年に発売され、コンパクトカーの先駆け的な存在となった。初代モデルからセダンを用意するなど、選択肢を豊富にそろえている。1987年に発売された3代目の「サイボーグ」は、1t前後のボディーに最高出力145PSの1.6リッターターボを搭載して、ライバル車を圧倒する速さを誇った。
1991年登場の4代目もグレードが多彩で、1.6リッターのV型6気筒(24バルブ)エンジンも用意した。この後1995年に5代目に発展したが、三菱車の売れ行きが全般的に伸び悩んだこともあり、2000年に国内販売を終えた。
2012年に現行ミラージュが“復活”したが、2013年の1カ月平均の登録台数は1000台少々で、徐々に下がっていく。発売時点で搭載したエンジンは1リッター直列3気筒で、車両重量も売れ筋グレードが870kgと軽い。そこでJC08モード燃費が27.2km/リッターに達することを特長とうたったものの、2015年12月発表のマイナーチェンジで、1.2リッターエンジンの搭載により燃費は25.4km/リッターに下がってしまった。さらに燃費計測の誤りに基づく再計測で、23.8km/リッターに改められている。ミラージュも後席が狭く、内装の質は不満を伴う。しかも、軽いボディーと燃費重視のタイヤなどのせいで乗り心地は硬い。
現行型のマーチとミラージュは両車ともにタイ製だが、そこは直接の敗因ではない。共通点は、内装と乗り心地の質が低く、ほかの車種とは違う明確なセリングポイントを持たないことだ。コンパクトカーは価格も含めて競争が激しく、相当買い得なクルマでないと売れ行きを伸ばせない。その点、日産はノートに注力して、マーチは結果的に見捨てられた。
クルマの世界では、開発の仕方次第では、長年にわたって培った伝統も失われてしまう。人気を保つには、商品に対して、開発中も、発売後も常に深い愛情を注ぐことが求められる。
日産のノートは発売から8年、三菱の「デリカD:5」は13年を経過するが、今も堅調に売れている。前期型のユーザーが、後期型に乗り換えることも多い。メーカーが常に深い愛情を注ぎ、商品力を高く保っているからだ。マーチやミラージュに同様のケアができないものか……。それぞれ、同じメーカーの商品なのに。
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、三菱自動車/編集=関 顕也)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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