「技術の日産」が開花 日産の黄金期を生み出した「901運動」
2020.10.21 デイリーコラム 拡大 |
2020年10月4日、東京都武蔵村山市にある東京日産 新車のひろば 村山店で「プロジェクト901CAR'sパレード2020」と称するミーティングが開かれた。このイベントの参加車両を通じて日産の自動車づくりを考えてみた。
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日産の黄金時代
「技術の日産」。現在も「やっちゃえ日産。技術の日産が人生を面白くする」という形で使われている、日産の伝統的な企業スローガンである。あくまで個人的な意見だが、日産がそのスローガンにふさわしいメーカーだと感じた時期が2度ある。最初は3代目「ブルーバード」(510)、初代「ローレル」(C30)、「スカイライン2000GT-R」(PGC10)、初代「フェアレディZ」(S30)などが登場した、1967年から69年にかけてである。
もう1回はそれから約20年後。「ATTESA(アテーサ)」と呼ばれるフルタイム4WDシステムを搭載して1987年に登場した8代目「ブルーバード」(U12)を皮切りに、5代目「シルビア」(S13)、8代目「スカイライン」(R32)、4代目「フェアレディZ」(Z32)、「インフィニティQ45」(G50)、初代「プリメーラ」(P10)などが続々と登場した、1980年代後半から90年代初頭にかけての時期である。
この時期はバブル景気とも重なっており、豊かな経済を背景に他社からも「ユーノス・ロードスター」や初代「トヨタ・セルシオ」、初代「ホンダNSX」といった日本車史に語り継がれる傑作が数多く登場した。そのため後に「日本車のヴィンテージイヤー」とか「日本車のルネサンス期」などと呼ばれることになる。
自動車業界全体にそうした時代の空気があったのは確かだが、それにしても日産からはこの時期に多くの優れたモデルが輩出したように思える。それは単に個人的な印象ではなく、当時、日産にはその根拠となる動きがあったのだ。「901運動」とか「901活動」、あるいは「プロジェクト901」などと呼ばれる社内活動である。
マルチリンクの衝撃
あくまで社内活動であり、正式名称はないそうだが、ここでは901運動と呼ぶことにしよう。その901運動とは、「1990年代までに世界一の動的性能を実現する」ことを目標に掲げ、1980年代半ばから日産が始めた活動で、それから90年代までに開発される車種を対象に実施された。その活動がカバーするところは、シャシー、エンジン、ドライブトレイン、ボディー構造といった機構面からデザイン、品質まで車両全体にわたる。なかでもマルチリンク式サスペンションの導入をはじめとする新次元のシャシー設計がもたらした高度なハンドリングは、今も語り草となっている。
これには理由がある。マルチリンク式サスペンションは、1982年にデビューした「メルセデス・ベンツ190E」が量産車としては世界で初めて後輪に導入した。日産のシャシー設計部で、これを前後輪に採用することを目標に開発がスタートしたのが、そもそも901運動の始まりなのだそうだ。その計画が社内的に認められたのが1980年代半ばで、計画書には「今日の苦境を打破するためには商品力の高いモデルが必須で、それには新たなサスペンションを備えた世界トップレベルの高度なシャシーが必要」といった趣旨のことが記されていたという。つまり、まずはシャシーありきで、それに注力した結果、力作が生まれたのだろう。
具体的な技術としては、R32スカイラインやZ32フェアレディZなどに採用された4輪マルチリンク式サスペンション、中級以上の多くに車種の駆動輪に採用されたマルチリンク式サスペンション、そして上級車種の多くに設定された電子制御4輪操舵機構の「HICAS(ハイキャス)」などであろう。
これらを採用したモデルの操縦安定性は、専門家筋から高い評価を受けた。例えば『CAR GRAPHIC』誌では、「スカイラインGTS」を「世界的に見ても量産車のベストハンドリングカー」、「プリメーラ2.0 Ts」を「高度なハンドリングはFFをまったく感じさせず、このクラスの実用車の国際水準を抜いた」と、それぞれのテスト記事で評していた。
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リアルタイム世代以外にも刺さる
901運動から生まれた代表的なモデルをそろえたミーティングが、このたびのプロジェクト901CAR'sパレード2020である。これを企画したのは、去る6月に同会場で「日産ローレル ハードトップ 生誕50周年」を実施したローレルC30クラブの野村充央氏。R32スカイラインの「セダンGTE」のオーナーでもある彼は、901運動から送り出されたモデルに以前から愛着と興味を抱いており、機会をうかがっていたのだという。
当日集まったのは、以下の8台。冒頭の年月はモデルの発売時であり、参加した個体の年式とは異なる。
- 1988年5月 シルビア(S13)
- 1988年9月 セフィーロ(A31)
- 1989年1月 ローレル(C33)
- 1989年4月 180SX(RS13)
- 1989年5月 スカイライン(R32)
- 1989年7月 フェアレディZ(Z32)
- 1989年8月 スカイラインGT-R(BNR32)
- 1990年2月 プリメーラ(P10)
もちろん、これらのほかにも901運動の成果が表れたモデルはある。だがこれら8台に限定しても、わずか2年弱の間に立て続けにリリースされていたことに、いまさらながら驚く。新車がめったに出ない近年の日産の状況からすれば、まるで別世界の話のようだ。ちなみに8台の共通点は、いずれも駆動輪(R32とZ32は4輪)にマルチリンク式サスペンションを採用していることである。
意外だったのは、R32を新車で購入した(現在所有しているものとは別)リアルタイム世代である呼びかけ人の野村氏を除く参加者の多くが20~30代で、しかも180SXとZ32のオーナーは女性だったこと。901運動など知る前から純粋に自分の乗るモデル、ひいてはこの時代の日産車に引かれ、ほれ込んで乗っているというのだ。
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夢の時代をもう一度
これらの8台が新車で販売されていた当時、市場における人気と評価は、ともに上々だったといえる。S13シルビアは3代目「ホンダ・プレリュード」とデートカー市場の人気を二分したいっぽうで、走り屋からも支持された。既存の高性能車の常識を覆したハイテクウエポンのGT-Rを頂点とするR32スカイラインは、スポーツセダンへの回帰に成功。Z32フェアレディZは量産スポーツカーとしては世界トップレベルに達し、井上陽水をイメージキャラクターに起用したデビュー時のCMが話題を呼んだA31セフィーロは、スポーティーでパーソナルな新たなセダン像を提示した。C33ローレルは、オヤジグルマからスタイリッシュながら落ち着いた大人のセダンに脱皮。P10プリメーラは日本製欧州車ともいうべき出来栄えだった。
しかし、日産の技術者たちが901運動に込めた志は、長くは続かなかった。クルマとしての評価は高かったものの、セールスとなるとトヨタの壁は厚かった。さらにはバブルが崩壊、景気悪化によって開発コストは削られていく。またある世代でシェイプアップして走りを重視すると、居住性や快適性に不満を感じた声に押されて、次の世代では大型化・肥大化するという、日産のお家芸ともいえる悪癖もあって、製品は徐々に「ぬるく」なっていった。そして気付いたときには、出口の見えないトンネルにはまり込んでしまったのだった。
日産がルノーと資本提携を結び、カルロス・ゴーンを最高執行責任者(COO)に迎えてリバイバルプランを発表したのは1999年3月だから、901運動によるニューモデルラッシュからちょうど10年後。十年一昔というが、これでもかとばかりに続々と自信作を送り出していた当時は、まさか10年後にこんな事態がやってこようとは、夢にも思わなかったことだろう。
そして、それから二十年余。日産のサイトを開くと、キムタクの姿とともに「やっちゃえNISSAN ―― 上等じゃねえか、逆境なんて。待っても来ない夜明けなら、こっちから迎えに行こうぜ。さあ行くぞ、もう一度。」という、いささか乱暴だが威勢のいいメッセージが飛び込んでくる。その意気込みがホンモノかどうかは、今後出てくる製品で明らかになっていくわけだが、果たして901運動のときのような、いい意味での驚きを与えてくれるだろうか?
(文=沼田 亨/写真=日産自動車、ダイムラー、沼田 亨/編集=藤沢 勝)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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