アルファ・ロメオ・ジュリア2.0ターボ スプリント(FR/8AT)【試乗記】
優等生にはなり切れない 2020.11.05 試乗記 「アルファ・ロメオ・ジュリア」にインフォテインメントシステムや先進運転支援装備(ADAS)を強化した大規模改良モデルが登場。往年の名跡「スプリント」を襲う新グレードで、その仕上がりを確かめた。110周年の記念の年に
マイナーチェンジを受けたジュリアのエントリーグレードは「ジュリア2.0ターボ スプリント」と呼ばれることになった。これまでも「スーパー」や「ベローチェ」「クアドリフォリオ」など由緒正しい名称を大盤振る舞いしてきたジュリアだが、これを聞いて、「あの『ジュリア スプリント』の復活か!?」と興奮する人はもはやいないだろう。ジュリア スプリントは第2次大戦後のアルファ・ロメオの中でも最高の人気モデルであり、60年代に一世を風靡(ふうび)したスポーツクーペの名前である。「Mini」に「クーパー」、ジュリアにスプリントというぐらい、当時の若者、特に団塊の世代にとっては切り札的ネーミングだが、今回のスプリントはジュリアシリーズの中でも各種装備を簡略化して戦略的な価格を実現したという、いうなれば“お買い得”モデルである。これだけで、団塊の世代ではない私でも、ちょっとなえる。
それにしても創立110周年の記念の年だというのに、本格的なイベントも開催できないなんて、何という不運な巡り合わせであることか。それでなくても、コロナウイルスが蔓延(まんえん)する前からアルファ・ロメオは景気がよろしくなかった。2015年にジュリアが華々しく発表された時には、今は亡きセルジオ・マルキオンネCEOが年間40万台の目標を派手にぶち上げたものだが、現実はその半分にも届いていない。日本市場に限っても、ジュリアと「ステルヴィオ」がそろった後も年間の販売台数は2500台程度といったところで(「147」「156」時代の半分ぐらいだ)、一時よりは増えているとはいえ期待値には程遠いのが実情だろう。熱心なアルファ・ロメオファンが多いといわれる日本では、いや熱心なファンが多いからこそ、セダンのジュリアや初のSUVであるステルヴィオの人気が今ひとつということかもしれない。アルフィスタはドイツ車のような完成度の高さよりも、どこか欠点があっても個性的で熱いクルマを求めているのだろうが、そんな限られたカスタマーを当てにするわけにもいかない。名門ブランドの悩みどころである。
せっかくの新装備を簡略化
待望のナビゲーションシステムなどを装備してバージョンアップしたのはまさしくそのためである。「BMW 3シリーズ」や「メルセデス・ベンツCクラス」をライバル視するジュリアだが、これまではカーナビがオプションでも設定されないなど(スマートフォン連携機能は装備)、首をかしげる部分もあった。今回はそれを漏れなく手当てしたというわけだ。ところが、である。ウェブの広告などには「先進のドライバーアシストやタッチディスプレイ、ナビゲーションを初採用して進化した」とうたってあるけれど、そこには小さな星印が付いており、「2.0ターボ スプリントは除く」と記載してある。そう、せっかくの新装備の多くがベーシックモデルのスプリントだけには備わらないのである。正確に言うとタッチディスプレイと緊急ブレーキ、ブラインドスポットアシスト、レーンディパーチャーワーニングは備わるが、アダプティブクルーズコントロール(ACC)やナビは従来通りオプションでも用意されない。
いかに廉価版とはいえ、それでも本体価格は460万円である。これまでは455万円の素の「ジュリア」も設定されていたから、装備を簡略化して大幅に値段を下げた、という説明もいささか説得力がない。今時のDセグメントセダンにACCもナビゲーションも備わらないなんて、しかもオプション設定もされていないなんて、日本で売るには正直ちょっとずれていると言わざるを得ない。せっかくのタッチスクリーンを採用したのだから、電動レザーシートやデュアルゾーンエアコンをオプションにしてもナビぐらいは最初から付けてくれよ、と言いたくなる
実はまっとうなセダン
パワートレインなど基本的なメカニズムは従来型と変わらない。エンジンはこれまでのジュリアおよびジュリア スーパーと同じく、200PS(147kW)/4500rpmと330N・m(33.7kgf・m)/1750rpmを発生する2リッター4気筒直噴ターボで、ZF製8段ATを介しての後輪駆動。ちなみにマイナーチェンジで素のジュリアは廃止され、スーパーはディーゼルモデルのみとなった。同じ排気量から280PSを生み出すベローチェ用と比べれば、健康的にスムーズに吹け上がるものの、この200PSユニットはトップエンドまで引っ張っても劇的にパワーが盛り上がるタイプではなく、どちらかといえばトルク型で実用的なエンジンだ。
そのエンジンのみならず、ジュリアは意外にもと言っては失礼ながら、まっとうで実用的なミディアムセダンである。例えばドライビングポジションもアップライトで運転席まわりも広々としており、インストゥルメントパネルの仕立ても奇をてらわない正統派だ。フットボックスも広くコーナリング中は右脚を支える工夫がいるほどだ。かつての「166」などがまったく体を支える必要がないほどタイトなコックピットだったことを考えるとまさに隔世の感がある。大柄なアメリカ人からも不満が出ないように考えた結果だろうか。室内は明るくルーミーでリアシートに座った際の居心地も悪くない。かつてのアルファ・ロメオを知るオヤジ世代には信じられないかもしれないが、実はボディーの全高も思ったより高く、サイドの絞り込みも小さい。ウエストラインから上のグリーンハウスがギュッと絞り込まれているせいで、後席へ乗り降りの際はかもいに頭をぶつけないように気をつけなければならないうえに、頭のまわりも窮屈に感じるCクラスなどよりよほど広々としているのだ。
相変わらずの切れ味
実はまっとうで実用的なセダンであるジュリアが他車と決定的に違うのは、突出してクイックなステアリングである。ステアリングの切り始めのレスポンスはちょっと面食らうほどにピーキーで、ちょっと切り込んだだけで横っ飛びするような初期ゲインの鋭さはスーパースポーツカー並み。いかにもスタビリティーコントロールを前提としたような設定だ。ロック・トゥ・ロックが2回転ちょっと、レシオは11.8:1というステアリングは、セダンとしては世界一クイックではないだろうか。それを歓迎する人もいるだろうが、穏当なパワートレインなど他の部分とリズムが合わないような気もする。アルファ・ロメオの醍醐味(だいごみ)はRWDでもFWDでもリニアなステアリングフィールとそれに応えるコントロール性にある、と思ってきたオヤジからすると、ステアリングだけがちょっと鋭すぎるきらいがある。
アルファ・ロメオは世間一般の常識にはとらわれないスポーツブランドだという人は純正カーナビが備わらないことなど気にしないだろう。私も実は大きな欠点とは思わないが、ADAS系装備に差をつけるのはいかがなものかと心配になる。フットワークが優れているから他は大目に見てよ、というのは、「4C」のような割り切ったモデルの場合か、寛大なファンだけに通用する言い訳だろう。栄光の時代を知らない若い世代は名門だからといって大目に見てくれるほど甘くはない。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ジュリア2.0ターボ スプリント
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4645×1865×1435mm
ホイールベース:2820mm
車重:1590kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:200PS(147kW)/4500rpm
最大トルク:330N・m(33.7kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)255/40R18 95W(ピレリ・チントゥラートP7)※ランフラットタイヤ
燃費:14.1km/リッター(JC08モード)
価格:460万円/テスト車=474万3550円
オプション装備:メタリックペイント<アノダイズドブルー>(8万8000円)/ETC車載器(1万3750円)/フロアマット<Alfa Romeo>(4万1800円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:3420km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:431.5km
使用燃料:45.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.4km/リッター(満タン法)/9.8km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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