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いまさら聞けないメカニズム 欧州車でよく見る「48Vハイブリッド」って何ですか?

2020.08.31 デイリーコラム 佐野 弘宗

マイルドなのがミソ

最近、欧州車などでよく見られるようになったのが「48Vハイブリッド」である。欧州では2016年頃から実用化されはじめて、日本初上陸はたしか2018年の「メルセデス・ベンツS450」だった。あれから2年以上が経過して、今ではランドローバーやアウディ、ボルボなども、その搭載車を日本市場に導入している。ただ、彼らの地元ではそれどころではなく、欧州では大半のメーカーがなにかしらの48Vハイブリッドを用意しており、今後はエンジン車のほぼすべてのモデルに48Vハイブリッドが用意されそうな勢いだ。

こうした動きの背景にあるのは、ご想像のとおり、この2020~2021年からEUで厳格化されるCO2排出基準である。その基準をクリアするには、EUでは排ガスゼロあつかいとなっているバッテリー式電気自動車(BEV)を1台でも多く売ると同時に、まだまだ圧倒的主流であるエンジン車の燃費を底上げしなければならない。そのために欧州メーカーがこぞって採用しはじめたのが、48Vハイブリッドというわけだ。

現在販売されている48Vハイブリッドは、スターター兼発電機として作動するモーターと、さほど大きくないリチウムイオン電池で構成された“マイルドハイブリッド”が大半だ。つまり、モーターはエンジン始動のほかに、発進や加速時に駆動アシストすることでエンジンの負荷を低減しつつ、減速時にはそのエネルギーを電気として回収(=回生充電)する。モーターのみでの走行はしない。あるメーカーによると、こうした48Vマイルドハイブリッドでも、非装着車比で最大10~20%の燃費向上が見込めるのだとか。

2018年3月に国内で発表された「メルセデス・ベンツS450」。コンパクトな直6エンジンにISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)および48Vシステムを組み合わせた、マイルドハイブリッドシステムを搭載している。
2018年3月に国内で発表された「メルセデス・ベンツS450」。コンパクトな直6エンジンにISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)および48Vシステムを組み合わせた、マイルドハイブリッドシステムを搭載している。拡大
2020年8月18日に国内で発売された最新の「アウディQ7」。3リッターV6ターボエンジンと合わせて、48Vのマイルドハイブリッドシステムが採用されている。
2020年8月18日に国内で発売された最新の「アウディQ7」。3リッターV6ターボエンジンと合わせて、48Vのマイルドハイブリッドシステムが採用されている。拡大

“諸刃の剣”の高電圧

こうしたマイルドハイブリッド機構そのものは、日本でもめずらしくない。古くは2002年にトヨタが「クラウン」に搭載したし、スズキの「S-エネチャージ」、日産の「Sハイブリッド」などもマイルドハイブリッドそのものだ。また、マツダも「スカイアクティブX」にそれを組み合わせている。ただ、その中心となるバッテリーの電圧は、今は姿を消したトヨタ版は36V、スズキや日産が12V、マツダが24V……と、なんとも千差万別である。

ハイブリッドでもBEVでも、基本的には電圧が高いほど性能は上げられる。同じ電流値なら電圧が高いほどモーターは高出力化(≒高回転化)できるし、同じ性能なら高電圧で出したほうが電流が小さくなって損失も減る(=効率が高まる)。トヨタのフルハイブリッド「THS」でも、初代「プリウス」は288Vのバッテリー電圧をそのまま使っていたが、現行プリウスではバッテリー電圧を200V強としつつも、それを昇圧して600Vで使っている。

ただ、電圧が高まるほど感電の危険性も増すので、その保護のために電装システムは大がかりになる。世界的に直流60V以上は人体への危険性があるとされて、厳格な安全基準が適用されるケースが多く、そのぶんコストもかかる。そうした性能とコストのひとつの妥協点として見いだされた値が、48Vというわけだ。安全基準のボーダーとなる60Vには少しばかり遠い気もするが、48Vのシステムでも充電時には50Vを大きく超えることもあり、そうした変動も加味すると、48Vあたりがギリギリということになるらしい。

日産は先代「セレナ」に「Sハイブリッド(スマートシンプルハイブリッド)」と呼ばれるマイルドハイブリッドシステムを採用。JC08モード燃費の値は、非搭載モデルより1.0km/リッターすぐれる15.2km/リッターだった。
日産は先代「セレナ」に「Sハイブリッド(スマートシンプルハイブリッド)」と呼ばれるマイルドハイブリッドシステムを採用。JC08モード燃費の値は、非搭載モデルより1.0km/リッターすぐれる15.2km/リッターだった。拡大
これは歴代「トヨタ・プリウス」のPCU(パワーコントロールユニット)。インバーターや昇圧コンバーターなどで構成されており、モデルチェンジのたびに小型化されてきた。4代目のPCUの体積は初代の2分の1で、出力密度は2.5倍になっている。
これは歴代「トヨタ・プリウス」のPCU(パワーコントロールユニット)。インバーターや昇圧コンバーターなどで構成されており、モデルチェンジのたびに小型化されてきた。4代目のPCUの体積は初代の2分の1で、出力密度は2.5倍になっている。拡大

EV走行への発展性も

こうしたアイデアが「車載電源の48V化」として公に提唱されたのは2011年6月のことで、フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェ、ダイムラー、BMWのドイツ5社が、車載48V電源に短期・中期的に共同で取り組んでいく声明を発表した。その念頭にあったのはもちろん、2020年に導入予定だった新しい排ガス規制だ。続く2013年に5社はVDA(ドイツ自動車工業会)とともに車載48V電源の標準規格として「LV148」を策定。こうして規格が明確化されて、しかもドイツの大手5社が積極的に使うとなれば、当然のごとく、欧州の大手サプライヤーも動き出す。こぞって48Vハイブリッド(や、48Vの車載制御システム)の開発に着手した。

流れができてしまえば、ほかの欧州メーカーもそれに乗るのが得策というものだ。今では欧州サプライヤーが多種多様なニーズに合わせた48Vハイブリッド商品を用意しており、それを導入すればノウハウ付きで供給してくれるし、普及するほど納入価格も値切れるようになる。こうなると、下手に独自開発するほうがリスクが高い。また、今はまだマイルドハイブリッドが大半だが、48Vでは限定的なモーター単独走行可能なシステムも存在しており、今後の発展性も残されている。

いっぽう、トヨタの影響もあって、高電圧フルハイブリッドが最初から普及した日本では、48Vはいささか中途半端である。しょせん限定的な効果しか望めないマイルドハイブリッドなら、12Vや24Vのほうがコストはさらに安い。ただ、さすが欧州発祥の技術だけに欧州市場向けにはちょうどよく、たとえばスズキも欧州向けに48Vハイブリッド車を最近いくつか発売した。

ただ、そのEU排ガス基準の最新達成度を見るに、48VマイルドハイブリッドとBEVというツープラトン(合わせ技)戦略といえる欧州メーカー群より、高電圧フルハイブリッドを大量ラインナップするトヨタ(しかも欧州ではBEV未発売)のほうが今のところ優勢のようである。欧州勢は今後のBEV普及に期待なのだろうが、うーん、最後に勝つのはどっちでしょ!?

(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車、アウディ、フォルクスワーゲン、webCG/編集=関 顕也)

新型「フォルクスワーゲン・ゴルフ」にはマイルドハイブリッド搭載モデルが設定されている。日本への導入時期は、現時点では2021年前半になる見込み。
新型「フォルクスワーゲン・ゴルフ」にはマイルドハイブリッド搭載モデルが設定されている。日本への導入時期は、現時点では2021年前半になる見込み。拡大
1.5リッターガソリンターボエンジンにスタータージェネレーターを組み合わせた、新型「ゴルフ」の「eTSI」ユニット。マイルドハイブリッドシステムのない場合に比べ、燃費はおよそ10%改善されているという。
1.5リッターガソリンターボエンジンにスタータージェネレーターを組み合わせた、新型「ゴルフ」の「eTSI」ユニット。マイルドハイブリッドシステムのない場合に比べ、燃費はおよそ10%改善されているという。拡大
トヨタのハイブリッドシステムは、マイルドハイブリッドに対して“ストロングハイブリッド”などと呼ばれ、差別化される。その初の量産モデルとなる初代「プリウス」(写真)が発売されたのが、1997年12月。以来20年以上にわたって、トヨタのハイブリッド車はグローバルに普及してきた。
トヨタのハイブリッドシステムは、マイルドハイブリッドに対して“ストロングハイブリッド”などと呼ばれ、差別化される。その初の量産モデルとなる初代「プリウス」(写真)が発売されたのが、1997年12月。以来20年以上にわたって、トヨタのハイブリッド車はグローバルに普及してきた。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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