ボルボV60 DRIVe(FF/6AT)/T6 AWD R-DESIGN(4WD/6AT)【試乗記】
間口の広いボルボ 2011.05.10 試乗記 ボルボV60 DRIVe(FF/6AT)/T6 AWD R-DESIGN(4WD/6AT)……470万円/599万円
スタイリッシュな新型ワゴン「ボルボV60」が日本上陸。その走りと使い勝手を、ふたつのグレードで確かめた。
これってボルボのワゴンなの?
ボルボのワゴンといえば、長くて四角いキャビンがアイデンティティだった。だからこそ、今回導入される「V60」は異例ずくめだ。リアオーバーハングが短く、サイドウィンドウは後ろにいくにつれてドロップし、テールゲートは大きく傾斜している。だから、「V50」の兄、「V70」の弟という印象は薄い。
でもこのモデルを、「XC60」や「S60」と同じ「60シリーズ」の一族として見ると、カタチに納得する。実際、フロントまわりはS60と共通だし、リアまわりはXC60にそっくりだ。オーセンティックなボルボらしさを継承した他のシリーズに対し、60シリーズはダイナミック路線を突き進む。というコンセプトの違いがカタチに現れている。
日本仕様は、1.6リッター直列4気筒ターボと6段デュアルクラッチ・トランスミッション「パワーシフト」で前輪を駆動する「DRIVe(ドライブ・イー)」と、3リッター直列6気筒ターボに6段AT、4WDを組み合わせた「T6 AWD SE」「T6 AWD R-DESIGN」の3タイプ。セダンのS60と同じラインナップだ。今回はDRIVeとR-DESIGNに乗った。
|
違いのわかるラゲッジルーム
キャビンの仕立ても、S60とほぼ同じ。大きく違うのは後席の頭上空間で、こぶし1個が縦に入るほどになった。着座位置は前後とも低め。DRIVeの前席は、しっとり沈み込むクッションと、穏やかなホールド感がボルボらしい。ウエットスーツを思わせる素材を採用したR-DESIGNはタイトなサポートになるが、座り心地はガチガチではない。
ふと運転席から後ろを振り返ると、後席の向こうに広がる荷室は、これまでのボルボのワゴンより短い。容積は期待できなさそうだ。ところがリアに回ってゲートを開けると、ボルボらしい仕立てはしっかり受け継がれていた。
|
そもそもボルボのワゴンで、荷室の広さをウリにしていたモデルは少ない。なぜ高い評価を得てきたかというと、後席を畳んだ際のフラットさ、アレンジのしやすさ、可動部分の確実な動きといった作りの良さが際立っていたからだ。
その点で、V60は正真正銘のボルボである。後席を立てた状態での容量は430リッターと、多くのライバルを下回る。でもその後席は4:2:4の3分割で畳め、助手席も同じ高さでフラットにできる。ラゲッジネットさえ6:4分割で、後席を立てているときはもちろん、畳んでいるときにも使える。
荷室のフロア上には買い物袋を固定しておけるホルダーを内蔵し、下には広い収納スペースがある。この床下収納へのアクセスのために、フロア全体が持ち上がるというのは、あまり例がない。しかもフックを装備しているので上げたまま固定でき、手を離せばカチッと心地いい感触とともに閉まる。
|
本気でワゴンを使い倒す人が設計したことが伝わってきて、この空間を使い倒してみたいという思いが沸いてくる。大きな箱が欲しい人はミニバンを選べばいい。ワゴンのキモは広さよりも使いやすさにあることを、V60に教えられた。
そしてもうひとつのボルボ・ワゴンの美点、セダンと変わらぬ走りも、さらに一段高いレベルで継承されていた。
走りも安全もぬかりなし
実は今回の試乗の直前に、DRIVeと同じ1.6リッター4気筒ターボエンジンとデュアルクラッチ・トランスミッションを搭載した「V70」に乗り、想像以上にしっかり加速することに驚かされた。なので、ひと回り小柄なV60との組み合わせでは、余裕さえ感じる。デュアルクラッチ・トランスミッションのマナーの良さも褒められる。キックダウンの反応は穏やかだが、逆に発進時のマナーは、同種のメカでは群を抜いてスムーズだ。
乗り心地はボルボとしてはストローク感は控えめだが、鋭いショックはうまく吸収してくれるので快適だ。ロードノイズの遮断が秀でているのは、ワゴン作りの経験の長さゆえだろう。2000rpmちょっとでこなす100km/h巡航は快適そのものだ。
でもそこでステアリングを切ると、V60はスッと進路を変える。山道に入っても、少ない舵角(だかく)で曲がっていける。エンジンが軽いことに加え、リアまわりの重さや剛性低下を感じさせないボディが、リニアなハンドリングをもたらしているのだろう。
それでいて「安全のボルボ」は健在。車線をはみ出しそうになるとアラームが鳴り、前車に接近すると赤いランプが点滅し、両サイドの死角に車両が近づくとオレンジのインジケーターが光る。「ヒューマンセーフティ」(歩行者検知機能付き追突回避・軽減フルオートブレーキシステム)を試さなくても、守られていることを実感する。
続いて乗ったR-DESIGNは、精悍(せいかん)な後ろ姿には目を奪われるし、加速は強力で、6気筒ならではのスムーズネスも心地いいけれど、DRIVeより200kg以上重いボディが響くのか、スペックほどの差は感じなかった。乗り心地は予想したよりハードではなく、ハンドリングを含めて重厚な雰囲気だったが、個人的にはDRIVeで何の不満もない。
V60は、走らせても“V70の弟”ではなかった。デザイン同様、伝統的なボルボらしさと、現代のクルマ作りのトレンドを絶妙にミックスしたようなフィーリングだった。僕はV70のテイストが好きだけれど、あの味付けが濃厚すぎると感じていた人もいるはず。その意味では、間口の広いボルボといえるかもしれない。
(文=森口将之/写真=峰昌宏)
拡大
|
拡大
|
拡大
|
拡大
|

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】
2025.12.6試乗記マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。






























