ポルシェ718スパイダー(MR/6MT)/718ケイマンGT4(MR/6MT)
望みのままに 2019.08.05 試乗記 オープントップの「718スパイダー」とクローズドボディーの「718ケイマンGT4」。“ミドシップ・ポルシェ”のトップに君臨する2モデルが新型になって帰ってきた。果たして、その仕上がりは? イギリスからの第一報。「待ってました!」の6気筒
718シリーズとなって水平対向4気筒ターボエンジンを搭載しているポルシェ718ケイマン&ボクスターのラインナップに、かねてよりうわさされていた通り、久々の水平対向6気筒自然吸気エンジンを搭載したふたつのモデルが復活した。その名は718ケイマンGT4、そして718スパイダーである。
いわゆるダウンサイジングターボの狙いは、一番にはCO2削減だが、実は燃費計測モードが現在のWLTPに移行し、実勢速度に合わせて速度域が上方移行したことで、その意味がやや薄らぎつつあるといわれている。単純な話、過給エンジンは踏めば燃費が極端に悪化するからだ。
しかも、特に718シリーズの場合、気筒数が削減されたことと、従来の6気筒自然吸気ユニットのフィーリングが素晴らしかったこともあり、フラット4ターボのサウンドやパワー感など情感に訴える部分での評価は二分していた。そうした周辺動向、市場の声にポルシェは敏感に反応し、いち早く動いた。これはもう、さすがと言うほかない。
両モデルはポルシェのいわゆる「GTモデル」ラインに属し、モータースポーツ部門が開発を担当する。従来も「ケイマンGT4」はそうだったが、「ボクスター スパイダー」に関しては今回からこちらの仲間に加わった。「911 GT3」と「718ケイマンGT4」、「911スピードスター」と「718スパイダー」。そんな兄弟関係がGTモデルラインの中で構築されたわけだ。
目玉となるそのエンジンは、排気量4リッターの水平対向6気筒自然吸気ユニット。911 GT3用エンジンとボア×ストロークも一緒ながら、中身は別物である。新型「911カレラ」が積む3リッターツインターボユニットと同じファミリーに属するこのエンジンは、高回転高出力型の設計である一方で、ピエゾインジェクターを使った最新の燃料噴射システム、フラットエンジン初の気筒休止機構となる「アクティブシリンダーコントロール」の搭載などにより、環境性能を高めている。
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空力性能の変化に注目
さらに言えば、レースエンジンにも転用されるGT3用ユニットは非常にハイコスト。クランクジャーナル径の拡大、スチールコーティングのシリンダーの採用など改良が加えられているとはいえ、量産ユニットをベースにして価格を抑えることも、あえて新開発となった理由である。
その最高出力は420ps、最大トルクは420Nmで、最高許容回転数は8000rpmとなる。よもや、それで不満という人はいないだろう。しかも、トランスミッションは少なくとも当初は6段MTだけの設定だ。
シャシーは、可能な限り多くのパーツを911 GT3から流用している。718シリーズではストラットになるリアサスペンションも、アーム類、サブフレームなど多くのパーツが専用品となり、ブッシュ類はほとんどがスフェリカルジョイントに置き換えられた。タイヤは専用のUHP(ウルトラ・ハイ・パフォーマンス)タイプが標準となる。
この内容は、718スパイダーもまったく変わらない。ボクスター スパイダーには未装着だったPASMが付くだけでなく、何と両車でスプリングレートまで同じなのだという。確かに車重は1420kgと等しいとはいえ、オープンボディーであるにも関わらず、である。
もっとも、911 GT3譲りのシャシーを使うのは先代ケイマンGT4も同様だったから、それだけでは驚きはない。むしろ注目すべきはエアロダイナミクスの進化だろう。この両車、シリーズで初めてリアに大型ディフューザーを備えるのだ。
その効果は絶大で、718ケイマンGT4の場合、固定式リアスポイラーと合わせてリアのダウンフォースは従来より50%も増大している。718スパイダーの場合は電動格納式リアスポイラーを使うためそこまで大きくはないものの、ボクスター シリーズでは初めてリアにダウンフォースを生み出すことができたという。
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切れ味も安定感もバツグン
両車の国際試乗会は、スコットランドにあるノックヒル・レーシングサーキットを拠点に開催された。まず託されたのは718ケイマンGT4。舞台はサーキット走行だけである。
アクティブエンジンマウントを使うとはいえ、基本設定がハード志向なのだろう。また、遮音材も省かれているに違いない。エンジンを始動すると室内はエンジンノイズで満たされるが、決して不快ではない。ブリッピングに対する反応も軽快、かつソリッド。6段MTのタッチも剛性感に富み、いかにも戦うマシンらしい。
実際に走らせても、期待は裏切られない。低速域から高速域までレスポンスは一貫してシャープでリニア。自然吸気ならではの好感触を満喫できる。とりわけ5000rpmを超えた辺りからの迫力を増すサウンド、一層鋭くなる吹け上がりは、病みつきになる快感である。
このエンジンを思い切り歌わせることができるのは、格段に安定感を増したフットワークのおかげだ。操舵と同時に間髪入れずに向きが変わり始める切れ味の良さは、さすがミドシップらしい。先代と決定的に異なるのはその先で、リアが軽く、ステアリングもスロットルも繊細にコントロールする必要があったケイマンGT4に対して、文句なしのスタビリティーを発揮して安心してコーナーに切り込み、そして立ち上がることができるのだ。
これはまさにダウンフォースの効果。アップダウンの激しいノックヒルのコースでも一貫性が損なわれることはなく、鋭く安定したコーナリングを楽しめた。コーナー立ち上がりのトラクションでは911 GT3にはかなわないが、こちらには意のままになるターンインがある。タイトなコースなら案外いい勝負ができるかもしれない。
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先代との価格差にも納得
サーキットを出て一般道で試乗したのが718スパイダーである。もちろん基本はオープンで行く。
エンジンが低速域では意外と静かなのは、2020年から施行予定の新しい通過騒音規制を先取りしてクリアしているから。むしろ補機類のヒュンヒュンというノイズの方が耳に届いてくるのは、ちょっと懐かしい感触と言える。その先もエンジンサウンドは抜けるような高音ではなく、低中音域主体のフラットなもので、回転上昇に伴う駆け上がり感はさほどでもないが、緻密なメカノイズがじわりと粒をそろえていくのを聞いているだけでも、十分に没頭できる。音量、音質は納得いくものだったと言っていい。
かと思うと、時に排気音に不協和音的な成分が混ざることがある。実はこれ、アダプティブシリンダーコントロールが働いている証しで、インジケーターなどは備わらないが、この音ですぐに分かる。オープン走行時など、不快ならばアイドリングストップをオフにしておくと、こちらも働かなくなる。
718ケイマンGT4と同様、フットワークは切れ味バツグンで、切れば切っただけグイグイ向きが変わる。スタビリティーも申し分なく、一般道では姿勢を崩すそぶりすら見せなかった。サスペンションはそれなりに硬いが、高いボディー剛性のおかげで荒れた路面でも乗り心地は許容範囲内。というか、正直なところまったく不満を感じることはなかった。
言えるのは、走りに関しては両車ともまるで文句をつける余地などなく、心ゆくまでスポーツドライビングを楽しめるということである。今回チャンスはなかったが、718ケイマンGT4で一般道へ出ても、あるいは718スパイダーでクローズドトラックを走っても、印象は変わらなかっただろう。
先代に比べると価格はざっと200万円ほど上がっているが、内容とその進化ぶりからすれば、十分納得できる。考えてみてほしい。718ケイマンGT4は911 GT3の半値ほどでしかなく、同様に718スパイダーは「911スピードスター」(海外で26万9274ユーロ)の、下手すると3分の1。しかも両車、限定とはうたわれていないから、望めば手に入る可能性も高いのだ。
正直、ヒットしない理由が見つからない、この2台。強いて言えば日本仕様は右ハンドルのみなのがどう出るか……。少なくとも2台とも実用車ではなく趣味のクルマであり、またこれまでの歴史的経緯だってあるのだ。ポルシェジャパンにはぜひ、望めばどちらも選べるように、再考をお願いしたい。
(文=島下泰久/写真=ポルシェ/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ポルシェ718スパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4430×1801×1258mm
ホイールベース:2484mm
車重:1420kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:420ps(309kW)/7600rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/5000-6800rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)295/30ZR20 101Y(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:10.9リッター/100km(約9.1km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:1215万円/テスト車=--円
オプション装備:--
(※価格は日本市場でのもの)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ポルシェ718ケイマンGT4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4456×1801×1269mm
ホイールベース:2484mm
車重:1420kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:420ps(309kW)/7600rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/5000-6800rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)295/30ZR20 101Y(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:10.9リッター/100km(約9.1km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:1237万円/テスト車=--円
オプション装備:--
(※価格は日本市場でのもの)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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