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メルセデス・ベンツV220dアバンギャルド ロング(FR/7AT)

そのミニバン アウトバーン育ち 2020.07.01 試乗記 河村 康彦 内外装デザインのアップデートとともに、安全装備の充実が図られたメルセデス・ベンツのミニバン「V220d」。快適性と高級感を向上させたという2列目セパレートシート「エクスクルーシブパッケージ」採用モデルに試乗し、その仕上がりを確かめた。

元祖“大きいミニバン”

今でこそ、トヨタから「グランエース」という直接的なライバルと解釈できるモデルが現れてはいるものの、長年にわたり「大きいミニバン」ともいえるカテゴリーの王者として君臨してきたのが「Vクラス」だ。メルセデス・ベンツの乗用車ラインナップでは、唯一スライド式ドアが採用されたモデルでもある。

歴史をさかのぼれば、駆動輪が前になったり後ろになったり、はたまた「ビアノ」なるまったく異なるネーミングへと改名された後に再びオリジナルであるVクラスの名称へと戻されたりと、少々不可思議な過去を持つ同車。1990年代に発表された初代モデルにしてすでに1.9m級の全幅と全高を有していたのだから、“大きいミニバン”なるちょっと形容矛盾的な表現もあながち不相応とはいえない。

実際、2014年に発表された現行モデルでも、その全長は“最短仕様”ですでに4.9mをオーバーしていた。さらにそれを25cmほど延ばした中間バージョンと5.4mに迫る最長バージョンもラインナップ。その結果、キャビンのボリュームにさまざまな選択肢が用意されるのは、そもそもこのモデルが商用車で用いられた骨格を基に生まれたものであるからだ。

ちなみに「ロング」と称される中間サイズに位置するVクラスと、全長×全幅×全高=5300×1970×1990mmというボディーサイズに、3210mmというホイールベースが採用された前出のグランエースとを比べた場合、Vクラス ロングは全長で150mm短く全幅で40mm狭く、高さは60mm低い。この場合ホイールベースはわずかに10mm短いだけだが、比べるモデルをVクラスで最大となる「エクストラロング」に変更した場合、今度はVクラスのほうがホイールベースは220mm長くなり、全長も70mm上回るという関係になる。

最新の「Vクラス」は、2019年10月23日、東京モーターショー2019の会場において日本導入が発表された。今回試乗したモデルは、中間グレードに位置付けられる「V220dアバンギャルド ロング」。
最新の「Vクラス」は、2019年10月23日、東京モーターショー2019の会場において日本導入が発表された。今回試乗したモデルは、中間グレードに位置付けられる「V220dアバンギャルド ロング」。拡大
テールランプデザインを含めリアビューにおいては、最新モデルと従来型に大きな違いは確認できない。
テールランプデザインを含めリアビューにおいては、最新モデルと従来型に大きな違いは確認できない。拡大
フロントフェイスはメルセデス・ベンツの最新モデルに共通するイメージにリニューアルされた。試乗車ではオプションの「AMGライン」が選択されており、「ダイヤモンドグリル」と呼ばれるデザインのフロントグリルが備わっていた。
フロントフェイスはメルセデス・ベンツの最新モデルに共通するイメージにリニューアルされた。試乗車ではオプションの「AMGライン」が選択されており、「ダイヤモンドグリル」と呼ばれるデザインのフロントグリルが備わっていた。拡大
今回テストしたのは全長が5170mmの「ロング」。ほかに全長が4905mmの標準ボディー車と、標準ボディー車を基準にホイールベースを230mm、全長を475mm延長した「エクストラロング」という3タイプのボディーサイズが用意されている。
今回テストしたのは全長が5170mmの「ロング」。ほかに全長が4905mmの標準ボディー車と、標準ボディー車を基準にホイールベースを230mm、全長を475mm延長した「エクストラロング」という3タイプのボディーサイズが用意されている。拡大
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シートアレンジは多彩だが……

今回連れ出したのは、2019年10月に日本導入が発表された最新モデル。資料上では“新型Vクラス”と紹介されるものの、内容的にはモデルライフ半ばでのマイナーチェンジを受けたバージョンということになる。

2018年に初導入され好評だったポップアップルーフ付きモデル「マルコ・ポーロ ホライゾン」の再登場も最新のVクラスにおけるトピックではあるが、マイナーチェンジモデルでの注目ポイントは、新デザインのバンパーやホイール、やはり新デザインのトリムやタービンルックの空調ベントを採用したことによる内外装のリファインであろう。その見た目からも、従来型との違いは明確だ。加えて、明らかに日本のミニバン――具体的には、特に「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」――を意識した結果とみられる、ゴージャスな2列目セパレートシートが設定された点も大きな見どころといえる。

最もベーシックな「V220dアバンギャルド」以外にオプション設定される「エクスクルーシブシートパッケージ」では、立派なアームレストが両サイドに備わる、左右独立型のいわゆるキャプテンシートを採用。ヒーター/ベンチレーターに加え、オットマンやフットレスト、さらにはリラクゼーション機能までが備わる豪華版となる。

一見しただけで相当な重労働が予想され、下手をすると元に戻せなくなる可能性も考えられたため脱着方式のシートアレンジを試す気持ちにはなれなかったが、カタログ上ではこの2列目と3列目を対座レイアウトにしたり、双方のシートをすべて取り払って広大なラゲッジスペースがつくり出せたりすることもうたわれている。もっとも、後者の場合は「外したシートをどこに置くのか」というのが大問題。特に、ガレージ環境に恵まれない日本の場合、あくまでも「そんなこともできる」という可能性程度と考えておくのが無難というものだろう。

「V220dアバンギャルド ロング」のドアやリアゲートを開けた様子。ボディーサイズは全長×全幅×全高=5170×1930×1930mm、ホイールベース=3200mm。車重は2510kgと発表されている。
「V220dアバンギャルド ロング」のドアやリアゲートを開けた様子。ボディーサイズは全長×全幅×全高=5170×1930×1930mm、ホイールベース=3200mm。車重は2510kgと発表されている。拡大
最新の「Vクラス」では本革シートが全車に標準装備される。フロントシートはヒーター付きの電動となるが、ベンチレーション機能は2列目シートのみの装備(オプション)となる。
最新の「Vクラス」では本革シートが全車に標準装備される。フロントシートはヒーター付きの電動となるが、ベンチレーション機能は2列目シートのみの装備(オプション)となる。拡大
試乗車では、2列目シートがセパレートタイプとなり、電動リクライニングやヒーター、ベンチレーション機能が備わるオプションの「エクスクルーシブシートパッケージ」が選択されていた。
試乗車では、2列目シートがセパレートタイプとなり、電動リクライニングやヒーター、ベンチレーション機能が備わるオプションの「エクスクルーシブシートパッケージ」が選択されていた。拡大
3人掛けとなる3列目シート。背もたれは180度後方に倒せるので、オプションのフルフラット拡張機能付き「ラゲッジルームセパレーター」と組み合わせることで、簡易ベッドとしても使用できる。
3人掛けとなる3列目シート。背もたれは180度後方に倒せるので、オプションのフルフラット拡張機能付き「ラゲッジルームセパレーター」と組み合わせることで、簡易ベッドとしても使用できる。拡大

採用が見送られた新型パワートレイン

ところで、ドイツのダイムラー本社がリリースした資料によれば、今回のマイナーチェンジでの重要な改良点のひとつとして、組み合わせるトランスミッションを“9Gトロニック”と称される9段ステップATへと進化させた上で、搭載する4気筒ディーゼルターボエンジンを、従来の2142ccから1950ccへと排気量ダウン。同時に最大噴射圧が2500barに達する第4世代のコモンレールシステムを新採用し、フリクションを25%減らしたことなどで燃費性能を向上、静粛性も高め大幅な軽量・コンパクト化を実現した新世代ユニット「OM654型」へと置き換えられたこともアナウンスされている。

ところが、実は日本仕様の場合はすっぽり抜け落ちてしまうのが、この新たなパワーパック採用に関する項目。すなわち見た目や装備のリファインは行われたものの、搭載エンジンはこれまで同様の2.1リッター直4ディーゼルターボユニットのままである。組み合わされるトランスミッションも、7段ステップATの“7Gトロニック”を引き続き使用する。

こうなると、誰もが気になるであろう「日本仕様のパワーパックが据え置きとされたその理由」だが、その点を日本のインポーターに問うてみても、残念ながら「不明」という回答しか返ってこない。かくして、アルファード/ヴェルファイアばりのゴージャスな2列目シートの登場を待ち望んでいた人にとっては朗報かもしれないが、“走りの進化”を期待する人にはやや肩透かしということになってしまいそうなのが残念だ。

実際、この期に及んでキーを差し込んでひねる、という動作にてエンジンに火を入れた段階で抱いた率直な第一印象は、「メルセデスの乗用車としてはにぎやかに過ぎるな」という思い。単にノイジーというだけでなく、ブレーキペダルを踏む足にまで微振動が伝わってくるのも、いささか興ざめと言わざるを得ない状況だ。

フロントに搭載される2.1リッター直4ディーゼルターボエンジンは、最高出力163PS、最大トルク380N・mを発生。7段ATと組み合わされる後輪駆動のみの設定となる。
フロントに搭載される2.1リッター直4ディーゼルターボエンジンは、最高出力163PS、最大トルク380N・mを発生。7段ATと組み合わされる後輪駆動のみの設定となる。拡大
曲線と曲面で構成されるダッシュボード。エアコンの吹き出し口は、今回のマイナーチェンジによって最新のメルセデス・ベンツ各車に用いられるタービン型のデザインに変更された。ドリンクホルダーを内蔵するセンターコンソールボックスの形状も、リニューアルされている。
曲線と曲面で構成されるダッシュボード。エアコンの吹き出し口は、今回のマイナーチェンジによって最新のメルセデス・ベンツ各車に用いられるタービン型のデザインに変更された。ドリンクホルダーを内蔵するセンターコンソールボックスの形状も、リニューアルされている。拡大
「V220dアバンギャルド ロング」では、2列目/3列目シートを使用する通常時で1030リッターの荷室容量を確保している。
「V220dアバンギャルド ロング」では、2列目/3列目シートを使用する通常時で1030リッターの荷室容量を確保している。拡大
3列目シートを折りたたんだ様子。2列目/3列目シートを取り外した場合は、荷室容量を最大5000リッターに拡大できる。
3列目シートを折りたたんだ様子。2列目/3列目シートを取り外した場合は、荷室容量を最大5000リッターに拡大できる。拡大

優秀な高速クルージング

大柄なボディーに加え、いかにも頑丈そう=重そうなシートを“満載”することもあって、中間サイズの「アバンギャルド ロング」にAMGライン、パノラミックスライディングルーフ、そして例のエクスクルーシブシートパッケージ……とオプション装備をてんこ盛りにした今回のテスト車の重量は2.5t超。ちなみにこのモデルの乗車定員は7名だから、乗員が100kg級の巨漢ならずとも“満席”状態となればさらに400kg程度はすぐに増えてしまう計算だ。

そんなことを考えながら今回は1人乗り状態でのテストドライブ。それでも走りだしの瞬間から、動きはやはり重々しい。エンジンの透過音は相変わらず気になるレベルだし、大きくステアリングを切った際に回転のイナーシャ(慣性)を意識させられてしまう点も、“乗用車ライク”な感覚に水を差す結果となっていた。

一方、大きな見た目にもかかわらず思いのほか前輪切れ角が大きく、5.6mという最小回転半径の数値が示すように小回り性能が優れると感じられたのは、FRレイアウトのなせる業といえる。

くしくも同一の最小回転半径を実現するグランエースと同様に4WDバージョンの設定がない点は、特に日本の場合、生活圏によっては残念に思う人も少なくないはず。グランエースが「この先の売れ行き次第では、4WD化もできない相談ではない」と将来性に含みを残すのに対して、Vクラスではそうした可能性はまず望み薄と考えるしかなさそうだ。

こうして日本仕様ではパワーパックの刷新が見送られたこともあって、グランエースというライバルが出現した今となってはなおのこと、乗用車感覚にやや欠ける走りを含め、気になるポイントがいくつか挙げられる。それでもやはり「さすがはアウトバーンの国育ち」と思えたのは、安定感とフラット感が期待以上に高く、相対的に余裕が大きくなったように感じられる高速クルージングのシーンだった。

速度が高まるとロードノイズやウインドノイズなどのいわゆる“暗騒音”のボリュームが増すことで、100km/hクルージング時には1600rpmほどにとどまるエンジン音の存在感が希薄になることもその大きな理由のひとつである。

それでも静粛性全般も勝っていると感じられるグランエースなどは「そもそも眼中にはない!」と語る人がいるとするならば、それこそがメルセデス・ベンツという圧倒的なブランド力のなせる業というものである。

(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

「Vクラス」は、走行状況に応じて減衰力が変化するセレクティブダンピングシステム搭載の「アジリティーコントロールサスペンション」を採用。正確なハンドリングと快適性を両立させるとうたわれている。
「Vクラス」は、走行状況に応じて減衰力が変化するセレクティブダンピングシステム搭載の「アジリティーコントロールサスペンション」を採用。正確なハンドリングと快適性を両立させるとうたわれている。拡大
試乗車は前後245/45R19サイズの「コンチネンタル・スポーツコンタクト5」タイヤに、19インチの「AMG7ツインスポーク」ホイールを組み合わせていた。
試乗車は前後245/45R19サイズの「コンチネンタル・スポーツコンタクト5」タイヤに、19インチの「AMG7ツインスポーク」ホイールを組み合わせていた。拡大
オプションの「AMGライン」に含まれる挟み込み防止機能付きパノラミックスライディングルーフ。ルーフとローラーブラインドの開閉は前席と後席のスイッチでそれぞれ操作できる。
オプションの「AMGライン」に含まれる挟み込み防止機能付きパノラミックスライディングルーフ。ルーフとローラーブラインドの開閉は前席と後席のスイッチでそれぞれ操作できる。拡大
フューエルリッドは、助手席ドアと助手席側スライドドアの間に設けられている。緑色のキャップが給油口、その下方に見える青いキャップが尿素水溶液「アドブルー」の補充口。
フューエルリッドは、助手席ドアと助手席側スライドドアの間に設けられている。緑色のキャップが給油口、その下方に見える青いキャップが尿素水溶液「アドブルー」の補充口。拡大
リアゲートのウィンドウ部分だけを開閉することもできる。車体後方にスペース的な余裕が乏しいシチュエーションでも、荷物の出し入れが可能となる。
リアゲートのウィンドウ部分だけを開閉することもできる。車体後方にスペース的な余裕が乏しいシチュエーションでも、荷物の出し入れが可能となる。拡大
WLTCモードの燃費値は11.4km/リッター。今回の試乗においては満タン法で12.9km/リッター、車載の燃費計で12.5km/リッターを記録した。
WLTCモードの燃費値は11.4km/リッター。今回の試乗においては満タン法で12.9km/リッター、車載の燃費計で12.5km/リッターを記録した。拡大

テスト車のデータ

メルセデス・ベンツV220dアバンギャルド ロング

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5170×1930×1930mm
ホイールベース:3200mm
車重:2510kg
駆動方式:FR
エンジン:2.1リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:163PS(120kW)/3800rpm
最大トルク:380N・m(38.7kgf・m)/1400-2400rpm
タイヤ:(前)245/45R19 102Y/(後)245/45R19 102Y(コンチネンタル・スポーツコンタクト5)
燃費:11.4km/リッター(WLTCモード)
価格:764万円/テスト車=966万5000円
オプション装備:ボディーカラー<ロッククリスタルホワイト>(20万5000円)/レーダーセーフティーパッケージ(31万円)/AMGライン<挟み込み防止機能付きパノラミックスライディングルーフ>(65万円)/エクスクルーシブシートパッケージ(86万円)

テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2100km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:346.0km
使用燃料:26.5リッター(軽油)
参考燃費:12.9km/リッター(満タン法)/12.5km/リッター(車載燃費計計測値)

メルセデス・ベンツV220dアバンギャルド ロング
メルセデス・ベンツV220dアバンギャルド ロング拡大
モデル名を示す「V200d」のエンブレムがリアゲート左側に取り付けられている。
モデル名を示す「V200d」のエンブレムがリアゲート左側に取り付けられている。拡大
前席後方のルーフ部に、後席用のクライメートコントロールパネルを配置している。
前席後方のルーフ部に、後席用のクライメートコントロールパネルを配置している。拡大
「Vクラス」の外装色は、試乗車の「ロッククリスタルホワイト」を含む全8種類の設定。
「Vクラス」の外装色は、試乗車の「ロッククリスタルホワイト」を含む全8種類の設定。拡大
河村 康彦

河村 康彦

フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。

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