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BMW S1000XR(MR/6MT)

新時代のグランドツアラー 2020.06.11 試乗記 河野 正士 レースシーンで培った4気筒エンジンと高剛性フレームを、臆することなく味わえる「BMW S1000XR」。意のままに操れるスポーツ性と、ロングツーリングでの快適性を併せ持つ新型は、二輪のツーリングカテゴリーに新しいスタンダードを打ち立ててみせた。

“軽さ”がもたらすポジティブな印象

2015年にデビューした初代S1000XRは、スーパースポーツバイクの「S1000RR」をベースに、アドベンチャーバイクである「GS」シリーズのようなアシの長いサスペンションとアップライトなライディングポジションを組み合わせ、スポーツバイクとアドベンチャーバイクをミックスした“スポーツアドベンチャー”というカテゴリーをつくり上げた。

今回試乗したモデルはその最新型にあたり、2019年モデルでフルチェンジされた新型S1000RRのプラットフォームが使用されている。エンジンについても、ベース車の大きなトピックであった可変バルブタイミング機構「Shiftcam(シフトカム)」こそ搭載されていないが、その他の部分はほぼ共通。さまざまな電子制御デバイスもアップデートされている。もちろん、新型S1000RRに加えられた徹底した軽量化の恩恵も、そのままS1000XRに受け継がれている。具体的にはエンジンで約5kg、フレームやスイングアームで約2kg、その他の装備で約3kgと、前モデルに比べ車体全体で約10kgの計量化を実現しているのだ。

この軽さは、サイドスタンドやセンタースタンドから車体を起こしただけでも感じられる。そしてクラッチをつなぎ走りだした瞬間に、その軽さはさらに強い印象をもたらす。クルマの後ろについて走る混雑した都内の道でも、走る/曲がる/止まるの基本動作がとにかく軽い。しかも、オフロードバイクのような上体を起こした運転姿勢によってライディングの基本動作がとりやすく、また視界が広いことからくる安心感も絶大だ。

「フレックスフレーム」と呼ばれる新型フレームの形状も、軽いという印象に大きく影響している。幅の広い4気筒エンジンを抱えたフレームは、シリンダーブロックの後ろで“くの字”を描くようにグッと細くなり、それがライダーのヒザから足の付け根辺りの、車体とライダーが密着する部分にくる。この車体形状が実現する、ヒザの開きが少ない運転姿勢が、バイクのコントロール性を高め、車体が軽い入力で反応するという好印象につながるのだ。

オンロードでのスポーティーな走りと快適性を両立するモデルとして、2015年に登場した「BMW S1000XR」。現行モデルは2代目にあたり、2019年11月のミラノショーで発表された。
オンロードでのスポーティーな走りと快適性を両立するモデルとして、2015年に登場した「BMW S1000XR」。現行モデルは2代目にあたり、2019年11月のミラノショーで発表された。拡大
高精細な6.5インチTFTディスプレイ。「S1000XR」の車載機器は「BMW Motorradコネクティビティ」に対応しており、スマートフォンとバイク、ヘルメットをBluetoothで連携させれば、音楽を聴いたり、通話したりできる。
高精細な6.5インチTFTディスプレイ。「S1000XR」の車載機器は「BMW Motorradコネクティビティ」に対応しており、スマートフォンとバイク、ヘルメットをBluetoothで連携させれば、音楽を聴いたり、通話したりできる。拡大
アドベンチャーモデル的なスタイルでありながら、足まわりはオンロードに特化。タイヤサイズは前が120/70ZR17、後ろが190/55ZR17で、ウエット路面や低ミュー路に強い「メッツェラー・ロードテック01」が装着されていた。
アドベンチャーモデル的なスタイルでありながら、足まわりはオンロードに特化。タイヤサイズは前が120/70ZR17、後ろが190/55ZR17で、ウエット路面や低ミュー路に強い「メッツェラー・ロードテック01」が装着されていた。拡大
コンポーネンツを共有する「S1000RR」のフルモデルチェンジに伴い、「S1000XR」も設計を全面刷新。従来モデルから10kgの軽量化を果たしている。
コンポーネンツを共有する「S1000RR」のフルモデルチェンジに伴い、「S1000XR」も設計を全面刷新。従来モデルから10kgの軽量化を果たしている。拡大
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サスペンションとエンジンに見るバランスの妙

エンジンは、シートの薄い座面やハンドルグリップに伝わる硬質な振動もあって、その第一印象はハードだった。初代モデルよりは改善されていたが、それでもシルキーとは言いがたい。それは快適性よりもスポーツ性を求めた、S1000RR由来のDNAが理由である。エンジンが生み出したパワーを、可能な限り忠実にリアタイヤに伝えようとするのだ。それに車体の軽さが加わるのだから、これはスポーツバイク以外の何ものでない。

それでも、サーキットでのパフォーマンスを追求したバイクを公道で走らせるときに感じる、あの名状しがたいバツの悪さがないのは、しっかりとしつけられたエンジンの出力特性と電子制御サスペンションのバランスがいいからだ。エンジンは常用回転域での力強いトルクにフォーカスしたXR用のカムシャフトと吸気システムの最適化により、低・中回転域では可変バルブタイミングを採用するS1000RRよりも大きなトルクを発生。おかげでアクセル操作に対する車体の反応が分かりやすい。

また、よく動く前後サスペンションも好印象で、ライディングモードで「ROAD」を選べば街中でも加減速によるダイブやスカットをしっかりと感じる。しかも、その動きはしっとりとしていて上質だ。一方、首都高速のように一定間隔でアスファルトの継ぎ目が続くような場所では、そうした車体の挙動を抑える「DYNAMIC」モードがしっくりときた。高い車速域のなかで追い越しをかけたり車線変更したりするには、エンジンレスポンスがよく、サスペンションの動きを少し抑制したモードの方が、リズムがつかみやすい。ワインディングロードにおいても、エンジンも足まわりもキュッと引き締まったDYNAMICモードがしっくりくるであろうことは容易に想像できた。

「DYNAMIC Pro」モードも試したが、今回のような東京都内を中心とした試乗ルートには向いていないようだ。混雑した道路や荒れた路面状況では、少し神経質だったり、乗り心地が悪く感じられたりする。サーキットや路面状況のよいワインディングであればその印象は大きく違うのだろうが、実際のツーリングでは、路面に応じてROADとDYNAMICを使い分けることになるだろう。

ラインナップは、ベースグレードに、充実した装備が特徴の「プレミアムライン」、プレミアムラインをもとにローシートとローダウンサスペンションを備えた「プレミアムスタンダード」の3種類からなる。
ラインナップは、ベースグレードに、充実した装備が特徴の「プレミアムライン」、プレミアムラインをもとにローシートとローダウンサスペンションを備えた「プレミアムスタンダード」の3種類からなる。拡大
排気量999ccの水冷4ストローク直4 DOHCエンジンは、「S1000RR」のユニットをベースに可変バルブ機構を省略し、低・中回転域を重視するセッティングを施したものだ。最高出力165PS、最大トルク114N・mを発生する。
排気量999ccの水冷4ストローク直4 DOHCエンジンは、「S1000RR」のユニットをベースに可変バルブ機構を省略し、低・中回転域を重視するセッティングを施したものだ。最高出力165PS、最大トルク114N・mを発生する。拡大
上級グレードの「プレミアムライン」「プレミアムスタンダード」には、電子制御サスペンションの「ダイナミックESAプロ」が装備される。
上級グレードの「プレミアムライン」「プレミアムスタンダード」には、電子制御サスペンションの「ダイナミックESAプロ」が装備される。拡大
ライディングモードには「RAIN」「ROAD」「DYNAMIC」「DYNAMIC Pro」の4種類を用意。エンジンの制御に加え、「ダイナミックESAプロ」装着車ではサスペンションの特性も変化する。
ライディングモードには「RAIN」「ROAD」「DYNAMIC」「DYNAMIC Pro」の4種類を用意。エンジンの制御に加え、「ダイナミックESAプロ」装着車ではサスペンションの特性も変化する。拡大
カラーリングは「アイスグレー」(写真)と「レーシングレッド」の2種類。色により、カウルに施される「XR」のロゴも異なる。
カラーリングは「アイスグレー」(写真)と「レーシングレッド」の2種類。色により、カウルに施される「XR」のロゴも異なる。拡大
ウインドスクリーンは高さ調整機構付きで、幅広いライダーの体形やライディングスタイルに対応。
ウインドスクリーンは高さ調整機構付きで、幅広いライダーの体形やライディングスタイルに対応。拡大
シート高は840mmが標準で、ローシート+ローダウンサスペンション仕様の「プレミアムスタンダード」のみ790mmとなる。
シート高は840mmが標準で、ローシート+ローダウンサスペンション仕様の「プレミアムスタンダード」のみ790mmとなる。拡大
快適性を高める装備も充実。ハンドプロテクションやグリップヒーターに加え、上級グレードにはキーレスライド、クルーズコントロールなども備わる。
快適性を高める装備も充実。ハンドプロテクションやグリップヒーターに加え、上級グレードにはキーレスライド、クルーズコントロールなども備わる。拡大
豊富に用意されたオプションも「S1000XR」の魅力。試乗車には各所にMパフォーマンスのカーボンパーツが装着されていた。
豊富に用意されたオプションも「S1000XR」の魅力。試乗車には各所にMパフォーマンスのカーボンパーツが装着されていた。拡大

グランドツーリングの新しいスタンダード

個人的には、S1000XRが築いたスポーツアドベンチャーというジャンルは、ツーリングカテゴリーの新しいスタンダードになると感じている。分かりやすく言い換えれば「GT」の変容である。

バイクでいうところのGTとは、大排気量エンジンと大型カウル、スポーツバイクよりもやや高い位置にハンドルを置くことで上体を起こした、リラックスしたライディングポジションによって構成される。そしてトップケースやサイドケースを装備し、欧州で「トランスコンチネンタル」と呼ばれるような長距離ツーリングを可能にする。各地に世界有数の山脈を有するかの地では、そこにあるワインディングも旅の醍醐味(だいごみ)であるから、快適なツーリング性能とともにスポーツ性能も求められる。GT=グランツーリスモとはそういうモノだ。

ここにハマったのが、進化した“アドベンチャーモデル”だ。オフロードでの走破性を考慮したアシとライディングポジションを持つこのモデルは、電子制御によってキャラクターを変化させられるエンジンとサスペンションによって、ツーリング/スポーツライディング/オフロードのあらゆる状況において、高いパフォーマンスを発揮できるようになった。

そこに前後17インチホイールを装着し、舗装路でのパフォーマンスに特化したのが、S1000XRが切り開いたスポーツアドベンチャーモデルなのだ。先駆者として「ドゥカティ・ムルティストラーダ1200」や「カワサキ・ヴェルシス1000」がいたが、市場を活性化させたのはS1000XRと「ヤマハMT-09トレーサー」だろう。各メーカーからアンダー1000ccの兄弟モデルも登場するなど、このカテゴリーは活況を呈している。BMWも、並列2気筒エンジンを持つ新型「F」シリーズをベースに、排気量を900ccに拡大した「F900XR」をラインナップ。「XR」ファミリーを形成し、カテゴリーにおけるシェア拡大を図っている。

オフロード性能を捨てることで、スポーツできるツーリングバイク……いや、ツーリングができるスポーツバイクというキャラクターを手に入れたS1000XR。その最新型は、スポーツの面でもツーリングの面でも、パフォーマンスが磨き込まれていた。

(文=河野正士/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

BMW S1000XR
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BMW S1000XR(MR/6MT)【レビュー】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2180×1470×930mm
ホイールベース:1880mm
シート高:840mm
重量:232kg
エンジン:999cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ
最高出力:165PS(121kW)/1万1000rpm
最大トルク:114N・m(11.6kgf・m)/9250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:6.2リッター/100km(約16.1km/h、WMTCモード)
価格:198万1000円

河野 正士

河野 正士

フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。

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