三菱エクリプス クロス<PHEV>プロトタイプ(4WD)
回天の力 2020.10.19 試乗記 三菱のコンパクトSUV「エクリプス クロス」が大規模なマイナーチェンジを受けた。ボディーサイズの拡大やデザイン変更などトピックは多いが、なんといってもメインはプラグインハイブリッドモデルの追加設定だ。発売前のプリプロダクションモデルでその仕上がりを確かめた。体格と心臓を大改造
前代未聞である。マイナーチェンジだというのに、エクリプス クロスは全長が140mmも伸びているのだ。顔つきに手を加えたりリアコンビネーションランプの配置をいじったりといった小変更が普通なのだが、体格まで変えてきた。そして、新しい心臓も与えられている。プラグインハイブリッドが選べるようになったのだ。三菱としては「アウトランダーPHEV」に次ぐ第2弾となる。
大がかりな改良となったことには理由がある。プレス資料によると、背景には2020年7月27日に発表された三菱自動車の中期経営計画があるというのだ。スローガンは「Small but Beautiful」。プラグインハイブリッド車を軸とした環境車の販売強化でブランド力向上による収益力改善を目指すという。その先鋒(せんぽう)と位置づけられているのがエクリプス クロスである。「パジェロ」から始まるSUVの歴史と「ランサーエボリューション」に代表される4輪駆動の技術をアピールするという重責を担うモデルなのだ。
実際には、販売促進のためのテコ入れという側面もある。コンパクトSUVは売れ筋のジャンルなのだが、エクリプス クロスは苦戦を強いられている。「トヨタC-HR」や「ホンダ・ヴェゼル」といった強力なライバルを相手にしなければならないからだ。2018年3月の発売当初は好調だったものの、2020年に入ってからは月間販売台数が一度も4桁に達していない。不思議である。自動車メディアではこのクルマの評判がよかったのだ。試乗記では称賛の声があふれていたのに、それが販売に結びついてはいない。
エクリプス クロスは、三菱にとって新たなチャレンジだった。資料動画では「これまでの三菱自動車になかったスタイリッシュさを合わせ持つ」モデルと紹介されている。SUVとしての基本性能や4WDがもたらす走行性能には自信があったものの、見た目が武骨だと選択肢に入れてもらえない。そこで流行のクーペライクなSUVとして投入されたのがエクリプス クロスだったのである。デビュー当時、デザイン担当者は「スタイリングが一番の強みです」と胸を張っていた。しかし、まだ足りない部分があったと判断したのだろう。
リアウィンドウが1枚ガラスに
エクリプス クロスは「SUVの基本性能とスタイリッシュクーペの世界観の融合」というコンセプトを持っているが、今回のデザイン変更ではさらに流麗なプロポーションに進化させたとうたっている。全長を延ばすのは確実で手っ取り早い方法だ。より伸びやかなフォルムを実現することで、エレガントなイメージを持たせることができる。
140mmの延長の内訳は、フロント35mm、リア105mm。クルマのデザインにとって105mmというのは相当に大きな数字であり、リアのスタイルは大幅に変わった。ひと目でわかるのは、テールゲートのウィンドウだ。上下に2分割されていたのが1枚ガラスになった。デザイン上の大きな特徴だっただけに、印象はかなり変わる。2分割ウィンドウを維持することも考えたそうだが、物理的な困難があったようだ。ほんの少しウィンドウ面積が減少して下方視界がわずかに損なわれたが、横バーがなくなったことで実感としてはむしろ見やすさが増している。
リアクオーターの形状も一新された。シャープな弧を描く造形から滑らかな曲面になり、六角形をモチーフにした「スカルプテッド・ヘキサゴン」というテーマを採用。どっしりとした安定感を表現している。アーティスティックでエッジの効いたデザインに別れを告げ、SUVの王道を選んだ。普通になってしまったと悲しむ人もいるかもしれないが、好き嫌いが分かれるよりも万人に好かれる商品のほうが販売戦略としては正解なのだろう。
全長を延ばしたことによる荷室容量の拡大もメリットになる。もともと5人乗車時で341~448リッターを確保していたが、もっと広い荷室が欲しいという声はデビュー直後からあったという。ひと口にコンパクトSUVといっても、それぞれサイズが微妙に異なっている。各メーカーがジャストな大きさを模索しているのだ。マツダは全長4275mmの「CX-3」がファミリーには小さすぎるという声に応え、全長4395mmの「CX-30」を開発した。わずかな違いのようだが、ユーザーから好評を得た。エクリプス クロスはもともと全長が4405mmでCX-30よりも大きかったが、さらに大型化してアドバンテージを拡大する狙いなのだろう。全長4545mmは「トヨタRAV4」の4600mmに迫る数字である。
重厚かつ上質な乗り味
リアに比べるとフロントの変化は少ないが、ランプの形状を変えるなどの小変更が施されている。エクステリアカラーは「ダイヤモンドレッド」に続くダイヤモンドシリーズ第2弾として「ダイヤモンドホワイト」を設定し、プラグインハイブリッドモデルのコミュニケーションカラーとした。一見すると普通の白に見えるが、薄日が斜めから当たるとシルバーっぽいニュアンスが出て陰影が深くなる。インテリアにはライトグレーを新たに採用して洗練を演出した。
発売前ということで、試乗はクローズドサーキットで行われた。公道を走れないから仕方なくということではなく、ハンドリングのよさを思い切り試してほしいという意図もあったようだ。エクリプス クロスの4WDモデルは以前から三菱の誇る車両運動統合制御システム「S-AWC」を搭載しているが、プラグインハイブリッドモデルにはもうひとつ大きな武器がある。ツインモーターによる前後輪間のトルク配分だ。これを左右輪間トルクベクタリング、4輪ブレーキ制御と組み合わせることにより、あらゆる路面状況でハンドリングと走行安定性を向上させたという。
プラグインハイブリッドモデルは日常では電気自動車(EV)として使うことを目的としているので、大量のバッテリーを必要とする。車両重量が増加して運動性能の面では不利になるわけだが、走る・曲がる・止まるという基本をおろそかにするわけにはいかない。タイトコーナーで構成されるショートサーキットで試乗させるということは、重量増のハンディをしっかり抑え込んでいるという自信の表れなのだ。
発進時はEV走行なので静かでスムーズだ。アクセルを踏み込むと、モーターのトルクを生かして力強く滑らかに加速していく。30-50km/hの追い越し加速はガソリンモデルよりも強力なのだ。ボディーの重さははっきり感じられるが、もっさりとした動きにはなっていない。たまたま試乗会場に居合わせた初期のガソリンモデルオーナーは、運転感覚はまるで違うと話していた。キビキビ感と軽快感が減じた代わりに、重厚で上質な乗り味を得ている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
安心感のある素直なハンドリング
200mほどのメインストレートでフル加速すると、第1コーナーでは100km/hを超える。ブレーキングして左、右と続くS字コーナーに入ると、狙いどおりのラインをきれいに描いて抜けていく。さらにタイトな左コーナーも難なくクリアした。高速コーナーでも安定した走りを見せる。重いバッテリーを下部に設置したおかげで重心が低くなっていることがメリットとなっているようだ。背の高いクルマに乗っていることを忘れてサーキット走行を楽しんだ。
ステアリングを切っただけ素直に曲がっていくから、少々オーバースピードでコーナーに入っても安心感がある。エンジニアによると、開発途中ではもっと曲がりやすい性格だったらしい。腕自慢にとっては楽しいクルマだったが、やはり安定性を重視すべきだということになった。ファミリーユースも想定したクルマなのだから、賢明な判断である。前後モーターの回生レベルを変えることで調整したという話で、電動車の特性が生かされている。
想定外だったのは、それほど攻め込んではいない状態でも簡単にタイヤが鳴いたことだ。危険を感じたわけではないが、少し気になった。既存のモデルとは違い、プラグインハイブリッドモデルにはエコタイヤが装着されている。重量が増加していることと相まって、タイヤが鳴きやすい状態になったのだろうか。燃費が大きなアピールポイントとなっていることを考慮すれば、エコタイヤを選択するのは理にかなっている。サーキットで試したような走りは公道では違法なので、日常使いで問題が生じることはないはずだ。
プラグインハイブリッドは、現時点ではエコカーの最良の形態のひとつだと考えられるが、それほど普及が進んでいない。ネックとなっているのが価格の高さだ。エクリプス クロスのプラグインハイブリッドモデルはアウトランダーPHEVに比べれば安価であり、二の足を踏んでいた人に決断を促す狙いがあるのだろう。日産、ルノーとのアライアンスで、三菱はプラグインハイブリッドシステムの開発を主導する役割を与えられている。どうしても大胆なデザイン変更に目が行ってしまうが、エクリプス クロスは3社連合の未来を占う重要な意義を持つモデルなのだ。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
三菱エクリプス クロス<PHEV>プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4545×1805×1685mm
ホイールベース:--mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
エンジン最高出力:--PS(--kW)/--rpm
エンジン最大トルク:--N・m(--kgf・m)/--rpm
フロントモーター最高出力:--PS(--kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:--PS(--kW)
リアモーター最大トルク:--kgf・m(--N・m)
タイヤ:(前)225/55R18 98H/(後)225/55R18 98H(ブリヂストン・エコピアH/L422プラス)
ハイブリッド燃料消費率:16.4km/リッター(WLTCモード)
価格:--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:1989km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。