トライアンフ・スラクストンRS(MR/6MT)
ノスタルジック・レーサー 2020.06.17 試乗記 往年のカフェレーサーをほうふつとさせる、トライアンフのスポーツモデル「スラクストン」。さらなるパワーアップと軽量化が施されたスペシャルバージョンは、驚くほどフレンドリーで楽しいモーターサイクルに仕上がっていた。レーシーだけどキツくない
腕を組んで信号待ちをしているときの、その視界に広がる景色は絶品だ。シート先端に向けてスリムになるティアドロップタンクは低く、小ぶりで、OHV時代のトライアンフにも通じる。タンクのセンターにはベルトが走り、その脇にエノット型の燃料キャップが配置されていて、遠くにトップブリッジと同じ高さのセパレートハンドルがある。寝かし気味に配置されたメーター類は、ことさら主張しない。他の最新スーパースポーツのような筋骨隆々の燃料タンクもなければ、それを抱え込んでエクササイズマシンを扱うような気合なども必要とせず、アドベンチャーモデルのようなコックピット感とも、少し着飾ったネイキッドモデルとも違う。「スラクストンRS」にあるのはまさに、カフェレーサーのムードである。
ポジションも、実に懐かしい。シートこそやや高めだが、“セパハン”とはいえハンドルはトップブリッジ近くまで引き上げられ垂れ角も少なく、手首の角度はきつくならない。ステップもやや前方の低い位置にあり、その外観から想像するほど過激ではない。そういえば、かつてのカフェレーサーカスタムには、ステップ位置が適度に前方にあるモデルも少なくなかった。それを思い出した。
前後サスペンションには、調整幅が広く、かつサーキット走行にも耐える良好なダンピング特性が得られる最新のアイテムがおごられている。ホイールはスポークタイプだが、前後の17インチホイールにはハイグリップタイヤが装着されている。ベースとなる「スラクストンR」に対してフロントまわりのアライメントも、ややスポーティーな方向にアジャストされている。
しかし乗り味は、そのディテールやスペックから想像するよりずっと素直だ。高いコーナリングスピードや深いバンク角をバイク側から要求されることもなく、しかし、それらがバシッと決まれば実に気持ちがいい。近代スーパースポーツのそれほど研ぎ澄まされた感覚ではない、ネオクラシックなスポーティーさにあふれている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
回して楽しいビッグツイン
このハンドリングには、エンジン特性も大きく影響している。エンジンはクランク角270度の「スラクストン1200」用水冷SOHC直列2気筒をベースに、8PSの出力アップを図り、その発生回転も750rpm高くなっている。つまり高回転化しているのだが、神経質さは皆無だ。街中での常用回転域である4000rpm以下では実に滑らかで、鼓動感がウリの270度クランクであることを忘れてしまいそうなほど。極低速でも実に扱いやすい。
しかし5000rpmに近くなると、エンジンは一気に2気筒エンジンらしいビート感を高め、気持ちよく伸びていく。等間隔爆発(360度クランク)だった旧トライアンフツインエンジンとは鼓動感は違うものの、その伸びやかさは同じ。ペースを上げ、高いエンジン回転を維持して走るのも楽しい。やはりトライアンフの2気筒エンジンは高回転が気持ちいい。
トライアンフは“ネオクラシックブーム”なんていわれる前から、2気筒エンジンモデルをラインナップし、大事に育て進化させてきた。したがって、この「ボンネビル」系の水冷2気筒エンジンファミリーは、ネオクラシックではなく、トライアンフのスタンダードだ。その中にあって、今回試乗したスラクストンRSは、そのスタンダードをベースにパワーアップと足まわりの強化を図った、まさにファクトリーカスタムといえる。トライアンフはいま、スペシャルなファクトリーカスタムモデル「TFC(TRIUMPH FACTORY CUSTOM)シリーズ」も売り出し中なのだが、筆者はこのスラクストンRSもTFCの末席を占めるモデルと考えている。
個人的なことだが、筆者はシリンダー内爆発の粒がそろった旧トライアンフの360度クランク2気筒エンジンが好きだ。しかし左右に並んだ2つのピストンが一緒に上下する360度ツインは、その上下動による大きな慣性力が振動を生み、リアタイヤが路面をつかむ感覚が希薄になる(それでもそのフィーリングは好き)。270度クランクエンジンはクランクピンの位置を少し変え、上下するピストン位置をずらすことでそうした問題を軽減しようとしている。煩雑な首都高速のような場所でも、リアタイヤが路面を捉える感覚を強く感じながら走りを楽しむことができたのは、そんなエンジン特性だからこそなのかもしれない。
(文=河野正士/写真=向後一宏/編集=関 顕也)
![]() |
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×745×1030mm
ホイールベース:1415mm
シート高:810mm
重量:197kg
エンジン:1200cc 水冷4ストローク直列2気筒SOHC 4バルブ
最高出力:105PS(77kW)/7500rpm
最大トルク:112N・m(11.4kgf・m)/4250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:192万0500円

河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
-
BMW 220dグランクーペMスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.29 「BMW 2シリーズ グランクーペ」がフルモデルチェンジ。新型を端的に表現するならば「正常進化」がふさわしい。絶妙なボディーサイズはそのままに、最新の装備類によって機能面では大幅なステップアップを果たしている。2リッターディーゼルモデルを試す。
-
ビモータKB4RC(6MT)【レビュー】 2025.9.27 イタリアに居を構えるハンドメイドのバイクメーカー、ビモータ。彼らの手になるネイキッドスポーツが「KB4RC」だ。ミドル級の軽量コンパクトな車体に、リッタークラスのエンジンを積んだ一台は、刺激的な走りと独創の美を併せ持つマシンに仕上がっていた。
-
アウディRS e-tron GTパフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.9.26 大幅な改良を受けた「アウディe-tron GT」のなかでも、とくに高い性能を誇る「RS e-tron GTパフォーマンス」に試乗。アウディとポルシェの合作であるハイパフォーマンスな電気自動車は、さらにアグレッシブに、かつ洗練されたモデルに進化していた。
-
ボルボEX30ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.9.24 ボルボのフル電動SUV「EX30」のラインナップに、高性能4WDモデル「EX30ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」が追加設定された。「ポルシェ911」に迫るという加速力や、ブラッシュアップされたパワートレインの仕上がりをワインディングロードで確かめた。
-
マクラーレン750Sスパイダー(MR/7AT)/アルトゥーラ(MR/8AT)/GTS(MR/7AT)【試乗記】 2025.9.23 晩夏の軽井沢でマクラーレンの高性能スポーツモデル「750S」「アルトゥーラ」「GTS」に一挙試乗。乗ればキャラクターの違いがわかる、ていねいなつくり分けに感嘆するとともに、変革の時を迎えたブランドの未来に思いをはせた。
-
NEW
第846回:氷上性能にさらなる磨きをかけた横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」を試す
2025.10.1エディターから一言横浜ゴムが2025年9月に発売した新型スタッドレスタイヤ「アイスガード8」は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を用いた氷上性能の向上が注目のポイント。革新的と紹介されるその実力を、ひと足先に冬の北海道で確かめた。 -
NEW
メルセデス・ベンツGLE450d 4MATICスポーツ コア(ISG)(4WD/9AT)【試乗記】
2025.10.1試乗記「メルセデス・ベンツGLE」の3リッターディーゼルモデルに、仕様を吟味して価格を抑えた新グレード「GLE450d 4MATICスポーツ コア」が登場。お値段1379万円の“お値打ち仕様”に納得感はあるか? 実車に触れ、他のグレードと比較して考えた。 -
NEW
第86回:激論! IAAモビリティー(前編) ―メルセデス・ベンツとBMWが示した未来のカーデザインに物申す―
2025.10.1カーデザイン曼荼羅ドイツで開催された、欧州最大規模の自動車ショー「IAAモビリティー2025」。そこで示された未来の自動車のカタチを、壇上を飾るニューモデルやコンセプトカーの数々を、私たちはどう受け止めればいいのか? 有識者と、欧州カーデザインの今とこれからを考えた。 -
NEW
18年の「日産GT-R」はまだひよっこ!? ご長寿のスポーツカーを考える
2025.10.1デイリーコラム2025年夏に最後の一台が工場出荷された「日産GT-R」。モデルライフが18年と聞くと驚くが、実はスポーツカーの世界にはにわかには信じられないほどご長寿のモデルが多数存在している。それらを紹介するとともに、長寿になった理由を検証する。 -
NEW
数字が車名になっているクルマ特集
2025.10.1日刊!名車列伝過去のクルマを振り返ると、しゃれたペットネームではなく、数字を車名に採用しているモデルがたくさんあります。今月は、さまざまなメーカー/ブランドの“数字車名車”を日替わりで紹介します。 -
カタログ燃費と実燃費に差が出てしまうのはなぜか?
2025.9.30あの多田哲哉のクルマQ&Aカタログに記載されているクルマの燃費と、実際に公道を運転した際の燃費とでは、前者のほうが“いい値”になることが多い。このような差は、どうして生じてしまうのか? 元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。