ポルシェ718スパイダー(MR/6MT)
待ってました! 2020.09.06 試乗記 ポルシェのミドシップオープン「718ボクスター」に伝統の「スパイダー」が帰ってきた。新型のハイライトは、復活した自然吸気水平対向6気筒エンジンと締め上げられたシャシー。その仕上がりを確認すべく、ワインディングロードに連れ出した。自然吸気6気筒の復活
やっぱりね、そうでなくちゃね。自然吸気(NA)6気筒エンジン復活のニュースを聞いて、皆さん異口同音につぶやいたのではないだろうか。4年前、「718ボクスターS」の試乗記に「ポルシェにもできないことはある」と書いた。自然吸気フラットシックスに代えて水平対向4気筒ターボを積んだ「718ボクスター/ケイマン」シリーズは、例によって一段と進化していたものの、2リッターおよび2.5リッターの4気筒水平対向ターボエンジンそのものは回して爽快とは言い難いエンジンだったからだ。
もちろん、時を前後して大黒柱たる「911」シリーズも3リッター6気筒ツインターボに換装(「GT3」系を除く)、いわゆるダウンサイジングターボ化に大きくかじを切ったのはCO2排出低減という避けられない課題に対処するためだったことは言うまでもない。生き延びるための苦渋の選択といえるかもしれない。
ところが、案の定というべきか、待ってましたというべきか、新しい718スパイダー/ケイマンGT4の開発に際しては方針を修正、NAの4リッター6気筒エンジンを積んだのだ。
ご存じのようにこのスパイダーとGT4は718ボクスター/ケイマンシリーズのフラッグシップモデルという位置づけだが、最高性能モデルだけにとどまらず、既に若干チューンが低いエンジン(最高出力400PS)を積む「718ボクスター/ケイマンGTS 4.0」も登場している。当面は4気筒ターボの「GTS」モデルも併売されるようだが、新型のNA 6気筒を搭載するモデルは今後さらに拡充されると見るのが自然だろう。
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3リッター6気筒ターボをベースに新開発
頭の固い守旧派と言われようと、ステレオタイプと言われても、「ポルシェはやっぱり6気筒に限る」「回してもクワーンと叫ばない4気筒ではどうしても満足できない」という熱心なカスタマーの声に応えての素早い路線変更と推測することもできる。911用3リッター6気筒ツインターボは文句のつけようがない仕上がりだったのに対して、718シリーズ用4気筒ターボはパワフルで恐ろしく速かったものの、多くの人がスポーツカーとしてのポルシェに求める気持ち良さに欠けていることは否めなかったからだ。
もっとも、このリアクションの速さは、世の不満に応えたというより、むしろ最初から予定していたのではないかと勘繰りたくなるほどだ。
それというのも、新たに718スパイダーとケイマンGT4に搭載された4リッター6気筒は、「911 GT3」のエンジン(ボア×ストロークが同一にもかかわらず)をデチューンしたものではなく、現行型911の3リッター6気筒ターボをベースにした新開発エンジンだという。
ならば最初から718シリーズに搭載しておけばよかったのに、などとは言うなかれ。新型NA 6気筒はピエゾインジェクターを採用したり、軽負荷走行時には6気筒のうちの3気筒を休止する「アダプティプシリンダーコントロール」システム(水平対向エンジンでは初めて)などを搭載したりして燃費を向上させている。しかも、休止する3気筒を交互に切り替えて温度をコントロールしているという。そこまでさまざまな技術を投入して、ようやく高性能と最新の規制への適合を両立させたというわけだろう。ポルシェにだって、すぐにはできないこともあるのである。
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「やっぱりこれだよ」の6気筒
その新型NA 6気筒は最高出力420PS(309kW)/7600rpmと最大トルク420N・m(42.8kgf・m)/5000-6800rpmを発生。3.8リッターNA 6気筒を積んだ981型2代目「ボクスター スパイダー」と比べると45PSのパワーアップになる。9000rpmまで回るGT3用フラットシックスほどではないが、レブリミットは8000rpmという高回転型。走りだす瞬間から、これこれ! と膝を打ちたくなるエンジンである。
低回転域から打てば即響く硬質でダイレクトなレスポンスと逞(たくま)しいトルクといい、そして踏めば突き抜けるように昇りつめるフィーリングといい、われわれがポルシェに期待するすべてが備わっている。ちなみに0-100km/h加速は4.4秒、最高速は301km/hというが、それより何より鋭く上下する回転フィーリングと、回転につれて機械音と排気音が調和して研ぎ澄まされるサウンドが素晴らしい。パワフルだが、ボロボロベリベリという不機嫌なサウンドを漏らす2.5リッター4気筒ターボとは別物である。「やっぱりこれだよ」と芸のない言葉を何度も繰り返してしまうのであった。
ひとつだけちょっと気になるのはアダプティプシリンダーコントロールが作動する場合に、ブルルと微(かす)かなバイブレーションというかこもり音のような不協和音が聞こえることだ。スロットルを緩めて巡航するような際には頻繁に一生懸命に作動していることが分かるが、われわれオヤジ世代には「すわ、エンジン不調か?」と思わせる不吉な音色である。ちなみにアイドリングストップ機構をオフにすれば、同時に作動しないようになるという。
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硬派だがスパルタンさはなし
今のところこの新しいNA 6気筒を積むモデルはすべて6MT仕様のみ。いずれはPDKモデルもラインナップされるはずだが、操作は軽くシフトダウン時に回転を合わせてくれるオートブリッピング機構も備わるから非常に扱いやすい。
スパイダーは足まわりにもGT3譲りのパーツを多用するシリーズのトップパフォーマーだが、意外や心配するほど硬派ではない。とはいえ、コーナリング性能は飛び抜けており、公道では8000rpmまでの回転計を使い切るチャンスはほとんどない。機械式リアLSDとトルクベクタリングも備わるが、電子制御のアシスト感はほとんどなく、ドライバー自らがコントロールしている実感が強い正統派かつ理想的なスパイダーである。
もっともスパイダーという名前から想像するほどシンプルでもスパルタンでもなく、さらに軽量でもない(車検証値は1450kg)。ソフトトップは初期型スパイダーの折り畳み傘をさしかけたような心もとないものではなく、高速道路でもびくともしないが、無論ボクスターとは違ってスイッチひとつで開閉完了というものではなく、スイッチでロックを外してから一度車外に降りて自分で作業する必要がある。
となれば、ほんの少しパワーが劣るとはいえボクスターGTS 4.0のほうが日常使用にも面倒がないのではないか、毎日乗るならやはりいずれ追加されるであろうPDKのほうがいいかもしれない、などと、捕らぬたぬきの皮算用ならぬ妄想の迷宮に迷い込んでいる時点で、すっかりポルシェの術中にはまっているようである。
(文=高平高輝/写真=神村 聖/編集=櫻井健一)
テスト車のデータ
ポルシェ718スパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4430×1801×1258mm
ホイールベース:2484mm
車重:1420kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:420PS(309kW)/7600rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/5000-6800rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)295/30ZR20 101Y(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:10.9リッター/100km(約9.1km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:1237万5000円/テスト車=1592万1595円
オプション装備:ボディーカラー<キャララホワイトメタリック>(14万8704円)/ソフトトップカラー<ボルドー/ブラック>(0円)/インテリアパッケージ<スパイダークラシック>(38万2964円)/シートヒーター(7万0278円)/ロールオーバーバー<エクステリアカラー同色仕上げ>(8万4537円)/グレートップウインドスクリーン(1万9352円)/オートエアコン(12万7315円)/スモーカーパッケージ(9167円)/LEDヘッドライト<ポルシェダイナミックライトシステムプラス、PDLSプラス付き>(32万8983円)/ライトデザインパッケージ(4万9908円)/リアパークアシスト<リバーシングカメラ含む>(10万8983円)/電動可倒式ドアミラー(4万9908円)/BOSEサラウンドサウンドシステム(19万6574円)/レザーエッジ付きパーソナルフロアマット(4万1759円)/自動防眩(ぼうげん)ミラー(8万1483円)/サテンブラック塗装仕上げホイール(19万8612円)/レザーサンバイザー(6万9259円)/ステンレスドアシルガード<発光式>(10万8983円)/アルミルック仕上げ燃料キャップ(2万2408円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:4163km
テスト形態:ロードプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:277.5km
使用燃料:44.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.2km/リッター(満タン法)/7.8km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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