番外編:KeePerでバイパーはホントにキレイになるか?
2020.07.24 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
カーコーティングで有名なKeePer技研から、「新しいコーティングを試してみませんか?」とのお誘いが。青空駐車の「ダッジ・バイパー」は本当にキレイになるのか? そもそも、こんなヤレヤレのクルマでも施工は受けられるものなのか? webCG編集部員が、最新のカーコーティングをリポートする。
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ありがたいお話に二の足を踏む理由
今日も今日とて編集作業に忙殺されていた初夏の昼下がり。シマの向かいに座るマーケティング担当の大和女史が言った。
大和女史(以下、大和):ほったさん。カーコーティングに興味ありますよね?
いきなりナニゴトかと問うと、なんでも洗車用ケミカル剤やカーコーティング&洗車事業を手がけるKeePer技研から、「新商品の『EXキーパー』が好評なので、webCGさんも試してみませんか?」とお誘いがあった由。そこでわがバイパーに白羽の矢が立ったというか、女史が矢をぶっ刺してきた次第のようだ。ありがたい話である。
大和女史がこう話しかけてきた場合、それは確認ではない。指示でもない。「今回の取材はほったさんが担当と(私の中で)決まりましたので、よろしく」という決定事項の伝達である。われらぺーぺー編集部員の返事は、「はい」か「イエス」のどちらかしかないのである。
もっとも、今回の件については、その筋のプロフェッショナルがマイカーをコーティングしてくれるというのだ。喜んで取材に赴くことこそあれ、なんのためらう理由があろう? 親愛なる読者諸兄姉は首をかしげることだろう。
それがね、あるんすよ。
当ページの写真をご覧いただきたい。わがバイパーの現状だ。クリアはめくれ、気泡が浮き、場所によっては亀裂から下地が見えているありさまである。こんなクルマをお店に持ってってごらんなさいよ。夏目知幸じゃなくても「おとといきやがれ」と言うことだろう。いざ現場で問題になっても困るので、上述の懸念を大和女史に相談。ついてはバイパーの現状を撮影し、写真を先方に送って事前確認を取ることとなった。回答は以下のとおりである。
「(施工店に)確認しまして、恐らく大丈夫だろうとのことでしたのでぜひご施工できればと思います」
「言質は取りましたね(ニヤリ)」という大和女史に、いや、そういう問題じゃないでしょ、と嘆息。せめて当日は同行してねと念を押し、記者はEXキーパーの体験取材に赴くこととなった。
キズや傷みも気になるけれど……
取材の舞台となったのは、東京・鹿浜のKeePer LABO足立店。KeePer技研が全国展開する、「洗車とコーティングの専門店」のひとつである。
「洗車もサービスに含まれるので、事前の準備は一切不要」と案内を受けた記者&バイパーは、武蔵野の砂っぽこりを環七沿いにデリバリーしつつ、普段通りの姿で参上。相対するはこの道7年、KeePer技研 東京営業所 キーパーラボ事業部課長の小暮義久氏だ。足立店にも3人しかいないという、EXキーパーの施工が認められる「EX一級技術資格」の保有者である。
ここでちょいと説明すると、今回の“お題”であるEXキーパーは、今年(2020年)2月より順次提供が開始された、新しいカーコーティングである。既存の「Wダイヤモンドキーパー」を超えるKeePer技研の最上級商品で、特徴は資料にいわく、コーティング自体が存在感を持つこと。既存のコーティングは「クルマの塗装を守り、つやを出してその美しさを引き立てる」という黒子的なものが主だったが、EXキーパーはコーティングの被膜そのものによる美しさを追求しているのだ。
そんなステキなコーティングを、ちゃんと施工できますかどうか。まずはバイパーの現状を確認である。キズや傷みに加えて氏が気にしたのは、塗装とクリアの状態だった。
小暮氏(以下、小暮):……このクルマ、再塗装してますか?
ほった:え? そういう話は聞いたことないですけど。
小暮:そうなんですか。見たところ、塗膜がかなり薄いようなんですが……。コーティングの施工では、下処理としてボディーを研磨するのですが、このクルマはあまり磨かないほうがいいかもしれません。特に気泡が出ている場所の研磨は避けようと思います。それと、(クリアのハゲや塗装の浮きを見つつ)こうした症状自体についてはコーティングでも隠せないので、ご理解ください。
いやいや、ご理解もなにも。こちとら「施工ができる」というだけでも驚いている次第である。なにせバイパーがダメだった場合に備え、社用車の「BMW M140i」まで用意していたくらいなのだ。
「まじで?」「施工できるの?」という言葉を飲み込み、「……ダイジョブです」とだけ回答。あまりに“黄ばみ”がひどいことから、サイドメニューの「ヘッドライトクリーン&プロテクト」も実施することとし、具体的な作業がスタートした。
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“キレイ”以外の魅力と特徴
ヘッドランプのレンズ研磨を終え、ボディーの下処理を前に洗車を行う。たっぷりと泡を吹き付けられ、ムートンの手袋で洗われるバイパーの様子に、「極楽じゃ~」と脳内でアテレコ。「オーナーだってそんなに厚遇されることないのに……」とその扱いをねたみつつ、待合室でコーティングメニューのカタログを手に取った。他の商品と比べてみると、EXキーパーには先述した“仕上がり”以外にも、さまざまな訴求ポイントがあるようだ。
例えばコーティングの耐久期間。「ノーメンテナンスで3年」というのは「ダイヤモンドキーパー」「Wダイヤモンドキーパー」と一緒だが、“メンテナンス有り”では、あちらが「1年ごとのメンテで5年」なのに対し、こちらは「2年ごとのメンテで6年」となっている。
また、汚れもはじく強力なはっ水効果や、有機質の被膜ならではの水シミ/水アカ耐性の強さに加え、EXキーパーには「ベールを纏(まと)ったような不思議な肌触り。」という説明も添えられていた。硬質なクルマのボディーで“ベールのような”とはこれいかに? である。
それにしても、カメラ片手に観察していると、EXキーパーは作業の手間も相当な様子。大まかに工程をさらってみても、拭き上げ/状態確認→洗車(1回目)→磨き→洗車(2回目)→コーティング(プライマーガラス)→コーティング(VP326)、といった具合だ。
またその工数もさることながら、これまた手間となっていそうなのが「VP326」という特殊なコーティング剤である。EXキーパーでは、塗布するとブ厚い被膜を形成するこちらの品を、下地となるガラスコーティングの上に施工。従来の2倍となる、厚さ2ミクロンのコーティングを実現しているのだそうな。まさにEXキーパーのキモとなるアイテムなのだが、同時にこれは、コーティング剤の中でもなかなかに気難しいシロモノのようだった。
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手間も技術も求められるEXキーパーの施工
プライマーガラスのコーティングまで作業が完了し、次はいよいよVP326の施工。液剤を専用のスポンジに吹いてボディーに塗り付けると、素人目にもガラスコーティングとは液剤の伸びが違って見えた。作業中に迷惑かと思いつつ、小暮氏に尋ねる。
ほった:他のコーティングと、作業に違うところはありますか?
小暮:(VP326は)粘度があるので、引き伸ばすのにコツがいりますね。それと、拭き残すとやり直しがきかないので、パネル1面ごとに仕上げて、拭き残しがないかをチェックしないといけません。プライマーガラスのときは、クルマ全体が終わってから点検をしていたでしょう?
聞くだに技能と手間が要りそうな作業である。既述の通り、EXキーパーはEX一級技術資格の所持者だけが施工を認められるのだが、その資格を得るためには、KeePer技研の研修制度をコツコツと上っていき、「コーティング技術一級資格」を取得し、かつ専門の講習を受ける必要があるのだとか。そんなスタッフをほぼ半日独占してしまうのだから、申し訳ないというかなんというか。このコーティングは、そういう意味でも非常にゼータクなサービスなのだった。
もろもろの作業が終わり、いよいよ施工後のバイパーとご対面。まあ、実際には撮影の都合もあって、小暮氏の背後からずっと“変わりゆくさま”を眺めていたのだが、それでも記憶の中にある、かつての姿との差は歴然だった。キレイになったとか、ツヤが出たとかはもちろん、なんかクルマが変わった気がするのだ。
ボディーカラーが黒ということもあり、まず感じたのは色の深みとツヤだった。全体が薄い水の膜に覆われているような、そんなしっとり感があるのだ。施工前は気にもしなかったが、これと比べると以前のバイパーは、お肌がカッサカサだったな。
また、それと並んでインパクト大だったのが“映り込み”の明瞭さだ。写真をご覧あれ。抑揚のあるバイパーのボディーに、高級車のピアノブラック内装ばりに周囲の風景が映り込んでいるだろう。どうしても“波肌”が出る樹脂ボディーのアメ車でこれは、本当にすごいと思う。
大和:元の状態がヒドかったから、ギャップが一層引き立ちますねえ。
オーナーを前にしながら、大和女史もこの言いぐさである。
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利用者が太鼓判を押す
このほかにも、かように保湿感(?)のある見た目とは裏腹に、ボディーに触れるとさらりとしていたのも印象深かった。資料にあった「ベールのような肌触り」とは、言い得て妙だが十分ではない。厳密にはたださらさらしているだけではなく、「バターでも塗った?」というぬるりとした摩擦のなさと、極細密な織物のような指触りが共存しており、ひょいと手拭いを置いたら、するする……と滑り落ちてしまうほどなめらかなのだ。「これははっ水効果が期待できますね」とかそういう話ではなく、手触りフェチなら、この触感自体に付加価値を見いだすことだろう。
作業そのものの取材が終わり、コーティングをなじませるべく屋内保管されていたバイパーを引き取ったのは翌日のこと。ドライブには向かない雨模様だったが、カウルに落ちてはこぼれていく雨滴のさまが、これまた見ていて心地よかった。
今回、バイパーに施されたメニューの費用は18万6970円。このうちの17万8800円が、ボディーの研磨とコーティングによるものだ。EXキーパーは決して安価な商品ではない。
それでも作業の様子や実車の仕上がりを見るに、お値段以上の価値は十分にある……なんて浅学な記者が語ったところで信ぴょう性はなかろうが、実際KeePer LABO足立店には、月に15台ほどのクルマがEXキーパーのために持ち込まれるのだとか。これなら「利用者が太鼓判を押している」と言っても過言ではないだろう。
ちなみに、その“持ち込まれるクルマ”のほとんどは高級輸入車かと思いきや、実際はそうでもない様子。また一応は「新車用」と銘打った商品でありながら、新車とそうでないクルマの比率もおおむね半々なのだとか。小暮氏いわく「軽自動車のお客さまもいらっしゃいましたよ」というのには驚かされた。クルマを大事にするオーナーの有無は、車種によらないということなのだろう。
指紋を付けるのがモッタイナイ
鹿浜橋から首都高速に乗り、川口線を経由して中央環状線に移る。王子南のトンネルでヘッドランプをつけ、またしても「おお」と感嘆した。照射がクリアなのだ。そうだった。ヘッドランプもキレイにしてもらったのだった。以前は八代亜紀の歌みたいにぼんやり灯(とも)っていたもんだが、今ではHIDならではの、点灯時の“タメ”まで見て取れる。これまたひとつの、“ジドーシャの趣”だろう。
これまでにも、車検や整備から戻ってきたクルマの変わりように気分がアガったことはあるが、視覚的(+触覚的)変化で同じような心持ちとなったのは、今回が初。上述のHIDやら、ボディーに映る雲の表情やら、クルマの趣というやつはいろいろなところに宿るのだなあと知れて、なにやら得した気分である。
問題は、あまりに外装がキレイでさらさらになったため、素手で触れるのがはばかられるようになったことだ。ドアやガラスハッチはもちろん、サイドミラーの開閉すら手動のクルマなのに……。
(webCGほった)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。