ボルボV60ポールスター(4WD/6AT)
大人にこそ薦めたい 2014.10.28 試乗記 ボルボとそのレースパートナーであるポールスターが共同開発した「S60/V60ポールスター」は、サーキットで培われた速さを、いわばスカンジナビア流の節度とバランス感覚で掌(つかさど)ったモデルだ。やるときゃやる大人にこそ乗ってほしいパフォーマンスカーである。「V60ポールスター」で箱根のワインディングロードを目指した。由緒正しきコラボレーション
そもそもノーマルの「V60 T6 AWD」の完成度が高いのだから、よほどの改悪でもしなければ悪くなろうはずがない。だが生半可な内容だったら、純正ラインナップの頂点にある「V60 T6 AWD R-DESIGN」との差別化は難しい。
「ここはいっちょ、ワークスチームのお手並み拝見!」
これが筆者の偽らざる、V60ポールスターへの気持ちだった。
そして驚いた。コイツはまれに見る傑作である。
ポールスターのバッジを付けたボルボといえば、これまではECUチューンを施した「T4」(180ps→200ps)および「T6」(304ps→329ps)の「ポールスター パフォーマンス パッケージ」を指してきた。しかし今回のS60/V60ポールスターは、直列6気筒のターボエンジンをストックの304psから350psにまでパワーアップするにとどまらず、シャシーおよび駆動系にもその手を入れている。
まず誰もが驚くに違いないのが、その懐深いサスペンション性能である。
ポールスター専用装備として用意されたのは、オーリンズ製のサスペンションシステム。車高調整機能こそ付かないが、前後ともに30段の減衰力調整機能を持ち、その仕様変更については、ポールスターレーシングのエンジニアが直接関わっている。オーリンズはスウェーデンのメーカーであり、彼らともレース活動を通して長いつきあいがある。ちなみに今回の減衰設定は、ポールスターレーシングの面々が実際に市街地および箱根のワインディングロードを走って調整した段数になっているとのことだった。
コンプリートカーならではの奥深さ
ご存じの通りV60 T6 AWDシリーズは、フロントにデカい直6ターボを、しかも横置きに搭載するフロントヘビーなクルマだ(前後の静的重量配分は60:40。車検証記載値から計算)。しかしV60ポールスターでは、その足まわりは1810kgの車重を支えるのみならず、思わずうなってしまうようなロール制御でこの立派なボディーを旋回させていく。
基本的なハンドリング特性は弱アンダーステア。しかしこれは、きっとポールスターレーシングの良心と、ボルボというメーカーの常識によるものだろう。ただしアンダーとはいっても、それはフロントタイヤがズルズルと軌道を外れて滑り出すような、レベルの低いアンダーステアではない。フロントはどこまでもしなやかに路面を捉えようとし続ける。単にリアが巻き込まないようにしているだけである。
透き通るような直列6気筒の回転上昇感に、ターボのトルクが加わった快楽のエンジンパワー。これを確実にスプリングとダンパーが受け止める。サスペンションがフルボトミングしたときの、バンプラバーへの当たり方も実に穏やかで、そこからステアリングを切り増したときに、最後までハンドルが利いてくれる。
縦(ブレーキング)から横(ステア)へGが移り変わり、続いて車体が傾いてからフルロールするまでの速度、いわゆるロールスピードが緩やか、かつ上質だから、実際はとんでもないペースで旋回をしているにも関わらず、まったく怖くない。むしろ楽しく感じてしまう部分に、これを「コンプリートカー」と呼べる奥深さがある。
絶妙なポールスター的バランス
旋回時にこれだけの制御ができるのは、ダンパーが伸び/縮みともにゆっくりとバランスよく動くからである。昨今のプレミアムカーは乗り心地を優先して縮み側の減衰力を下げ、その分、伸び側だけでロール制御を行う場合が本当に多いが、そうなると実は突き上げ感は減っても、あおられ感は逆に増えてしまう。結局、荒れた路面では、直進時もコーナリング時も、常に車体が安定せず、むしろ不快なクルマになってしまう場合がほとんどなのだが、V60ポールスターにはそれがない。
だからただ漠然と走っているだけだと「やっぱり足が硬いね」という表層的な印象を抱くことになるだろう。でもこの硬さは、必要な硬さだと筆者には思えた。また装着タイヤであるミシュランのパイロットスーパースポーツは縦剛性が非常に高いため、それが乗り味に影響している部分も大きい。加えて試乗車はおろしたての新車だったから、各部がなじんでくれば、さらに乗り味はしっとりとするはず。それはオーナーだけが得られる楽しみのひとつとなるだろう。
ブレーキはフロントのみが6ピストンのブレンボキャリパー+大径ローターとなっていた。見た目はいかついのだが、容量的にはジャストサイズ。むしろ耐フェード性を考えると、パッドなどはもっと高温領域に振ってもよいと思えた。またリアも同様に大径化されればフロントの負担も減るし、ブレーキング時にクルマ全体が沈み込むようなアプローチ姿勢を取れるだろう。
ちなみにこのV60ポールスターでは、6段ATの変速制御や、ディファレンシャル的な効果を発揮する電子制御ブレーキも専用にチューニングしているという。ただしそれは「ドライバーのジャマをしない範囲での改良」とのことで、筆者は4WD(ハルデックスカップリング)の制御や、電子制御ブレーキの利き方に特別な違和感を持たなかった。少なくともそれは、「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」のような人工的な味付けではない。
もしかして続編がある?
いうなればノーマルカーの素直な挙動を、超高速域でも同じように再現したのが、このV60ポールスターの正体である。そしてその次元は、恐ろしく高い。
もっともこの素晴らしい操作性と、快楽のエンジン性能を味わってしまうと、ブレーキでイナーシャ(慣性)をコントロールしながら、弱オーバーステアで4WDの走りを楽しみたいと思うドライバーがいてもおかしくはない。「これで車高バランスも変えられたら、さらにいいのに」とポールスターの面々に伝えると、「これはまだコンプリートカーの第1弾だからね」と、北欧らしい素朴な口調で、ぽそりと言われた。筆者はこれを「期待しててね」という意味に、勝手に受け取った。
ベースのV60 T6 AWD R-DESIGNが665万円のプライスタグを付けていることを考えると、S60で799万円、V60で819万円というポールスターの価格には思わずうなってしまうが、20インチのホイールとタイヤが込みになっていることを考えれば、納得の出来栄えともいえる。またわれわれ日本人は、目には見えないノウハウ(この場合はエンジニアリング料)に対価を支払うことをもっと知るべきでもある。
AMGやMたちがどんどん派手であざとくなっていくのに対し、ポールスターは素朴さを売りにする。「やるときゃやるけど、普段はおとなしくしていたいんだ」。そんなすてきな大人にS60/V60ポールスターを薦めたい。スカンジナビア気質が表現されているのは、なにもデザインだけではないのである。
(文=山田弘樹/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
ボルボV60ポールスター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4635×1865×1480mm
ホイールベース:2775mm
車重:1810kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:350ps(258kW)/5250rpm
最大トルク:51.0kgm(500Nm)/3000-4750rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)245/35ZR20 95Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:9.6km/リッター(JC08モード)
価格:819万円/テスト車=819万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1703km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:276.2km
使用燃料:36.5リッター
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)/8.8km/リッター(車載燃費計計測値)
![]() |

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。