レンジエクステンダーとしてのメリットはどこに? マツダのロータリーが待ち望まれる理由
2020.10.28 デイリーコラムロータリー復活は2022年
マツダは2020年10月8日、新型コンパクトSUV「MX-30」を発売した(試乗記はこちら)。発表会に登壇した丸本 明社長は「EV技術を含め一括企画で、マツダ独自のロータリーエンジンを発電機として使用するマルチ電動化技術の開発を進めている」と述べ、マイルドハイブリッド車に続いて、2021年1月には電気自動車(EV)版を、2022年前半からは発電用にロータリーエンジンを用いた、いわゆるレンジエクステンダー付きEV版を市場投入する計画を明らかにした。
現在のロータリーエンジンは、ドイツの科学者フェリックス・バンケル博士が開発したものをルーツとする、バンケル型ロータリーエンジンと呼ばれるものだ。1964年、NSU(現在のアウディ)が世界初のロータリーエンジン搭載車である「バンケル スパイダー」を発売。その後1967年にはロータリーエンジンを搭載した初のセダン「NSU Ro80」が登場している。
一般的にロータリーエンジンのメリットといえば、サイズが小さく、バルブなどが不要なため構造がシンプルで、部品点数が少なく軽量であること。そして非常になめらかで振動が少なく、高回転域まですぐに到達することが知られている。また、窒素酸化物(NOx)が生成しにくいといった特性もある。一方デメリットとして、燃焼効率を高めることが難しく、トルクが出にくく、燃費がよくないといったことなどが挙げられる。
マツダは1961年にNSUとの技術提携に正式調印し、ロータリーエンジンの開発に本格的に乗り出す。そして1967年、世界初の2ローターエンジン搭載車となる「コスモスポーツ」を発売。その後は「ファミリア」「ルーチェ」「カペラ」「サバンナ」などロータリーエンジン搭載車種を拡充していく。1978年には初代「サバンナRX-7」が誕生。マツダを代表するスポーツカーとして3世代にわたって生産されたが、2002年をもって生産終了となった。翌年には「RX-8」がデビュー。このころには水素を燃料としてCO2排出量ゼロを実現した「RX-8ハイドロジェンRE」の実証実験を開始している。これは水素燃料がなくなった場合にはガソリン走行にも切り替え可能なデュアルフューエルシステムを搭載していた。のちに「プレマシー ハイドロジェンREハイブリッド」も登場。これらは水素ロータリーエンジン車/水素ハイブリッド車として世界で初めてリース販売が行われた。RX-8は2012年まで生産されたが、以降ロータリーエンジンの市販車は途絶えている。
抱き続けてきた情熱
しかし、マツダはその後もロータリーエンジンの開発を継続してきた。ロータリーエンジンの特性を生かし、駆動用ではなく発電用に使うレンジエクステンダーEVをつくるというアイデアもいまに始まったものではない。2013年には「デミオ」に発電機としてシングルロータリーエンジンを搭載したレンジエクステンダーEVの試作車を報道陣向けに公開している。そのことからマツダのロータリーエンジン50周年となる2017年、もしくはマツダの創業100周年となる今年2020年には何がしかのロータリーエンジン搭載車が発表されるとうわさされていた。そういう意味で、前述したMX-30の発表会では、ロータリーエンジンの存在をしっかりとアピールしておきたかったというところだろう。
ちなみに2010年にはアウディもシングルロータリーエンジンを発電機として使用したレンジエクステンダーEV「A1 e-tron」の実証実験をドイツで開始し、翌年日本でも試乗会を行った。完成度は高く、そう遠くないタイミングでの市販が予想されたが、それには至っていない。現在アウディはピュアEVの開発に注力している。
最後にロータリーエンジンを発電用エンジンとして使用するメリットとデメリットをマツダ広報部に問い合わせたところ以下のような回答が得られた。
---------------------
【メリット】
- レシプロエンジンと比較して軽量、コンパクトにできる。
- 音が静かで振動も少ないため、モーター走行と相性がいい。
【デメリット】
- レシプロエンジンとの比較で「燃費」「排ガス性能」「信頼性」に課題がある(ただし、発電用として使用することで、効率のいい回転域を中心に使えるため、大きく改善できる可能性大)。
ちなみに、ロータリーレンジエクステンダーとは呼ばず、ロータリーマルチ電動化技術と呼んでいます。地域のエネルギー事情やクルマの使われ方に応じて、ジェネレーターとバッテリーサイズを変動させることでさまざまな使い方ができるように開発を進めています。
---------------------
MX-30への搭載を皮切りに、このマルチ電動化技術のスモール商品群への展開を計画していることが明らかにされている。開発スタートから半世紀を超えたマツダのロータリーエンジンへの情熱がどのように昇華されていくのか、大いに期待する。
(文=藤野太一/写真=マツダ/編集=藤沢 勝)

藤野 太一
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか?NEW 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか? 2025.10.10 満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。
-
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選 2025.10.9 24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。
-
ハンドメイドでコツコツと 「Gクラス」はかくしてつくられる 2025.10.8 「メルセデス・ベンツGクラス」の生産を手がけるマグナ・シュタイヤーの工場を見学。Gクラスといえば、いまだに生産工程の多くが手作業なことで知られるが、それはなぜだろうか。“孤高のオフローダー”には、なにか人の手でしかなしえない特殊な技術が使われているのだろうか。
-
NEW
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2025.10.15試乗記スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。 -
NEW
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して
2025.10.15エディターから一言レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。 -
NEW
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか?
2025.10.15デイリーコラムハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。 -
MTBのトップライダーが語る「ディフェンダー130」の魅力
2025.10.14DEFENDER 130×永田隼也 共鳴する挑戦者の魂<AD>日本が誇るマウンテンバイク競技のトッププレイヤーである永田隼也選手。練習に大会にと、全国を遠征する彼の活動を支えるのが「ディフェンダー130」だ。圧倒的なタフネスと積載性を併せ持つクロスカントリーモデルの魅力を、一線で活躍する競技者が語る。 -
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。