経営統合で巨大企業に! いま自動車部品サプライヤーの世界で何が起きている?
2020.10.23 デイリーコラム自動車メーカーの負荷に直結
2019年10月に発表された日立オートモティブシステムズ、ケーヒン、ショーワ、日信工業の経営統合に向けた動きが、ついに現実のものとなった。まず、ホンダが系列会社であるケーヒン、ショーワ、日信工業の株式を公開買い付けして完全子会社とし、その後、日立オートモティブが3社を吸収合併する。合併後は株式の66.6%を日立オートモティブの親会社である日立製作所が、残る33.4%を本田技研工業が取得。合併後は売上高がおよそ1兆8000億円の巨大企業が誕生する(売上高は2019年3月期の決算をもとに算出)。2020年内の経営統合完了が見込まれており、同年10月19日には新会社の社名が「日立Astemo(アステモ)」になることが発表された。
なぜ、このような大規模経営統合が行われようとしているのか?
これはもう言い古された表現だが、自動車産業界は100年に一度といわれる大変革期を迎えている。その代表的なものはパワープラントの電動化と自動運転技術の搭載だが、ここで注目を集めているのが自動車部品サプライヤーの存在なのだ。
その理由を、自動運転技術を例に挙げて説明しよう。
自動運転に必要な要素技術としては、道路に関する情報をまとめたマッピングデータや各種通信技術のほか、周囲の環境を認識するセンサー技術、自車位置を算出したり今後の運行について計画する情報処理技術や人工知能技術、上記の運行計画に基づいて車両の走行状態を制御するアクチュエーター技術などがある。このうち、センサー技術、アクチュエーター技術、さらには情報処理や人工知能を支えるコンピューター機器は、いずれもサプライヤーが開発・製造し、自動車メーカーに納入されることになる。
しかし、仮にある自動車メーカーが「カメラはA社、LiDAR(ライダー)はB社、ステアリング制御はC社、ブレーキ制御はD社……」といった具合に個別のサプライヤーからパーツを購入するとなると、それぞれの互換性や協調制御を自社で調整ないし開発することになり、膨大な量の作業を強いられる。
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求められる“巨大化”
そこで期待されるのが巨大サプライヤーの登場ということになる。もしもXという名の巨大サプライヤーがA社、B社、C社、D社……をすべて傘下におさめ、一定の仕様のもとに規格を定めれば、彼らがつくるパーツを購入する自動車メーカーはなんら心配することなくそれらを組み合わせて自動運転技術を構築できる。いや、いっそのこと、巨大サプライヤーXが必要な自動運転システムをまるごと提供できれば、自動車メーカーの負担はさらに軽減される。自動運転技術だけでなく、電動化やらコネクティビティーやらシェアリングやらといった次世代技術への対応を迫られている自動車メーカーにとって、これほどありがたい話はないだろう。
サプライヤー側もそのことがわかっているから、自分たちがカバーする技術領域を少しでも拡大したいと考えている。
例えば、ドイツのZFといえば、もともとはギアボックスの開発・製造で知られていたが、やがてパワーステアリングやダンパーなどにも事業を拡大。現在では、意外にもカメラセンサー技術で世界をリードする企業へと変貌している。そうした彼らの戦略は「see. think. act.(見て、考えて、動かす)」という言葉に代表されるとおり、センサー(see)、情報処理機器(think)、アクチュエーター(act)の全領域をカバーし、それらをシステム化することを目指している。
こうなると、自動車サプライヤーは将来的に事業規模の勝負ということになりかねない。そこで自動車サプライヤー界の巨人であるボッシュを筆頭に、前述のZF、コンチネンタルなどが熾烈(しれつ)な吸収合併合戦を繰り広げているのが、現在の世界的な潮流なのだ。
ちなみに彼らの事業規模は、年間売り上げでおおむね4兆円から5兆円で、これに匹敵する日本企業はデンソーとアイシンくらい。いずれもトヨタと縁の深い企業であることは周知のとおりである。そこで、日産を中心としてスバル、フォード、GM、ホンダ、トヨタなどと幅広く取引している日立オートモティブシステムズを軸に、ホンダ系のケーヒン、ショーワ、日信工業を合併させることで企業体質を強化し、来るべき新時代に備えようというのが今回の合併の最大の目的なのである。
もっとも、それでも新会社の売り上げは2兆円弱で、世界的な大企業にはまだまだ差をつけられている。したがって今後は、自分たちの得意領域での実力をさらに伸ばすとともに、時には関連企業と提携しながら一層、規模を拡大することが望まれているといえる。
自動車サプライヤーの国際的な攻防は、今後も激しさを増すばかりだろう。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=ショーワ、GTA、荒川正幸、webCG/編集=関 顕也)

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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