ヤマハ・テネレ700(MR/6MT)
うるわしの最大公約数 2019.06.15 試乗記 デカくて重いアドベンチャーツアラーに対する、強烈なアンチテーゼ。ヤマハがリリースした“中量級”のニューモデル「テネレ700」は、シンプルでありながらも、「オフロードバイクはこれでいい」とライダーをうならせる一台に仕上がっていた。大きいことはいいことか?
2016年、ヤマハのラリーヒストリーをなぞるような1本のティザームービーが公開された。サハラ、そして南米の地へ移った伝統のラリー、ダカールの戦いに重ねるように走る1台のマシン。「T7コンセプト」なる謎のダートバイクは、台地の断崖に到達し、ライダーは遠くを思う……。そんな仕立てだった。
これぞ「Ténéré(テネレ)700」の原型が世に示された瞬間だった。
今、世界の二輪界をにぎわすアドベンチャーツアラー。その人気の主軸は1200cc級のアッパークラスにある。先進装備の多くを搭載し、大容量の燃料タンクがかなえる航続距離と持ち前の走破性で、どこへでも走っていける。他方で、こうしたモデルはその分だけ車体が大きく、重く、そして価格が高い。
対するテネレ700は、まさにそうしたモデルにカウンターを浴びせるような存在だ。排気量は700ccクラス。ヤマハの「MT-07」と同型のエンジンを搭載し、オフロードバイクのアピアランスをしっかりと持つデザインは、さながら現在のダカールレーサーを思わせる。多少転んだぐらいでペダルの踏面が折れ曲がらないよう、それにはフォールディングタイプを採用。前:21インチ、後:18インチのタイヤ選択と、前:210mm、後:200mmの長いサスストロークは、ダートランが得意であることを主張する。またフロントフェンダーには、オフロード用タイヤを履いたときに泥で目詰まりしないよう、上方に動かせるという秘密も隠されている。
車両重量はネイキッドのMT-07が183kgなのに対し、フェアリングなどの装備を加えたテネレ700が燃料満タンで204kgとなっている。これは250kg程度のマシンが中心のアドベンチャーバイクとしては、ニュースである。
エンジニアの思いが伝わってくる
またがると、880mmと発表されているヨーロッパ仕様のシートながら、スリムな車体と足をストンと下ろせる足つき性のよさから、数値ほどの高さを感じない。なにより、スタンドからヒョイと車体を起こす動きが軽くて、おっくうにならない。ポジションもオフ車らしいものだ。
エンジンは鼓動感のある音を奏でるが、バイブレーションは微細。レスポンスがよく気分がたかぶる。テネレ700用に吸排気系をチューニングし、オフロードを抜き足差し足でも走れるようファイナルレシオもショート化しているから、走りだしからトルクフルに感じる。
市街地でも“体格”を気にせず軽快に走れる。ブレンボの小型キャリパーを使うフロントブレーキのタッチや、握り込めば引き出せる減速感、リアブレーキの初期制動も穏やかなタッチがなじみやすい。サスペンションとのマッチングもよく、車体の姿勢も把握しやすい。時にフロントが硬いと思う場面もあるが、交差点レベルのターンをくるりとこなすフットワークのよさを体験すると、細かいことだと思えるようになる。
郊外路でペースを上げる。このエンジンは4000rpmあたりから6000〜7000rpmあたりを使えばどのギアでも加速が楽しい。スロットルを開ける量で加速を調整することで、このエンジンが持つうま味をぐっと引き出せる。シフトもオフロードブーツでもまごつかない適正なストロークを持ち、気持ちよく決まる。操作系は総じて、エンジニアが口にする「オフロードバイクをつくりたかった」という思いがきれいに表現されている。
フラットダートが楽しくて仕方ない
だからといって、ロードセクションで馬脚を現すことはない。むしろテネレ700は楽しい。標準装着されるピレリの「スコーピオンラリーSTR」は、ブロックパターンのタイヤながら、アスファルトでの旋回性やグリップ特性、路面からの入力の吸収性、路面に対する追従性が、いずれも滑らかだ。ツーリングバイクでもあるテネレ700のキャラクターにぴったりである。
ウインドプロテクションも、小ぶりなスクリーンながら、ほぼオフ用ヘルメットのバイザー直下までカバーしてくれる。肩や腕には風が当たるから、夏でも暑苦しさはないだろう。大型モデルに比べたらやや劣る、という程度だろうか。
今回、試乗ルートにはフラットダートを含むさまざまなオフロードが含まれていた。ダートを走るテネレ700からは、なるほど、このバイクのチューニングがこうしたシーンにピタリとフォーカスしたものだったことが分かる。ブレーキのタッチからフロントの安定感、そしてトルクバンドを使ってジワジワとテールを押し出すように走るハンドリング。もう、やり出すと笑いが止まらなくなる。
それでいて、少しだけペースを落とせば、まるでクルーザーのごとき安定感をもって不安のない走りを楽しませてくれる。シッティングで走ると、時々深い砂利にスっとフロントを持っていかれる感じがあったが、リアのイニシャルプリロードを上げて姿勢を少し調整したら改善された。「あまりリアにイニシャルをかけると、今度はリアがスプリンギーになるのでこのへんかな」というところで止めたが、フロントの初期の吸収にひとワザほしいと思ったのは事実。スタンディングで乗るととてもバランスがいいだけに、欲が出る。
そんなシチュエーションを走っていても、車体にはしっかり感があり不安がない。まあぜいたくな話だが、サスペンションの質感は気持ち高めてほしいところだ。最近、「KTM790アドベンチャーR」で特上のサスペンションを体験したせいも多分にあるのだが。
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オフロードバイクはこれでいいんだよ
フォトショットの多くがオフロードだったことからも伝わるだろうが、ヤマハはこのバイクをダートで心底楽しめる一台に仕立てたようだ。実際に楽しい。トラクションコントロールすら備わらないし、ライディングモードの切り替えもない。そこからは、価格を抑える努力、というよりも、バイクのピュアな特性を磨いた努力が伝わってくる。エンジン特性のよさとハンドリングのバランスのよさがあってこそ、さまざまなアクションにもトライできた。「あ、これでいいんだ」。走行を終えて私はそう感じた。
ピュアなオフロードバイクとして2気筒700ccは大きく重いとみる向きもあるだろう。ただ、そこに遠出やツーリングという係数を掛けると、テネレ700は軽量なオフ車とビッグアドベンチャーのベストバランス、最大公約数なマシンなのかもしれない。どうやら年末から来春になりそうな国内販売が、いまから待ち遠しい。
(文=松井 勉/写真=ヤマハ発動機/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2365×915×1455mm
ホイールベース:1590mm
シート高:880mm
重量:204kg(燃料満タン時)
エンジン:689cc 水冷4ストローク直列2気筒 DOHC 4バルブ
最高出力:73ps(54kW)/9000rpm
最大トルク:68Nm(6.9kgm)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:--円

松井 勉
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