KTM 890デュークR(MR/6MT)
新時代のマルチロールファイター 2020.07.18 試乗記 オーストリアのKTMから新型のネイキッドスポーツモデル「890デュークR」が登場。軽量コンパクトなシャシーに890ccの新エンジンを搭載したニューモデルは、幅広いシーンでスポーツライディングが楽しめる、完成度の高いマシンに仕上がっていた。400cc並のコンパクトな車体に121PSのエンジン
KTM初の並列2気筒エンジンを搭載したスポーツネイキッド「790デューク」をベースとし、さらにポテンシャルを引き上げたのが890デュークRだ。ボア×ストロークを拡大し、圧縮比もアップ、ヘッドやカムシャフトも刷新、そしてバルブ径を拡大と、徹底的に手が加えられたエンジンは16PSアップの最高出力121PSを発生する。
一方で、マシンに跨(またが)ってまず印象に残ったのは、車体がとてもコンパクトで軽いことだった。乾燥重量は166kgと790デュークより3kg軽く、かつタンクやシート幅も絞られているため、車格は400ccのネイキッドくらいに感じる。この車体に121PSのエンジンを搭載しているのだから、動力性能は推して知るべしである。
試乗会場となったのは富士スピードウェイのショートコース。走りだして最初は路面とマシンの様子を確認しながらペースを抑え気味にして走ってみた。ここで感じたのは低回転でのスムーズさと扱いやすさ。ハイチューンのツインでありながらギクシャクした感じは皆無で、スロットルを開ければ自然に速度が上がっていく。
サーキットでタイムを詰めようとすると7000rpmくらいからレブリミットの9500rpmまでを使うことになる。この回転域での加速は強力だ。最終コーナーを立ち上がって全開にすると、下り坂にもかかわらず軽々とフロントが浮き上がってくる。ガサガサとした雑味は皆無。澄み切ったエンジンの加速フィーリングが楽しい。
サーキットでも感じられるパワーバンドの広さ
しばらくはライディングモードを「トラック」にセットして走っていたが、低いギアを使っているとスロットルの開け始めでトルクの出方が若干強めに感じられる。試しに「スポーツ」モードに切り替えてみると、こちらのほうがスムーズに走ることができた。もっとも、これはあくまでデフォルト状態のトラックモードと比較しての話。トラックモードではすべての電子制御をカスタマイズできるから、コースの状況やライダーの乗り方に応じて、最適な仕様に仕立てることができるのだ。
また(デフォルトの)トラックモードでは、低いギアで高回転をキープしていると、コーナーによってはギクシャクしてしまうこともあった。そこで、あえてひとつ上のギアで走ってみると、多少回転が落ちてもそこそこにトルクがあるから、ペースがさほど落ちない。パワーバンドは広く、インフィールドはすべて2速、ギアチェンジなしでカバーできてしまう。
一方、ストレートでは3速で吹け切り、ストレートエンドでリミッターが作動する。1コーナー進入前にひとつギアを上げるかどうか迷うところだ。クイックシフトがあるから頻繁なギアチェンジも苦にならないのだが、試乗したマシンの場合、そのフィーリングは今ひとつ。アップ、ダウンともにタッチが硬く、若干のショックがあった。
以心伝心のハンドリングに見る完成度の高さ
ハンドリングはどんな乗り方をしてもクセがない。そしてライダーの体と一体になったかのようにマシンが動く。下り坂で急減速しなければならない1コーナーにも恐れずに突っ込んでいけるのは、新たに採用されたブレンボ製ブレーキシステムのコントロール性の良さに加え、マシンとの一体感があるからだ。ギリギリの状態からフルブレーキングしつつコーナーに飛び込んでいっても挙動は安定しているし、「マシンが裏切らない」という安心感があるから、思い切ってバイクを操作できる。
バイクの性能が向上した現在でも、ライダーとマシンが一体になったかのように走れるマシンは、そう多くない(ライダーの乗り方などで変わってくるが)。頭で考えた通りに反応してくれる890デュークRでのスポーツライディングに、夢中になってしまった。
このように、攻めていったときのハンドリングは素晴らしいのだが、反面、あまりにも出来が良すぎると思う部分もある。KTM のネイキッドは、ステアリングがとてもシビアでカミソリのような切れ味が特徴だった。それが年々安定性が増し、今回の890デュークRはとても安心して乗れるマシンになっていた。“完成度”という意味では、もちろん良くなってきているのだが、KTMの思い切ったマシンづくりが好きだったテスターとしては、怖くなるほどの鋭いハンドリングをふと懐かしく感じてしまった。
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幅広いシーンでライディングを楽しめる
サーキットで運動性能を試した後は、ストリートも走ってみた。ライディングモードを「ストリート」にすると、スロットルレスポンスも“開け始め”が穏やかになり、とても乗りやすくなる。クランクマスを20%アップさせたこともあって、低回転域でもエンジンがむずかることはない。4000rpmぐらい回すとツインの排気音や鼓動感が伝わってきて、楽しく走ることができる。
ストロークの長いサスペンションはストリートでもよく動き、乗り心地も悪くない。シートの厚さも適当で、長時間走っていてもお尻が痛くなることはなさそう。これならツーリングでも疲れは少ないだろう。適度な安定感を持つハンドリングは、ワインディングを流すようなスピードで走っていても十分に楽しむことができる。
KTMが「Ready to Race」というコンセプトを最新のテクノロジーをもって追求した890デュークRは、高いスポーツ性を実現しているにも関わらず、ストリートでも走りを楽しめる柔軟性を持っている。スポーツライディングの楽しさを追求したいライダー、これ1台でサーキットからツーリングまでこなしたいというライダーにとって、最高の相棒となってくれるだろう。
(文=後藤 武/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1482mm
シート高:834mm
重量:166kg(乾燥重量)
エンジン:890cc 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:121PS(89kW)/9250rpm
最大トルク:99N・m(10.1kgf・m)/7750rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:4.74リッター/100km(約21.1km/リッター、WMTCモード)
価格:146万5000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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