カワサキZ H2(MR/6MT)
モンスターの進化形 2020.05.21 試乗記 240kgの車体に最高出力200PSのスーパーチャージドエンジンを抱く「カワサキZ H2」。クルマでいうなら1000PS級のネイキッドバイクは、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか?“法外”なパワーユニット
2015年、二輪の量産市販車としては初のスーパーチャージドエンジン搭載モデル「ニンジャH2」がカワサキから登場した。さまざまな規制が強まる中、「エコ? 燃費? そんなん知らんけど」という孤高感がカワサキらしく、実にすがすがしい存在だった。
当時、私はすぐにH2をオーダーし、アメリカの公道レース「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」に参戦するための準備を進めていた。なにせゴール地点の標高は4300mを超える高地ゆえ、酸素濃度が大幅に低下。それによるパワーダウンを補うには過給機に頼るのが手っ取り早く、確実な方法だったからだ。
ところがそんなある日、レース事務局から「The H2 is not legal.」という趣旨のメールが届いた。年々向上していくアベレージスピードを抑制すべく、彼らはレギュレーションの変更を実施。高いポテンシャルを持つスーパーチャージャーはそのあおりをまともに受けたのである。
結果的に行き場を失ったH2がどうなったか? しばらくは公道で乗っていたものの、パワーもハンドリングもその領域では決して快適なものではなく、かといってほかに出られる競技もそう多くはなかったため、ほどなく売却。そんなわけで、スーパーチャージャーにはちょっとした苦い思い出があるのだ。
さて、それから5年が経過し、H2のネイキッド版としてデビューしたのが、このZ H2である。
5年後の再会に衝撃
かつてのH2を知る者としては、さほど心が躍る試乗の誘いではなかった。クランクの軸出力で作動するスーパーチャージャーは、排出ガスの圧力を利用するターボチャージャーとは異なり、パワーやトルクが立ち上がっていく過程を制御しやすいのが本来の特徴だ。にもかかわらず、H2の出力特性にはいわゆる「どっかんターボ的」な大きなラグがあった。低回転のスロットルレスポンスは極めてダルな一方、あるところから唐突に過給圧が高まってリアタイヤがスライドしたかと思えば、今度はフロントタイヤがリフト。大排気量2ストロークエンジンさながらのピーキーさがあり、とても公道で楽しめるエンジンではなかったからだ。
スペックを調べてみると、H2の初期モデルは1万rpmで最高出力200PSを発生していたのに対し、Z H2のそれは200PS/1万1000rpmである。さらに高回転型になっているのだから神経質さに拍車がかかっていると考えるのが当然だろう。アップハンドル化によってフロントタイヤは浮きやすくなっているに違いなく、おまけに車重はH2より2kg重い。つまり、扱いやすさを思わせる要素がなにひとつなかった。
ところが5年の月日には意味があった。Z H2で走りだしてなにより印象的なのは、身のこなしが驚くほど軽やかなことだ。車重は240kgを公称するも、感覚的にはそれより30kgは軽く、コーナーではヒラヒラとリーン。タイトな場所でUターンをする時もスパッときれいに決まり、取り回しも容易に行える。
H2は車体前部への重量配分が明らかに多く、物理的な重さでフロントタイヤが押しつけられていたが、Z H2にその面影はない。軽々とステアリングを操作できるのにタイヤはピタッと路面を追従。まるでワンランク下のモデルのような手の内感がありながら、ビッグバイクならではの安心感もあるのだ。
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コストパフォーマンスも秀逸
5000rpmを超えたあたりから過給圧が高まっていくのはH2と同様ながら、パワーが一気にはじけるような野性味はほどよく調教されている。エンジンそのものが見直されたことに加え、5年の間に電子デバイスが飛躍的に進化。燃調、トラクションコントロール、パワーモード、IMU(慣性測定装置)とのバランスが図られ、車体のスタビリティーにもそれが反映されていた。
実際、スチールパイプが組み合わせられたトレリスフレームはH2とはまったく設計が異なる。一段ときゃしゃなイメージながらH2がしばしば見せたヨーイングの気配は感じられず、ピボットやスイングアームも含めて剛性が高められていることが分かる。大きなアクションを加えても、接地感はそうやすやすと失われないはずだ。
もっとも、そのまま最後まで従順なわけではない。低回転域から中回転域、中回転域から高回転域の過渡特性は劇的にスムーズになり、トラクションも可能な限り逃がさないように電子制御が張り巡らされているとはいえ、トルクが盛り上がっていく時の怒涛(どとう)の加速力はやはり異質だ。自然吸気のエンジンは回転数と車速の上昇が感覚的に一致するが、スーパーチャージャーはトルクが際限なくあふれ出し、スロットルを大きく回していないのにどこまでも増速していくような、そういう“えたいの知れなさ”がある。
走行モードには、スポーツ/ロード/レインの3パターンのほか、ユーザーがスロットルレスポンスやトラクションコントロールの介入度をプリセットできるマニュアルモードが用意されているが、少なくとも公道では等しくトルキーで、スロットルを開ければ等しくパワフルだ。0-100km/h加速のエンターテインメント性は市販車ナンバーワンと言って間違いない。
そしてもうひとつ、現実的な問題として見逃せないのは、コストパフォーマンスの高さだ。189万2000円の車体価格は、これだけ際立ったキャラに対して破格なのも間違いない。なにせ、H2は270万円もしたのである。
(文=伊丹孝裕/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
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【スペック】
カワサキZ H2
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2085×810×1130mm
ホイールベース:1455mm
シート高:830mm
重量:240kg
エンジン:998cc水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ
最高出力:200PS(147kW)/1万1000rpm
最大トルク:137N・m(14.0kgf・m)/8500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:22.5km/リッター(国土交通省届出値)/16.9km/リッター(WMTCモード)
価格:189万2000円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
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