プジョーSUV 2008 GTライン(FF/8AT)
ライオンの本気 2020.10.10 試乗記 プジョーのBセグメントSUVが2代目に進化。車名も新たに「SUV 2008」となって私たちの前に現れた。強豪ひしめくコンパクトSUV市場にプジョーが投入したニューモデルは、ベースとなった「208」の魅力をどこまで引き継いでいるのか? その出来栄えを確かめた。名は変わってもコンセプトは踏襲
新型208のおよそ2カ月半遅れで日本に上陸した新型2008だが、今度の正式商品名は頭にSUVの文字が冠されたSUV 2008になるそうだ。これは「3008」や「5008」などの4ケタ車名のプジョーすべてに適用されるもので、しかもグローバルで共通の施策らしい。各国の販売現場から「クルマに興味がない人には3ケタ車名の乗用車と区別しにくい」といった声でもあったのだろうか。
ただ、世界のクルマ市場では遠からず、車型としてはクロスオーバーSUVが主力になる可能性が高い。よって、今回のように主力商品のほうをわざわざ複雑な名前にするのが、ビジネスとして正しいのかは微妙だ。いっそのこと、2008はそのままに、SUVでないほうを「ハッチバック208」とか「セダン508」に改名するのが理屈に合うのではないか……と思ったりもする。
閑話休題。あまり意味のないヨタ話ではじめてしまったが、新型SUV 2008(以下2008)のクルマとしての成り立ちや、商品としての立ち位置は、先代(=初代)とほぼ同じといっていい。プラットフォームやパワートレインをハッチバックの208と共有しつつ、208とほぼ同時並行で開発されて、ハッチバックから1年以内のタイムラグで市場投入……といった商品戦略は新旧2008で共通する。
また、その車名を筆頭に“208のSUV版”という出自をあえて明確にしているコンセプトも従来と変わりない。エクステリアデザインのコンセプトは、フロントウィンドウを強く傾斜させたモノフォルムプロポーションだった先代から、新型ではAピラーの根元をグッと後ろに引いたボンネットの存在を強調する自動車らしいそれに宗旨替えしているが、その方向性も208とウリふたつ。そしてインテリアに目を移しても、ダッシュボードからセンターコンソールにいたる造形に、208と選ぶところがないのも先代と同様である。
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見え隠れするライバルの影
新型で車体サイズがひとまわり大型化されているのも208と2008で同様だが、先代では208と同寸だったホイールベースが、新型では2008だけ専用に70mm伸ばされている。208は「後席や荷室は必要最低限でいい」という欧州Bセグメントハッチバックの潮流にそって、ホイールベースも先代からビタ一文変わらぬ2540mmにとどめたのに対して、新型2008のそれは2610mm。ちなみに、欧州BセグメントSUVで長らくベストセラーをはってきた先代「ルノー・キャプチャー」のホイールベースは2605mm。偶然か意図的か、両車の数字はすごく近い。
実際、新型2008の後席の足元はひとクラス上のCセグメントハッチバックくらいには広い。さらにシート配置はSUVならではのハイトワゴン的レイアウトなので、着座姿勢は健康的だし、つま先を差し込む前席下空間もたっぷり。それでいて、ヘッドルームも普通のハッチバックより明らかに余裕がある。
荷室も凝っている。先代2008でも208より大きな容量やフロアレールの設置などの工夫がみられたが、今回は可動式フロアボードを備え、上げ底にすればリアゲートの掃き出し口や倒した後席とフラットになり、下に落とし込めば荷室高が10cmほど拡大する。そういえば、この種のフロアボードもキャプチャーでは先代からすでに備わっていた。なお、新型2008の荷室容量は“クラス最大級”をうたっている。
先代2008は、208のコンパクトさをそのままSUVに転用したような商品だったが、新型では実用性の部分で208とは方向性を少し変えている。そこが新型2008最大の特徴だ。その背景には、先代2008とほぼ同時期にデビューした初代ルノー・キャプチャーが販売台数で2008を上回ったことが無関係ではないだろう。先代キャプチャーにあって2008になかったものの筆頭が、レジャービークルらしい高い実用性だった。
格上のモデルに匹敵する質感の高さ
インテリアの各調度類が、208と選ぶところがないのは前記のとおりである。また、日本の立体駐車場にも対応する1550mmという全高が先代と変わりないのに加えて、最低地上高が先代より55mm拡大された205mmとなっている(こうした部分でも新型2008はSUVっぽさを強めている)。なので、室内空間は先代より天地に“薄い”はずだが、それでもシートに座ると、208より見晴らしよく、健康的で開放的な空間となっている。
それにしても、この内装の高い質感にはあらためて「兄貴分の『308』より高級じゃね!?」と驚いて感心するしかない。厚いソフトパッドやレザークッション、繊細なクローム部品を多用した仕立てはひとつ上のCセグメント級といってよく、電動パーキングブレーキスイッチやスマホ用ワイヤレス充電器などを内包するセンターコンソールもBセグメントとは思えないほど立派だ。楽器の鍵盤のような一列のトグルスイッチ群の左右には、208にはないシートヒーターのスイッチも付いていた。
日本におけるパワートレインについては、ガソリンと電気自動車というの2つの選択肢がまったく並列に用意される。この点も208同様だ。今回の試乗車は、そのなかでも圧倒的売れ筋になるであろう1.2リッター直噴ターボの上級グレード「GTライン」である。ちなみに、208ではグレードによって異なるタイヤサイズも、2008のガソリン車ではどのグレードも17インチとなる。
208より大きくなった地上高や全高から想像されるように、低速での乗り心地は208より引き締まっている。あらゆる凹凸をフワピタと吸収してくれる208のアシさばきと比較すると、新型2008に「もうひと頑張り!」と声をかけたくなったのは事実だ。
BセグメントSUV随一の実力派
208ではちょっとしたスポーツモデルに匹敵する速さを見せてくれる1.2リッターターボも、車重が約100kg増しとなる2008では、良くも悪くも必要十分(の+α)程度のパンチ力……といったところだろう。最終減速比は208よりローギアード化されているのだが、同時にタイヤ径が拡大しているので、トータルでのギアレシオは208も2008も大差ないところに落ち着いている。
低速では路面からのアタリがちょっと強めだった新型2008の乗り心地も、高速道に乗り入れるとしなやかさが際立ってきて、100km/h近辺まで達すると、過酷な目地段差も滑らかに吸収して、スッとおさまるようになる。酷似したハードウエアをもつ「DS 3クロスバック」の上陸直後と比較すると、そのアシさばきの潤いや精度感、そして高いフラット感により、新型2008のほうがワンランク上という印象を受ける。ただ、こうしたちがいがプジョーならではの特徴なのか、後発ゆえの熟成によるものかは、現時点でなんともいえないが……。
とにもかくにも、208の絶品ともいえるシャシー調律に心酔してしまうと、2008のそれにはどうしても背高モノならではの限界や妥協を感じてしまうのは避けられないところである。しかし、最新BセグメントSUVとしては……という条件なら、新型2008の乗り心地や操縦性はトップをうかがうデキなのも事実だ。
現在日本で入手可能な新型2008のガチンコライバルには、「トヨタ・ヤリス クロス」や「フォルクスワーゲンTロック」などがあげられるが、内外装の高級感、重厚な乗り心地、(ガソリンエンジン車としての)静粛性などの走りの総合力で、個人的には新型2008が一頭地をぬいていると思う。先進安全運転支援技術でも、少なくとも平時の労力低減機能ではトヨタに大きく負けていない。まあ、緊急時の自動ブレーキ性能ではトヨタにかなわない……という報道も一部にあるが。
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グループPSAの勢いそのままに
プジョー独自の「iコックピット」の核となる超小径ステアリングの操作フィールについても、新型2008は正直なところ、208の域には達していない。自分の身体がまるでクルマの一部になったと錯覚するほどの一体感を獲得した208と比較すると、2008のそれはちょっとゆるい。接地感は208より明らかに薄く、反応も208ほど緊密ではない。
ただ、この超小径ステアリングが初めて採用された先代208/2008当時のデキを思えば、この背高シャシーと超小径ステアリング……という困難な組み合わせで、こうして違和やクセをなんら感じさせないだけでも、たいしたものだ。昨今のプジョーはどれに乗っても、iコックピットをついにモノにした感が強い。
欧州ではすでにかなりの好評価を得ている新型2008は、そのいかにも売れそうなオーラにも昨今の「グループPSA」の勢いを感じるところである。まあ、これまで王者だったキャプチャーの新型が未上陸の現時点では、最新のクラス最推奨株がどれなのかについて断定は避けたいが、少なくとも先代のころよりは、競争はさらに熾烈になりそうである。そしてどれが勝つにしても、BセグメントSUVの市場規模はさらに拡大するんだろう。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
プジョーSUV 2008 GTライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4305×1770×1550mm
ホイールベース:2610mm
車重:1270kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:130PS(96kW)/5500rpm
最大トルク:230N・m(23.5kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)215/60R17 96H/(後)215/60R17 96H(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:17.1km/リッター(WLTCモード)
価格:338万円/テスト車=373万2550円
オプション装備:パールペイント<ヴァーティゴ・ブルー>(7万1500円)/ナビゲーションシステム(23万6500円)/ETC 2.0車載器(4万4550円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1034km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:340.0km
使用燃料:29.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.7km/リッター(満タン法)/12.0km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。