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ヤマハ・テネレ700(MR/6MT)

荒野が呼んでいる 2020.09.09 試乗記 後藤 武 ヤマハから700ccクラスの新型アドベンチャー「テネレ700」が登場。今や定番の可変デバイスを用いず、エンジンとシャシーをひとつの方向性で煮詰めたビッグオフローダーは、高い悪路走破性能を誇るだけでなく、バイクを操るよろこびに満ちたマシンとなっていた。

“流行りのマシン”とは一味違う

世の中はアドベンチャーバイクが流行(はや)り。先日、ヤマハから登場したテネレ700を見て「ヤマハからもこのカテゴリーのバイクが1台増えたのか」なんて思う人もいるかもしれないが、このマシンは他のアドベンチャーツアラーとは方向性がずいぶん異なるマシンだった。

実車を前にしてみれば、ラリーマシンのテイストがプンプン漂ってくるデザイン。サスペンションのストロークが長いためにシートも高い(試乗したのはスタンダードモデルだが、シートが38mm低い「テネレ700 Low」もある) 。メーターもラリーマシンをイメージさせる縦長のデジタル。ハードなオフロードライディングを想定しているから、シートのスポンジがずいぶん硬めだ。

ハンドルスイッチに目をやれば、最近は当たり前のように装備されているパワーモードセレクターが見当たらない。「最高の走りに必要なパワーモードはひとつだ」ということだろう。オフロードではスロットル操作と荷重移動でマシンを操作しなければならない。スロットルの特性を体に覚え込ませるためにも、この選択はよかったのではないかと思う。トラクションコントロールがないのも、オフの走りをメインに考えているからだろう。

本格オフローダーの風格が漂う「ヤマハ・テネレ700」。長いサスペンションにフロント21インチのホイールもあって、シート高は875mmに達する。
本格オフローダーの風格が漂う「ヤマハ・テネレ700」。長いサスペンションにフロント21インチのホイールもあって、シート高は875mmに達する。拡大
「テネレ(Ténéré)」とはヤマハが1980年代から使用している車名。サハラ砂漠中南部の呼称であり、トゥアレグ族の言葉で「何もないところ」という意味を持つ。
「テネレ(Ténéré)」とはヤマハが1980年代から使用している車名。サハラ砂漠中南部の呼称であり、トゥアレグ族の言葉で「何もないところ」という意味を持つ。拡大
フル液晶のマルチファンクションメーター。表示の素っ気なさはご覧の通りだが、大画面でとにかく分かりやすい。
フル液晶のマルチファンクションメーター。表示の素っ気なさはご覧の通りだが、大画面でとにかく分かりやすい。拡大

オンロードでも快適・快速

270°クランクのエンジンは、700ccクラスとは思えないほど低中速トルクが太い。ストリートでは3000rpmぐらいからトルクが出てきて4000rpmからはモリモリ領域。スロットルを開けるとドカンという感じで飛び出していく。そのまま開け続ければレブリミットまでスムーズに回っていくけれど、高回転でパワーが盛り上がっていく感じではない。完全に中速のトルクを重視した特性だ。

スロットルの開け始めでリニアに反応するから、渋滞路などで油断して何気なくスロットルを開けると、“ドンツキ気味”に飛び出してしまうこともある。最近のバイクはマネジメントで開け始めをダルにしているものがあるから、そういったマシンと比べたら多少過敏に感じるかもしれない。しかし、オフロードを走るのであればこのレスポンスは必要なのである。

ブレーキは非常によく利く。タッチが鋭く制動力も高い。サスのストロークは長いけれど、セッティングがかなり硬めになっているため、オンロードでブレーキをハードに使ってもピッチングモーションはあまり気にならない。ハンドリングも素直で、21インチタイヤによる重心の高さもあって、フロントの安定感をキープしたまま車体が気持ちよくバンクしていく。交差点の立ち上がりで低い回転からスロットルを開けると、270°クランクの小気味よい排気音を奏でながら軽快に速度を上げていく。

高速道路に上がっても、エンジンの振動は少なく、スクリーンも効果的で直進安定性も高い。太い中速トルクのおかげで、追い越しではストレスなく前に出ることができる。総じて、かなり飛ばし気味に走っていても不安がないマシンだ。

とはいえ、このバイクが本領を発揮するのは、やはりオフロードだ。走破性の高さは言わずもがなで、車体もシッカリしている。硬めのサスもこの車体に対しては適正。ハイスピードでギャップを通過しても安定しているし、ジャンプも難なくこなしてしまう。

風防効果抜群のスクリーンと4灯のLEDヘッドランプが個性的なフロントまわり。灯火は上段がロービーム、下段がハイビームとなっている。
風防効果抜群のスクリーンと4灯のLEDヘッドランプが個性的なフロントまわり。灯火は上段がロービーム、下段がハイビームとなっている。拡大
688ccの直列2気筒エンジンは、ライダーの操作に対しリニアにトルクを発生させる「クロスプレーン・コンセプト」に基づいて開発。低・中回転域の豊かなトルクも特徴となっている。
688ccの直列2気筒エンジンは、ライダーの操作に対しリニアにトルクを発生させる「クロスプレーン・コンセプト」に基づいて開発。低・中回転域の豊かなトルクも特徴となっている。拡大
フロントのサスペンションには、伸び/縮みの減衰力調整が可能なφ43mm、ストローク量210mmの倒立フォークを採用。ブレーキには唯一の可変デバイスである、オン/オフ切り替え可能なABSが装備される。
フロントのサスペンションには、伸び/縮みの減衰力調整が可能なφ43mm、ストローク量210mmの倒立フォークを採用。ブレーキには唯一の可変デバイスである、オン/オフ切り替え可能なABSが装備される。拡大
車体には、高張力鋼管を用いたダブルクレードルタイプのフレームを採用。高い強度が自慢で、悪路走行に適した剛性バランスと軽量化に寄与している。
車体には、高張力鋼管を用いたダブルクレードルタイプのフレームを採用。高い強度が自慢で、悪路走行に適した剛性バランスと軽量化に寄与している。拡大
ヤマハがパリ‐ダカールラリーのマシンで考案した270°クランクの直列2気筒エンジンは、ピストンの往復慣性エネルギーによる“トルクのムラ”の小ささと、不等間隔爆発によるトラクションの高さが特徴だ。
ヤマハがパリ‐ダカールラリーのマシンで考案した270°クランクの直列2気筒エンジンは、ピストンの往復慣性エネルギーによる“トルクのムラ”の小ささと、不等間隔爆発によるトラクションの高さが特徴だ。拡大
リアの足まわりには、新設計のリンク式モノクロスサスペンションを採用。ストローク量は200mmで、伸び/縮みの減衰力とプリロードの調整が可能。
リアの足まわりには、新設計のリンク式モノクロスサスペンションを採用。ストローク量は200mmで、伸び/縮みの減衰力とプリロードの調整が可能。拡大
車体に張り付けられたような意匠のフラットシート。ライディングポジションの自由度の高さや、足つき性の向上に寄与しているが、座り心地は硬い。
車体に張り付けられたような意匠のフラットシート。ライディングポジションの自由度の高さや、足つき性の向上に寄与しているが、座り心地は硬い。拡大
「テネレ700」は、妥協しているところが一切見当たらない、ヤマハが本気でオフロードでの走りを追求したマシンだった。
「テネレ700」は、妥協しているところが一切見当たらない、ヤマハが本気でオフロードでの走りを追求したマシンだった。拡大

マシンを自らコントロールするよろこび

オフを走っていると、力強い中速トルクと鋭いスロットルレスポンスが楽しい。欲しい場所で欲しい分だけトルクが出てくる。多少姿勢を崩してもスロットルを開ければ持ち直してくれる。270°クランクのエンジンはトラクション性能も高く、コーナーの立ち上がりで車体を起こし気味にしてスロットルを大きく開けると、リアタイヤを流しながら車体は確実に前に進んでいく。トラクションコントロールに頼るのではなく、エンジンの特性とスロットルワーク、車体の姿勢でマシンを自らコントロールするのが楽しい。加速時にリアショックが沈んだ状態でギャップを踏んでも大きく姿勢が乱れることはなく、そのまま突き進んでいく。スロットルを大きく開けていけるダートは極めつけに面白い。

ただ、軽いとはいえ車重は200kgオーバーで足つきが悪いから、狭い場所で立ち往生してしまったときは難儀する。大きな石がゴロゴロしているような場所も、フロントが取られると支えるのが大変だ。砂地ではパワーをかけていられれば爽快な走りが楽しめるが、スロットルを戻し気味にしてしまうとフロントが切れ込んできてしまう。もっとも、これはビッグオフローダーに共通した特性。ライバルたちと比べたら、コンディションの悪い場所でもテネレの走破性、オフロード性能は突出している感じだった。

テネレ700は、オフロードでの走りを本気で追求したマシンだ。妥協している部分が見当たらない。それでいてオンロードの走りや快適さはアドベンチャーツアラーと遜色ないレベルにある。長距離を走る場合はシートの硬さが気になるかもしれないが、それはカスタマイズする楽しみがあるということ。オフロードを愛するライダーたちにとって、最高の一台であることは間違いない。

(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

ヤマハ・テネレ700
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2370×905×1455mm
ホイールベース:1595mm
シート高:875mm
重量:205kg
エンジン:688cc 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:72PS(53kW)/9000rpm
最大トルク:67N・m(6.8kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:24.0km/リッター(WMTCモード)/35.0km/リッター(国土交通省届出値)
価格:126万5000円

後藤 武

後藤 武

ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。

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